それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

180 / 184
外伝も長くやっていましたので、流石にネタ切れになりました。

という訳で、簡単ながら深海棲艦との戦いが終わるまでの話を書いてみようかと思います。


それぞれの憂鬱外伝59 深海棲艦大戦の軌跡1

 2020年の日本による台湾、フィリピン併合に伴った新規提督の出現は、世界各国を帝国主義的思想に逆戻りさせる事となったが、視点を変えた場合、必ずしもデメリットではなかったりする。人類種全体で見た場合、アフリカのような以前は国家が崩壊し暴力が支配する荒廃した大地が広がっていた地を各国が植民地化していった結果、現地民の心情はどうあれ現地住民の保護がなされ、更にアフリカの地が人類の生存域となったため、人類種の保護という面では帝国主義的思想は都合がいい。また対深海棲艦戦の観点ではより単純であり、単純に戦力を底上げできるし、深海棲艦に奪われていた人類の領域を奪い返す事が出来るという利点が存在している。そのため一部の人間が各国の動きを帝国主義だと反対する中であっても、各国政府及び大半の国民たちは領土拡大路線を推し進めていた。

 

 さてこの各国、正確には艦娘保有国で共有されている領土拡大路線だが、地域によって方針が様々であったりする。各国が置かれている戦況は勿論の事、国民思想の傾向や地理的要因といった様々な要因が絡まりあっているお陰で、各国とも拡大のための詳細に差異が生じてくるのだ。

 

「我々に難民を養う余裕なんてない」

 

 日本の場合、政府上層部及び大多数の国民の間で叫ばれているこのような意見が、拡大路線の方向性を決定づけていた。日本の近隣には朝鮮半島、中国大陸と国家が崩壊し植民地化できる地域が存在しているものの、朝鮮半島は約7千万、中国大陸に至っては日本の人口を悠々と超える約13億もの人間がいるのだ。併合したところでそのような膨大な人口を養う事など不可能だ。更に将来かの地が安定した時代には、ある事ない事をほざき始めるのが目に見えている、というのもあるのだが。

 また日本の場合は戦略資源の問題も深く関わってくる。そもそも2020年に台湾、フィリピンを攻略したのは、南方からの深海棲艦による圧力の排除の面もあるが、東南アジアに眠る各種戦略資源を欲していた事も大きい。もちろん中国大陸にしろ、朝鮮半島にしろ、資源地帯は存在するが、養わなければならないであろう膨大な現地民の事を考えると、収支でプラスになるかは微妙な所だ。それならば攻略こそ苦労はするが、気兼ねなく採掘できる上に、本土が受けている深海棲艦の圧力を軽減できる東南アジアの方が利益になる。

そんな事情もあり、日本は深海棲艦が支配している東南アジア地域の開放に邁進していった。

 2023年の海南島の攻略を皮切りに、約3年間の間に蓄えた軍備を背景に、約8年でボルネオ島、スラウェシ島、ジャワ島、スマトラ島、マレー半島を次々と攻略。攻略の際に通常戦力、艦娘戦力共に相応の消耗こそしたものの、その版図を大きく拡大させ、更に東南アジアの資源地帯を確保した事で、日本は一定レベルでの自活が出来るまで成長する事となる。

 

 日本が太平洋で急拡大している頃、イギリスを中心としたヨーロッパでも各々の国による版図拡大は続けれらているのだが、こちらは日本とは色々と事情が違っている。

 

「ヨーロッパの主戦場はテーブルの上にある」

 

 誰が言い出したか不明であるが、この言葉は的を射ていた。アフリカを平らげたヨーロッパ各国が次に狙える土地は限られている。日本と違い近場に深海棲艦に占領された土地がない事から、狙えるのは国家が崩壊し無法の地となった地域のみ。幸いなことに近場に編入できそうな土地があったのだが、いささか厄介な地域であった。

 その地域の名称は中東。そう、有力な石油産出地帯である中東なのだ。

手に入れられれば大きな国益となるかの地をめぐって、各国が自国の利益を得るために外交戦を繰り広げていたのだ。そのため深海棲艦に占領されていないにも関わらず、彼の地域をヨーロッパが手に入れるまでに約8年もの年月を要す事となった。

 そんな生存競争の真っ最中に国家間でグダグダをやってるヨーロッパではあるが、深海棲艦との戦いはちゃんと行ってもいる。2024年には喜望峰に陣取っていた深海棲艦の拠点にリベンジマッチを果たしアフリカ大陸の完全制圧を果たしている。またヨーロッパ同時多発テロ及び翌年のフランス危機で色々とゴタついたものの、2028年にはマダガスカル島の攻略にも成功しており、個々の艦娘戦力及び領土の伸びこそ日本と比べれば小さいが、ヨーロッパという地域全体で見れば、強力な戦力を有していた。

 

 日本、ヨーロッパが各々で勢力を拡大している中、第三の勢力として君臨しているロシアだが、こちらでも領土の拡大は行われている。

 とはいえその拡大方法は、日本式の深海棲艦からの解放でも、ヨーロッパ式の無秩序化した地の併合でもない。実の所、ロシアの周辺地域、未だに生き残っている国々が多い。東欧圏は西欧圏が深海棲艦からの盾になっているため比較的安全であるし、中央アジア圏はそもそも深海棲艦からの攻撃に晒されない立地にあるためだ。周囲がそんな国々で囲まれているロシアにとってとれる方法は一つだけだった。

 

「ソビエトの亡霊が今になって復活しようとしている」

 

 とある外相の言葉が、ロシアの拡大政策を端的に表していた。わかりやすく言えば、かつてソ連を構成国していた国々を併合していっているのだ。

 その手段は様々だ。軍事的な恫喝はもちろんだが、経済や資源の締め付けなどがある。特に中央アジア諸国の場合、経済的にも資源的にもロシアに依存している国々が多かった事もあり、次々にロシアに合流する事となる。

 当然の事だが、このロシアの各種攻勢を受けている国々は悲鳴を国際社会に助けを求めた。国が亡びる瀬戸際なのだからこの訴えは自然な事だ。

 しかし国際社会の反応は芳しくなかった。各国ともロシアに多少の苦言こそ呈するが、彼らを救おうと目に見える形の行動をとろうとする国はいなかったのだ。何せ主要国は目の前の深海棲艦との戦いで精一杯であり、接点の薄い中央アジアに介入する余裕などないし、メリットも薄い。むしろ対深海棲艦戦を考えれば、ロシアが非艦娘保有国を併合した方が戦力増強になるのだ。よっぽどの事情がない限り、艦娘保有国と非艦娘保有国の国際的地位の差は絶望的なまでに大きい。このことが如実に表れた事例だった。結局のところ、2030年までに中央アジアの旧ソ連構成国はロシアに併合され、東欧方面の旧ソ連構成国も非艦娘保有国がロシアの一部となった。

 余談だがロシアの場合、国家が崩壊した地域についてはあまり併合には動いていない。顕著なのは中国だろう。ロシアはかの地に満州国を始め属国を作る事はあっても、中華の地を併合しようとはしなかった。こうなった原因は、やはり中国大陸に存在する無数の難民が原因だ。併合したところで碌な事にならないだろう、と判断されたためである。

 そんなロシアだが、深海棲艦相手でも日本やヨーロッパ程ではないが、戦っていたりする。2025年にはシベリアのすぐ近く、元アメリカ合衆国、アラスカ州に属していたセントローレンス島を独力で制圧している。表向きには将来のアメリカ反攻のための橋頭保の設立とされているが、本質はロシア海軍が戦訓を得るために行われた軍事作戦、及び世界に対する対深海棲艦戦におけるロシアのアピールであるのだが。

 何とも言えないものもあるが、ともかくロシアも勢力の一角として、その影響力を着実に伸ばしていた。

 

 

 

 そんな快進撃を続けていた人類だが、2031年に入るとその進軍に陰りが見え始める。日本、ヨーロッパ、ロシア、そのどれもが示し合わせたかのように、拡大が急停止してしまったのだ。

 当然の事であるが、これには各々の事情が存在している。

 日本の場合は純粋に息切れだ。東南アジアには本土とほぼ同等の戦力が駐留しているものの、マレー半島を攻略した所で、進撃が止まっている。この8年でインド洋に到達するまでに至れたものの、軍事的にも疲弊し、国力も追い付かなくなってきていたのだ。これには急拡大した領土に対してマンパワーが圧倒的に不足している事も関連している。戦略的にはオーストラリアを占領しなければならないのだが、日本の実情を考えるとここで一時停止するしかなかった。

 次いでヨーロッパだが、こちらの場合は日本と違いマンパワーこそ存在しているが、そのマンパワーが元難民だ。宗主国の圧政に対して不満を募らせている者は多く、テロといった直接的な武力だけでなく、サボタージュといった間接的な妨害があちらこちらで発生。これらの対処にヨーロッパ各国は対応に追われていたのだ。また植民地拡大政策についても、次に植民地とする事が出来る地域はインド亜大陸。ある事情で大幅に人口が減っている事は予想されてはいるが、元々の人口を考慮すると、彼の地には未だに多くの難民がいるのは確実。唯でさえ難民で苦労しているのに、更なる難民を抱え込む事には流石に躊躇していた。

 最後にロシアだが、日本、ヨーロッパと比べればいささか穏健ではあるが、同時に切実であった。2031年の時点で、併合可能な国はおおよそ併合済みなのだが、逆に言えばもう併合出来る場所がないのだ。一応未だに手付かずになっている中国大陸があるのだが、ヨーロッパが難民で苦労していることを考えると、安易には手を出せない。ならばアラスカ辺りにでも進撃すればいいとの意見も出たものの、残念ながらロシアは艦娘中堅国だ。割と深海棲艦の密度が低いアラスカであっても、侵攻、維持するのは、戦力的に難しかった。そのため2031年時点ではロシアは国内の発展に力を入れるしかなかった。

 

 快進撃がストップしてしまっている人類。そんな人類を冷静に観察しつつ、深海棲艦は反撃のチャンスをうかがっていた。

 この8年間、主に太平洋戦線で押されっぱなしであった深海棲艦だが、その裏では戦力の再配分が行われていた。

 行われているのは主に重要拠点の再配置だ。多数の戦力を保有し、更に強力な深海棲艦の生産能力を有するチャゴス拠点は、ヨーロッパ諸国がグダグダとしている間にインド亜大陸内部に拠点を移し、ヨーロッパ諸国の拡大を阻止する方針に転換。チャゴスと同様に1級拠点に分類されるハワイ、アゾレスも、今や大陸自体が深海棲艦の生産拠点と化している北アメリカに移転。そして艦娘出現前に行われた人類諸国の連合海軍を完膚なきまでに叩き潰したイースター島沖の超大型拠点すら、南アメリカ大陸にその拠点能力を移している。

 またこれまで激戦が繰り広げられていた東南アジア戦線においては、決定的な敗北による急激な戦力の低下を避けつつ戦線を下げていった事により、日本を東南アジア深くまで引き込み疲弊させる事に成功。オーストラリアで生産した膨大な戦力を叩きつける機会を虎視眈々と狙っていた。

 世界地図で見れば2020年以来押していた人類だが、その実は深海棲艦の脅威は増している。そのことを人類は直ぐに思い知る事となる。

 

 2032年4月。太平洋戦線の前線基地となっていたハワイから深海棲艦の大艦隊が日本に向けて出撃したのを、日本の情報収集衛星が捉えた。

 その規模なんと約6万隻。かつてない程の大規模艦隊であるが、アメリカ大陸自体が生産拠点となっているこの時期の深海棲艦からすれば、無理なく用意できる規模である。

 対する日本だが、この大艦隊を前に大いに慌てる事になる。日本は太平洋戦線に対してそれなりの戦力を割り当てて戦線を維持してはいるのだが、近年の東南アジア方面の急拡大により相当量の戦力を抽出していたせいで、6万もの大艦隊を相手にするにはいささか戦力が足りていなかったのだ。

 この緊急事態に、防衛省は慌てて各地方隊に援軍を要請、迎撃にあたろうとしたのだが、深海棲艦もその動きは読んでいた。太平洋の深海棲艦艦隊の進撃と連動するように、オーストラリア、ニューギニア島の深海棲艦たちが東南アジア各地に攻勢を仕掛けたのだ。この攻勢に東南アジア方面軍は対処に追われる羽目になり、本土に戦力を送る事が出来なくなってしまった。

 

「今の戦力では、艦隊決戦を仕掛けた所で勝てる見込みが低い。予想進路上にある硫黄島の要塞設備を利用して迎撃するしかないな」

 

 この事態に防衛省は艦隊決戦案を破棄し、要塞化されている硫黄島での迎撃戦を主軸に作戦を立案。決戦のために多くの戦力を集結させていく。とはいえ、敵は過去最大規模の大艦隊だ。地の利こそ日本側にあるものの、主力である艦娘戦力は深海棲艦よりも劣っているのが現実であり、勝てる確率は低い。

 だからこそ、

 

「仕方がない。アレを使うとしようか」

 

 元外務大臣にして、現政権の首相を担っている天野は、不敵な笑みを浮かべながら経済産業省、及び防衛省に命令を下した。

 

 命令から2日後の硫黄島沖、東に300キロの海域。そこでは空自及び海自の空母艦載機隊、そして硫黄島に集結している艦娘たちが送り出した航空隊と、深海棲艦の繰り出した航空戦力による熾烈な航空戦が行われている真っ最中であった。

 戦況は日本側の不利。深海棲艦には大型機がいないにも関わらず、押し切れていない。艦娘が繰り出した戦闘機群が必死に奮闘し、そして人類の操る戦闘機たちが幾度も対空ミサイルで空間ごと敵の小型機を薙ぎ払うも、敵の航空戦力は海上戦力に見合ったもので、文字通り雲霞の如く。数こそ減らせてはいるが、航空優勢をとるには至っていない。

 誰もがこのまま押し切られ敗北する未来が頭を過る中、突如彼らに司令部からの指令が飛んだ。

 

《総員、現空域から撤退せよ》

 

 この指令に誰もが首を傾げつつも、日本側の全ての航空戦力は命令に従い撤退。後に硫黄島沖航空戦と呼ばれる戦いは深海棲艦の勝利に終わった。

 

――どういう事?

 

 だがこの勝利には深海棲艦側も素直に喜べずにいた。確かに先の航空戦自体は深海棲艦に優位に働いていたものの、人類側の戦力は十分残っており、撤退するにはタイミングが早すぎる。

 何かしらの罠が仕掛けられている。彼女たちがそう結論付けた時、

 

《照射開始》

 

 それは始まった。

 

――!?

 

 突如して上空に展開していた航空機群がスパークを起こしつつ、次々と墜落し始めたのだ。更に海に目を向ければ、いたるところで小さな水蒸気爆発が発生しており、そして艦隊の深海棲艦たちも金属部分をスパークさせながら「身体の内側から生じる熱」で次々と倒れていく。

 

――不味い!

 

 艦隊の旗艦を始めとした姫、鬼級たちが慌てて赤色結界を展開。これにより攻撃を防ぐ事は出来たが、彼女たちにはどこからの、そしてどのような攻撃を受けたのか、全くわからなかった。しかも展開している結界は、今なお攻撃を受けており消耗を続けている。このまま進撃を続行するには、この不確定要素は余りにも危険過ぎた。

 

――撤退する!

 

 最終的に深海棲艦の大艦隊は撤退を開始、日本に迫っていた危機は回避された。

 そしてこの事は――日本の宇宙太陽光発電衛星「アマテラス1号」の華々しい初陣が歴史に記された瞬間でもあった。

 

 




以降の話では、外伝で出てきた技術が所々出てくる予定です。

技術の完成速度が早すぎ? ……作者もそう思いながら書いていますが、ダイスの女神さまには逆らえないのです。そんなわけで、頑張ってそれっぽく書いてみます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。