それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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今回の話はぶっちゃけ前半がメイン。なおかなりぶっ飛んだ代物が出てきますので、ご注意ください。言い訳は後書きにあります。


それぞれの憂鬱外伝61 深海棲艦大戦の軌跡3

 2034年5月末。世界がインド攻略成功に沸いている頃、富士総合火力習で有名な東富士演習場では、とある陸上自衛隊の部隊による演習が行われている真っ最中であった。演習場に視線を向ければ銃を持ち走り回っている迷彩服姿の自衛官たちの姿があり、その動きを見れば彼の部隊が高い練度を持っている事が見て取れる。

 練度の維持、もしくは向上のための演習という軍事組織にとっては極々ありふれた光景。だがある程度、目の肥えた人物がいたならば、部隊全体にどこか異様な空気が漂っている事を感じ取れるだろう。具体的には戸惑いという言葉がしっくりくるかもしれない。そんな空気が漂う中、部隊の構成員たちは必死に演習をこなしている。

 また今回の演習では、この場にはあまり似つかわしくない集団も混ざっている。演習場の片隅に設営された簡易テントには、白衣姿の男たちが集結しており、緊張した面持ちで持ち込まれた各種モニターを食い入るように見つめていた。

 そんな異様な光景が広がっている演習だが、簡易テントの中で白衣姿の二人の男が双眼鏡を使って演習を見つめていた。

 

「おーおー、やってんねぇ」

「他の隊員の動きに、ちゃんとついて行ってるな。転ぶとかもないし」

「改良を重ねたかいがあったな。最初のころと比べたらえらい違いだ」

「不整地を安定して走らせるのはホントに難しかった……。あ、撃った」

「命中か。こっちも大丈夫そうだな」

「命令系統は?」

「待ってろ。――よお大将、調子はどうだい。……ああ、そりゃよかった。なんかあったら言ってくれ」

「大丈夫そうだな」

「これも結構苦労したからな」

 

 近くの白衣姿たちと違い、彼ら二人の間には緊張感はない。今回の演習の前に幾度となくテストと改良を重ねており、こんな所で失敗するはずもないと自信をもって言い切れる程に、彼らに大きな自信を与えているのだ。

 

「因みにお客さんの反応はどうなの?」

「上々だぜ。見ろよ、あの顔」

 

 二人は演習場の外に視線を向ける。そこには急遽用意された観覧席に、多くのマスコミ関係者、陸自トップである陸上幕僚長、そして様々な政治事情により3回目の防衛大臣就任を果たしている坂田の姿が見て取れる。ある者は驚愕の表情を浮かべ、ある者は目を輝かせ、そしてある者はいささか呆れた表情をしていたりと、反応は様々ではあるが、観覧席にいる人々は例外なく目の前で行われている演習を、より正確には自衛官に交じって演習に参加しているあるモノを食い入るように見つめていた。

 

「まあ、事情を知らなければあんな反応にはなるよな」

「俺としてはあの提督様に一泡吹かせたかったんだけどな。何で呆れ顔なんだよ」

「まあいいじゃん。陸上幕僚長の反応的に採用確定だし」

「……それもそうだな」

 

 男の片割れ――「機人計画」主要メンバーの一人である宇津田は若干つまらなそうに鼻を鳴し、再度双眼鏡を覗き込む。その姿に同じく「機人計画」主要メンバーである内藤は苦笑しつつ、同じく目に双眼鏡を当てた。

 二人の視線の先には、演習を続けている陸自の部隊の姿があるのだが、その部隊の中に異様な存在が紛れ込んでいた。――外殻が明らかに人工物である上に、明らかに人ではないひょろ長い頭部を有した二足歩行の人型ロボットだ。しかもそのロボットは若干のぎこちなさがあるものの、十分に他の隊員の動きについていけている。

 

 「三四試自立機械歩兵」 それが文科省と防衛省の共同プロジェクトである「機人計画」が作り上げたアンドロイドであった。

 

 

 宇津田、内藤、そして彼らの協力者であった初盆の大奮闘により2022年7月からスタートしたアンドロイド兵製造計画である「機人計画」だが、計画は恐ろしい程の速さで進んでいったという。

 元々、二足歩行ロボットの研究自体は各国で研究が行われており、すでに一定レベルでノウハウが蓄積されていたりする。2017年の時点で、アメリカのとある企業が開発したロボットの性能は、不整地での走行は勿論の事、バク宙すら実行できるほどの性能を有していた。そこに更に宇津田、内藤を中心としたメイドロボを作らんと企んでいた連中が秘密裏に進めていた研究が合わさった事で、スタート時点である程度研究が完了していたのだ。さらに自動化研究本部からも技術協力を取り付けられた事もあり、研究は加速していった。

 また集められた研究者たちも優秀だった。発起人である宇津田、内藤だけでなく、民間の二足歩行ロボットやAIの研究者が多く参加していたのだ。これは陸自の全面サポートも大きいが、自分たちの手で夢の二足歩行ロボットを作る(しかも国の金で)というロマンに惹かれてきたのも大きかった。

 そして政府側も「機人計画」にかなり熱心だったのも大きな影響を与えていた。計画の主体となっている陸上自衛隊だが、ハッキリ言って今の立場は不遇としか言いようがない。空海中心という事で予算を取られるのは戦前から変わらないが、空自海自の拡大にともない人員すら取られるは、戦争中にも関わらず深海棲艦との戦いではあまり役に立たないという事で戦力すら縮小させられているのだ。そんな陸自が起死回生の手段として縋りついたのがこの「機人計画」なのだ。陸自上層部は防衛省上層部を始め各方面に全力で根回しをしているお陰で、「機人計画」の歩みが止まる事は終ぞなかった。

 事前の技術蓄積、人材の充実、そして資金面問題の解消。この三つが揃ったお陰で「機人計画」は順調に進行。宇津田がかつて語った「完成まで最短でも30年はかかる」との予想を大幅に短縮し、いささか形が違うではあるものの12年でアンドロイドを完成させたのだ。

 

 

「しっかし、つくづく野暮ったい物になっちまったな」

「そこは、パトロンのオーダーもあるし仕方ない」

 

 演習場を駆け回っているアンドロイドを眺めつつぼやく宇津田に、内藤は苦笑した。彼らが作り上げた三四試自立機械歩兵は、「出来る限り安価な歩兵の代替となるロボット」という防衛省のオーダーに出来る限り答えたものとなっていた。

 スペックは人間と同等程度で収められており、防御力も対刃防御が精々、量産性の関係で駆動系もいささか妥協。AIの方も動作関連については陸自精鋭の第一空挺団の協力を得るなど妥協はなかったが、AIの感情や音声、受け答え機能など、それ以外の性能については大分簡易化させている。そのせいか作成に携わった自衛官からは「自衛官の0.8人分くらいの強さ」とのコメントが残されている。

 値段の事を考えると致し方ない事ではあるが、正直な話メイドロボを作りたかった宇津田たちにとっては、いささか不本意な代物である。

 

「で、そのパトロン様の反応は良いとして、だ。他の連中の反応がイマイチだな」

「だな」

 

 今回の演習で一番大喜びしているのは陸上幕僚長であるが、その他の反応は様々だ。この場で一番地位の高い坂田防衛大臣だが、どこか呆れた様子が隠せていない。

 まあ彼の反応については、三四試自立機械歩兵、その正式版の採用に陸自が全力で応援してくれるだろうから、全く問題はない。ただマスコミ連中の反応がいささか微妙なのが、宇津田たちとしては気に食わなかった。一部には三四試自立機械歩兵の将来性に気付いており大いに驚嘆している者もいるのだが、イマイチ微妙な表情を見せている者も多い。とはいえそんな反応となる原因も理解できる。

 

「やっぱり見た目がなぁ。どうひいき目に見ても、カッコいいとは口が裂けても言えん」

「見た目が悪いと第一印象最悪だしね。独夫みたいに」

「最後の一言いる?」

 

 この三四試自立機械歩兵、性能はともかく、値段と量産性を考慮した結果、外見がどこかのSF作品に出てきそうなモブのロボット兵士のようになっているのだ。兵器故に外見を考慮に入れる必要性はないとはいえ、軍事に詳しくない者からすれば「弱そうな外見」というファクターは、マイナスイメージにしかならない。

 とはいえ、宇津田たちはそこまで気にはしていなかったりする。彼らには切り札が残っているのだ。

 

《内藤》

 

 二人の前に置いていたノートPCから音声が響いた。同時にモニターに3Dモデルで作られた金髪縦ロールが特徴の少女のキャラクターが映し出される。

 

《これから最終調整に入るわ》

「おー。ツン、調子はどう?」

《上々よ。少なくとも今の状態でもそっちで走ってるポンコツよりは、派手にやって見せるわ》

「頼もしいこった。この間みたいにウォーミングアップでバッテリー切れするなよ?」

《うっさいわね、わかってるわよ》

 

 モニターのキャラクターと会話をする二人。はた目から見ればモーションキャプチャで作られたキャラを通して三人の人間が会話しているようにしか見えないだろう。だが実態はキャラクター側に中の人などいない。

 

 彼女の正体は「機人計画」メンバーが作り上げた、AIである「ツン」であった。

 

 機人計画のハイエンドモデルという名目で研究、作成されたツンだが、三四試自立機械歩兵に積まれている受け答えも機械的なAIとは訳が違う。宇津田、内藤を始めとしたメイドロボを目指す者たちが並々ならぬ情熱と惜しみなく注ぎ込まれた技術、そしてハイエンドモデル研究という嘘ではない名目で分捕ってきた金で作られた高性能AI、その1号機であるツンはは圧倒的な演算能力だけでなく人間と変わらない感情を持っているのだ。

 

「因みにウォーミングアップのメニューは?」

《一通りチェックをしたら、初盆さん相手にスパーリングでもしてみるわ》

「よーし、加減するなよ? 足腰立たなくなるまで打ち込んでやれ」

《オッケー》

「初盆さんェ……。少なくともグローブはやってよ?」

《ええ、この前みたいなミスはしないわ》

「サンドバッグ叩いてたら、手の人工皮膚が裂けて中の外殻が出てきたときはビビった」

「ちょっと考えればわかるのに、それすら予想できないAIってどうなんだよ……」

《誰だってミスぐらいあるわよ》

 

 またツンのために作られたボディも特別製だ。ハイエンドモデルの名目として作られているので、三四試自立機械歩兵と比べてもパワーが若干上がっているし、動きもスムーズ。そして何よりも見た目が人間そのものなのだ。具体的にはモニターに映し出されているキャラクターそのものである。ボディには人間と区別するための目印兼通信用に頭部にアンテナがつけられているのだが、それがなければ第三者が見ても彼女がアンドロイドであると気づくことは出来ないだろう。その分費用も大いに掛かってしまったが。

 

「それじゃあ、こっちの演習が終わったら迎えに行くから、よろしく」

《ええ》

「うっし、じゃあさっさと演習を終わらせるぞ」

「おう」

 

 ともかく、見た目が人間そのものであるツンが出てくれば、マスコミ連中の目も完全に変わるだろう。二人の技術者は不敵な笑みを浮かべつつ準備を始めた。

 

 

 

 2034年5月末。「機人計画」メンバーが発表した「三四試自立機械歩兵」と自立機械歩兵ハイエンドモデル(名目)の「ツン」の発表は、日本だけでなく世界に大きな衝撃を与えた。世間一般からすれば、これまでSFの世界でしか存在しなかったようなアンドロイドが現実で作られたのだから、このような反応になるのは当然である。

 この発表に日本の一部の人々やキリスト教圏の国々からは、

 

「おい、これよくある映画みたいなオチにならないよな!?」

 

 と、フランケンシュタイン・コンプレックス丸出しな反応が飛び出してきたが、発表元の日本では、文化的背景(具体的にはサブカルとかその辺り)の違いもあっておおよそ歓迎ムードだったりする。

 件の発表の後の動きは、官民ともに恐ろしく早かった。

 

「即座に採用してください!」

「分かりましたから、落ち着いてください」

 

 機人計画の成果に大いに満足した陸上自衛隊は、三四試自立機械歩兵の正式採用版である「三五式自立機械歩兵」の採用を決定。坂田大臣を始めとした防衛省上層部全力でアプローチをかけ、予算をもぎ取った。今後一部部隊での試験運用後、採用数を増やしていく予定である。

 だが、この三五式自立機械歩兵を陸自よりも早く、そして大量に欲している部署があった。

 

「とりあえず第一弾として3万体採用して下さい」

「初手で!?」

 

 国土交通省の外局である新領整備庁である。何せ2020年の台湾、フィリピンの再開拓の時点で人手不足に陥っているにも関わらず、政府や自衛隊のせいで今では東南アジアのほぼ全域を押し付けられているのだ。当然ながら致命的なまでの人手不足に陥っているのが現状である。

 そんな所に降ってわいた今回の発表。新領整備庁が食いつかないはずがなかった。長官を始め新領整備庁の官僚たちが国土交通省と財務省に突貫していき、全力の交渉の結果、採用のための予算を獲得。2035年1月には量産が始まった三五式自立機械歩兵を片っ端から東南アジアの各地に送り込んでいった。

 この効果は直ぐに現れる事となる。不足していたマンパワーの代替として送り込まれたアンドロイドたちの活躍により、東南アジアの土地のスペックをドンドンと活かせるようになっていく。このことは日本の対深海棲艦戦戦略にも大きく影響を与え、アンドロイド登場から約3年で再度外征が出来る程にまで回復させる事に成功している。

 余談ではあるが、防衛省、新領整備庁共に、ツンのような人間そっくりのアンドロイドには、あまり興味を示していなかったりする。理由としては、

 

「人員が足りないから、まずは数を揃えないといけないし」

 

 とのコメントである。マンパワー不足が深刻な分、いささか性能が低くとも安く大量に揃える必要なのだ。そのため三五式自立機械歩兵を遥かに上回る取得、維持コストがかかるハイエンドモデル()の出番はなかった。

 対する民間であるが、ツンの方が大いに反響があった。SFに出てくるようなアンドロイドが実際に登場したのだから、仕方のない事である。

 

「これは新しい市場になるぞ!」

「はよ、安定供給はよ……」

 

 機人計画メンバーによる発表後、投資家や投資会社、そして色々とロマンを理解している者たちによる、ロボット及びAI関連技術を持つ会社への投資を開始。ほぼ同時期に陸上自衛隊と新領整備庁に大量発注がかかった事もあり市場は高騰、後に「アンドロイドバブル」と呼ばれるほどの大騒ぎとなる。

 また日本政府は国内の少子高齢化及び戦災からくる労働力不足の解消としてアンドロイドの導入を推奨した事もあり、人権とか雇用問題とか色々な問題提起がされつつも、日本本土でも所々で民間向けに改装された三五式自立機械歩兵やハイエンドモデル(仮)が採用されるようになっていく。このアンドロイドの民間の導入ペースだが、非常に高価という訳ではなかったお陰で順調に拡大していき、アンドロイド登場から数年後に赴任してきた在日イギリス大使が日本の街並みを見て、

 

「私はいつの間にSF世界に紛れ込んだんだ?」

 

 とのコメントを残す程にはアンドロイドが一般化していた。

 

 

 

 さて、攻勢限界を乗り越え再度外征が出来るようになった日本は、2037年からさっそく深海棲艦に占領されている土地への攻勢を開始していく事となる。

 再攻勢最初の舞台として選ばれたのはニューギニア島。ここを攻略すればオーストラリア攻略が可能となるため、重要な一戦と目されていた。

 こうして2037年3月よりニューギニア島攻略のために旗艦「りゅうじょう」を中心とした艦隊が差し向けられる事になったのだが、この度の作戦はこれまでとは違った試みが行われようとしていた。

 

「……なんか違和感しかないな」

「仕方ないだろ……」

 

 作戦に参加している「りゅうじょう」を始めとした一部の艦艇の乗組員が、海自仕様の三五式自立機械歩兵に置き換わっていたのだ。これはアンドロイドが陸自にある程度普及、活躍しているのを目の当たりにした日本政府が、徴兵制を廃止しても自衛隊各軍にアンドロイド導入する事でこれまで通りの軍事パフォーマンスを発揮できると判断し、防衛大臣を除いた全閣僚が徴兵制の廃止を決定したせいである。

 そんないささか勝手が違う状況でのニューギニア島攻略だが、度々アンドロイド周りで問題が起こったものの、戦闘の主体である艦娘たちには影響はなかった事もあり、数か月でニューギニア島を攻略。日本はオーストラリアに王手をかける事となる。

 とはいえ相手は強大だった。2020年に南沙諸島からオーストラリアに居を移して以来、安全圏で1級拠点の能力をフル活用してオーストラリア大陸全土を作り変えており、今では大陸全土が人類を迎え撃つ要塞と化しているのだ。その戦力はインドよりも強力であるのはほぼ間違いなく、領土拡張による艦娘戦力を増強し、更に近年のあれこれで国力の増大した日本であっても、単独での攻略は困難を極めるのが目に見えていた。

 

「他所にも声を掛けるか」

 

 この状況に日本政府はEU及びロシアに外交チャンネルを通して、共同でのオーストラリアを提案。各国も日本が提示した物資面のサポートやオーストラリア攻略後の彼の大陸の領土や利権の割り当てを決めた後、各国とも参戦を決意。その後の発表で、

 

「全世界の国々が一丸となって、オーストラリアを解放しなければならない」

 

 裏でのやり取りなどおくびにも出さずに、世界各国はオーストラリア攻略を高らかに宣言、2038年1月より、北から日露連合軍、西からNATO軍によるオーストラリア攻略戦が開始された。

 

 この戦いだが、緒戦から激戦が繰り広げられる事となる。

深海棲艦側からすればオーストラリアはオセアニア地域を支配の根拠地であり東南アジア地域への攻撃、反攻のための重要拠点なのだ。そう簡単に明け渡す訳には行かないと、大戦力を展開していた。

 対する人類側にとってもオーストラリア攻略は重要だ。彼の大地を攻略すればインド洋が完全に人類の勢力圏となるし、日本にとっては長年悩まされてきた戦線を一つ片づける事が出来るのだ。次のアメリカ攻略のためにもオーストラリア攻略は必須だ。両軍は迫りくる深海棲艦の大軍を、艦娘戦力は勿論、空母艦載機や艦艇による対艦攻撃、更に先のインド戦から各勢力で1基ずつ新造されて計6基となった宇宙太陽光発電衛星を全て投入して、相応の損害を負いつつも敵艦隊を撃破し、日露連合軍はオーストラリア北部のダーウィン、NATO軍は西部のブルームに上陸。1級拠点が存在する大陸中央部のアマデウス湖に向けて両軍は進軍を開始した。

 余談だが各国が進撃していく中で、一番注目を集めていたのは日本だったりする。基本的に対深海棲艦戦における陸上戦において、戦力の主力は海軍所属の艦娘たちであるが、移動や根拠地で頼ることになるのは陸戦のエキスパートである陸軍だ。そのため各国の艦娘部隊には屈強な陸軍軍人たちがサポートに回る姿がよく見られているのだが、日本の場合はいささか事情が違う。

 

「すげえ、マジで動いてるよ」

「あれ、使えるの?」

「なんか弱そう」

 

 主に日本と共に行動しているロシア陸軍の皆様の感想である。要するに防衛省は今回のオーストラリア攻略のために、陸自の三五式自立機械歩兵を大量に投入したのだ。艦娘のそばにSF染みたロボット(しかも見た目弱そう)がいるのは、あまりにもシュールな光景であり、色々な意味で日本は注目の的になっていた。

 

 それはともかくオーストラリアの大地を進撃し続けていく日露及びNATO軍。そんな道中で相手となるのは、大陸のあちこちに設置された防御拠点と長い年月をかけて整理された水路を巧みに利用して攻撃を仕掛けてくる深海棲艦、そして深海棲艦側の第五世代機相当の大型機「ブラックウィドウ」を筆頭とした航空勢力だ。インド以上の軍事力を持ったオーストラリアに各国の軍勢は苦しめられる事となる。

 とはいえ彼らとて、やられっぱなしではない。地上では過去最大の戦力とインド戦で得られた戦訓、そして6機の発電衛星による支援攻撃により敵を撃破していた。

 また日露連合軍においては、サポート面で三五式自立機械歩兵が活躍を見せていた。これまでは海も陸も大破した艦娘の後方への護送の際には、仲間の艦娘一人が負傷者の運搬兼護衛をしていたのだが、陸戦においてはこの方式ではこれは一人の艦娘がやるにはいささか問題があった。陸戦では艦娘の移動速度は海戦の時と比べて大いに低下しており、後方への移動時間が長くなった結果、道中で襲撃される頻度が上昇している、との報告が度々挙げられていた。とはいえ移動速度は何ともしがたく、現場の人間は長らく頭を悩ませる問題だった。

 そこに登場したのが三五式自立機械歩兵だ。文字通り命知らずの三五式自立機械歩兵を運搬役にし僚艦は護衛役に専念する形式をとった所、移動速度及び襲撃に対する迎撃能力が上昇。これにより日露の艦娘部隊の陸戦における損失は以前よりも抑えられていた。

 更に空においても革新が起きてきた。各国が30年代前半に実用化した有人戦闘機を無人機で支援するシステム「ウィングマン」 、そして2035年にロールアウトした第六世代戦闘機である日本のF-3及び英国のテンペストを投入した事により、オーストラリア全域の航空優勢を確保しており、これによる地上軍の進撃がスムーズに進む事となる。

 

 このような新兵器の活躍により、2038年12月末にはアマデウス湖にて両軍は合流を果たし、翌2039年1月にアマデウス湖に構えている拠点の攻略を開始した。

 戦いは双方熾烈を極める事となったのだが、戦局自体は終始人類側の優勢で進められていた。宇宙からは圧倒的破壊力を持つマイクロ波が降り注ぎ、第六世代戦闘機と無人戦闘機が空を舞い、地上では各国から集結した艦娘たちとそれをサポートするアンドロイド群が敵を打倒さんと雪崩れ込んでくる。10年前には誰も予想できなかったような光景がそこには広がっていた。

 結局オーストラリア最後の戦いは、深海棲艦側も粘ったものの一か月弱で人類側が拠点内の全ての深海棲艦を打倒す形で終了、同時に未攻略地域の深海棲艦の撤退も確認されたため、同時にオーストラリア攻略作戦も終了した。

 後にこれら一連の攻略作戦は、新兵器が多数投入されていた事から、「新時代の戦争」と呼ばれるようになったという。

 




今回出てきた新ワード解説

〇ウィングマンシステム
有人機を母機として無人機を指示、制御して編隊を組むシステム。リアルでも30年代に運用予定とされている。この世界線では戦時下という事もあり、30年代前半に完成した。

〇F-3
日本の第六世代戦闘機。2035年にロールアウトした機体だが、実は現実世界の方も2035年ロールアウト予定なので、出しても問題ない。

〇テンペスト
イギリスの第六世代戦闘機。実はこっちもリアルじゃ2035年にロールアウト予定。



〇「三四試自立機械歩兵」「三五式自立機械歩兵」と「ツン」
外伝44で作り始めたやつ。ぶっちゃけアンドロイド。宇津田や内藤といった機人計画のメンバーが作り上げた。
三五式自立機械歩兵の性能だか、調達価格をやすくするために色々妥協した結果、純粋に人の代替として使うには微妙な性能となってしまった。具体的には人の労働力を1とすると0.8程度。
なお計画では三五式自立機械歩兵だけで十分だったのだが、本当の目的であるメイドロボ作成を敢行するために、ハイエンドモデルの作成を名目に、人格を持つ高性能AI、その1号機であるツンを作り上げた。
 ちなみにツンには、人に尽くすようにプログラムされている。ただし必ずしも敬う訳ではない。
 三四試自立機械歩兵と三五式自立機械歩兵の見た目はスターウォーズのバトルドロイドにもう少し肉付けした感じ。ツンはそのままξ゚⊿゚)ξ



〇以下、2034年にこんなものが出てきた事に説得力を出させるための言い訳

 まず二足歩行ロボットの技術ですが、2017年にバク宙出来るロボットが出来たのはガチです。アメリカのボストンダイナミクスの「アトラス」の紹介動画が上がっています。そのため機人計画スタート時点で二足歩行の技術に関してはそれなりに蓄積されているとみて問題ないかと思われます。
 で、二足歩行ロボットから少しずれますが、文部科学省が公開している未来予測では、2032年には生体融合義肢が技術的に実用化される、ってなってるんです。この技術はアンドロイドの方にも応用できると思われます。
 これら元々あった技術と義肢の技術、更に国家からの資金と人材の投入があれば、ロボットによる二足歩行の技術は2034年には十分間に合うかと考えています。


 次の問題、というより、一番ツッコミが入りそうなAIの技術発展についてですが、こちらは内閣府が公開している科学技術系の政策を引用しました。

曰く、
〇2030年までに一定のルールの下で一緒に行動して90パーセント以上の人が違和感を持たないAIロボットを開発する。
〇2050年までに人が違和感を持たない、人と同等以上な身体能力をもち、人生に寄り添って一緒に成長するAIロボットを開発する。

 作中では上記の技術開発を参考。作中時間軸のAI技術力なら、三五式自立機械歩兵の作成が可能であると判断しました。

 で、問題の思いっきり人格とかがあるツンの方ですが……、

 戦時中という技術が開発が加速しやすい環境と省力化が現実以上に必要とされている状況により、機人計画以外でのAI研究に現実以上の人材と資金が投入された結果、AI技術の発展スピードが加速。そこに機人計画で人材と資金が大量に投入された結果、50年型AIにはギリギリ届かないものの、高性能AIである「ツン」を開発する事が出来た。

 ……という感じで、お願いします(大分苦しい言い訳) 

 ぶっちゃけ社会的な影響だけなら三五式だけでも十分なのですが、せっかくだからドクオやブーンが作りたかったものも出したい、って欲には勝てなかったもので……。
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