それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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何とか書けましたが、今回はイベントをしながらなので短いです。


海を征く者たち5話 欧州の対応

 フランスの崩壊。その報は世界に大きな衝撃を与えることとなった。当然の事だが各国政府はこの事件によって被る影響への対応、そして対処の議論が活発に行われている。特に議論が活発なのが欧州で、本来なら年2回開催の欧州理事会を急遽開催されることとなる。議長や各国の元首が一堂に会するこの会議は立法権こそ無いが、欧州の重要な問題を扱う機関である。今回の問題を扱うにはうってつけであった。

 開催地であるブリュッセルに集まる各国元首。その顔色は悪い。

 

「あのカエル食いどもめ、国内政治もロクに出来んとは……」

 

 イギリス首相が顔を顰めつつぼやく。その言葉には暴言も混じっているが、この場の誰もが同意見であるため、咎められることはない。

 

「国際的な立場を考えると彼らの気持ちは解らんでもないがな……」

「だからと言ってあれはマズかろう」

 

 ため息を吐くドイツ首相と肩をすくめるとイタリア首相。彼らの手には崩壊する前のフランス国内の政治情勢が記された資料があった。

 

「飢餓輸出か……」

 

 議長の呟きが、フランスで何があったのかを簡素にまとめられていた。

 

 

 

 フランスは深海棲艦が出現した直後、経済政策の失敗によりフランス自体が崩壊寸前まで陥っていたのだが、政府関係者はフランスの状況に真っ青になりながらも崩壊だけは避けようと、あれこれと手を打っていた。幸いなことにフランスと言う国には国力があるし、「ドーバーの惨劇」や「第一次ビスケー湾海戦」などケチはついてしまったが、欧州でも有数の軍事力を持っている。フランス政府はそれらを活かし、治安の悪化した地域への軍の派遣や以前は邪魔をされた経済への介入を行った。その結果、GDPの順位こそ落としたが何とか国を維持していた。

その様な状況が変わってきたのが、深海棲艦が現れてから少し2年目。敵が次々と新型を繰り出してきた頃だった。この頃欧州ではドンドンと狭まる海上航路に不安を覚えた各国が、食料の増産と同時に今まで以上のフランスに食料の輸出を求めた。

 

「チャンスだ!」

 

 この要求にフランス政府は了承。食料の増産をしつつ、輸出を拡大した。この背景には内乱寸前まで陥ったことで失墜していたフランスの国際的な地位を回復させる意図があった。

 結果的に彼らの狙いは当たった。食料輸出というカードは各国への影響力を増大させることとなった。同時にフランス経済の混乱も落ち着き始め、フランスと言う国自体の復活が始まったのだ。

 だがその裏で、国民はある不満が燻っていた。

 

「なんで自分たちが苦しいのに、他国に構わなければならないんだ?」

 

 世界的な経済の混乱により、国民の購買力は低下していた。特に食料は需要が増大していることから価格が上昇しており、そのことに国民の不満が発生していた。

 フランス政府はこの不満を理解していたが、食料輸出を辞めることは無かった。折角手に入れた国際的地位の向上手段を手放すことは出来なかったのだ。勿論問題を放置するわけではなく、食料の増産を指示する等対応は行った。だが、確実に国民に不満が植え付けられてしまうことになる。

 

 そんな中2016年の秋に、麦を中心に農作物の凶作が発生した。原因は天候不順と深海棲艦の艦載機による対地攻撃の影響など様々な要因が重なった結果だった。そのためフランス国民は飢餓まではいかないが、貧困層を中心に日々の食事に困るレベルに陥ることとなる。深海棲艦出現前ならば経済も健全であり色々と手を打てたのだが、海上航路が壊滅している現状ではそれは困難だった。

 これに伴い食料を求めるデモや暴動が発生。警察や軍は対応に追われることとなる。とはいえこれだけで、フランスが崩壊するレベルの暴動が発生することは無かった。

 そして翌年2017年4月23日。深海棲艦への対抗手段となる艦娘が世界各国で出現した。艦娘は第二次世界大戦時に独立国であった国に出現している。欧州は当然のことながら艦娘が出現した国は多かった。余計な混乱を避けるために、未だどの国も艦娘についての公表は避けられているが、彼女たちの持つ能力は有効であることは既に証明されている。

 そのため各国は艦娘の戦力がある程度整うまでに国家が機能不全に陥らないように、更なる食料・鉱物資源を求めた。欧州各国が資源を得るために暗闘を繰り広げる中、当然フランスも巻き込まれることとなる。

 

 フランスと各国の幾度かの交渉の末、フランスが取った行動は――食料輸出の拡大だった。

 

 フランス政府としては際限なく膨れ上がる軍事費を補てんするつもりであり、また一部の国民から「飢えに苦しむ欧州各国を助けなければならない」という声もあったからこその判断だった。

 

 そして政策を知らされたフランス国民は激怒した。

 ただでさえ食料が足りないのに状況であるのに、それを無視して更に食料を外国に売り払うという暴挙を国民は許す気はなかった。

 当然の如く発生する反政府デモと暴動。フランス政府も鎮圧のために軍を動員するが、それも芳しくなかった。

 

「暴動の原因は政府にある!」

 

 政府の無策を知る兵士たちの士気は低かった。暴動の鎮圧もお座なり、時にはサボタージュすら発生していた。

 暴動の鎮圧に失敗した結果、その規模は雪だるま式に膨れ上がって行く。更にこれまでは何とか抑えていた各種社会不安も再炎上し、混乱は増すばかり。既にフランス政府は国内の統制能力を喪失していた。最後はパリで大規模な暴動が発生し、フランス政府は怒れる国民の波に飲み込まれた。

 

 

 

「フランスの近隣国に難民が押し寄せている。少数ならともかく、大量に来られては最悪の場合、近隣国が荒れるぞ」

「それにフランスは電力の輸出国だ。既に周辺国で電力不足による影響が出始めている」

「それだけじゃない。フランスには原発があるんだぞ。最悪の場合、ヨーロッパが死の大地と化すぞ」

 

 フランスの近隣国にも既に影響が出始めていた。本来ならフランス政府は早急に方針転換して、国内の統治に全力を挙げるべきであるのだが、

 

「現地政府は?」

「不明だ。少なくとも暴徒が政府庁舎に突入したのは確認されている」

 

 誰もがため息を吐く。こうなってしまってはフランス政府自身がこの事態を収めることは不可能だった。

 

「さて、どうするか……」

 

 議長は呟くが、この状況では採れる選択肢は限られている。

 

「各国陸軍によるフランスへの介入しかないでしょうな」

 

 肩をすくめつつ提案するイギリス首相に、各国のトップは躊躇いもなく頷く。早急に終息させるにはこれしかなかった。現地で多少抵抗はあるだろうが、占領自体は問題なく進行するだろう。問題はいつまで占領するかだ。

 

「分割統治でもするか?」

「魅力的な提案だな。深海棲艦が居なければ」

 

 フランスには欧州でも有数の穀倉地帯があるし、先進国故に技術力もある。イタリア首相の言う通り分割統治でもできれば、各国の力になるだろう。最も深海棲艦を始めとした様々な問題があるため、現実的ではない。

 

「深海棲艦への備えを考えると長期間の軍の派遣は避けたい」

 

 イタリア首相の冗談交じりの提案をスルーし、ドイツ首相は口を開く。その言葉はこの場にいる誰もが同意することだった。既に欧州各国の海軍は壊滅状態であり、陸軍には本土防衛の最後の守りだった。そんな陸軍戦力を長期間よそに派遣するのは避けたかった。

 

「ここは順当に、我々がフランス政府を擁立するのが妥当でしょう」

「人員の当てはあるのか?」

「幸いフランスの外務大臣が外遊中でしたので、彼をトップに据えましょう」

「前政権の?大丈夫なのですか?」

「彼は食料の輸出には否定的でした。その点をアピールすれば問題ないでしょう」

「なるほど。ならば妥当なところですな。勿論、新政府は我々の『助言』に従ってもらえるのでしょうな?」

「友好国の力を借りて政権を作るのです。当然『助言』を聞くでしょう」

「ふむ」

 

 納得したのかニヤリと笑い頷くイギリス首相。議長は更に言葉を続ける。

 

「またフランスには各国の邦人だけでなく、『貴重な人材』が取り残されています。彼らを失うのは人類の宝を失うことと同じでしょう」

「だが彼らは何人いるかも、どこにいるかも分かっていないぞ?」

「そこは各国で探していただく他はないでしょう」

「早い者勝ち、と?」

「そうなるでしょう。なにせ一刻も早く『貴重な人材』を保護する必要がありますので」

 

 議長は会議の出席者を見回す。その誰もがどこか凄みのある笑みを浮かべている。その結果に満足したのか、彼はこの提案を決定するための儀式を執り行う。

 

「では決を採ります。フランス介入案に賛成の方は挙手をお願いします」

 

 次々と各国首脳の手が上がっていく。程なくして参加者全員が賛成の意思を示していた。

 

「全員賛成により、フランス介入案は採択されました」

 

 かくして欧州各国は動き出した。

 




皆が助けてくれるぞ!やったねフランス!

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