それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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攻略も新艦掘りも終わった!次は備蓄やね(燃料20万以上消費)



海を征く者たち6話 行き先

 とある日の早朝。防衛省庁舎のある会議室は異様な光景が広がっていった。横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊の各地方総監とその部下がグループを作ってそれぞれの席に腰かけている。その誰もが小声だが真剣な顔で話し合っており、会議室の空気を張り詰めたものにしている。また彼らとは離れた所で、防衛省の職員が会議室に備え付けられている巨大なモニターを操作している。彼らは会議室の重い空気に内心ビクビクしているが、黙々と作業を続けている。

 

「モニターの方はどうだ?」

「ばっちりだ。しかし凄い光景だな」

 

 会場のセッティングをしている職員二人は、確認作業をしながらもチラリと今回の会議の参加者たちを見る。参加者全員がどこか疲れた雰囲気を醸し出している。よくよく見れば目に隈が出来ている者も多い。

 

「確か提督と艦娘の試験結果が出たのが2日前だよな」

「多分、あの人たちは提督と艦娘の確認をしていたんだろうな」

「提督の人数は500人以上。艦娘を合わせたら1000人を超えるのか」

「それだけの人数の能力を2日で把握して、誰に来てほしいかも決めなきゃならないからな。ロクに休めてないんじゃないか?」

「……ドラフトをやるにしても、もうちょっと準備期間がいるんじゃないか?」

「防衛大臣曰く、『時間がない』だそうだ」

「ひでぇ」

 

 そんな会話をしつつも手を止めることなく、準備を進めていく。とはいえ作業は殆ど終わっているので、後は最終確認程度であるため、雑談する余裕はあった。

 

「そもそもなんで提督を扱うのが地方隊なんだ?自衛艦隊が欲しがるんじゃ?」

「艦隊の再建に手が一杯らしい。後、自衛艦隊からすると艦娘に不安があるんだと」

「不安?」

「何でも『突然現れたのなら、突然消滅しても不思議ではない』だとさ」

 

 彼らの話は事実ではあるが、表に出ていない事もあった。当初、防衛大臣は提督と艦娘の管轄を自衛艦隊に任せようと考えていた。内閣でもその案は支持されており、自衛艦隊司令官にも話を通していた。当初こそ自衛艦隊司令官は艦娘の力に懐疑的であったが、イギリスから提供されていた映像を見せたり、実際に防衛大臣の初期艦である大淀を出撃されて見せる等をして納得することとなった。それを見てもなお、自衛艦隊司令官は艦娘を自衛艦隊で扱うことを拒否した。

 

 

 

「お断りします」

 

 防衛省の大臣執務室。坂田防衛大臣は北村自衛艦隊司令官のその言葉に目を剥いて驚いた。

 

「……なぜです?」

 

 坂田にとって彼の言葉は予想外だった。北村自衛艦隊司令官は深海棲艦出現時から自衛艦隊を指揮していた歴戦の猛者だ。自衛艦隊こそ壊滅したが、自衛隊内部では彼の実力を疑うものはいない。だからこそ坂田は彼であれば艦娘を上手く扱えると考えていたのだ。

 

「三つ程理由がありますがよろしいですか?」

「……分りました」

 

 思わず顔を歪めそうになる坂田だが、何とか自制して先を促す。

 

「まず一つ目としては艦娘が何の前触れもなく出現したことです」

「どういうことです?」

「確かに艦娘は深海棲艦に対して有効な対抗手段です。映像では戦艦級を一撃で撃破していた。これは現在の我々ではまず不可能でしょう。しかしその艦娘が『出現した』ということが問題です。前触れもなく『出現した』ということは、前触れもなく『消失する』可能性があります」

「……仮に艦娘戦力に頼り切っていた場合、彼女たちが消失すれば抵抗すら出来ずに日本は滅びますね」

 

 この不安を解消するには、艦娘がこれからも『消失』しない事を証明しなければならない。しかしそれは提督となった坂田にも証明することは出来なかった。そして国を守る立場からしても、艦娘という消失するリスクのある存在に国防を頼り切りにすることは避けたい。

 

「二つ目は、日本の防衛範囲の広さです。神出鬼没な深海棲艦に対して、防衛戦力を広範囲に配置する必要があります。自衛艦隊では性質上その戦力が集中してしまいます」

「なるほど」

 

 素直に頷く。提督となったおかげで軍事知識は手に入れたが、防衛省という組織については、北村の方が一日の長があった。

 

「そして三つめは、ほぼ確実に現場で自衛官と提督や艦娘が衝突することです」

「……」

 

 自衛艦隊は壊滅こそしたが、日本を深海棲艦から守ってきた。それを担ってきていた自衛艦隊に所属する自衛官もその自負を持っている。そんな彼らにとって、後からやってきた民間人や艦娘という謎の存在によって、「深海棲艦と戦う」という花形を奪われる事は、大きな不満となることは容易に想像できた。また、艦娘の力が対深海棲艦戦において有効であることも問題となってくる。これまで自衛官たちが苦労して戦ってきた深海棲艦を、艦娘たちは容易に葬ることが出来るのだ。そんな様を見せつけられれば、いくら艦娘に頼ることが最善の選択である理解していても、現場で戦ってきた人間からすれば面白くないだろう。

 

「……嫉妬心ですか」

「誰もが割り切れるものではありません」

 

 二人のため息が執務室に包まれる。この問題の解決には時間が掛かることは容易に想像が出来た。

 

「私としては提督及び艦娘を専門で扱う部署があればいいのですが」

「必要性は認識していますが、部署を新設する時間がありません。……自衛艦隊が駄目となると、地方隊に任せましょうか」

「その方が良いかと。しかし地方隊でも自衛官との衝突は起こるのでは?」

「……地方総監に任せましょう。提督と艦娘を上手く扱えたら出世に繋がることを事前に通告しておきます」

 

 ニヤリと笑う坂田。その光景に若干引きながらも北村は続ける。

 

「それと自衛艦隊の再建もお願いします」

「……艦娘の消失リスクについては否定しようがありません。そこを突いて財務省と掛け合ってみます」

 

 

 

 会議室の扉が開かれ、今回のドラフトの発案者である坂田防衛大臣、その後にすっかり秘書として動くことの多くなった大淀が入室する。二人は予め用意されていた席に腰かける。時間は丁度7時。会議の開始予定時刻であった。

 

「これより特殊戦力配備会議を始めます」

 

 マイクで拡大された司会担当者の声が会議室に響く。如何にも役所的なネーミングの会議名だが、馬鹿正直に提督ドラフト会議とされるよりはマシだと防衛省内部では囁かれている。

 

「では会議の前に確認事項をお伝えします。赴任先の決定方法はプロ野球ドラフト会議と同じですが、事前の告知通り初期艦の艦種毎にドラフトを行います」

 

つまり初期艦が戦艦な提督のドラフト、初期艦が正規空母な提督のドラフトと言った様に、艦種毎に分けてドラフトをすることとなっていた。これは各地方隊の初期の艦娘戦力に極端な偏りが起きないようにするための措置だった。

 

「皆様準備はよろしいでしょうか。それでは戦艦の1巡目を始めます。艦名、提督名をパソコンに記入して下さい。パソコンでの記入が終わりました地方隊は卓上のランプを点灯してください」

 

 こうして始まったドラフト会議。そして誰もが予測していた様に大いに荒れた。

 1巡目の戦艦では大和型をめぐり見事に重複し、各地方総監が殺気すら放ちながら抽選に臨んだ。重複は正規空母の1巡目でも起こり、こちらでは全地方隊が大鳳を指名。戦艦1巡目以上の荒れ具合となる。そのような状況の中、あまりのストレスに会議の運営スタッフは胃を痛めていた。

このまま荒れる展開が続くかと思われたが、意外にも軽空母、重巡、軽巡では重複が発生せず、殺気立っていた会議室の空気も緩和し始めていた。誰もがこのまま平和に終わるかと考えていたが、その予測は裏切られることとなる。

 駆逐艦1巡目で、陽炎を有する提督を全地方隊が指名してしまい、抽選となった。他の艦種と比べて戦闘力の低い駆逐艦からのドラフトということで、各地方隊は艦娘の性能よりも提督の能力を重視していた。そして1位指名の提督の成績は全提督の中でもトップ。重複するのは当然だった。

再び殺気立つ各地方隊。早く終われと願うスタッフ。そしてそんな中でも平気な顔をしている坂田と大淀。傍目から見ればよくわからない光景は、結局ドラフトが終わるまで続くこととなった。

 

 

 

「聞いてはいたけど、本当に人がいないわね」

「だな」

 

 秋山と叢雲、二人の姿は横須賀の海の見える公園にあった。長ベンチに並んで座っている。話題は先程まで二人がいた横須賀の繁華街だった。

 

「せっかくの外出だけどあれじゃあね」

 

 提督と艦娘の試験が終了し、後は配属先が通達されるのを待つのみとなった。配備先の決定まで数日かかるため、防衛省は慰安として提督と艦娘に横須賀市内という制限付きではあるが交代での外出許可を通達した。

秋山たちの休日は最終日。長くホテルに缶詰めにされて辟易していた秋山たちは、早速横須賀の繁華街に繰り出したのだが、そこに広がっていたのは寂れた街並みだった。休日の昼間にも関わらず人通りが少ない。また多くの商店ではシャッターが下ろされており、深海棲艦出現以前の栄えていた頃の面影はなかった。

 

「2月に横須賀は敵の水雷戦隊の対地砲撃をやられたんだ。被害自体は少なかったらしいがそれのせいで急激に人口が減ったらしい」

「ここ数年、深海棲艦の侵攻を恐れて沿岸部から住民が離れ始めているそうね。そして横須賀では実際に起こってしまった。住民が逃げだすのは当然ね」

「残っているのは自衛隊関係者と極少数の自衛隊を相手に商売をする人、後はインフラ関係者ぐらいか……」

 

 街のあちらこちらには去年の襲撃の被害によるものと思われる倒壊した建物も見られていた。撤去作業も行われているが、全て終えるにはまだまだ時間が掛かりそうである。

 

「失敗したわね。繁華街だから当てにしてたのだけど」

「いっそのこと帰るか?」

「このまま散歩でいいじゃない。それにあれをわざわざ作ったし勿体無いわ」

 

 そう言って叢雲は秋山の持つ手さげ袋に視線を移す。

 

「時間も丁度良いし出しちゃいましょ」

「そうだな」

 

 秋山は手さげ袋から目的のモノを取り出す。現れたのはラップに包まれた大きなおにぎりが二つと、味噌汁を入れた魔法瓶。ホテルで無理を言って厨房を借りて作った弁当だった。

 

「ほれ」

「ありがと。――うん、やっぱり美味しいわね」

 

 巨大なおにぎりにかぶりつきながら、頷く叢雲。秋山が家族から持たされていた秋山家が作った米で作った塩むすびだった。秋山家で過ごした時間は短いが、彼女にとってこれが馴染みの味だった。

 

「まあ秋山家全員で作ったからな。ちゃんと味わって食べろよ?」

「そうね。……ねえ」

「ん?」

「前から訊きたいことがあったのだけど、今良いかしら?」

「ああ」

 

 急に緊張した面持ちとなった叢雲に、秋山は戸惑いを感じていた。

 

「なんで深海棲艦と戦おうと思ったの?」

「いや、何を今更。お前も行きたいって言ったじゃなか」

「私はいいのよ。問題はアンタ。最初は私に無理に付き合ってくれてるのかと思ったわ。でも違った。アンタは自分の意思で戦おうとしている」

「まあ、そうだな」

「だから戦う理由を訊きたいの。下手な理由だと私を含めた周りが迷惑するわ」

「因みに答えが気に入らなかったら?」

「艤装で殴ってでも矯正するわ」

「矯正する前にミンチになりそうだ……」

 

 秋山は顔を歪ませる。暫しの間、あー、うーんと頭を捻る。とはいえ早々気の利いた言葉が出るわけではない。

 

(変な言い訳をしたら殴られそうだ)

 

 なので彼は素直に行くことにした。

 

「あー、強いて言えば――生き残りたいのと知り合いに死んでほしくないから、かな?」

「割とシンプルね」

「色々考えたけど、突き詰めればそれだな。死にたくないし、知った顔が死んで嫌な思いをしたくない。幸い提督になったからそれがしやすいしな」

「へえ」

「……判定は?」

 

 かなり欲望に忠実に答えてしまった。内心ドキドキしながら秋山は訊ねる。暫しの沈黙の後、叢雲は笑みを浮かべた。

 

「合格。下手な目的よりはずっと良いわ」

「そりゃどうも。味噌汁いるか?」

「いただくわ」

 

 とりあえず殴られる事はなくなり、安堵する秋山。地元から持ってきた味噌と顆粒出汁、乾燥野菜を入れたシンプルな味噌汁をカップに注ぎ、叢雲に渡す。先ほどの空気は完全に霧散し、彼女からは上機嫌な様子が見て取れた。

 

「そう言えば、今朝配属先の発表があったって聞いたけど、私たちの配属先はどこなの?」

「ん?聞いてないのか?」

「提督に知らされるって話よ」

「そうなのか。まあ、ここだよ」

「ここ?じゃあ――」

「そう。横須賀だ」

 




今後の展開を考えたら、政府関係者の出番がかなり多くなりそうなので、各政府関係者をネームドにしてみました。
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