それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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相変わらず、おっさんたちの会議や会話ばかりです。

今回の判定は1d100。判定内容は後書きで。
ドイツ80、日本78、フランス67、アメリカ29、イギリス75、イタリア58、ロシア45
……アメリカさん?




海を征く者たち7話 艦娘への反応

 日本国、首相官邸のとある会議室。そこではある重要な会議が開催されている。だが、その光景は通常の物とは大きく異なっていた。会議室にいるのはメインの参加者である真鍋内閣総理大臣と少数のスタッフのみ。設備は会議室に備え付けられている巨大モニター、そしてテレビカメラだけだった。モニターには各国のトップが映し出されている。面々を見ると所謂先進国の国々が多いが、そこには一つの法則がある。4月23日に国内に艦娘の出現が確認された国々である。

 

「さて、こんな形で少々味気ないが、会議を始めようか」

 

 今回の会議の主催者であるアメリカのクーリッジ大統領は苦笑しつつ、音頭をとる。今回の国際会議の重要性を考えれば、本来なら直接顔を合わせる方が良いのだが、世界中の海が深海棲艦の手に落ちている現在、その様なことは不可能だった。アメリカに駐在している各国の大使を代理として会議を行うという案もあったが、扱う議題が大使では手に余り兼ねないとして反対意見多数。最終的にテレビ会議という形で会議が開催されることとなった。

 

「さて早速本題に入りたいところだが、その前に一つ気になることがある」

「何かね?」

「各国の艦娘の配備だが、一部の国で配備が遅れていると聞いている。その事について確認したい」

 

 ジロリとあるグループを睨むクーリッジ。艦娘の配備の遅れは、当事者だけでなく周辺にも影響が出るためだ。そして日本としても把握しておきたい所であった。例え地理的には遠く離れた場所のことであっても。

 

「EU加盟国の配備状況はどうなのですか?」

 

 真鍋はEUの首脳陣に視線を向けた。その殆どが平静を装ってはいるが、焦りが見えていた。

 

「少くとも我が国は問題ないな。何せ第二次世界大戦前は世界第二位の海軍力を持っていた。お陰で保護した艦娘を当てにしなくてもいい」

 

 EU首脳陣の中でも一番余裕のあるイギリスのマクドネル首相は肩をすくめた。

 フランスの崩壊は、政治、経済など様々な所に影響を及ぼした。今回の艦娘の配備の遅れもそれだ。フランスにいた提督と艦娘を引き入れる事は中、長期的には利益は莫大だが、短期的には提督への懐柔や交渉など様々な手間が掛かってしまう。早急に艦娘を配備する必要のある現状、時間が掛かることは大きな問題となった。

 

「我が国以外では、ドイツ、イタリアは問題ないと聞いている。その二カ国は戦艦艦娘がいるし、なぜか未完成艦の空母艦娘がいるから、戦力にある程度の余裕がある。問題はそれ以外ですな」

 

 フランスへの介入をしている国で提督の保護に熱心なのは、第二次世界大戦前に海軍戦力が少ない国々だった。当然、それらの国々の艦娘の戦力は低い。だからこそフランスにいた艦娘は魅力的だった。彼らはフランスの艦娘を自国の主力に据えようと目論んでいた。

 

「……現在、艦娘の配備については全力を挙げている。もう少し時間が欲しい」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をするオランダのルッツ首相。その言葉はフランスの提督を当てにしている国々の主張を集約していた。彼の国々はフランスで保護した提督の懐柔に手間取っていたのだ。完全に取り込むにはまだまだ時間が掛かることは解り切っていた。

 

「……まあいい」

 

 クーリッジもそのことは察しているため、これ以上の追及は行わなかった。

 

「出来ないことをここで言及したところで、建設的ではない。いい加減本題に入ろうではないか」

 

 マクドネルの言葉に会議の参加者全員が気持ちを切り替える。何せ文字通り世界規模で影響が出る物なのだ。

 

「艦娘の国民への公開ですか。大混乱間違いなしですね」

 

 ため息を吐く真鍋。何せ公開する内容が荒唐無稽すぎるため、どのような反応が出るかが予測しきれない。参加者を見れば誰もが難しい顔をしている。

 

「……軍事機密として非公開の方が良いんじゃないのか?」

「気持ちは解るが難しいだろう。何せアメリカ以外の殆どの海軍は壊滅状態だ。そのような状況では極秘裏には艦娘を使う程余裕はない」

「それにどの国も劣勢です。艦娘という希望を国民に見せる必要があるでしょう」

「……」

 

渋るクーリッジだが、マクドネルと真鍋の反対意見によって沈黙する。他の参加国も公開派であるため、クーリッジをかばう素振りは無い。

 

「……そうだな。では予定通りにいこう」

「はい。国連を通して公開します。発表は5月23日」

 

 

 

 5月23日。国連から各国に出現した艦娘についての発表が行われた。しかし、当初は反応は芳しくなかった。

 

「お前は何を言っているんだ」

 

 「第二次世界大戦時の軍艦が人の姿になって現れた」などと言われた所で、普通は信じるはずもなかった。最も各国はその反応は事前に予測されていたため、政府による発表やマスコミへの艦娘の公表、深海棲艦との戦闘映像の公開など様々な手段で、艦娘が深海棲艦に対して対抗できる存在であることは認識された。

 

 だが同時に、各国の国民の間で艦娘という存在についての議論も活発になった。本来、無機物だったものが、時代を超えて現代に現れたのだから当然だった。

 艦娘という存在自体を直ぐに受け入れられたのは、日本と中国だった。この二カ国には付喪神思想があり、艦娘が受け入れられる下地があったのだ。ただし日本の場合、「第二次世界大戦時の軍艦」の付喪神ということで、所謂極左が発狂し過剰な行動を起こそうとしていたが、これらの事態を予測していた公安及び警察が、抑え込んだ。

 

 日本、中国以外の国では、議論は続いていた。艦娘という未知の存在にパニックになっていたのだ。「提督が艦娘を建造できる」ということも、混乱を拡大化させる一因であった。

 

人(提督)が人(艦娘)を作る。

 

 神に成り代わり、人が人を作りだした。ならば作り出した者によって人類は滅ぼされるのではないか。フランケンシュタイン・コンプレックスと呼ばれる思考が各国の国民に現れていた。特に欧米などのキリスト教圏でこの思考に捕らわれる者が多発した。

 特に酷かったのはアメリカだった。皮肉にも軍事力があり、劣勢ながらも深海棲艦に対抗出来ており、ある種の余裕があったためだ。少なくない数のアメリカ国民が、艦娘を危険視した。彼らは提督及び艦娘の隔離や監視を叫んでいた。

 

 これらの動きに、各国は事の沈静化を図っていた。現状では深海棲艦に対して対応できるのは艦娘だけだ。彼女らと敵対することになれば、文字通り国が滅びかねないのだ。バチカンも動き「艦娘は神が人類にもたらした奇跡」と発表するなど、各国政府、国際機関、宗教権威など影響力の大きい組織はなりふり構わず対策を講じていた。

 余談だが、世界中のマスコミは艦娘容認派であった。これは各国政府の『要請』を受けての物だった。「報道の自由」という言葉はあるが、それは結局国家が容認しているから存在する言葉だ。国家と言う巨大な組織、それも複数の国家が本気を出せば、報道の自由など無意味に等しい。

 大きな混乱を生みつつも、艦娘という存在は世界中で認知されていくことになる。 

 

 

 

 横須賀基地の総監室。横須賀地方総監である佐久間海将は、上げられてきた報告書を手に目を剥いていた。

 

「……どういうことなんだ?」

「さあ……」

 

 同じく資料を読んでいる参謀長の矢口海将補も頭を捻っていた。

 

 現状の横須賀基地の戦力は、往年とは比べ物にならない程激減していた。メインとなる戦力が陸自の地対艦ミサイルと対空ミサイルであり、海上戦力は精々が少数のミサイル艇ぐらいだった。だからこそ佐久間を始めとした横須賀基地の関係者は艦娘が配備されたことに喜んでいた。ここ最近の深海棲艦との戦いは陸自と空自が主役であり、海自は何も出来ないでおり鬱憤がたまっていた。そんな所に艦娘が海自にやってきたのだ。彼女たちによって再び海自が戦いの主役になれるのだ。

 しかし横須賀基地の設備を確認した提督と艦娘は、異口同音でこういった。

 

「この基地の設備では艦娘の運用は難しい」

 

 最初はその言葉に疑問を持ったが、直ぐに納得がいった。横須賀基地は現代の軍艦を扱う基地であり、艦娘という未知の戦力を扱える施設は存在しないのだ。とはいえ増築などそうそう出来るわけではない。

 佐久間はとりあえずダメ元で防衛省に掛け合ってみた所、まるで解っていたかのように許可が降りた。呆気に取られる佐久間だが、そんな彼を余所に防衛省から更なる命令が飛んで来る。

 

「艦娘運営用の基地を建設せよ」

 

 余りの内容に「お前は何を言っているんだ」と、思わずツッコミを入れる佐久間だが、既に建設予定地が指定されており、更に建設用の資材が次々と現地に運び込まれていた。

 ここまで事が進んでしまっては、基地の建設は確定である。頭痛を覚えつつ確認作業を行っていた佐久間だったが、部下からの指摘である問題が浮上する。基地建設の施工業者が決められていないのだ。慌てて防衛省に問い合わせるが、

 

「横須賀基地の人員で建設せよ」

 

 と、見事な無茶振りをされてしまった。

 頭を抱える横須賀基地の上層部の面々。何とかならないかと話し合われるが、そう簡単に妙案が出てくるはずもない。なので仕方なしに提督たちに事情を話した所、彼らは事もなしげにこう言った。

 

「これより基地建設作業に入ります!」

 

 呆気に取られる横須賀の上層部を余所に、周辺海域防衛のための人員以外は、全て基地建設に向かってしまった。翌日、防衛省から提督の能力についての詳細な資料が横須賀基地に届けられた。そして発見される「基地建設」という項目。この情報を知らされたタイミングから明らかに作為的なものを感じつつも、とりあえず納得することにしたのが5日前。そして現在。

 

「いくらなんでも早すぎるぞ!?」

 

 基地完成の旨を記した報告書に、佐久間はツッコミを入れていた。

 

「建物はプレハブではなく、鉄筋コンクリートを使っているみたいですね。建設された施設はどれも大規模。しかも小さいながらも滑走路まであります」

 

 平静に勤めようとはしているが、若干顔が引きつっている矢口。報告書にはどうやったのか航空写真まで添付されており、どれだけ大規模な基地なのかが良く解る。

 

「参謀長は二日前に視察に行ったらしいが、どうだったんだ?」

「……建設作業の中心である明石と彼女の提督である高柳提督の案内を受けましたが、有り得ないほどの速度で作業が進んでいました」

「提督からは?」

「基地の建設作業は妖精が行っており、提督と艦娘は指示を出しているらしいです」

 

 

 基地の建設作業は、全ての提督が呼び出した妖精による人海戦術ならぬ妖海戦術によって急ピッチで行われていた。そのためどこを見ても大量の妖精がいるという、ファンシーな光景が広がっていた。

 

「……妖精?」

「艦娘をサポートする存在らしく、提督と艦娘しか見えないとのことです。ですので私の目には建物が勝手に組み上げられているようにしか見えませんでしたが」

 

 提督や艦娘から見ればファンシーな光景も、普通の人間である矢口には独りでに建物が建っていくという、ある種のホラーにしか見えなかった。

 

「……何でもありだな、あいつら」

「全くです」

 

 総監室に二人のため息が響いた。

 

 




艦娘発表に対する国民制御判定です。1~10は暴発、11~30は過激論が無視できない範囲で発生。31~60は過激論を何とか押さえ込む。61~90はそこまで影響はない。91~100はふしぎなことがおこった
今回、日本は以前の統制判定で高い値を出したため、+5のボーナス。
今回問題があるのは29のアメリカ。地雷が埋設された!

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