それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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シークレット:48、34、91、88

88の方はいいけど、91のダイスはヤバい……。詳細はあとがきで。


海を征く者たち9話 先へ進むために

 6月25日、午前9時。横須賀鎮守府は歓声に沸いていた。待ち望んでいた資源加工施設がようやく完成し、これまで開店休業状態だった工廠や開発施設の稼働が始まったのだ。出撃している者以外の横須賀鎮守府の全提督が工廠施設に集まっているのだから、彼らがどれだけ待ち望んでいたかが良くわかる。そして当然のことながら、秋山と叢雲の姿も工廠施設にあった。

 

「ようやく新しい艦娘が建造出来たわね」

「工廠が出来るまで二か月か。本当に大変だったな」

「そうね……」

 

 遠い目をする秋山に、同意する叢雲。彼女も全く同じ気持ちだった。

 横須賀に配属されて約2か月。その間工廠が稼働できないでいたため、横須賀地方隊の警備区域を約100隻の艦娘だけで防衛するという無茶な事をやってきたのだ。そんな忙しい日々にようやく終止符が打たれる時が来たのだから、感慨深くもなる。

 

「これで少しは楽になるのかしら」

「少なくとも現状よりは楽になるんじゃないか?」

「……ご飯の最中に出撃が掛からないくらい?」

「そこは知らん」

 

 横須賀地方隊の警備区域は岩手県以南で三重県以東の太平洋。それだけの広範囲を、横須賀鎮守府を根拠地として深海棲艦から守らなければならないのだ。しかも深海棲艦は様々な海域に出現する。それらへの対応のため、移動にはヘリコプターや輸送機を活用し、深海棲艦の出現した海域に高速で展開していたのだ。しかし艦娘が少ないため、睡眠以外で身体を休める暇は殆どない。当然そのような無茶をすれば、実動部隊である艦娘や提督に疲労が蓄積されてしまう。現在、横須賀鎮守府に所属している提督と艦娘は疲労困憊だった。

 

「まあ、今回の全提督一斉建造のお蔭で艦娘の人数が一気に2倍になったんだ。ローテーションに余裕が出ることは確定だな」

「そうね。それに装備開発も許可されたし、私自身も強くなれるわ」

「出来れば10cm連装高角砲が欲しいな」

「そうね。私の今の装備だと対空がツライわ」

 

 艦娘の仕事は各地に出撃して深海棲艦と戦うだけではない。時折やってくる深海棲艦が繰り出す空襲に対応することも仕事だ。深海棲艦は対地攻撃の手段として空母艦載機による空爆も行う。そのため現在の日本では太平洋戦争後期の様に空襲に見舞われていた。空襲の対処として空自や陸自による特殊弾頭型対空ミサイル、空母艦娘の戦闘機による迎撃が主となっているが、それ以外の艦娘も浮き砲台の様に対空戦闘も行われている。

 しかし叢雲が持つ12.7cm連装砲では対空戦闘は困難であり、歯がゆい思いを続けていた。対空装備である10cm連装高角砲があればそれも解消できるだろう。最も開発は妖精の気まぐれによって行われるため、狙った装備が出来ることはそうそうないが。

 

「後は書類仕事だな。手伝ってくれる娘が来れば楽になる」

「あら、私じゃ不足かしら?」

「正直もう一人は欲しいな」

「それは同感ね」

 

 軍隊は何だかんだ言って国家に属する役所の一つ。当然の如く様々な書類が関わってくる。二人とも書類仕事は出来るが、それでも人では多い方が良いのだ。

 そんなこれまでの苦労話を一通り終えると、二人はいい笑顔で目の前の人物に向き直る。

 

「そんなわけでようこそ白雪、歓迎するぞ。いやホントに」

「来てくれてありがとう。いやホントに」

 

 指名された白雪だが、目の前の二人とは対照的に顔を真っ青にしていた。あんな話を聞かされてしまったのだから当然である。

 

(とんでもないところに来ちゃった!?)

 

 そんな感想を抱く白雪だが、

 

「ああ、今言った事は日本中どこでも起きてるぞ。多分、どこに行っても同じだ」

「でもこれから良くなってくるわよ。多分」

「心の声を読まないで下さい!?」

 

 思わず叫び声を上げる白雪。その時、工廠に女性自衛官の放送が響いた。

 

『静岡沖に重巡を旗艦とした敵小規模艦隊が出現。駒場提督、秋山提督、木村提督及び傘下の艦娘は第一ヘリポートに出頭せよ。繰り返す――』

 

 出撃の放送と同時に、幾人かの提督や艦娘が慌ただしく駆け出していく。放送には秋山の名前もあるため、すぐさまヘリポートに向かう必要がある。

 

「白雪、行くぞ!」

「え!?あの、叢雲ちゃんとの連携とかは……」

「俺が白雪に乗艦して指示を出すからそれに従ってくれ。叢雲もそれでいいか?」

「白雪はまだ建造されたばかりだしその方が良いわね。……合理的に考えれば」

「ん?」

「何でもないわよ」

 

 そんなやり取りをしつつ、3人は出撃のために駆け出して行った。

 

 

 

 6月25日、午前11時。首相官邸の会議室にて、今年に入ってから何回目かの閣僚級会議が開かれていた。会議に出席している閣僚たちの顔色は若干だが、以前より良くなっている。艦娘の発表以来、次々と起きている良いニュースが閣僚たちに希望を与えていた。

 

「経済活動が活発になり始めている。やはり何かしら頼れるものがあるという事は良いな」

「今まで深海棲艦に押されていた反動でしょう。今の彼女らは人類の希望です」

「それに深海棲艦の被害も目に見えて少なくなっている。このまま行けば被害ゼロもあり得るか?」

「流石にそれは無理だろうが、かなり被害は抑えられるんじゃないか?」

 

 浮かれた空気が漂う閣僚たちに、真鍋首相は小さくため息を吐いた。

 

(浮かれ過ぎだ。まだ問題は山積みなんだぞ)

 

 彼は一つワザとらしく咳払いをすると、口を開く。

 

「艦娘により日本の状況は上向き始めたが、まだまだ油断は出来ない。各々そのことを肝に銘じて国政に取り組んで欲しい」

『……』

 

 真鍋の言葉により、会議室の空気が引き締まったものとなっていく。深海棲艦出現から現在まで、内閣総理大臣という国のトップにあり続けた人間の言葉を否定する者はこの場にはいなかった。その様子に彼は満足し、話題を変える。

 

「坂田防衛大臣。艦娘の配属によってある程度の本土の防衛は出来たが、今後自衛隊はどういう方針で行くんだ?」

 

 真鍋の質問に、坂田は持ってきていた資料を手にし、説明を始める。

 

「現在の方針では、各提督が艦娘を一定数建造したところで全国各地に提督を分散配属し、防衛網を密にします。その後は本土の防衛を行いつつ艦娘の建造や装備開発、訓練を行い戦力の増強。然るべき時に、東南アジア進出作戦に移行します」

「全国への分散配備だが、直ぐに出来るのか?」

「今朝から全国の地方隊で艦娘の建造が開始されたと報告が入りました。想定されるペースで考えた場合、9月上旬には配属が完了するでしょう。勿論各種資源が十分にこちらに回されることが前提となりますが」

「江口経済産業大臣」

「艦娘出現前より兵器関連での資源の消費量は格段に減っています。これなら十分に艦娘に資源を出せるでしょう」

 

 その言葉に出席者たちは内心歓喜した。たった500人強の艦娘だけでも、敵による被害が格段に抑えられているのだ。艦娘戦力が強化されるならば、更に被害を抑えられる。

 

「東南アジア進出作戦についての作戦は?」

「来年1月中の作戦遂行を目途に、作戦を練っています」

「1月中か。年内の作戦遂行は出来ないのか?」

「戦力増強や練兵を考えますと、これ以上早めることは出来ません」

「そうか……」

 

 江口が提示した日本のタイムリミットは来年の10月。破壊されているであろう東南アジアの資源採掘施設の再建を考えれば、ギリギリといった所だった。

 

「作戦についてですがやはり南沙諸島の敵拠点が肝となっています。一級拠点であるハワイ拠点やイースター島沖拠点と違い、それらより規模の小さい二級拠点ではありますが、敵の戦力は未知数です」

「派遣する戦力は?」

「全ての地方隊に所属する全艦娘戦力と自衛艦隊を予定しています」

『!?』

 

 坂田の言葉に誰もが驚愕した。彼の言っていることは本土防衛を捨てるということと同じなのだ。

 

「本気か!?こう言っては何だが、陸自と空自だけでは深海棲艦に対応しきれないぞ!」

 

 その様なことになれば、折角艦娘に抑えられていた深海棲艦による被害が増加する。江口は反対意見を出すが、坂田は首を振った。

 

「南沙諸島拠点にもイースター島沖拠点の時の様に、未知の深海棲艦がいる可能性が高いです。またどれだけの戦力を保持しているかも未知数。不測の事態への対応を考えれば全戦力を投入する必要があります」

「だから全ての艦娘を出すのか」

「作戦開始までの準備期間を半年設けていますが、正直な所全く足りません。本土防衛も考慮する場合、最低でも1年は準備が必要でしょう。しかしそこまでの時間はありません」

「攻勢と守勢。そのどちらかに全力を出さなければならない、と」

「その通りです。そして日本には守勢を選択することは出来ません」

「……」

 

 沈黙する江口。それを見ていた外務大臣の天野は手を挙げた。

 

「坂田防衛大臣。戦力不足と言うのなら他国に参戦を求めることは出来ないか?」

 

 南沙諸島拠点による被害は様々な国で起きている。南沙諸島拠点の攻略を行うのなら、協力を得られる可能性は高かった。だが、坂田は頭を振った

 

「戦力を考えれば難しいです。それに指揮系統の混乱を考えれば日本単独で行った方がいいでしょう」

 

 日本艦娘以外の東アジア、東南アジアに出現した有力な艦は、タイの海防戦艦「トンブリ」級だが、主砲は20.3cm連装砲二基、速力は最大速度15.5ノット。攻勢において日本の艦娘と連携を取るには難しいスペックだった。

 

「……拠点攻略については分かった。東南アジア各地に派兵する兵力は?」

「陸自から5個師団を予定しています」

「少なくないか?」

「派兵地域は都市部ではなく、主要資源地帯に限定するので、問題はないと試算しています」

「分かった。引き続き計画を練ってくれ。次は――」

 

 こうして会議は続いていく。だがこの時、日本の東で動きがあった事を彼らは知らなかった。

 

 

 

 6月25日正午。アメリカの国防総省庁舎「ペンタゴン」は騒然としていた。

 

 ハワイより深海棲艦の大艦隊が出撃。

 

 この報告を重く見た国防総省は、軍関係者による緊急会議が行われることとなった。

 

「間違いないのか」

 

 国防長官であるマーシャルは改めて確認をする。この場にいる全員が緊張した面持ちで報告を見守っている。

 

「間違いありません。推定される数は500。艦隊の進行速度はおよそ12ノット」

「進路は?」

「予測進路上に西海岸があります。恐らく目標はそこでしょう」

 

 騒然となる参加者の面々。そんな中、ファマス海軍長官は立ち上がる。

 

「長官、迎撃のために太平洋艦隊を出しましょう」

「行けるのか?」

「艦娘戦力は以前より増強出来ています。既存の艦隊と連携を取れば撃退は十分可能です」

 

 アメリカの艦娘戦力の増強は10日前から始まっており、現在は駆逐艦が中心ではあるが、それなりの数がそろっていた。また、これまでの戦闘で既存艦艇と連携して深海棲艦を迎撃していたため、連携は十分に取れていた。彼らの実績を知っている出席者たちは、その言葉に頷いていた。しかし疑念もある。

 

「艦娘の戦力は確かに増強されたが、まだまだ数が少ないと聞いている。確実性に打撃を与えるために、ある程度引き付けて空軍と連携した方が良いのでは?」

 

 そういったのは空軍長官のリードだった。彼は海軍と空軍が分かれて戦うことで、戦力の分散にならないのかを危惧していた。

 

「これだけの規模だ。下手に近づければ本土に被害が及びかねない」

「確かにそうだが、迎撃しきれるのか?」

「そこは後方に配置することになる既存の艦隊で何とかするしかない。それに下手に本土に被害が及んでみろ。艦娘脅威論者が暴れかねん」

「ふむ」

 

 深海棲艦をその身一つで打ち倒せる艦娘を脅威と見る者は世界中にいるのだが、特に多いのはアメリカだった。政府やマスコミによって艦娘を歓迎する方向に世論を動かそうとしているが、それでも彼女らを危険視する声は一定数存在している。仮に本土に被害が及べば「艦娘など不要である」と言い出しかねない。艦娘の地位を確固たるものにするためにも、今回の迎撃戦は艦娘がメインとなる必要があった。ファマスは更に続ける。

 

「確かに我々は深海棲艦と戦えてきたが、それはあくまでも防戦においてだ。反撃するにはどうしても艦娘の力が必要になる。しかし国民が艦娘を拒否してしまえば反撃に支障が出ることは確実。艦娘の地位を確固たるものにするためにも、今回の迎撃戦は艦娘がメインとなり、大きな実績を積ませる必要だ」

 

 それを聞いたマーシャルは、暫し考え込む。そして視線をファマスに向けると口を開いた。

 

「海軍の案を採用しよう。太平洋艦隊は直ちに出撃せよ」

 

 かくしてアメリカ海軍は迎撃に動き出す。

 




???判定:91
ハワイ深海棲艦拠点より大規模艦隊が出撃しました。アメリカが迎撃態勢に入ります。

今回はぼかしましたけど、中華民国の艦娘ってどうしましょう。共産党の方にだすか、台湾に出すか……

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