それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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海を征く者たち10話 東太平洋海戦前編

 国防長官の指示、そしてアメリカ大統領の許可により出撃したアメリカ太平洋艦隊は、アメリカ本土から西に2000kmの海域を航行していた。ニミッツ級原子力空母3隻を中心にタイコンデロガ級巡洋艦、アーレイ・バーグ級駆逐艦多数とアメリカ西海岸に配備されている艦の多くが、侵攻してくる深海棲艦を迎え撃つために出撃していた。

 アメリカ以外の国家では、揃えることはまず出来ないであろう陣営ではあるが、敵は500隻を超える深海棲艦の大艦隊。今までであればその攻勢を止めることは不可能だろう。

 しかし今の太平洋艦隊には強力な助っ人がいる。太平洋艦隊の前方の海域に展開している、アメリカ太平洋艦隊所属に所属する艦娘たちだ。かつて太平洋で日本海軍と激闘を繰り広げた軍艦は、その姿を変えて再び祖国を守らんと戦場に立っていた。

そんな彼女たちの姿に、太平洋艦隊の将兵たちの士気は高まっている。深海棲艦を打ち倒せる存在が仲間にいるという事実が、将兵たちに安心感と高揚を与えていたのだ。世間がいくら脅威を叫ぼうとも、実際に深海棲艦と対峙する者たちにとっては頼もしい仲間なのだ。彼女らの上空に展開するF/A-18F航空隊のパイロットであるカーニー中佐もその一人だ。

 

(壮観だな)

 

 上空から見える太平洋艦隊の姿に、思わず呟く。彼は深海棲艦出現時から戦ってきたパイロットだったが、これ程の戦力が集結している姿を見るのは初めてだった。規模で言えば、去年行われたオペレーション・ビギニングでの連合艦隊の方が大きいだろうが、対深海棲艦としての戦力では今回の方が高いだろう。

 その様な感慨に浸っていると、不意に後部座席から声が聞こえてきた。兵装システム士官のエイミスだ。

 

「何だか変な気分ですね」

「どうした?」

「いえ、艦娘って第二次世界大戦の艦の生まれ変わりじゃないですか」

「そうだな」

「まさか祖父が乗っていた軍艦と一緒に戦う事になるなんて思いませんでしたよ」

「あー……」

 

 この海域でエイミスの様な気分になっている者は、それなりに多いだろう。

 

「変ですかね?」

「いや、気持ちは解るな」

 

 カーニーはチラリと後方に目をやる。この空域に展開している航空戦力は、彼らだけではない。彼らの後方に空母艦娘が発艦させた何百もの艦載機が控えている。その中には特徴的な逆ガル翼のF4U-1Dの姿もある。カーニーが軍に興味を持つ切欠となった機体だった。

 

(まさかあの機体をこんな所で見ることになるとはな)

 

 幾分もサイズダウンされているが、見た目も性能も本家と同じだ。ジェット戦闘機が空戦の主役になって久しい現在で、特殊ではあるがレシプロ機と共闘するとは思いもしなかった。

 

「っと、来たか」

 

 カーニーはレーダーに目を向ける。モニターには前方に大きな何かがあることが表示されている。大きな雨雲の様にも見えるが、気象予報ではこの海域は雲一つない快晴。そうなれば可能性は一つだけだ。

 

《空中管制機Eagle‐Eyeより航空隊各機、敵艦載機編隊を確認。攻撃を開始せよ》

 

 管制機からの指示が飛ぶ。彼の予測通り深海棲艦の艦載機だった。それもレーダーで雨雲の様に表示される程の大群だ。恐らくこの空域にいる太平洋艦隊の航空機より数は多い。しかしこの空域にはその様な光景を前に怯むような艦載機乗りは居ない。

 

「行くぞ!」

「了解」

 

 カーニーが先陣を切る形で機体を加速させる。同時に彼に合わせる様に、航空隊から一部の機体が突出していく。第一次攻撃を仕掛けるべく一斉に敵艦載機編隊に照準を合わせる。

 

「Knight-01、FOX-3」

《Knight-03、FOX-3!》

《Sword-01、FOX-3、FOX-3!》

 

 凄まじい数の特殊弾頭を搭載した空対空ミサイルが、無線で飛び交う発射符号と共に敵編隊めがけて殺到する。

 轟音と共に青い空にいくつもの火球が膨れ上がった。敵のカブトガニの様な艦載機は爆発に巻き込まれて吹き飛ばされていく。また辛うじて炎から逃れた機体も編隊を維持することは出来ない程の爆風に煽られていた。爆炎が晴れた頃には、深海棲艦の航空隊はその数を減らし、生き残りも編隊を組めずにバラバラとなっていた。

 そして太平洋艦隊はこのような隙を見逃す筈がない。管制機からの指示が飛ぶ。

 

《Eagle‐Eyeより各空母艦娘、敵航空隊への攻撃を許可する。食い破れ》

《行きます! 航空隊、攻撃はじめ!》

《Intrepid航空隊各隊、はじめて!》

 

 待ってましたとばかりに艦娘の攻撃命令と共に、艦娘航空隊が敵の編隊に襲い掛かる。編隊をバラバラにされていた深海棲艦艦載機隊は、碌な抵抗も出来ずに駆逐されていく。

 だが数は敵の方が多い。太平洋艦隊は奇襲に近い形で空戦を仕掛けることによってアドバンテージを取ったが、時間が経つにつれて深海棲艦側が態勢を立て直していく。

 

《Eagle‐Eyeより各空母艦娘、航空隊を戦闘空域から離脱させろ》

 

 その様子を見ていた管制機も空母艦娘に後退の指示を出す。勇猛果敢に敵に攻撃を仕掛けていた艦娘航空隊は、攻撃をやめて整然と空域から離れていく。事前のミーティングの通りだ。そして予定通りに次の手を打たれる。

 

《空中管制機Eagle‐Eyeより航空隊各機、艦娘航空隊の離脱が完了した。第二次航空攻撃を開始せよ》

「Knight-01、Roger。FOX-3!」

《Griffin-01、FOX-3》

 

 敵が編隊を組んだ所を、特殊弾頭ミサイルが空間ごと薙ぎ払う。深海棲艦の航空隊は再び編隊が乱される。

 

「敵航空機多数を撃墜。簡単なものです」

「全くだな」

 

 敵航空機が密集していた時は範囲攻撃の出来る特殊弾頭を搭載したミサイルで焼き払い、再編成或はミサイルを警戒して編隊をばらけさせたのなら艦娘の航空隊で薄くなった敵編隊を食い破る。それがアメリカが編み出した深海棲艦航空隊への対処方法だった。

 次々と撃墜される敵艦載機。対する太平洋艦隊の損害は空母艦娘の戦闘機隊が少数撃墜されただけだ。既にこの空域は太平洋艦隊が航空優勢を取っていた。そして作戦は次の段階に進む。

 

《空中管制機Eagle‐Eyeより航空隊各機、敵航空隊の脅威は去った。対艦攻撃を許可する》

 

 無線が空域に飛ぶと同時に、対艦兵装を施したF/A-18の編隊が躍り出る。目標は海上を航行する深海棲艦の大艦隊。素早く照準が合わせられる。

 

《Yellow-01、FOX-3》

《Tiger-01、FOX-3!》

《Tiger-02、FOX-3、FOX-3!》

 

 対深海棲艦用に改良されたハープーンが深海棲艦に襲い掛かる。敵もそれを察知したのか撃墜するべく対空砲火を上げるものの、基本的に第二次世界大戦時の軍艦程度の性能を持つ深海棲艦ではミサイルの迎撃は困難だ。対空砲火も空しく次々と命中し、爆発が深海棲艦を包む。

 

《Bingo、Bingo!》

 

 管制機から弾着の無線が飛ぶが、それを喜ぶ者は殆どいない。この程度でどうにかなるのなら人類はここまで追い詰められていない。

 

「やはり、効果は薄いですね」

「だろうな」

 

 爆炎が晴れ、敵の姿が露わになる。対艦ミサイルによってダメージを受けた個体は多いが、撃沈に至った敵は少ない。しかし、

 

「だが今回の戦いは俺たちが主役じゃない」

 

 敵艦隊を乱し、その目を逸らすことが出来た。本命が深海棲艦に襲い掛かる。

 

《Attack!》

《追撃戦に移行します!》

 

 TBDやSBDを中心した攻撃隊は、往年の実力を発揮し雷爆同時攻撃を深海棲艦に仕掛ける。敵も慌てて対空砲火を向けるが狙いも甘く殆ど命中することは無い。狙われたモノは次々と魚雷や爆弾が命中していき、その身を海に沈めていく。

 

《敵艦の多数の撃沈を確認》

「流石艦娘。しかし――」

「ああ、撃退まではいかないか」

 

 航空攻撃によって敵艦隊にそれなりのダメージを与えられたものの、進軍を止めるほどではなかった。一方的な攻撃によって深海棲艦が撤退しないかと淡い期待があったが、そう上手く行くものではない。

 

「まあ、問題は無い」

 

 それに今回の航空隊の仕事は敵航空戦力の撃破が主任務だ。対艦攻撃はオマケに近い。そして自分たちの役割は十分果たした。後は、

 

《こちら第5特殊艦隊。敵が射程に入った。これより攻撃を開始する》

《第22特殊艦隊、接敵した。攻撃開始》

《第53特殊艦隊、敵艦隊を補足。突入する!》

 

 水上を行く艦娘と彼女らを指揮する提督が主役となる。

 

 

 

 太平洋艦隊旗艦、ブルー・リッジ級揚陸指揮艦「マウント・ホイットニー」。本来なら第六艦隊の旗艦であったが、ブルー・リッジ喪失に伴い太平洋艦隊の旗艦になっていた。ハワイ奪還を求める国民の声に応える形で配備されたと言う事情があったが、今回の迎撃戦では本来の用途とは違えども、十分に役に立っていた。

 

《こちら第13特殊艦隊、敵の攻勢が激しい。ミサイルによる援護を求める》

「了解した。これより支援攻撃を開始する」

《第21特殊艦隊よりマウント・ホイットニー。残弾が乏しい。後退の許可をもらいたい》

「後退を許可する。第22、25特殊艦隊は、第21特殊艦隊の援護に入れ」

《第22特殊艦隊、了解》

 

 CICでは各士官が前線から次々と届く報告の対処に追われていた。艦娘の艦隊が深海棲艦と相対し、後方で控える通常艦隊が艦娘艦隊の要請に合わせて支援攻撃や指揮を行う。まるで陸上での戦闘の様ではあるが、十分に機能している。

 

「このまま行けるな」

 

 太平洋艦隊司令官ワーグナー大将は、これまでの戦闘の推移を見て小さく呟いた。戦況は太平洋艦隊が終始優位に立っている。このまま何もなければ勝ちは揺るがない。

 

「こちらの損害は?」

「通常艦隊に損害はありません。しかし艦娘に轟沈の報告が少数ですが入っています」

 

 参謀長のヘインズの報告に、彼は眉をひそめた。

 

「艦娘にはバリアの様な物があると聞いたが原因は?」

 

 艦娘の防御力は元となった軍艦と同等の性能を持っているのだが、その身自体がその防御力を持っているわけではない。艤装展開時に纏うバリアの様な物、通称『装甲壁』によって防御が行われる。この装甲壁の特徴だが、明らかにオーバーキルな火力を受けても、一度だけなら殆どの防御機能と引き換えに使用者を守る、と言う科学者たちが頭を抱えるような機能が備わっているのだ。ワーグナーも装甲壁の説明を聞いた時は、あまりの非常識振りに頭を抱えたくなったが、強力な爆発反応装甲の様な物と考えることで心の平穏を保つことにしていた。

 

「装甲壁が機能しない大破時に、後方に下がろうとして追撃を受けての撃沈が主です」

「大破艦の安全な回収が今後の課題だな」

 

 深海棲艦に対抗できる戦力を無為に失う訳にはいかない。艦娘を失わないためにも対策は必要だった。

 

「また轟沈以外にも損傷艦が続出しています。こちらは主に建造して間もない艦が中心です」

「やはり練度の問題か?」

「はい。しかし今回に限っては仕方のない事でしょう」

 

 アメリカが艦娘の建造に着手出来てから、まだ二週間も経っていない。建造したての艦娘も戦うことは出来るものの、新造艦の訓練や戦闘経験は不足していた。本来なら今回の海戦に出すべきではなかったのだろうが、敵の規模が大きかったため出さざるを得なかったという事情があった。

 

「国防総省より通信です」

 

 不意に通信士官の声がCICに響いた。その声には緊張が見て取れる。

 

「どうした」

「イースター島沖拠点より複数の艦隊が出撃。南米の各国に進軍中です」

「南米か……」

 

 南米は艦娘が出現した国は多いが、その戦力は低いとし言わざるを得ない。太平洋側では戦艦の様な有力な戦力を持っている国はチリしかないのだ。チリはともかく、その他の国では深海棲艦の艦隊を撃退することは難しい。そうなると援軍が必要になるのだが、有力な戦力となると選択肢は少ない。

 

「現在相対している敵艦隊を撃退後、援軍に向かえとのことです」

「長官も無茶を言う……」

 

 ワーグナーは顔を顰めた。戦いを優位に進めてはいるが損耗は激しい。南米を敵の手に渡すわけにはいかないことは理解しているが、休む間もなく連戦することになれば思わぬ損害が出かねないのだ。

 

「しかし命令に背くわけにはいきません。敵の撤退に合わせて我が方も後退しましょう」

「それしかないな」

 

 ヘインズの案にワーグナーは頷いた。だがその様な計画は直ぐに無意味な物となる。

 

「航空隊より通信。敵艦隊後方より、新たな艦隊が出現しました。数200」

 

 ここにきての増援。これにより太平洋艦隊に傾いていた戦況は拮抗状態となることを意味していた。

 

「……これは南米に行けないかもしれないな」

 

 苦虫を噛み潰したかのようにワーグナーは呟いた。

 




???判定:91(継続中)
判定詳細:1~79:発動せず
     80~90:侵攻開始。深海棲艦「ハワイだけで十分だ!」
     91~100:侵攻開始。深海棲艦「全力で往くぞ……」

ハワイに続き、イースター島沖拠点から数個艦隊が出撃しました。太平洋側の南米各国が迎撃に出撃します。

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