それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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勝敗判定は1d100を3回の数値を合計。深海棲艦側ボーナスで+20します。

アメリカ:53+56+89=198
深海棲艦:28+88+89+20=225

……あっ


海を征く者たち13話 東太平洋海戦後編・下

 核攻撃の様子はB-1B指揮官機のカメラを通してリアルタイムでホワイトハウスに映像が送られていた。本来ならB-1Bにはその様な機材は搭載されていないのだが、史上初の深海棲艦に対する核攻撃ということで、深海棲艦の研究者を中心に様々な方面から求められてたためだ。パイロットからは戦闘に不要な機材であるために不評だったが、貴重な資料が手に入ることから強行されることとなった。

 

「……何とか核の投下は出来たか」

 

 レクチャールームのモニターに映し出される忌々しいキノコ雲から目を逸らさず、アメリカ大統領クーリッジは小さく呟いた。この部屋には彼を初めとして、政府高官が勢揃いして攻撃作戦の行方を見守っていた。

 

「メキシコより爆撃機の領空侵犯についての抗議が来ています」

「何としてでも黙らせろ。手段は任せる」

 

 バーダー国務長官の報告に彼は即座に指示を出す。核は投下できたがそれに至るまでに、かなりの無茶をしてきた。爆撃機編隊がメキシコを飛行する際も、一方的に通告しただけで相手国の許可を正式には取ってはいなかった。当然の事ではあるが飛行の際メキシコと衝突が起こっている。そして問題はメキシコとの外交だけでなく、国内にも生じることが予測されている。

 

「反核団体がうるさくなりそうだな」

「そこはなんとか抑えます。幸い今回の核攻撃は深海棲艦が相手です。国民からの不満は無いでしょう」

「そう祈ろう」

 

 クーリッジは肩を竦める。この核攻撃で外交、国内に問題が発生することとなった。これは核攻撃の必要経費と割り切るしかないだろう。後はそうまでして放った核兵器が深海棲艦を撃破すること願うのみだった。

 

(……頼む)

 

 ふと気づけばクーリッジは祈っていた。教会など随分と行ってはいないが、キリスト教圏の人間らしく自然と神に縋っていた。恐らくこの部屋にいる誰もが神に祈りを捧げているだろう。

やがてキノコ雲が収まり、徐々に海面が見えるようになってくる。そしてB-1Bの望遠レンズはそれを捉えた。

 

 赤い透明な膜の内側で何ら損傷を受けた様子の無い深海棲艦の艦隊の姿を。

 

「ジーザス……」

 

 血の気が引くのを感じつつ、クーリッジはそう呟くしかなかった。他の閣僚も顔が真っ青にして絶句している。アメリカが打てる最後の攻撃が通じなかったのだから当然だ。

 クーリッジはある人物に目を向けた。この場にいる中で軍事について詳しいのは彼だったからだ。その人物はこの事態の中にあって、まるで能面の様に無表情であった。だが彼の固く握られた拳が彼の感情を現わしていた。

 

「……マーシャル国防長官。爆撃機隊はあの艦隊に攻撃することは出来るか?」

「……不可能です。B-1Bに対艦攻撃能力はありません。また護衛のF-15Eも今回は対空兵装のため、対艦攻撃は出来ません」

「東海岸の艦娘の派遣はどうだ。いつでもパナマに送れるようにはしているはずだ」

「無駄です。駆逐艦だけを送り出した所で足止めにもなりません」

「太平洋艦隊は!? 戦闘は終わって戦力を送ると通信があったはずだ!」

「現在、戦艦・空母艦娘を航空機でサンディエゴ基地へ輸送中! 間に合いません!」

「クソが!」

 

 感情に任せて握り拳をテーブルに叩きつける。誰も言葉を発することは無く、静寂だけが漂う。

 

「……他に手はないのか」

「……残念ながらありません。チェックメイトです」

 

 モニターにはフィールドを消し、再度パナマへの侵攻を始める深海棲艦の姿が映し出されていた。

 

 

 

 パナマ共和国。南北アメリカ、太平洋と大西洋の結節点に当たる地理的な重要性から、国際政治的に重要な地域となっている。特に彼の国の代名詞とも言ってもいいパナマ運河は、様々な国が輸送のために利用しており、パナマ共和国に富をもたらしていた。

 とはいえこれは深海棲艦が出現する前の情報である。出現初期はまだ影響も少なかったが、深海棲艦の活動が活発になるにつれてパナマ運河を利用する船舶は激減。同時にパナマの経済に大きな悪影響を及ぼしていた。

 だが運河の利用価値が減少しても、パナマの地理的重要性は変わらない。南北アメリカ各国の交易の要所として機能しており、更にアメリカからのいくらかの援助があったため、ある程度だが情勢は安定していた。

 そのんな南北アメリカの要所を抑えようと、深海棲艦は大軍を持って侵攻していた。本来なら侵攻を阻止するために立ちはだかるあろうアメリカの戦力は、太平洋や大西洋で自国を守るためにてここにはいない。そして人類の最終兵器である核兵器も深海棲艦は防ぎ切った。彼女らの行く手を阻む者は何もない。

 

「直ぐに避難勧告を出せ!」

 

 慌ててパナマ政府は首都のパナマシティ及びパナマ運河周辺住民に避難勧告を出すが、それは遅すぎた。先制攻撃として艦隊からは航空機が発艦しており、パナマ運河への航空攻撃が行われている。対空ミサイル、対空機銃などの防衛兵器が設置されているが、航空機の数は多く防ぎきれず、地上施設や住民に多数の被害が出ていた。

 この攻撃に対してパナマ政府も黙ってはいられない。すぐに彼の国が有する軍事力である国家保安隊に迎撃の命令を出した。

 軍港から海上保安隊の艦艇が出撃する。だがその戦力はアメリカから購入したミサイル艇が3隻。そして航空機による支援もなかった。侵攻してくる敵艦隊に対してこの程度の戦力では蟷螂の斧でしかない。出撃する船員たちもその顔には悲壮な表情を浮かべていた。

 そもそもパナマは軍隊が存在しない国である。国内の治安維持を目的とした警備隊しかないのだ。深海棲艦出現以降、自国防衛のためにある程度の軍事兵器を導入しているが、先進国と比べれば微々たるものだ。地対艦、対空ミサイルはそれなりに導入したが、戦闘機に乗れるパイロットがいないため戦闘機は保有できず、艦艇も精々ミサイル艇が数隻導入出来た程度。更に対深海棲艦戦で有効な戦力である艦娘もパナマには現れていない。パナマの有する戦力では深海棲艦を撃退することは困難だった。

 

「ハープーン発射後、敵艦隊に対して艦砲で攻撃して相手の意識をこちらに向けるぞ」

 

 3隻のミサイル艇もこれだけで眼前の艦隊を撃退出来るとは考えておらず、アメリカがハワイでやったように、敵の気を逸らそうとパナマから離れるように航行しつつ攻撃を敢行した。政府も艦隊が時間を稼いでいる間に、陸上部隊の配置や国民の避難を進めるつもりであった。

 だが彼らの努力は意味をなさなかった。ハワイの時は旧式で損傷していたとは言え駆逐艦が3隻おり、更に航空機からの攻撃も行われていたために、ある程度の数の深海棲艦を撃破できたし、時間も稼げたのだ。駆逐艦より速度が速いとはいえ武装が貧弱なミサイル艇、更に航空支援すらないパナマ艦隊では、アメリカが叩き出した様な戦果を挙げることは出来ずに、深海棲艦の艦載機に集中攻撃を受け、敵の艦隊を目にする前に艦隊は消滅した。

 

 遮る物はなくなった深海棲艦は真っ直ぐにパナマ運河の入り口であるパナマシティへ進んでいく。対するパナマの保安隊はミサイル艇による時間稼ぎも出来ずに、陸上部隊の配備も住民の避難も不完全な状態であった。

 保安隊が採る戦術は上陸する深海棲艦を海岸で叩く水際防御。敵に打撃を与えるなら内陸に誘い込んでから攻撃をした方が良いのだが、ハワイの事例から姫級に上陸された場合には周辺部隊が全滅する恐れが高い。彼らには水際防御しか採れる手はなかった。

 本来の塹壕を始めとした防御陣地を構築する予定であったが、深海棲艦の上陸まで時間が無かった。保安隊は不完全な防御陣地で、配備部隊も不足している状態で深海棲艦を迎え撃つこととなってしまう。陸上部隊は進路から予測されていたパナマ運河周辺に展開、兵士の武装は小銃などの銃器は深海棲艦に効果がないため、ほぼ全員がRPG-7などの携帯対戦車兵器を装備していた。また彼らの最大火力として対艦ミサイル発射母機が数基が配備されていた。

 敵を待ち構えるパナマ保安隊。それに対して深海棲艦は彼らに付き合う気はなかった。彼女たちは対艦ミサイルを排除しようと、航空部隊を発射母機に攻撃を集中させる。

 

「対空防御!」

 

 その動きを察知した陸上部隊の司令官は、対艦ミサイルを守るために命令する。陸上部隊の武装の中で唯一の深海棲艦に有効な兵器を失う訳にはいかなかった。対空ミサイル、対空機銃、果てには歩兵の突撃銃すら使って発射母機を守ろうと弾幕を張る。だが、多勢に無勢だった。無数に飛来する航空部隊の攻撃に大した時間もかからずに対艦ミサイルは破壊される。

 唯一の脅威を排除した深海棲艦は、パナマ運河から約10㎞の海域で停止。その動きに訝しむ国家保安隊。だがその疑問は直ぐに解消されることになる。

 深海棲艦艦隊から一斉に砲火が放たれた。戦艦級は勿論のこと、重巡に軽巡、果てには駆逐艦からも、彼女らが有する火力が待ち構えていた陸上部隊に叩きつけられたのだ。

 100隻以上から来る軍艦の火力。そのようなものを防ぐ手段は保安隊は有しておらず、兵士達は砲火にさらされながら逃げ惑うしかない。一部の部隊は不完全ながらも有していた防御陣地を使ってやり過ごそうとするが、航空機による弾着観測により集中攻撃を受けて陣地ごと部隊が消滅する。少しでも障害となりえるものは徹底的に排除されていった。

 

 パナマを守る最後の戦力が消滅し、深海棲艦艦隊は駆逐艦級を先頭に、次々とパナマ運河を進んでいく。極稀に幸運にも生き残っていた兵士が、一矢報いようと携帯対戦車兵器で攻撃を仕掛けるが、直ぐに対処された。

 艦隊の中心にいるのは艦隊旗艦である運河棲姫。彼女は護衛の戦艦棲姫が有する巨人の様な艤装の肩に腰かけている。その顔には笑みは無く、つまらなそうにボロボロとなったパナマを眺めていた。

 しばらくして艦隊はパナマ運河の中間地点であるガトゥン湖に到着した。深海棲艦は周囲を警戒するように輪形陣を取る。陣形が展開されるのを確認した運河棲姫は、戦艦棲姫の艤装から飛び降りると何かを開けるように両腕を広げた。同時に核攻撃を防いだ赤い膜が形成され、瞬く間にパナマ運河を覆った。その膜の内側には深海棲艦から逃げようとする多くの避難民がいた。避難民たちは突然現れた光景に混乱するが、そんな彼らを余所に事態は進んでいく。直系80kmはあるフィールドは一瞬の間の後、強く発光。暫くして光が収まった時には、パナマ運河周辺で生きている者は深海棲艦以外存在しなかった。

 こうして深海棲艦のアメリカ西海岸侵攻から始まり、南北アメリカ各地で勃発した海戦は、深海棲艦のパナマ占領という形で幕を閉じた。

 

 




と言うわけで、パナマは陥落しました。これから南北アメリカはハードモード確定です。

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