それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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作者の英国面が零れ出てしまった……。


艦これZERO4話 現状 発見

 2016年。深海棲艦が現れて3年が経過した頃、戦況は以前と比べて悪化していた。

 各国の物流は深海棲艦による海上封鎖が行われており、護衛船団を編成してはいるが、以前ほどの輸送は難しかった。空路や陸路もあるが、海上輸送の代替になるほどの輸送量は持ちえない。そのため一部の国では物資不足が発生、経済の混乱だけでなく治安の悪化さえ起っていた。

 深海棲艦への対抗手段である軍事力は、損耗が出始めていた。損傷、喪失した軍艦を補充するために、各国のドッグは常にフル稼働状態であった。

 

 

 

 なぜ以前は優位にあった人類が押されてしまったのか。簡単に言ってしまえば、深海棲艦の能力が急激に向上したことと、各国の不和だった。

 人類と深海棲艦の戦闘が始まり3年。当初は駆逐級のみが相手だったが、時間が経つにつれ次々と新型を繰り出していた。

 

 2014年5月。潜水艦級、重巡級遭遇。

 各国の編成した輸送船団を群狼戦術で襲撃する潜水級。その姿をほぼ人型にし砲撃、雷撃能力を強化した重巡級。これらの出現により、人類側は常に圧倒的な勝利を得ることが出来なくなってきた。潜水級も重巡級もその大きさは人間と同じ大きさであり、人類側が放つミサイルや砲弾を直撃させるにはあまりにも小さかった。幸いにも潜水級は防御力は低いおかげでまだ対処は出来た。しかし重巡級は防御力も向上しており、艦隊決戦においては撃ち漏らした重巡級に接近され砲撃されるという事態が多発した。

 重巡級の詳細が分かるにつれて、各国の軍は焦りを募らせた。

 今でこそ自分たちの使う兵器で深海棲艦を倒すことが出来る。しかし、これ以上の攻撃力や防御力を持った深海棲艦が出現したらどうなる?最悪、一方的にやられてしまうかもしれない。そのような不安から、各国は新兵器の開発に乗り出した。だが新兵器が完成する前に軍上層部の不安は的中することとなる。

 

 2015年6月。戦艦級出現。

 初の交戦は南シナ海だった。雷撃能力こそ無いものの、16インチ砲相当の砲撃力と重巡級以上の防御力を持った新型深海棲艦に中国海軍は苦戦した。最終的に敵の殲滅こそできたものの、フリゲート三隻を轟沈させられるという大損害を受けることになる。

 戦艦級の出現は戦場で敵を一方的に攻撃できていた人類側に大きな影響を与えることになった。

そして押され始める戦況に動揺する軍上層部に更にダメ押しとなる存在が出現する。

 

 2015年12月。軽空母級、空母級出現。

 使用する艦載機は性能や攻撃力は第二次世界大戦時のものと同等だが、大きさは精々中型の鳥類と同等であり、レーダーに映りにくいものであった。更にその小ささから、人類側の航空機での撃墜は不可能に近かった。

 そして空母級による問題は戦場だけのものではなかった。艦載機の航続性を活かして遠距離から地上施設への攻撃が行われ、工場などの産業基盤へダメージが与えられる事態となる。

 

 その様な事態に各国は何をしていたのかと言うと、上手く連携を取れないでいた。

 領土争いのある海域で深海棲艦が出現した場合、深海棲艦への対処をしつつも相手を警戒するのは当たり前であり、時には誤射という名目の攻撃すらあった。他にも仮想敵国の担当海域への深海棲艦の誘導をしたりと、人類は共通の敵を前にしても力を合わせることは出来ずにいた。

 それでも人類が深海棲艦と戦えていたのは、複数の理由があった。

 一つは攻撃の命中率。深海棲艦との戦いの舞台は敵の性質上、海上となるのだが、人類の操る兵器は人間サイズを攻撃できるようには設計されていない。本来は艦船を攻撃するための兵器なのだから当然だ。それでも三年間戦うことが出来たのは、敵が高いレベルで赤外線を放っていたためだった。そのため赤外線誘導方式を使用したミサイルは予想以上に高い命中率を誇っていた。最も、あくまで「予想より」命中率が高いというだけなので、現状では数で命中率を補う必要があるのだが。

 そして二つ目が、深海棲艦の出現頻度がそこまで高くないことだ。日本を例に挙げた場合、出現頻度に波はあるが平均して二十日に一回。一応だが戦力や武装の補充に掛ける時間があったのだ。

 

 

 

 激戦が続く中、各国はなんとか生き残ろうと足掻いていた。

 地球で最も強力な軍事力を保有する国家であるアメリカ合衆国は、深海棲艦に対し一進一退の攻防を続けていた。各地で起きる海戦では「最低でも対艦ミサイルを20発は命中させなければ撃沈できない」といわれる戦艦級に対しても、「ならそれ以上のミサイルを用意しよう」と言わんばかりに、ミサイルの飽和攻撃を実施。世界にその実力を見せつける。

 そんな彼らを支えるアメリカ本土では、造船所がフル稼働で軍艦や輸送船を建造しており、その国力の高さとポテンシャルが見て取れる。船の乗員についても、愛国心に燃える多くの若者たちが軍の門を叩いていることから、十全とは行かないまでも乗員の補充は行われていた。

 防衛網を抜けた深海棲艦による地上施設への攻撃を受けることはあるが、工場を深海棲艦の砲撃や艦載機の届かない内陸部へ移設することにより、継戦能力を維持していた。

 このように概ね上手く行っているアメリカではあるが、実のところ問題もある。

 一つは防衛地域の広さ。タダでさえ長大な沿岸地域を守る必要があるのに、本土から遠く離れた位置に存在するアメリカの領土も守る必要がある。流石のアメリカも全領土を万全に防衛するには手が足りなかった。

 二つ目は各国からの援軍要請だった。世界各国で深海棲艦と戦っているが、劣勢となっている国家も少なくない。そんな彼らは深海棲艦と互角に戦えるアメリカに救いを求めるのだ。軍としては自国の防衛で手が一杯なのだが、アメリカ政府は各国から提示された利権や彼らの要請を拒否した事による国際社会からの批判の恐れから、ある程度の軍の派遣を行うことになり、軍上層部が悲鳴を上げることになる。

 

 アメリカから大西洋を挟んで反対側、ヨーロッパでは表面上、各国が協力関係を構築していた。

資源・食料輸入は陸路での輸送を中心にしており、完全ではないものの国民が飢える心配はなくなっていた。

 戦力面でいえばヨーロッパ自体、元々ある程度の戦力を持っていたので深海棲艦とある程度戦えていた。軍需物資についてはアメリカと同じように工場を内陸部に移転するなど対策を取っており問題はない。とはいえアメリカほどの国力はないため海外への戦力の派兵は難しく、自国の防衛が手一杯であった。

 そんなヨーロッパだが、主導権争いについては苛烈を極めていた。ヨーロッパにおいて最大の海軍力を持ち、大西洋から来る深海棲艦を食い止めているイギリス。EUのおかげで経済力を得ており、更にイギリスという防壁によって深海棲艦との海戦が比較的少ないためほとんど消耗していないドイツ。地中海において最大の海軍戦力を持つイタリア。その三カ国がヨーロッパの覇権を取り合うプレイヤーだった。またこの三カ国以外にも、侮れない海軍力を持つスペインを中心に、各国が虎視眈々と覇権の座を狙っている。この時のヨーロッパは弾丸こそ飛び交わないものの、戦場の様相を呈していた。

 

「右手で握手をしつつ、左手でナイフを持つ」

 

 古来より行われる外交の常識を実践しながら、今日もヨーロッパは深海棲艦と戦っている。

 

 中国は深海棲艦の出現という非常事態に対して、中国共産党の一党独裁体制特有のフットワークの軽さを活かし、他国と比べて対応を早くとることが出来た。経済統制、軍需物資の増産指示、一部情報の操作などが行われ、国内の統制を強めていった。

 戦闘においても、近年拡大していた海軍が奮闘。空母こそ実戦に耐えられないとして出撃できなかったが、深海棲艦との諸々の海戦で中国海軍の強さを世界に示すことが出来ていた。

 資源についても大陸国家故に陸路での輸送が出来ると言った事情もあり、世界からは国家としての安定性はアメリカに次いで高いように見られていた。中国共産党もアメリカが東アジアに手を出せない今なら、国力と軍事力を活かして東アジアの覇権を手に入れることが出来ると判断しており、日本や東南アジア各国に各種圧力を掛けようとしていた。

 しかしそんな彼らの目論見も、ある事件のせいで絵に描いた餅と化すことになる。

 戦艦ル級二隻を中心とした深海棲艦の艦隊が中国海軍の哨戒網を掻い潜り、都市へ沿岸砲撃をするという事件が起きた。海中を進行していた深海棲艦を哨戒機が見逃してしまったことが原因だったのだが、砲撃された場所が不味かった。

 都市の名前は香港。ロンドン、ニューヨーク、東京などと並ぶ、経済の中心都市である。

 対地攻撃のプラットフォームとして優秀と評される戦艦、それも二隻から来る砲撃にされることになった香港は、瓦礫の山と化すことになった。

 この香港の壊滅に中国国内は混乱。政府は情報封鎖も行ったが上手く行かなかった。更に追い打ちをかけるように、国内の混乱を好機と見たチベットやウイグル等、中国からの独立を目指す組織が動き出し、中国政府は国内に掛かり切りとなってしまった。

 

「国内と戦い、余力で深海棲艦と戦う」

 

 ある中国の政府高官が言った皮肉が、この状況を端的に現わしていた。

 

 東アジアで大きな海軍力を持つ島国、日本。そんな国の舵取りをする人々は、頭を抱えていた。深海棲艦が世界中の海で跋扈するせいで、食料や資源の安定した輸送が出来なくなっているためだ。

 今は護衛船団方式で何とか資源を輸送しているが、深海棲艦の襲撃があればどうしても被害が出てしまう。そのためなんとかして安定した輸送方法を取りたいところだが、大陸国家と違い陸路での輸送は出来ない。空路は深海棲艦の艦載機が高度一万m以上に出現しないため安全なのだが、輸送量は海運と比べれば微々たるもの。結局、今の輸送船団方式が輸送量を稼げるため継続されていた。とは言え深海棲艦出現前と比べて物資の輸送量は目減りしており、発生する物資不足は日本と言う国家にダメージを与えていた。

 勿論、日本政府も食料増産の指示や計画停電の実施による石油資源の節約等、対策は行っているのだが、どうしても対処療法にしかならない。

 軍備については元々海上戦力に力を入れていたこともあり、それなりに深海棲艦とも戦えていた。だが目減りしていく戦略資源を前にして、これからも戦えるとは考えられなかった。

 日本政府は消耗する貨物船の増産を指示しつつ、状況を打破しようと奮闘し、そして迷走し始める。

 最大速度30ノットの高速航行性能を持った貨物船建造計画「特型戦時標準船計画」

 最大積載量300トン。日本版アントノフ225「白鷺計画」

 深海棲艦が航行中の潜水艦に攻撃した事例がない事に注目。「潜水艦で物資を運べば安全ではないか?」という発想により、現代によみがえったモグラ輸送計画。その計画を実行するために提案された「一五式潜航輸送艇計画」

 そんなぶっ飛んだ計画が提案されつつ、今日も政府関係者は頭を悩ませている。

 その様に各国が悲鳴を上げている中、追い打ちを掛けるような事件が発生することとなる。

 

 

 

 アメリカ合衆国DCワシントン、ホワイトハウスの大統領執務室。その部屋の主は受け取った報告書を手に顔をしかめていた。

 

「ここまで必要なのかね?」

 

 大統領の視線の先には同じく顔をしかめた国防長官がいた。

 

「最低でもこれだけの戦力が必要です」

 

 アメリカは深海棲艦の出現以来、敵の本拠地を探していた。航空機、水上艦の使用は勿論の事、偵察衛星も使ってだ。

 そんなある日、南太平洋のイースター島から南西に500㎞の海域に昨日まではなかった陸地が出現しているのが発見された。偵察衛星で確認したところ、陸地はオアフ島程の大きさであり、地上にはいくつかの人工物らしきものが確認されていた。軍は深海棲艦との関連を懸念し偵察を行うこととなった。

 戦略偵察機U-2は空中給油を繰り返し行いながら目標への偵察を慣行し、持ち帰られた情報を精査したところ多数の深海棲艦が確認された。

 これらの情報を根拠にアメリカ軍はこの島を深海棲艦の拠点と判断した。大統領の命令もあり、拠点の占領を前提に作戦立案をすることになった。しかし――

 

「太平洋艦隊の全戦力の投入か。非現実的だな」

 

 大統領はため息を吐きながら、手にしていた報告書を執務机に置く。

 現在太平洋艦隊は太平洋の自国の防衛で手一杯である。ある程度なら戦力を抽出できるものの、軍が希望する戦力量には全く足りない。

 

「敵戦力の殲滅だけなら戦略爆撃やICBMを使えるのですが……」

「出来る限り敵の情報が欲しい。核を含めた殲滅作戦は最終手段だな」

 

 世界各国で深海棲艦の研究が行われているが、未だにロクな結果を出せないでいた。そこへ深海棲艦の拠点の出現である。このことを聞いた研究機関は、拠点の確保を熱望していた。

 

「現状で作戦遂行に準備出来る戦力はどの位だ?」

「第七艦隊なら比較的戦力を出せますが、現状では必要数の三分の一程度です」

「そうか……」

 

 沈黙が室内を包む。大統領としては敵拠点の攻略という成果があれば他国との交渉に有利になると考えていた。しかし諦めてICBMを使って殲滅のはもったいないという思いもあった。

 そんな考えを察したのか、国防長官は口を開く。

 

「大統領。他国からの援軍の要請は出来ないでしょうか」

「なに?」

「不足分の戦力を他国の軍で補います。作戦の中核を我が軍で占めれば、それを盾に指揮権を執れます」

「ふむ」

 

 大統領は頭の中でメリット、デメリットを天秤に掛け、精査する。しばしの熟考の後、彼は決断した。

 

「よろしいそれで行こう」

 

 数日後、急遽開催された国際会議の場で、アメリカは深海棲艦の拠点の占領作戦を提案。各国は様々な思惑を内に秘めつつ賛成した。こうして攻略作戦は決行されることなる。

 




日本:53
アメリカ:66
イギリス:77
ドイツ:42
イタリア:43
中国:23 中国共産党「躍進のチャンスが(´;ω;`)」
連携判定:17 人類はダメそうだな(白目)


 

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