それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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夏イベの報酬艦はネルソン級か。ということは決戦はまたイギリス近海?
……二回も姫級が闊歩してるとか、イギリスとかもう滅んでんじゃね?(;・ω・)

それはそうと今回のダイスロール
82、58、16

……詳細はあとがきで



海を征く者たち25話 襲撃と迎撃と……

 房総半島近海。そろそろ日が沈みそうな時間帯。その様な時間でも、秋山が乗艦する金剛を旗艦とした艦隊は未だに海上にいた。

 

「まさかウチまで偵察機を出さなならんとわな……」

『疲れているだろうけど、そこは頼むよ』

 

 呆れたようにぼやく龍驤を秋山はなだめていた。彼らは今日は既に4度も深海棲艦と交戦しているのだ。補給や修理で何度か横須賀鎮守府に帰投しているが、そう簡単に疲労が抜けるわけではない。そんな所に、本来鎮守府に控えている空母艦娘の仕事である航空偵察までさせられるとなれば、愚痴の一つも出るのは仕方ない事である。

 

「これで今日5度目の出撃ね。最悪、夜戦も覚悟する必要があるかも」

「そうなったらウチは下がらせてもらうで。夜戦じゃ軽空母なんてタダの的にしかならへん」

「あら、羨ましいわね」

「今こうして仕事してるんやからええやろ?」

 

 叢雲と龍驤は駄弁ってはいるものの、周囲の警戒は怠っていないので秋山は特に注意はしない。今回の出撃は周辺海域の警戒任務ではあるが、緊張感を維持し続けるにも限界がある。適度にリラックスするのも必要な事と考えていた。また仮に注意したとしても、説得力は無かっただろう。

 

「テートク、お仕事の方は終わりそうデスカ?」

『……今、2回目の交戦記録を纏めてる』

 

 秋山は乗艦した金剛の中で、書類仕事に追われていた。何せ含めて5回分の出撃の報告書を提出しなければならないにも関わらず、今朝から書類を書く時間が取れないのだ。更に今回は、金剛が装備している46cm砲についてのレポートも提出しなければならない。必然的に現在の様な、秋山が指揮する必要のない時間帯を書類仕事に回すしかなかった。

 

「あの、任務中に書類を書くなんて上層部に知られたら問題になるんじゃ……」

『白雪、今やっておかないと徹夜確定なんだ……』

「報告書を書く暇がありませんからネ……」

 

 白雪の言う通りバレたら大目玉確定なのだが、それでも秋山は書類を書く手を止める気はない。秋山としてはそんな事よりも、気にしなければならない事がある。

 

『みんな疲れてないか?』

 

 この連戦で艦娘たちの疲労は蓄積している。各員の調子を把握しておかなければ、思わぬ事故に繋がりかねないのだ。

 

「ウチは後方で艦載機を飛ばすだけやからな。問題ないで」

「ボクも!」

 

 海戦では後方に下がり航空戦に集中する龍驤と、2回程彼女を護衛した皐月が真っ先に答える。

 

「朝潮はいつでも行けます!」

「私もです」

 

 朝潮、白雪も問題なし。この二人も1回ずつ後方で龍驤の護衛に就いていたため、ある程度体力の温存が出来ていた。そうなると問題は残った叢雲と金剛だった。

 

「No Problem! と言いたいデスけど、少し疲れたネー」

「私もよ。ここまで連戦だとね」

 

 二人とも前衛での戦闘が続いているために、この連戦で疲労が溜まっていた。本来なら他の艦娘と交代するべきなのだがそれは出来ない相談だ。当の交代要員が現在、他の海域へ出撃しており出払っているのだ。

 

『分かった、次に交戦に入る時は叢雲が龍驤の護衛に入ってくれ。金剛は……、遠距離から朝潮、皐月、白雪のフォローをしてくれ』

「了解よ」

「OKネー」

 

 特に不満は無いらしく頷く2人。問題の誤魔化しに近いが、出来る対応は限られていた。他の4人も異論はない様子である。

 

「所で提督。ここまで連戦やったし、終わったらご褒美とかあってもええんとちゃう?」

 

 龍驤が何か思いついたかのように、ニヤリと笑う。それを見て若干嫌な予感を感じたが、秋山はあえて聞き返した。

 

『……具体的には?』

「間宮とかどうや?」

『……先月にそれをやって、俺の財布が空になったんだが?』

「そこはまあ、致し方ない犠牲や」

『勘弁してくれ……』

「あはは。っと、ゴメン。偵察に出た子からや」

 

 突然入ってきた通信に龍驤は会話を中断し、片手を耳に当てた。

 

「3番機どうしたんや? ……はぁ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる彼女に、全員の視線が集中する。だが龍驤はそれに気付かず通信に耳を傾けていた。

 

「見間違いとかあらへんの? え、確実……?」

 

 通信を聴く彼女の顔が一気に真っ青になっていく。そのただならぬ様子に、全員の緊張感が増していく。

 

「提督。緊急事態や」

『だろうな。主力艦で固めた艦隊でも攻めてきたか?』

 

 状況的に考えられる最悪の敵編成を想定する秋山。もし予想が正しかった場合、彼の艦隊では対応できないため、鎮守府から航空支援を出してもらう必要がある。

 

「それどころやない」

 

 だが龍驤は頭を振る。そして若干震えながら、飛び込んできた情報をこの場にいる全員に伝えた。

 

「戦艦棲姫を旗艦とした艦隊が本土に向かって航行中や」

 

 

 

 戦艦棲姫

 

 その容姿は長い黒髪の美女と表現され、その背に艤装と思われる巨人を引き連れているのが特徴とされている。

 判明している彼女のスペックだが、主砲は3連装16インチ砲2基と砲の数は少ない物の、発射速度が3発/分と恐ろしく早い上に、4万mもの長距離から動き回る艦船を狙い撃つことの出来るほどの命中性を誇っている。そして防御力に至っては当然のように対16インチであり、また彼女の持つ装甲壁は通常兵器を寄せ付けない程強固。更に速度は時速35ノットが観測されており、深海棲艦の姫にふさわしい能力を有している。

 その存在が最初に確認されたのは2016年に行われたイースター島沖拠点攻略作戦、通称オペレーション・ビギニングが中止され、第一艦隊がハワイに帰還する最中であった。エリート級戦艦2、駆逐艦3という小艦隊を引き連れて、撤退中の第一艦隊に襲撃をしかけた彼女は、第一艦隊の必死の攻撃をものともせずに暴れまわり半数を撃沈するという、人類にとって最悪の損害を与えていた。

 そのため各国海軍関係者にとって戦艦棲姫は一種のトラウマであり、一部では対艦ミサイルの改修スピードが上がったのも彼女のせいであるとも言われている。

 

 戦艦棲姫襲来の報を受けた時、防衛省は最初は誤報を疑った。だが彼女らが、時に海上に発生した低気圧に隠れ、時に小島に上陸して偵察機から身を隠し日本本土を目指して進行していた事を知らされた時、誰もが愕然とした。行方不明になっていた硫黄島の戦艦棲姫が、まさか本拠地を捨てて敵地に向かって侵攻してくるなど予想もしていなかったのだ。彼らは思わぬ襲撃者を撃退すべく、大慌てで動き出していた。

 

「各地に詰めている対艦ミサイル連隊ですが迎撃準備が完了しました!」

「そのまま待機。射程に入り次第攻撃を許可します!」

「百里基地より補給の関係で出撃まで時間が掛かるとの通信です!」

「急がせて下さい! また他の空自基地からも戦闘機を出させて下さい!」

「横須賀基地よりミサイル艇の出撃準備が整いました!」

「出撃を許可します!」

「在日米軍より出撃準備完了との事です!」

「各部署に在日米軍と連携するよう通達して下さい!」

 

 防衛省のトップである坂田は矢継ぎ早に指示を出していた。その指示を受けて各部署に通達するために職員が走り回る。彼らは出せる戦力を全てつぎ込むつもりだった。また最悪の事態を想定しての行動もしていた。

 

「避難状況は!?」

「未だ完了していません! 特に東京、千葉、神奈川では大混乱に陥っているため、避難が進んでいません!」

「避難誘導に陸自も出して下さい!」

 

 突如として防衛省から太平洋に面している関東圏に発令された避難指示に、国民は大混乱であった。避難は進んではいるものの、未だに危険予測地域に残っている国民は多い。

 本来ならいくら戦艦棲姫という大物がいるものの、戦艦3隻を中心とした12隻の小艦隊程度では避難指示など出さなかっただろう。しかし今回は余りにもタイミングが、状況が最悪であったため発令せざるを得なかった。

 

「横須賀の空母艦娘の航空隊が出撃しました!」

「反復攻撃は出来そうですか?」

「既に日が沈みかけており航空攻撃は1回が限界であるため、全力攻撃を掛けるとの事です!」

 

 艦娘の航空機は太平洋戦争時の機体がモデルであるため、夜間での対艦攻撃は困難であった。専用の装備でもあれば別なのだろうが、生憎とその様なモノは日本では未だに確認されていない。それ故に、本来であれば波状攻撃を掛けるところを、大編隊による一斉攻撃を敢行するしかなかった。そして問題はそれだけではない。

 

「横須賀から迎撃に出せる艦娘はどうなっていますか?」

「空母艦娘以外には少数の軽巡、駆逐艦しか残っていません」

「練度は?」

「……建造されたばかりの艦が多いとの事です」

 

 第一護衛隊群が作戦海域に到着した頃から、太平洋側に面した日本近海で深海棲艦の動きが活発化していた。そのため横須賀地方隊を始めとした各地方隊所属の艦娘たちは、その対処のために出払っているのだ。そして現在も各方面からの深海棲艦の侵攻は続いており、各提督はそれへの対処で精一杯。そのため戦艦棲姫の艦隊に対して戦力を集中させて迎撃する事は不可能であった。

 

「戦艦棲姫の予想進路はどうなっていますか?」

「……このまま行けば房総半島の西を通り、東京湾に侵入する事は確実です」

 

 会議室の机に広げられている日本地図を前に、大淀は顔を顰めつつ答えた。地図には台風の予想進路図のように、敵の現在地、射程範囲が記された円、そして予想進路が記載されている。そしてそれは真っ直ぐ東京湾に向かって進んでいた。

 

「もしも東京湾に入られたら、湾に隣接している地域が壊滅しますね」

 

 坂田は若干顔を青くしつつ唸った。戦艦の艦砲射撃の被害例はいくつかあるが、アジアの有名どころでは2015年年末に中国で起こった戦艦ル級2隻による香港襲撃事件だろう。これにより香港の地は短期間で壊滅している。

 今回のケースは香港のそれと似ているが、今回はよりにもよって戦艦棲姫という強力な艦が存在している。少なくとも香港以上の被害は出てしまうだろう。そして襲撃による影響は香港とは比べ物にならない程、大きい物になると予測されていた。何せ攻撃されるのは日本の首都圏なのだ。人的、物的被害以外にも、政治や経済にも混乱がもたらされる事は確実だった。

 

「通常兵器による波状攻撃でどれくらいダメージを与えられると思いますか?」

「そうですね……」

 

 顎に手を当て考え込む大淀。暫し思考を巡らせ情報を纏めると、改めて口を開いた。

 

「百里基地のF-15J改やF-2A、横須賀を始めとした関東各地の対艦ミサイル連隊による一斉攻撃が行われた場合、通常タイプにはそれなりのダメージは与えられるでしょう。いくらエリート級でも通常兵器を無効化までは出来ません」

「オペレーション・ビギニングでは有効打を与えられなかったと聞いていますが?」

「それは当時の艦隊が、改良型対艦ミサイルを殆ど保有していなかったためです。現在ならばその改良型も広く配備されていますので、攻撃は十分に通るでしょう」

「ならば対艦ミサイルは通常タイプに集中させれば良いと?」

「はい。ただそれでも何隻撃沈できるかは未知数です。敵の進軍速度が速くなったり、我々が集められる戦力が少なければ、本土に砲撃をされる可能性は高くなります」

「……」

「そして何より問題は戦艦棲姫です」

「やはり通常兵器では効果がないと思いますか?」

「パナマ占領直前にアメリカ太平洋艦隊と大規模深海棲艦艦隊との海戦がありましたが、戦艦棲姫との交戦記録が各国政府向けに公表されています。援護要請で放たれたミサイルでは損傷は見られなかったそうです」

「やはり一番のネックは戦艦棲姫ですか……」

「一応、撃沈例はありますが……」

 

 そこまで口にして、大淀は言いよどんだ。坂田も無言で頷く。戦艦棲姫撃沈の事例が発生したのは、やはり今年の6月に起きた東太平洋での大海戦なのだが、その時の状況は「戦艦棲姫1隻に対してアイオワ級戦艦4人をぶつける」という、人類側が圧倒的に優位な状況での事例だ。今回の襲撃にはその撃沈例は参考にならない。

 

「現状で迎撃できる艦娘艦隊は?」

「秋山艦隊です。練度は高いですが、戦艦1、軽空母1、駆逐艦4と明らかに攻撃力が足りません。戦艦も金剛型ですので戦艦棲姫を撃破出来る望みは薄いです」

「その艦隊から一番近い艦娘艦隊は? 合流すれば攻撃力不足をカバー出来ます」

「……秋山提督配下の、軽巡1、駆逐艦5の水雷戦隊です」

「……」

 

 その答えに坂田は沈黙するしかなかった。軽巡や駆逐艦には酸素魚雷という強力な対艦攻撃手段はあるが、戦艦棲姫にどこまで効くかは解らない。最悪の事態を想定しなければならないだろう。

 

「……秋山艦隊は敵艦隊を迎撃。秋山提督配下の水雷戦隊は秋山艦隊を援護すべく移動。横須賀に残っている空母以外の艦娘も出撃させます」

「先に秋山艦隊と水雷戦隊を合流させた方が良いのでは?」

「それは分かっているのですが、艦隊同士の距離がかなりあります。このまま行けば合流する前に本土が戦艦棲姫の射程に入りかねません」

「……了解しました」

 

 秋山艦隊にとってこれが無茶な命令である事は良く解っている。はっきり言って全滅する可能性は高い。だが防衛省という国を外敵から守る組織のトップにいる以上、坂田はその役目を果たさなければならなかった。とはいえ自衛隊としても、みすみす彼らを見捨てるつもりはない。通常兵器による援護をする予定であった。

 

「ここが正念場です、各員の奮闘を期待します!」

 

 坂田が激励の言葉を陸、海、空の各部署に贈る。この危機的状況において自衛官たちの士気は高かった。

 だが――そんな彼らに水を差す情報が舞い込んできた。

 

「失礼します!」

 

 会議室に職員が飛び込んで来る。その様子は明らかに狼狽しており、彼は悲鳴のような声を上げた。

 

「アメリカ政府により、在日米軍の出撃が却下されました!」

 

 予想外の報告に、誰もが絶句した。

 




○別働隊突入判定:1~30が早期発見により失敗、31~60が進撃成功、61~90が進撃成功かつ時刻が夕方(航空回数-1)、91~が初手東京湾&夜戦。
判定:82。次の航空攻撃回数に-1

○空母艦娘による航空攻撃判定:1~25が出撃不可能、26~50が1回、51~75が2回、76~が3回。
判定:58。但し航空攻撃回数が-1されるため、攻撃は1回のみ。

○在日米軍による援護:1~20が出撃不可能、21~60が戦力を温存しつつ攻撃、61~90が全力攻撃、91~がU.S.A.!し始める。(思わぬ大戦果)
判定:16。これは……政治方面からのストップか?

鬱憤が溜まってた在日米軍による活躍とか考えてたのに、なんで的確に地雷を踏み抜いて行くんですかねぇ……。

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