それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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正直、今回のアメリカの言い訳は作者としてもかなり無理があると思います。でもダイス目には逆らえないのです……(白目)

今回のダイス判定

自衛隊攻撃判定:83
艦娘航空ダメージ判定:63



海を征く者たち26話 アメリカの選択 彼らの意地

『長官! 却下とはどういう事ですか!?』

 

 受話器の向こう側から響く在日米軍司令官ベーカー中将の怒鳴り声に、国防長官マーシャルは顔を顰めていた。

 

「私も出撃させるつもりだったさ」

『それならなぜ!』

「半数以上の閣僚が出撃に反対し、それに大統領も賛同した。これでは私もどうしようもない」

『……それだけの人数が反対したのですか!?』

 

 ベーカーの驚きは当然だろう。今回の出撃の却下は軍事だけでなく外交にも悪影響出る。それをアメリカの政治を担う者たちが解らないはずがない。それにも関わらずこのような決定が下されたのだ。これは以前から政府関係者内にあったある主張が原因だった。

 

『事情を説明して下さい』

「……少し長くなるぞ?」

『構いません』

 

 マーシャルは一つ息を吐くと、口を開いた。

 

「……まず今回の話の前提に、艦娘が出現しその力が証明された頃から、議会や政府内で出始めるようになったある主張がある」

『それは?』

「在外米軍撤退論だ」

『……は?』

 

 日本に半ば隔離されているベーカーが、アメリカ本国の政治事情を知らないのは当然だろう。呆気にとられるベーカーを半ば無視してマーシャルは続ける。

 

「アメリカは世界最大の軍事力を持つ国家ではあるが、深海棲艦には未だに劣勢だ。それ故に世界各国に散らばっているアメリカ軍を帰還させ、戦力の集中を図る。それが彼らの主張だ」

『馬鹿な……。本国に帰還するための海路は深海棲艦に封鎖されています。そんな事は不可能です』

「出来るんだよ。……艦娘を使えば」

 

 去年であればまず実現不可能であった在外米軍撤退論であったが、今年に入るとそれが現実味を帯びることとなった。深海棲艦に対するアンチユニットである艦娘。彼女らの存在は、国外に取り残されているアメリカ軍を帰還させるのに十分な力を持っているように見られていた。軍でもシミュレーションが行われ、犠牲は出るだろうが人員とある程度の兵器を本国まで帰還させることは可能と結論付けられた事により、撤退論の支持は急速に拡大していた。

 

『確かに艦娘の力は強大です。しかしだからこそ彼女らが消耗するのは避けるべきなのでは?』

「ああ、確かに彼女たちは強い。だが全てにおいて通常兵器よりも強力である訳ではない」

 

 対深海棲艦戦において強力な戦力となる艦娘だが、特定の分野では通常兵器の方が勝ることは多い。射程、攻撃精度、レーダーの性能、通信能力、そして対空戦闘。深海棲艦と戦う場合、艦娘と既存の軍隊が協力した方が効率が良いのだ。

 

『本国も軍事力の拡大しているはずです。それでは足りないのですか?』

「確かに兵器類は次々に作られているが、問題は操る人間だ。とにかく人が足りん。特に士官の数が足りなくなってきている」

 

 この4年間の戦いで、戦死者は膨大な数に上っていた。当然アメリカも人員の補充をしているものの、人員不足が目立ち始めていた。特に教育に時間のかかる士官の不足は問題であり、徐々にだがそれによるトラブルが出始めていた。また人員の質は明らかに低下しており、アメリカ軍を悩ませていた。

 

『在外米軍は海路が完全に封鎖される前に派遣された軍人であり、練度は高い。彼らを本国に呼び戻せばすぐに規模を拡大できる、ですか』

「新たに兵器製造しなくてもよく、人員の育成に時間を掛けずに本土の戦力を拡大できる。在外米軍は艦娘を有していないとはいえ、これは軍にとってメリットは大きい」

『主張は解りました。しかしデメリットが大きすぎます。そんな事をすれば確実に外交問題に発展しますし、国家の信用も低下する事になります』

 

 ベーカーの主張も最もであり、撤退反対派の言葉そのものだった。在外米軍は国家間の条約に基づいてその国に駐留している。撤退派の主張はその条約を一方的に破棄する事と同じなのだ。だがアメリカ、そして世界が取り巻く状況がそれを許してしまった。

 

「今のアメリカはハワイ、アゾレス、そしてパナマと三方向から、深海棲艦の侵攻を受けている。艦娘戦力の増強は行っているものの、戦況はかなりマズイ。他国との条約を守った結果、国が滅んでは意味がない」

『……』

「また現在、世界は深海棲艦によって強制的にブロック化されている。南米はともかく、ヨーロッパやアジアの国々と外交問題になったところで、そこから来る悪影響は深海棲艦出現前と比べて限定的だ」

 

 他国と比べても食料生産力、経済力、軍事力があるアメリカではあるが、余裕がある訳ではない。彼の国も深海棲艦との戦いに必死なのだ。他国を犠牲にしてでも国家を存続させるのは国の運営を任される者として間違ってはいない。

 

『ホワイトハウスは撤退派が主流なのですか』

「閣僚だけでなく議会もだ。それにより軍では在外米軍撤退のための計画を立案中だ。少なくとも来年の春までには本国から迎えの艦隊が到着する」

 

 マーシャルはため息を吐いた。彼個人としては反対派ではあるのだが、政府の方針がほぼ在外米軍撤退で固まった以上、政府に従うしかない。

 

『つまり今回の出撃要請の却下は……』

「在日米軍の有する人員と兵器の損耗を恐れたためだ。君たちを日本で失う訳にはいかない」

『……』

 

 アメリカが日本の寿命が後1年である事を把握していたため、今回の様な判断が下された。滅びゆく国からの信頼よりも、残っている戦力の保全が優先されたのだ。

 沈黙するベーカー。そんな彼にマーシャルは命令を下す。

 

「敵の予想攻撃範囲内の戦力の避難を許可する。また以降の自衛以外での戦闘を禁止する」

『……了解』

 

 ベーカーの苦々し気な声が受話器に響いた。

 

 

 

 侵攻を続ける戦艦棲姫艦隊に対し、自衛隊は急ピッチで迎撃態勢を整えていた。

 

 戦艦棲姫の率いる12隻の艦隊の陣容は以下の通り。

 戦艦棲姫1隻

 戦艦ル級フラグシップ2隻

 重巡リ級エリート3隻

 軽巡ツ級2隻

 駆逐ロ級エリート2隻

 駆逐ハ級エリート2隻

 

 これまでの事例として、12隻程度の艦隊であれば空母が編入されるのが一般的であるのだが、戦艦棲姫は元々夜戦を計画していたため、夜間では攻撃の出来ない空母は編入していなかった。とはいえ空の守りを捨てた訳ではなく、対空性能の高い軽巡ツ級を2隻編入しており防空能力はかなり高い。

 

 それらを迎え討つ自衛隊の戦力は、

 房総半島南端と横須賀に配備されている陸自の対艦ミサイル連隊

 百里基地を始めとした関東の航空自衛隊基地が有する戦闘機群

 横須賀基地より出撃したはやぶさ型ミサイル艇2隻

 横須賀鎮守府の空母艦娘の保有する航空機編隊

 戦艦金剛を旗艦とする秋山艦隊

 秋山提督配下の艦娘たちであり、五十鈴を旗艦とした水雷戦隊

 横須賀に残っていた少数の低練度の軽巡、駆逐艦艦娘

 

 このように列挙してみれば自衛隊側の戦力は、規模的には圧倒的に上である。もし早期に発見できていれば反復攻撃が出来るため、多少の損害は出るだろうが敵の艦隊を撃破する事は出来るだろう。

だが敵との距離、そして時間帯がそれを許さなかった。

 既に戦艦棲姫の艦隊は目と鼻の先まで来ているし、頼みの艦娘の航空隊も夜になれば発艦できないため一回限りの全力攻撃しか出来なかった。

 迎撃できる艦娘が秋山配下の艦娘12人しかない以上、彼らが交戦する前に敵戦力をいかに削るかが勝負の分かれ目となる。

 

 房総半島沖。戦艦棲姫艦隊は東京湾を目指して全速で航行していた。既に侵攻が察知された以上、後は時間との勝負なのだ。何せ彼女らの勝利条件は誰か1隻でも東京湾内に侵入し敵地に砲撃を加える事だ。一斉射だけでも十分にダメージを与えることが出来る。

 そんな彼女たちを阻止すべく立ちはだかる存在が最初に現れたのは空からだった。

 

《Guard-1、Engage!》

 

 百里基地所属の対艦攻撃使用の4機のF-2Aだった。百里基地には硫号作戦援護のために臨戦態勢であったために、今回の襲撃においてもいち早く迎撃態勢に入る事が出来たのだ。

 

《Target in sight》

 

 各機がその腹に抱えた空対艦ミサイルの照準を合わせる。狙いは戦艦棲姫ではなく通常タイプ。戦艦棲姫には通常兵器が通用しないのだ。ならば確実にダメージが通る相手を狙う方が良い。

 

《Guard-1、FOX-3》

《Guard-2、FOX-3》

 

 発射符号と共に各機から放たれたミサイルは、目標目掛けて突っ込んでいく。それに反応して2隻の軽巡ツ級が対空砲火を上げるが、姫級ではない彼女らに飛来するミサイルを撃ち落とす能力は無い。軽巡及び駆逐艦にミサイルが次々と命中し、爆発を起こす。

 

《敵艦に損害を確認するも撃沈は見られない》

 

 哨戒機から戦果確認の無線が飛ぶ。高々4機では撃沈までは至らない。とはいえこれは様子見に過ぎない。次の攻撃は直ぐに始まった。

 

「攻撃用意! 大物はあいつ等に任せればいい!」

 

 地対艦ミサイル連隊長の檄が響く中、各車両が目標を設定する。最優先目標は軽巡ツ級、次に駆逐艦。本命のためにこれを倒さなければならない。

 

「攻撃開始!」

 

 横須賀と房総半島。二か所からほぼ同時に放たれたミサイルが、侵攻する艦隊へと襲い掛かる。

 その弾道を目にした戦艦棲姫は、ある考えに思い至った。

 

――しまった!? 戦艦は盾に成りなさい!

 

 空、そして地上から放たれたミサイルが軽巡に集中している。その意図に気付いた戦艦棲姫は2隻の戦艦に軽巡ツ級を守るように命令しつつ、艦隊の盾とならんと前に出た。フラグシップ級の戦艦の装甲なら、多少のダメージはあるだろうがミサイルを十分に防げる。戦艦棲姫は軽巡ツ級が生き残らなければ、次に来る攻撃は下手をすれば致命打となりかねない事を察知したのだ。

 だが、この事に気付いたのは彼女だけだった。

 旗艦の意図が読めずに2隻のル級は困惑する。なぜ軽巡をかばうのか? 理解出来ないながらも命令通りに動くが、出だしが若干遅れてしまう。

 それが致命的な隙となった。

 2方向から飛来したミサイルの大半が軽巡ツ級、そして駆逐艦に雨霰と降り注ぐ。重装甲を持つ戦艦たちが必死にそれを防ごうとするも、その多くは目標に命中していく。いくら通常兵器が効きにくい深海棲艦であっても、装甲の薄い補助艦艇では致命打となる。

 ミサイルの爆発が収まり、上空の哨戒機が戦果を確認する。

 

《軽巡ツ級1、駆逐ロ級2の撃沈を確認。残った軽巡、駆逐も大きな損害が見られる》

 

 空と陸、2回の攻撃により、撃沈出来たのはたったの3隻。補助艦艇にはそれなりに損害を与えているが、重巡以上の主力艦クラスには全くと言って良い程損害はない。

 だがこの戦いに参加する自衛官たちは歓声を上げていた。

 彼らの攻撃は、ボクシングで言えばジャブに当たる。そしてその仕事を全うしたのだ。後は――

 

《艦娘航空機隊は攻撃を開始せよ》

 

 本命を相手に叩きつけるだけだ。

 横須賀鎮守府の空母艦娘たちが発進させた航空機群が戦闘海域に躍り出る。

 その数は恐ろしく大規模だ。これ以降は航空機が使えないため全航空機を投入していた。更に特異なのはその編成だ。護衛のための戦闘機は一機もおらず艦攻、艦爆のみ。普段では見られない対艦攻撃に特化したものだった。

 

「攻撃開始!」

 

 空母艦娘の号令と共に全機が一斉に深海棲艦に襲い掛かる。

 戦艦棲姫は急いで輪形陣を敷き空襲に備えるが、防空の要となる軽巡ツ級は1隻撃沈、もう一隻は大破しており、防空能力は激減していた。

 

――回避!

 

 各艦が対空砲火を上げながら、必死に回避運動を取る。沈むことを悟った大破していた駆逐級が旗艦の盾となり轟沈することすらあった。損傷を受けつつ、しかし確実に艦隊は目標へ向けて前進していく。

 

「何としてでも敵の足を止めなさい!」

 

 必死なのは空母艦娘も同じだった。時間の関係で航空攻撃は1回しか出来ない。ここで敵にダメージを与えられなければ、本土攻撃をされる確率は一気に高まる。損傷を受け帰還困難となった艦爆が、深海棲艦に体当たりする光景すら見られた。

そして――

 艦娘の航空機隊が日が沈むギリギリに引き返していった。戦闘海域には深海棲艦が残っている。

 

 戦艦棲姫

 戦艦ル級フラグシップ1番艦(大破)

 戦艦ル級フラグシップ2番艦(小破)

 重巡リ級エリート2番艦(小破)

 駆逐ハ級エリート2番艦(中破)

 

 出撃時からその数を半数以下にまで減らし、各艦が損害を受けているが戦艦棲姫艦隊は健在だった。

 戦艦棲姫を先頭に艦隊は速度を上げた。日本本土に主砲が届くまで後少しだった。厄介だった艦娘の航空攻撃はもうない。後は人類が放つ通常兵器だが戦艦棲姫には通用しない。勝利が目前である事実が艦隊の士気が上がっていた。

だがそんな彼女たちに水を差すモノがあった。

 戦艦棲姫のレーダーが前方から接近する6隻の水上艦を捉えた。彼女は艦隊に艦隊戦の用意をさせる。

彼女たちに最後に立ちふさがったのは――戦艦を旗艦とした駆逐艦4、軽空母1の艦娘艦隊だった。

 

《こちら秋山艦隊。これより敵艦隊の迎撃を開始する》

 

 艦隊から発信された無線が戦場に響いた。

 

 




今回は詳細なルールが思いつかなかったため、今回はダイス判定に基づき、作者の直感で表現しました。
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