それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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今回の話はかなりご都合主義があります。注意して下さい。そして難産でした……。


海を征く者たち27話 房総半島沖海戦前編

 立ちふさがった艦娘艦隊を目にした戦艦棲姫は、敵の戦力が既に底を突いている事を確信した。

 艦隊に夜間での攻撃手段を持たない軽空母がいるのだ。夜間での飛行が可能な航空機でも搭載しているのかとも考えたが、それならば安全な後方から発艦するはず。あの軽空母は数合わせに過ぎないと彼女は判断した。

 ならばこの艦隊を突破すれば目的は達成されたと同然という事になる。通常兵器による攻撃は続く可能性は高いが、旗艦である彼女にはほぼ効果は無いし、主力艦クラスも損害があるとはいえある程度耐えられる。誰か1隻でも東京湾に入ることが出来れば勝ちなのだ。

 戦艦棲姫が教えるまでもなく、戦艦棲姫艦隊の生き残りはこの事に気付いたのか、ボロボロにも関わらず高い士気を維持している。

 戦艦棲姫艦隊は最後の障害を排除すべく、戦闘態勢に入った。

 

 時間は少し遡る。

 東京湾に進行中の戦艦棲姫を旗艦とする深海棲艦艦隊を迎撃する任務を負った秋山艦隊の面々。金剛に乗艦している秋山は艦長席で顔を歪めていた。

 

(これはマズいな……)

 

 秋山艦隊をめぐる状況はかなり悪い。

 まず戦力差だが、確実に秋山の戦力は劣っている。なにせ相手は損害しているとはいえ主力艦クラスが3隻いる上に、旗艦はほぼ無傷の戦艦棲姫だ。対する秋山艦隊は戦艦1、駆逐艦4、軽空母1。明らかに格下である。

 本来なら少し離れた海域にいる秋山配下の水雷戦隊と合流して数の暴力で圧殺するつもりであったのだが、敵艦隊の進行が予想以上に早かったためこの6人で相手取らなければならなくなってしまった。現在、水雷戦隊は飛行挺で急行しており、上手く行けば戦闘中に合流できるかもしれないが、当てにするのは禁物だった。

 そうなると援護攻撃に期待したい所ではあるが、姫級にもダメージを与えられるだろう空母艦娘による空襲は、既に日が落ちてしまったため不可能である。そうなると自衛隊による対艦ミサイル攻撃が頼みの綱となるのだが、損傷している通常タイプはともかく、戦艦棲姫相手ではロクなダメージを与えられないだろう。

 状況だけでも問題は山積みなのだが、更に秋山艦隊のコンディションも悪かった。

 なにせ今日は既に4回も深海棲艦と戦っているのだ。小休憩は合間合間に取ってはいるが、艦娘たちは確実に疲弊している。

 これで士気が高ければある程度の疲労は無視出来るのだが、その士気は現状ではかなり低かった。はっきり言ってしまえば、今回の迎撃は特攻に近い。いくら首都圏を守るためとはいえ、その様な命令を下される側からすれば士気が上がるはずが無かった。

 また秋山たちは戦艦棲姫程の強力な深海棲艦との戦いは、これまで経験したことが無かった。そのため誰もが緊張した面持ちで航行している。その動きは明らかに固かった。

 疲労と低い士気、そして極度の緊張。この三つの要素によって秋山艦隊は最悪の状況に陥っていた。

 

(これは何とかしないと)

 

 秋山は思案する。今回の場合、疲労はどうすることも出来ないが、士気と緊張感の問題に対処するのが提督の仕事となる。特に士気の向上あるいは勢いづけることが出来れば一時的ではあるが疲労を無視できる。

 

(演説みたいな事をして盛り上げればいいのか?)

 

 秋山はいつか見た漫画を思い出す。この場合だと首都圏防衛という使命感を前面に押し出すような事を言えばいいのか? そんな事を思い浮かべる。しかし直ぐに小さく頭を振った。

 

(白ける未来しか見えない……)

 

 それなり彼女たちと過ごしてきた経験から、少なくとも使命感などで士気が向上するとは思えなかった。その後も思考を巡らせるものの妙案が浮かばない状況が続く。

 

《接敵まで後5分です》

 

 横須賀のオペレーターの通信が響く。時間が迫っていた。最悪の状況で戦闘になる、と覚悟を決める秋山。そんな時、ふと脳裏にある光景が浮かんだ。

 それは深海棲艦が出現する前の小学生時代。勉強嫌いだった彼に母が言った言葉。それはとても単純な原理に基づくものだった。

 それに思い至った次の瞬間には、秋山は自然と口を開いていた。

 

『金剛、何かやりたい事とか俺にやって欲しい事とかないか?』

「テートク? どうしたんデスカ?」

『叢雲は?』

「急にどうしたのよ」

 

 急にこれからの戦闘とは関係のない話を振られて困惑する二人。

 

「あの、どうしたんですか?」

 

 白雪がおずおずと秋山に訊ねた。それを見た秋山は確かに唐突だったと苦笑しつつ答えた。

 

『みんな頑張ってることだし、これが終ったら好きな事をさせてあげようと思ってな。何かあったら言ってくれ。俺も出来る限りは協力する』

「良いの司令官!?」

 

 真っ先に食いついたのは皐月だった。

 

「じゃあボク、間宮のメニューを全部食べてみたい!」

『いいぞ。まあ1日じゃあ食べきれないだろうし、日にちを分けてな』

 

 即答する秋山。その様子を見た艦隊の面々が一気に活気づく。

 

「あら。それなら私は伊良湖のメニューが良いわね」

『叢雲は伊良湖の全制覇か』

「テートク! デート! デートするネ!」

『あまり遠くに出かけられないかもしれないけど、それで良いなら』

「司令官。私は料理をしてみたいです」

『じゃあ白雪には調理器具を一式プレゼントしよう』

「ウチは烈風が欲しいなーって」

『開発出来たら最優先で龍驤に回そう』

「私は――」

『朝潮。法に触れない範囲で頼む』

「……じゃあ、金剛さんと同じでお願いします」

『OK』

 

 戦場ではあり得ないような和気藹々とした雰囲気が醸し出される。同時に艦隊に漂っていたピリピリとした空気が霧散していく。

 

(出費は痛いけど、まあいいか)

 

 秋山が行った状況改善の方法は、モノで釣るという典型的なモチベーションを上げる方法だった。彼には5分という短時間でモチベーションを上げる方法が思いつかなかったために、若干無意識ではあったが安易な方法をとることにしたのだった。

 だが効果は抜群だった。固さがなくなり、各員の動きが目に見えて良くなっている。作戦行動に支障はない。

 

『よし、そろそろ接敵するぞ』

 

 既に電探には前方から単縦陣で直進して来る艦隊を捉えていた。戦闘に入る前に最終確認を行う。

 

『陣形、作戦の変更はなし。事前のミーティングの通りに行こう。特に金剛は今回の作戦の要はだから、被弾に注意してくれ』

「No Problem! 任せるネ!」

『龍驤。かなり無茶をしてもらうことになるけど――』

「今回は仕方あらへんって」

 

 金剛、龍驤を筆頭に、メンバーからの異論はなかった。秋山は小さく頷くと前方を見据える。視線の先には速度を上げる戦艦棲姫艦隊の姿がある。

 

『作戦開始』

 

 秋山の号令と共に、秋山艦隊は敵艦隊に向けて速度を上げた。

 

 

 

 東京湾に突入せんとする戦艦棲姫艦隊とそれを食い止めようとする秋山艦隊。二つの艦隊は房総半島沖にてぶつかった。戦艦棲姫を先頭に単縦陣で進行する深海棲艦艦隊に対して、秋山艦隊は単横陣で迎え撃つ。

 柔軟性を考えれば秋山は単縦陣を用いたT字戦法を採りたかったのが、敵の第一の目的は東京湾の突入だと考えられる。最悪の場合、反航戦となり敵艦隊の足を止められない可能性があった。そのため確実性を取るために単横陣での迎撃となった。

 秋山の目論見通り二つの艦隊がT字を作る。両艦隊の戦艦主砲の射程圏内となる。

 

「Fire!」

――沈め!

 

 金剛と戦艦棲姫の発砲は同時、そして着弾も同時だった。水柱が上がる。初弾はどちらも相手には命中せずに終わった。二人は次弾を装填する。

 こうして始まった砲撃戦だが形勢は戦艦棲姫側に傾いていた。今回金剛の砲撃速度は46cm砲に合わせてあるため1.5発/分。対する戦艦棲姫の16インチ砲の発射速度は3発/分。発射速度の差は手数差となる。更に艦隊同士が接近するに従い戦艦ル級の砲撃も加わり、投射される火力の差が激増する。

 砲火の先にあるのは金剛だ。深海棲艦は最大戦力である戦艦を無力化すれば突破は容易であると判断していた。

 砲弾の雨の中を必死に回避しつつ反撃する金剛。3隻の戦艦から狙われているにも関わらず、至近弾によるダメージの蓄積はあるが未だに直撃は無い。秋山配下の艦娘の特徴である高い回避性能がここで生きていた。しかしいつまでもそれが続くはずもない。

 

――しつこい!

 

 戦艦棲姫の叫びと共に放たれた砲弾は、今まさに砲撃しようとする金剛への直撃コースとなる。

 

「Shit!」

 

 悪態と共に金剛は砲撃を中断し身体を捻る。砲弾が彼女の身体ギリギリを通り過ぎた。

 躱した。彼女がそう確信した直後、轟音と共に衝撃が走った。

 

“4番砲塔消失! 中破!”

 

 金剛をサポートする妖精の叫び声が上がる。戦艦棲姫の放った1撃は金剛の4つ有する砲塔の一つを抉り取ったのだ。これにより蓄積してきたダメージも合わさり中破判定となる。

 

『金剛!』

「大丈夫、行けるネ!」

 

 吠える金剛。だが秋山は焦っていた。未だに二つの艦隊の距離はまだまだ遠い。今回の作戦の大前提として、至近距離まで接近する必要があった。このままではそれすら出来ずに艦隊が全滅する可能性が高かった。

 だがそんな彼らに救いの手を伸ばす者たちがいた。

 

《こちらミサイル艇「あおたか」。これより貴艦隊の援護攻撃を行う》

 

 無線と共に、秋山艦隊の後方からミサイルが飛来した。追加建造され昨年に横須賀に配備されていた、はやぶさ型ミサイル艇「あおたか」「あさたか」からの攻撃だった。

 ミサイルは戦艦棲姫に命中。目標を爆炎が包み込んだ。ダメージは殆どない。だが炎により視界が遮られる。

 

『一気に距離を詰めるぞ!』

 

 千載一遇のチャンスに回避運動をやめ、秋山艦隊は距離を詰めていく。それに戦艦棲姫艦隊は気付かない。絶え間なく攻撃が続いており、それが彼女たちの目を塞いでいた。

 そして――

 

「戦艦棲姫との交戦距離に入ったわ!」

『叢雲、白雪、朝潮は戦艦棲姫との交戦を許可する』

「了解!」

 

 秋山の号令と共に3人の駆逐艦艦娘が戦艦棲姫に砲撃を開始する。それに気付いた戦艦棲姫は反撃に出るが、その足を止める事は無い。駆逐艦程度なら魚雷さえ気を付ければ問題は無いのだ。時折放たれる魚雷により進行を遮られつつも、突き進む戦艦棲姫。

 

 そして戦艦棲姫は3人の艦娘と交戦しつつも、そのまま秋山艦隊の取る単横陣の中央を突破していった。叢雲、白雪、朝潮は彼女を追って艦隊から離れていく。

 

 秋山艦隊の陣形が崩壊する。それをチャンスと見た後続の戦艦ル級もそれに続こうとした。

 その光景に秋山は「予定通り」に命令を下す。

 

『金剛、皐月、やれ』

「Fire!」

「行っけー!」

 

 戦艦の砲弾と駆逐艦の放った魚雷。この二つの攻撃により戦艦ル級は足を止められた。

 

『龍驤』

「さーお仕事お仕事!」

 

 その隙を見逃さずに龍驤が高角砲を連射しつつ素早く移動し、その身体をもって陣形に空いた穴を塞ぐ。この瞬間、戦艦棲姫とその随伴艦は分断されることとなった。

 戦艦棲姫と随伴艦の分断。それが秋山艦隊の狙いだった。

 元々、秋山艦隊では戦艦棲姫艦隊とまともに戦った所で、勝てる可能性は低い。そこで考え出されたのが、戦艦棲姫と随伴艦の各個撃破だった。

 叢雲、白雪、朝潮の3人はノーマルとは言え戦艦クラスを連携で撃破したことがある。彼女たちで戦艦棲姫を足止めしている間に、金剛、皐月、龍驤そして自衛隊による援護攻撃で随伴艦を撃破。その後、艦隊の全戦力を持って戦艦棲姫を叩く、というものだ。

 秋山が提案した当初、防衛省を始めとした各部署から反対意見を出されていた。余りにも希望的観測が多く、更に成功確率が低いのだ。しかし正面衝突した所で敗北は必至である事には変わりなく、他に妙案が無かったために今回の作戦が決行されるという事情があった。

 

『作戦第一段階完了。これより第二段階に移行する』

 

 秋山の声が艦隊に響いた。強敵に抗う綱渡りの様な作戦は続いていくことを意味していた。

 




今回の艦隊の動きを図で説明。○:艦娘、●:深海棲艦

1、両艦隊接触直前。
○ ○ ○ ○ ○ ○
    ●
    ●
    ●
    ●
    ●

2、叢雲、白雪、朝潮。戦艦棲姫との交戦開始。
    ○
○ ○○●○ ○
    ●
    ●
    ●
    ●

3、戦艦棲姫突破&金剛、皐月攻撃による足止め。
    ○
   ○●○
○ ○   ○
    ●
    ●
    ●
    ●

4、龍驤移動。分断。
    ○
   ○●○
 
  ○ ○ ○
    ●
    ●
    ●
    ●

文章にすると分かりにくいですね。




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