それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
戦艦棲姫の襲撃から2日が経過したある日の午後、秋山は自衛隊御用達の病院の個室でベッドの住人と化していた。
「しっかし、アンタも頑丈よね」
秋山の見舞いに来ていた叢雲が、持ってきたリンゴを剥きつつ、呆れたように口を開いた。
「頑丈だったらこんな所に居ないぞ?」
秋山は肩を竦める。彼の左腕と右足は頑丈なギブスで固定されており、負傷の度合いが見て取れた。
艦娘に乗艦している提督には、乗艦時は提督を保護する機能がある。そのため艦娘が極端な挙動や被弾時の衝撃や揺れはかなり軽減され、中にいる提督が負傷する恐れは殆どない。
但しこの機能は飽くまでも「かなり」の範囲に留まる代物であり、「完全」ではない。そのため艦娘にある一定以上の動きがあれば、軽減されなかった分が提督に襲い掛かる。今回の秋山の負傷もそれが原因だった。
「あら。吹き飛ばされた金剛さんに乗艦していたにも関わらず、その程度の怪我で済んだのは頑丈とは言わないのかしら?」
「……とりあえず金剛の前でその話題はやめろよ? あいつ本気で凹んでたし」
30ノットで直進していた所、砲撃を受けて真後ろに吹き飛ばされ、更に海面を2回転。いくら保護機能が優秀であっても、この一連の動きを軽減する事は出来なかった。中にいる秋山が死亡してもおかしくない様な衝撃だったのだが、それにも関わらず左腕と右足の骨折のみという奇跡的な軽傷で済んでいた。
「退院はいつなの?」
「1週間後だな。因みに完治までは1か月」
「骨折って、治るまで3か月位掛かるんじゃなかったかしら?」
「何でも同世代と比べても治りが異様に早いらしい」
「良かったじゃない――、ってどうしたのよ」
渋い表情をする秋山に、叢雲は思わず訊ねた。
「治りが早い事が解ってから、明らかにここの医者じゃない人が頻繁に来るようになって……」
「えっ」
「どう考えても骨折とは関係なさそうな検査だったり、注射だったりをされるんだ」
「……」
現在、人類は艦娘についての研究も行われているのだが、それに関連して提督と化した人間についても研究されていた。今回の秋山の入院で、これ幸いと研究員が大挙して押し寄せていたのだ。
「しかも病院を移らないかとか言ってくるし。明らかに地雷だろ」
「……さっさと退院した方が良いわよ」
顔を引きつらせている秋山を前に、叢雲は努めて感情を表に出さずにそう言った。最もその内心は、
(実験動物扱いなんて、ふざけた事してくれるわね!)
烈火の如く怒り狂っていた。少なくとも余程提督との仲が悪くなければ、今の叢雲の様な感情を抱くのは、艦娘にとって普通の事である。
(……妖精さんの護衛はつけるとして、後は情報共有ね。青葉さんに流しときましょ)
叢雲が対抗策を練っている間にも、会話は続く。
「艦隊の方はどうなんだ?」
「高速修復材の使用許可がもらえたから、今はもう全員動けるわ。もっとも今は深海棲艦が殆ど出てこないし、開店休業ね」
「訓練とかは?」
「そもそも鎮守府の資源が吹き飛んだせいで、訓練どころか出撃なんて碌に出来ないわよ」
「そういえばそうだったな」
戦艦棲姫が最後に放った一撃は、まるで彼女の意地を示すかの様に、正確に横須賀鎮守府を捉えた。そして日本の防衛に関わる者にとって最悪な事に、砲弾は寄りにもよって艦娘用燃料の貯蔵タンクに直撃、横須賀鎮守府は大火災に見舞われた。
火の手は一時弾薬庫まで迫っており、文字通り鎮守府が吹き飛びかねない状況であったが、鎮守府に残っていた自衛隊員や妖精、更には消防隊の協力によりどうにか消火する事が出来たのだ。
この砲撃により自衛隊員から多数の死傷者が出ただけでなく、鎮守府の再建、燃料不足による出撃制限など、様々な方面に影響を受けていた。
「そう言えば硫黄島の深海棲艦は、戦艦棲姫が見つかった時点で撤退を始めたって聞いたけど、本当なのか?」
「正確には龍驤さんの偵察機が戦艦棲姫を見つける直前よ」
硫黄島の硫黄棲姫率いる深海棲艦たちは、戦艦棲姫艦隊の進軍から目を逸らすために沿岸部まで後退し、沿岸砲台と連携し徹底抗戦をしていた。その戦闘は激しく、3倍近くの数の差を相手に互角の戦いをしていたのだ。
「今回の戦艦棲姫の突撃は、硫黄島を囮にした計画性のある攻撃であるって意見もあるわ」
「精鋭を硫黄島で抑え込んで、その間に本命が東京湾に突撃? 無理があるんじゃないか?」
「まっ、飽くまでもこれは少数意見よ。硫黄棲姫が苦し紛れに突撃させたって意見が主流ね」
「その苦し紛れで姫級が特攻してくるとか、堪ったもんじゃないな」
今回こそ被害は最小限に抑えられたものの、姫級が轟沈前提に計画的に突撃して来た場合、軍事・民間に問わず何かしら大きな被害が出る事は容易に想像がついた。だからこそ、以前から練られていたある計画が重要になって来る。
「今回の戦闘に関係して、『提督分散配備計画』を再審査するらしいわ。特に横須賀地方隊は1から練り直しみたい」
「まあ、危うく東京が火の海になる所だったし、しょうがないだろ」
今回の戦艦棲姫の突撃を受けて、防衛省は事態を重く見ていた。より確実に警戒網の強化、そして早期迎撃を行うために、各地方隊に『提督分散配備計画』の見直しを命じていた。この急な命令に各地方隊は連日会議を繰り返していた。
「まあ、俺には関係ないけどな」
「私としては残念だけどね。はい、剥けたわよ」
「ありが――半分しかないんだけど……?」
「結構高かったし、私も食べたいのよ」
その後二人は、リンゴを摘まみつつ面会時間終了まで雑談に興じていた。
硫黄島での戦いは、深海棲艦が撤退した事によって日本の勝利に終わった。だが戦いが終わったからと言って全ての仕事が終わったわけではない。硫号作戦の本来の目的である硫黄島の占領という大仕事が残っているのだ。
しかしその上陸作業は、中々進まないでいた。硫黄島はこれまで深海棲艦の拠点と化していた場所だ。占領された結果、その地がどのように作り替えられたのか、全く情報が無い。最悪の場合、放射能汚染の様に人間にとって害があるかもしれないのだ。そうでなくても、拠点放棄に伴いブービートラップを仕掛けられている可能性は十分にあった。
上陸を担当する陸上自衛隊の部隊は、事前の取り決め通りドローンや艦娘の航空機による偵察や実験動物を投入するなど、慎重に調査しつつ検討。最終的にある程度安全が確認され部隊の上陸を決定したのは、戦闘終了から2日経ってからだった。
こうして硫黄島に上陸する事になった自衛隊員たちだったが、上陸するのは彼らだけではなかった。陸戦での戦闘技能を持つ艦娘と随伴する事になっていたのだ。砲台小鬼のように陸上移動するタイプの深海棲艦が確認されている以上、艦娘はどうしても必要であったのだ。
しかしこの上陸作戦においての数的主役は、陸戦のスペシャリストである陸上自衛隊員でも、深海棲艦を打ち倒す事の出来る艦娘でもない。
大発動艇が硫黄島の上陸予定地点に着岸し、人の形をした何かが海岸に降り立った。旧日本陸軍の兵士の格好をした妖精だ。但し数は一人だけではない。次々と妖精たちが上陸し、内陸に進んでいく。
その数およそ1500人。1個大隊に相当する数だ。そしてそれだけの妖精を呼び出したのは1人の艦娘だった。
「やっと出番であります!」
黒の旧日本陸軍の軍服を模した衣装を身に纏った艦娘、強襲揚陸艦「あきつ丸」が妖精の後に続いて海岸に降り立った。そんな彼女からはやる気が満ち溢れている。
『張り切るのは構わんが、変なミスだけはするなよ?』
あきつ丸に乗艦している寺尾提督は若干呆れつつも、油断なくレーダーに集中する。陸戦ではかなりの戦闘能力を持つあきつ丸ではあるが、強襲揚陸艦故に装甲はそこまである訳ではない。油断すればすぐに大破してしまうのだ。不意打ちだけは避けなければならなかった。
「大丈夫であります! 今回は陸戦でありますので、この前の様な失敗はあり得ないのであります!」
『まさかイ級に大破させられるとは思わなかった、――っと、先行している妖精から通信だ。砲台小鬼が出現、現在交戦中らしい』
「洞窟にでも隠れていたのでありますか?」
『いや、地面に潜っていたそうだ』
「中々面倒でありますな」
肩を竦めつつもあきつ丸は怯んだ様子もなく、ずんずんと先に進んでいく。時折、妖精と砲台小鬼が交戦している様子が見られたが、事前に予想していたよりも交戦頻度はかなり低かった。
「敵は殆ど居ないでありますな」
『足止めにしては数が少ない。恐らく逃げ遅れた奴だ』
「まあ砲台小鬼なんて海を泳げそうにないでありますし、仕方ないでありますな。……おや?」
『どうした?』
「茂みに砲台小鬼がいるであります」
『何? って、うお!?』
寺尾が茂みに目を向けた瞬間、あきつ丸は一気に砲台小鬼に駆け出した。砲台小鬼も自分が狙われている事に気付いたのか、慌てて砲をあきつ丸に向け、ドンっという轟音と共に砲撃する。
「狙いが甘いであります!」
しかしあきつ丸は速度を落とさずに、紙一重で回避。そのまま相手の懐に飛び込むと、腰に下げていた軍刀に手を掛け――
「はっ!」
砲台小鬼の首を狙い一閃。次の瞬間には敵の頭が宙を舞っていた。
「結構脆いであります」
頭を無くし倒れる伏す砲台小鬼に呆れつつ、あきつ丸は軍刀を鞘に納めた。
『相変わらず陸戦だと強いな』
「陸軍所属は伊達ではないであります」
戦場の片隅でその様な光景が繰り広げられつつも、硫黄島の占領は続いていった。
その後も散発的な戦闘こそ生じたものの、敵は殆どお残っておらず、更にあきつ丸の呼び出した妖精が積極的に偵察や戦闘を行っていたため、占領は予想以上にスムーズに進んでいった。最終的にはたった1日で攻略部隊は硫黄島に残存する全ての敵の排除に成功。こうして深海棲艦に占拠されていた硫黄島を人類は取り戻したのだった。
だが事はそれだけでは終わらなかった。
「……まあ、ちょっと考えれば分かることでありますな」
硫黄島占領から翌日、硫黄島にある火山、摺鉢山のトンネル内にあきつ丸の姿はあった。彼女は目の前の光景に驚きつつも、どこか納得していた。
『深海棲艦も戦闘のためには資源が必要なのは分かっている。これがあるのは当然だな』
昨日と変わらずあきつ丸に乗艦している寺尾は肩を竦めた。
「これを残してくれるなら開発設備も残しておいて欲しかったであります」
『まあ確実に重要機密だろうし、壊されるのは仕方ないだろ』
「で、ありますな。それで、これはどうするでありますか?」
『当然、本部に連絡だ』
二人の目の前には、深海棲艦たちが使っていたであろう、資源の山が広がっていた。
全開の戦艦棲姫の砲撃で、どの位被害が出るかを1d100で判定。
判定:69。
……結構、吹き飛びましたね!
所で書いといて何ですけど、何時でも何処でもWW2装備の兵士1000人を展開出来て、更に兵士はリスポーン出来るとか怖くね?