それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
イベントが始まったけど何とか投稿ペースを維持するように頑張ります(´・ω・`)
硫黄島攻略作戦『硫号作戦』の成功の知らせに、日本世論は歓喜に包まれた。これまで防戦一方の戦いが続いていた中で、深海棲艦の戦略爆撃機拠点を排除し、更に硫黄島という日本の領土を奪還したいのだ。これまでの鬱憤を晴らすかのように、日本中大騒ぎとなっていた。
そしてこの作戦成功の報に喜んだのは日本国民だけではない。艦娘を保有する国の政治、軍事関係者も日本の自衛隊及び艦娘たちを称賛していた。『硫号作戦』は世界初の深海棲艦拠点攻略作戦であり、初の深海棲艦に占領された土地に人類が上陸した事例なのだ。赤色結界、防衛拠点にいた深海棲艦の旗艦、戦術、占拠された土地の状況等、各種データが日本からもたらされたのだ。
特にこれらの情報に喜んだのはアメリカだ。パナマ奪還作戦を計画しているアメリカに取ってこれらの情報は貴重なモノだった。
実質的に日米安全保障条約を一方的に破棄したにも同然の事をしたにも関わらず、日本からもたらされた貴重な情報を得た事に、事情を知る一部の人々は鼻白んだが、在日米軍に命令を出した者たちは己の行動に対して悪びれる事はない。
「永遠の友も永遠の敵もいない。あるのは永遠の国益だけだ」
アメリカは安全保障や国家に対する信用等の様々な要素を吟味し、結果として外交的信用を投げ捨てて、戦力の確保に動いたのだ。国家を預かる彼らとしては国益を得られる選択肢を取る事は当然の事であった。
そんな世界中から称賛されている自衛隊だが、その上層部は一連の戦闘の後始末に誰もが奔走していた。
「硫黄島の方はどうなっていますか?」
10月のある日、今後の方針を確認するために、防衛省庁舎のある会議室で各部門のトップが集まり会議が開催されていた。
「現在、深海棲艦による硫黄島に対する攻撃は1度も行われていません」
「マリアナ諸島の深海棲艦が活発化していると聞いたが?」
「硫黄島占領後も動きはありますが、これは硫黄島奪還の為でなく防備を固めている為の物だそうです」
「攻められていたら危なかったですね」
防衛大臣の坂田は小さくため息を吐いた。現在、硫黄島に駐留している硫号作戦部隊は陣容こそ強力ではあるが、艦娘用の各種資源が残り少ない状態であった。本来であれば横須賀から補給が出される予定だったのだが、戦艦棲姫の攻撃により艦娘用資源が半ば消し飛んだ状態の横須賀から資源を出す事など出来るはずがない。現在は、他の地方隊から硫黄島に向けて緊急で補給隊を出す事にはなってはいるが、現地に届くまでもう少し時間が掛かる予定だった。
「硫黄島に深海棲艦が使っていた資源を鹵獲したんだろ? それは使えないのか?」
「だめだ、艦娘用に加工しなければ使えん」
「使うには本土に輸送しなければならないか……。因みに貯蔵量はどうなんだ?」
「それなりの量があるが、戦艦棲姫に破壊された量には届かん。資源の収支だけ見れば完全に赤字だな」
硫黄島に残されていた資源の量は、硫黄島に駐留していた深海棲艦部隊に十分ではあったが、日本が使うには全く不足していた。会議室のあちらこちらからため息が漏れる。
「話題を変えよう。硫黄島部隊の損害は?」
「損害艦は多かったが、轟沈艦は少数。後は提督の戦死者は無しだ。損傷艦の方は全員修理が終わっており、いつでも戦闘は可能だそうだ」
「通常戦力の方はどうなっていますか?」
「元々損害は無かったのでいつでも動けるそうです。また上陸部隊もあきつ丸が展開した陸戦戦力があったため、死傷者はゼロとなっています」
その報告に多くの者が顔を綻ばせる。硫黄島奪還という戦果に対して受けた損害は微々たるものなのだ。轟沈してしまった艦娘には悪いが、喜ばずにはいられないのが、この場にいる人間の共通の思いだった。但しこれには例外もある。
「しかし陸戦でも艦娘の力を借りなければならないとは……」
陸上幕僚長の黒木は渋い顔で呟いた。深海棲艦が出現して以来、軍事予算は増えたものの、その予算の多くは海や空につぎ込まれているのだ。本土防衛ということで陸の予算も増えてはいるが、黒木としては全く足りないと感じていた。
そんな所に降って湧いてきたのが硫黄島の上陸作戦だった。上陸作戦となれば今まで日の目を見なかった陸上自衛隊の出番となる。黒木は上陸作戦で存在意義をアピールし、予算獲得の口実を作るつもりであったのだ。
それを陸上自衛隊に協力的ではあるものの、艦娘によってアピールの場を奪われたのだ。あきつ丸を始めとした艦娘が協力してくれたからこそ、島の調査が予想以上にスムーズに終わったし、自衛隊員に死傷者が出なかったのは理解しているのだが、やはり陸上自衛隊の予算獲得を狙っていた黒木としては複雑な想いであった。
「……艦娘も万能ではありません。陸にはそちらの分野をお任せします」
「……解っております」
坂田もフォローは入れつつ、議論を先に進める。
「横須賀はどうなっていますか?」
「まず艦娘基地ですが、16インチ砲弾が3発直撃したため、基地内の各施設に損害が見られています。特に砲弾が直撃した燃料タンクは全壊。そのため横須賀の艦娘基地では燃料不足に見舞われています」
「出撃は可能なのか?」
「燃費の良い駆逐艦を中心に出撃させているそうです」
「自衛隊や民間人に死傷者は?」
「死傷者は基地内に詰めていた自衛隊員に多数出ています。民間人に関しては事前に避難が完了していたため、死傷者はありません」
「民間人に被害が無いのは不幸中の幸いですね」
坂田はその報告に胸を撫で下ろした。危うく東京湾に戦艦棲姫が侵入しそうになった事から、自衛隊は世論からバッシング受けている状況にある。硫黄島奪還の功績があるため、それなりに批判は抑えられているが、仮に民間に被害があれば激しい非難にさらされる羽目になっただろう。
「艦娘基地の再建はどうなっていますか?」
「横須賀の提督たちが妖精を呼び出して急ピッチで再建中。後数日で完了するそうです」
「横須賀で不足してる資源は?」
「他の地方隊から緊急で回すように手配しました。明日には主力艦クラスも出撃出来るでしょう」
前田海上幕僚長の答えに、坂田は頷いた。現在、太平洋側の深海棲艦の動きは以前よりは鈍いとはいえ、防衛に手を抜いて良い訳ではない。防衛体制の再構築は急務だった。
「しかし硫黄島を占領したために、防衛計画を本格的に練り直さなければならなくなりましたな……」
「東南アジア進行計画もな」
「そちらもありましたな……」
ため息を吐く前田に、会議室の誰もが渋い顔で頷いた。今回の硫号作戦の成功により、日本は硫黄島を奪還した。だがそれは日本の防衛範囲が拡大する事を意味するのだ。自衛隊の本音としては、維持に多大な労力を掛けることとなる硫黄島を放棄したい所だ。しかし国民の声、元深海棲艦拠点という貴重な情報源、人類で初めて敵に奪われた島を奪還したというブランド等、様々な要因で何としてでも硫黄島を維持しなければならなくなっていた。
更に硫号作戦では様々な大規模海戦や上陸戦等、様々な戦訓を得られた。それらを東南アジア進行計画に活かすために、何度目かの改訂を行う必要があった。日本の一大作戦が終わっても、仕事は終わる事は無いのだ。そして彼らの仕事はそれだけではない。
「後は叙勲者の候補か」
「一大決戦だ。候補者は多いぞ」
一連の戦闘で著しい戦果を挙げた者たちに対して、それを労うのも防衛省の仕事の一つなのだ。そして硫号作戦とそれに付随する戦闘では勲章を叙勲するに値する働きをした者は多い。
とはいえ既に候補者は大まか決まっており、後は内閣府賞勲局に推薦するだけだ。しかし今回は大きな問題が発生していた。
「問題はその候補者の中に、色々とマズイ人間がいる事だ」
関口統合幕僚長が大きなため息を吐きつつ、叙勲候補者が記載された書類をめくる。書類の最後には件の色々とマズイ人間――秋山の証明写真と詳細なプロフィールが記載されていた。
「戦果は文句なしですが、年齢が15歳ですか……」
「問題しかありませんな」
倉崎航空幕僚長と、前田海上幕僚長は同じく書類を確認しつつ顔を顰めていた。
各国同士の事前の取り決めで未成年者を軍で運用していたが、少年兵に関する国際法に違反している事には変わりない。今までは国家機密として民間にはその事を公表しなかったため問題なかった。
しかし秋山が勲章を叙勲するとなると、国民に彼の事を公表する必要があるのだ。そうなると当然、自衛隊が未成年者を戦わせていた事が知られてしまう。そうなればこの場にいる人物たちの首が飛ぶだけでは収まらず、日本の現政権が吹き飛ぶのは確実だった。
「彼を候補者に選出しない事は出来ないのか?」
「確かに戦艦棲姫の艦隊を撃破出来たのは大きいが、同時に横須賀の艦娘基地が損壊したのはマズイ。これを理由に候補から外す事も出来るが……」
会議室の人々の視線が、自然と提督としての能力を持つ坂田に集まる。
「はっきり言いますが、いくら援護があったとはいえ当時の秋山提督の戦力で戦艦棲姫艦隊を撃破出来た事は奇跡に近いです。普通ならば早々に返り討ちにあって、首都圏は火の海になっています」
「そこまでですか……」
「また我が国には未成年の提督はそれなりにいます。仮にこれだけの戦果を挙げたにも関わらず年齢を理由に候補の取り下げを行った場合、士気に悪影響が出るでしょう」
いくら努力し、戦果を挙げた所で年齢を理由に全く評価されないとなれば、未成年の提督の士気は致命的に低下しかねないのだ。自衛隊としてはこれは避けなければならなかった。
「特別措置として叙勲だけして、本人の情報を公開しないのはどうです?」
「それはマズいだろ。下手に隠すと暴こうとするやつが出てくるぞ」
「年齢を偽装しては?」
「それもありだが、この顔を18歳以上とするのは難しいです」
「カバーストーリーを付けるのはどうだ?」
「それはどうやっても15歳が戦闘をしたという事実を公表する事になるぞ。世論的にも、国際社会的にも問題が生じかねん」
こうして各々が頭を悩ませつつ、議論は続いていった。
頭を悩ませているのは防衛省の上層部だけではない。急ピッチで再建している横須賀鎮守府の近く、横須賀基地でも突然降って湧いてきた仕事に四苦八苦している人々がいた。
「やはり現状の防衛計画では対応しきれません」
「やはりか」
矢口参謀長の言葉に、佐久間横須賀地方総監は顔を顰めていた。
硫黄島の奪還は様々な所に影響を与えているが、横須賀地方隊もその一つだった。何せこれまでは日本本土だけを考えておけば良かった所に、突然本土から約1000km離れた小島を維持しなければならなくなったのだ。この防衛範囲の急拡大によってこれまでの防衛計画が全く役に立たなくなってしまう。そしてこの防衛計画は防衛省が進めている「提督分散配備計画」にも直結していた。
今は硫黄島に硫号作戦の部隊が駐留しているため何とかなっているが、彼の部隊もいつまでも硫黄島にいるわけではない。彼らが帰還するまでに早急に防衛計画と提督の配置を見直さなければならなかった。
「硫黄島に送る提督の選定は終わっているか?」
「既に決定しています。しかし場合によっては複数の提督を出す必要があるかもしれません」
「マズいな。そんなことになれば確実に手が足りなくなる」
硫黄島は世界初の深海棲艦から奪還した土地だ。様々な要因のために再度敵に渡すわけにはいかなかった。当然防衛のために下手な戦力は置けない。陸自や空自の戦力が配備される事になっているが、当然海自からも提督と艦娘を配備する必要があった。但しその政治的重要性から最悪複数の提督を配備しなければならない可能性もあった。
「いえ、既に足りません」
「どういうことだ?」
「硫黄島までの補給路を維持しなければなりません。その関係で航路上の島々に戦力を配置する必要があります」
「護衛船団方式だけじゃ難しいか?」
「確実に補給物資を届けなければならない場合、護衛船団方式では不十分です」
硫号作戦の結果、日本が確保できた島は硫黄島だけではない。硫黄島までの航路上には深海棲艦によりその数は減ってはいるものの、伊豆諸島や小笠原諸島で様々な島が残っていた。幸いなことに深海棲艦によって拠点化はされていなかったため、日本は大した労力を出さずに確保する事が出来たのだ。
「また航路近くの島を確保しておかなければ、深海棲艦により占拠される可能性もあります。そうなれば補給路は分断されます」
「……確かにそれはマズいな。だが提督が足りないぞ」
「場合によっては、未成年の提督も分散配備計画に組み込まなければなりません」
「それはそれで問題が出そうだ」
佐久間にとってその提案は却下したい所ではあるが、状況がそれを許さなかった。既に政治的に問題がある未成年提督を遊ばせておく余裕などない。
「儘ならんな」
横須賀地方隊を預かる総監はため息を吐いた。
いや、秋山君の報奨とかどうしましょうかね(;・ω・) 最悪、詳細は書かずにぼかす事は出来るけど……。