それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
現在、E-4まで攻略完了。今回の堀は結構きつそうですね。ゴトランド掘りは、E-5クリア後にネルソンを使っての掘りが有効?
9月25日に改訂しました。具体的にはロシアから戦艦が1隻消えました。
日本の硫黄島奪還は世界に大きな衝撃を与えた。規模こそ中規模ではあるものの姫級が複数存在する強力な拠点を、艦娘の集中運用によって撃破、占領したのだ。対する日本の損害は少数の艦娘の轟沈。はっきり言って日本の大勝であった。
日本により敵拠点攻略の際にも艦娘が有効である事が証明された。そして艦娘を保有するどの国も共通の考えを抱くようになる。
「我が国でも敵の拠点を攻略する事は出来るのか?」
日本と言う先例が出たのだ。艦娘を有する国々がそう考えるのは当然の事であった。同時多発的に各国で分析される。そしてその多くの国々で、同じ結論が下される事となる。ヨーロッパに向けて資源を輸出し、その国際的地位を上げているロシアでもそれは同じだった。
「つまり不可能、と?」
ロシア大統領府の会議室で、ノーヴァ大統領は手にした書類から目を離し、イワノフ国防相に視線を向ける。人によっては委縮しかねない眼光を持つ大統領の視線に国防相は動じる事無く報告を続けた。
「理論上は可能であります」
「ロシアの全ての提督と艦娘を投入し、更に空母を始めとした通常戦力も出す必要がある。実質的に不可能だ」
ノーヴァはため息を吐きつつ再び資料に目を落とす。攻略の対象として千島列島に居座っている3級拠点を想定して行われたシミュレーションが詳細に記載されている。様々な状況でシミュレーションが行われた様ではあるが、その多くが壊滅的な被害を受けて敗退。唯一の成功例がロシアの全戦力の投入で物だったが、占領したはいいが投入戦力に多大な被害が生じると結論付けられていた。ノーヴァは国を預かる者として、この被害は許容できるはずがなかった。
「なぜここまでの被害が出るのか説明してくれ」
「いくつか原因がありますが」
「構わん」
ノーヴァの許可を得て、イワノフは一つ息を吐くと、この会議に出席している者たちに聞こえるよう、通るような声で説明を始めた。
「まず根本的な問題として、提督一人当たりが保有できる艦娘の上限がある事です」
「どういうことだ?」
「提督の呼び出せる艦娘は、提督が所属する国が第二次世界大戦中に保有していた軍艦であります。つまり上限が決まっている事と同義であります。この保有数の上限は南米で確認されております」
提督の呼び出せる艦娘は提督が所属する国が第二次世界大戦中に保有していた軍艦。つまり上限が決まっている。そしてその当時のソ連海軍は規模が小さかった。そのため必然的に建造される艦娘も日本と比べて少なくなってしまうのだ。
しかしその説明には疑問が残る。
「硫黄島奪還の際は提督一人当たりが連れていた艦娘は16人だ。それくらいならロシアの提督でも可能なはずだ」
いくらソ連海軍が日本より小規模とはいえ、戦艦を複数保有できる程度の規模はある。数だけ見ればそれなりの規模にはなるはずだった。そんなノーヴァの問いかけに、イワノフは小さく頭を振った。
「ここからが本題となりますが、日本艦娘には対深海棲艦戦において重要な役割を果たす艦種があります。そしてそれは我が国の艦娘には存在しておりません」
その言葉にノーヴァは国防相が何を示しているのかを直ぐに察した。
「空母か……」
「正確には艦娘用の航空機であります。残念ながら、我が国には未だに出現しておりません」
戦場において制空権の確保が重要である事は常識だ。しかしロシアに現れた艦娘には、深海棲艦と制空権争いをする事の出来る者は誰一人としていなかった。それは余りにも致命傷とも言えた。
「通常兵器でフォロー出来ないのか?」
現在のロシアでは深海棲艦の航空攻撃に対しては、主に空軍機による迎撃で対処しており、そしてそれは十分に戦果を挙げていた。この事を考えれば空母艦娘が無くとも、対応は出来るはずだった。
「それも可能でしょうが、問題は赤色結界内であります。結界内で海戦をする事となれば、敵の航空兵力に押しつぶされます」
だが敵地への侵攻となれば、硫黄島で確認された赤色結界の特性がロシア空軍の神通力を防ぐ事となる。現状では通常兵器で赤色結界を突破する手段は無い。エアカバーの無い艦娘たちがどうなるかなど、火を見るよりも明らかであった。
「対空砲火を増やすのはどうだ?」
「第二次世界大戦時の対空砲は『撃墜』ではなく、『追い払う』ための物です。そこまで有効な物ではありません。また対空を重視し過ぎた場合、主敵である深海棲艦に対する攻撃力が低下しかねません」
「そう簡単に上手くはいかないか……」
ため息を吐くノーヴァ。防衛戦では問題はあったものの代替策で対応して来たものが、攻勢を掛けるとなった時に一気に噴出したのだ。更にその問題は自分達ではどうにも出来ない。ため息の一つは吐きたくなるのは当然だった。
そんな彼に更なる追い打ちがイワノフから飛んでくる。
「また航空兵力の問題と比べれば些細ではありますが、艦娘の武装についても不安が残ります」
「現状では不足かね?」
「敵の戦艦クラスは大概が16インチクラスであります。対する我が方の最大の戦艦砲は、ガングート級の30.5cm砲つまり12インチクラス。攻撃力の差は歴然としております。またその他装備についても海軍国と比べた場合、やはり劣る者があります」
第二次世界大戦期のソ連の主戦場は陸上だ。当然の事ではあるが海軍戦力の拡充は後回しとなっていた。この判断は当時の戦況を考えれば極々当たり前の事である。だが、
(せめて形だけでも空母を持っていれば!)
まさか70年以上たった現在でそのツケが回って来るとは誰も予測できるはずもないのは分かっていても、今現在苦しんでいる者にとっては当時の指導者を呪わずにはいられなかった。
「つまり我が国単独での拠点攻略は――」
「軍の見解としましては、敵拠点への攻勢は自殺行為であります」
断言するイワノフに、会議室のあちらこちらからため息が漏れた。この場にいる者たちには、ロシアの艦娘に日本と同等の活躍を望む者も多い。それだけに落胆は大きかった。
「幸いな事に我が国は攻勢は難しいですが、防衛戦は可能であります。これまでの様に本土防衛ならば行えます」
「しかし太平洋側からの深海棲艦の攻勢で極東ロシアへの被害が続いています。何かしらの対策が必要でしょう」
エネルギー相のハラモフの言葉も事実だった。ロシア本土の太平洋側は、深海棲艦による戦略爆撃だけでなく、空母による航空攻撃や砲艦による艦砲射撃が度々見舞われていた。軍部も迎撃は行っているのだが、その国土の広さから迎撃が間に合わない事もあった。そしてその深海棲艦はロシア領海内にいくつか存在する敵拠点から出撃している事が確認されていた。
「深海棲艦の拠点を何とかしなければ、これらの被害が止まる事は無いでしょう。深海棲艦の拠点の排除とは言いませんが、敵の拠点に打撃を与えて攻勢を弱める事は出来ないでしょうか」
「敵拠点への攻撃だけでしたら辛うじて出来なくもないでしょうが、やはりそれなりの損害を覚悟する必要があります。また深海棲艦の拠点修復速度は不明であるため、最悪の場合、『翌日には完全修復されている』というパターンすらあり得ます」
「つまり確実に攻勢を弱めるには深海棲艦の拠点を排除するしかない、と?」
「その通りであります」
「……」
暫しの沈黙が会議室を支配する。もはやロシアでは現状を打破する事は出来ない。採れる選択肢はイワノフの言った通り、攻勢には出ずにひたすらに守りを固めるしかない。場の空気がイワノフ案で固まりかけたその時、それを良しとしない者が沈黙を破った。
「エネルギー相。確か資源の増産分の売却先はまだ決まっていないな?」
「はい。おっしゃる通り未定です」
大統領の唐突な質問に疑問を感じつつも答えるハラモフ。その言葉にノーヴァは何かを決意したかのように大きく頷くと、今度はヴィシンスキー外務大臣に向き直った。
「外相、大使館に連絡を入れろ」
「どの国の大使館ですか?」
ヴィシンスキーの返事に、ノーヴァは苦笑した。気がはやり過ぎていたため、言動が唐突になってしまったのだ。最も先に確認した資源の事と、これから告げる国の名前で、この場にいる者は大統領が何を考えているか直ぐに察するだろう。
「日本だ」
10月15日。この日、防衛省や各地方隊の上層部が行ってきた様々な苦労が実を結ぶ時が来た。
提督分散配備計画、始動。提督とその配下の艦娘たちが日本各地に赴任され、その地域の防衛任務に就くこととなった。
この計画は深海棲艦の侵攻に対する効率的な迎撃を主目的としている。デメリットとして戦力の分散となってしまうため一時的に迎撃戦力が低下する事が挙げられるが、来年予定されている『東南アジア進行作戦』の件もあるため、現地での艦娘の建造は許可されており、問題は時間経過と共に解決するとされていた。
横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊。各地方隊に所属している提督と艦娘は、これまで過ごしてきた鎮守府から離れていく。ある者は新天地に期待に胸を膨らませ、ある者は未知の地に不安を抱いた。様々な想いと共に、各地に散っていく。そんな中、ある提督は――
「どうしてこうなった……」
降り立ったとある島の桟橋で頭を抱えていた。
「そうねー」
ある提督――秋山の初期艦である叢雲は秋山の座る車椅子を押しつつも、肩を竦めた。桟橋は長期間放置されていたためボコボコに荒れているが、彼女は未だに左腕と右足にギブスを付けている秋山に振動が来ないように上手く操作しつつ進んでいく。
「評価はされてるんじゃないの?」
「だからってこんな所に飛ばされるとは思わなかった……」
秋山たちがいるのは、本土ではなく伊豆諸島のとある島であった。この島は元々は有人島だったのだが、深海棲艦が活発化し始めた頃に行われた離島住民の本土への強制移住によって放棄された島である。その様な経緯から島には荒れてはいるものの、未だに利用できる建物が幾つか存在している。
「そもそも18歳になるまでは横須賀にいる手筈だったはず……」
「結構苦しい事情があったらしいわよ?」
未だに15歳である秋山は、当初の予定ではそのまま横須賀鎮守府にいる事となっていたが、硫黄島の奪還と彼の挙げた戦果がそれを阻む事となった。横須賀地方隊は硫黄島まで急激に拡大した防衛範囲に、四苦八苦していたのだ。幾ら未成年とは言え実力のある提督を横須賀で遊ばせておく余裕は全くなかった。
その様な事情から秋山は横須賀以外に赴任する事となったのだが、ここでネックとなったのがやはり年齢だった。下手な所に赴任した場合、現地の住民によって提督の年齢がバレてしまう可能性がある。
その問題を回避する手段として用いられたのが、この離島への赴任なのだ。同時に他の提督よりも自由な裁量を与えており、秋山たちの戦力を十全に使っていこうという思惑もあった。
「なんで知っているんだ?」
「ツテがあるのよ」
余談ではあるがこの辺りの事情は『艦娘通信』によって叢雲を始め、多くの艦娘たちの下に届けられていた。
「それはともかく、さっさと仮拠点に行くわよ。荷物も多いんだから」
「確か小学校の校舎だっけ? 鎮守府が出来るまでそこで暮らすことになるのか」
「先ずは掃除しないとね」
「まあ鎮守府が完成するまで1週間位だし、最低限で良いだろ。一緒に送られてきた物資は?」
「他の皆が仮拠点に持っていったわよ」
「そっか。……そう言えば食事はどうする? 家にはまだ間宮がいないぞ?」
「あっ」
こうして若干の不安を孕みつつ、秋山の赴任先での初日が始まるのだった。
攻略と執筆の同時平行とか、かなり辛い(;・ω・)
最悪、ストックしてある番外編を出すはめになりそう。