それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
また、今回は「仮想」ではなく「火葬」要素がありますので、苦手な方は注意してください。
2016年。この頃、どの国も深海棲艦の被害を受けており、状況を打破しようと模索していた。そんな所に敵の拠点が現れたのだ。彼の地を攻略する必要があるのは当然であり、上手くいけば敵の情報が手に入るかもしれない。そのような共通の思惑があったからこそ、アメリカが提案した敵拠点の制圧作戦に各国は飛び付いた。
オペレーション・ビギニング。
人類の反撃の始まりとなることを願い名づけられたその作戦は、多くの国が参加することとなる。戦力は国連軍の名目で各国の軍が派遣され、戦力を出せない国も物資援助や資金提供などを行っている。
この作戦で編成された国連軍は一般人からは、世界の危機に一致団結して立ち向かう人類の象徴の様に捉えられていた。しかし内情は各々が暗闘を繰り広げる伏魔殿であった。
2016年6月。ニューヨークの国連本部では国連軍に参加する各国の代表者が激論を交わしていた。所属が違う軍同士が上手く連携を取るには、あらかじめ打ち合わせは必要だった。
作戦の基本方針の確認、投入される戦力の決定、作戦の指揮を行う総司令官の任命等、手早く決定されていく。会議の中心にいるのはアメリカだった。今回の作戦において、アメリカは艦隊戦力だけでなく、敵拠点の制圧のための陸上戦力や、戦略爆撃機の派遣も決定している。そのため難なく主導権を握ることが出来ていた。
だが、そんなスムーズに行くかと思われていた会議だったが、待ったをかける存在があった。
「なぜ我が国の艦を貴国に預けなければならない」
憮然とした態度の中国代表。対するアメリカの代表は顔を引きつらせていた。
事の始まりは艦隊の指揮権についての議論だった。基本方針、総司令官の決定と思惑通りに事を進めることの出来ていたアメリカは、各国の艦を統合・編成した主力艦隊の指揮権についても手に入れようとしていた。それに異を唱えたのが中国だった。
「我が軍の精鋭をアメリカの盾になどされてはかなわん。我が国単独で動かせてもらう」
今回の拠点攻略作戦において、アメリカに次いで戦力を派遣するのは中国であった。陸上戦力はアメリカと同等、海上戦力では虎の子の空母を中心に多数の艦船を派遣されるなど、いかにこの作戦に力を入れているかが良くわかる。
この大戦力の背景には、中国共産党の焦りがあった。中国の思想傾向的に、面子が権威や国家の威信に深く関わってくる。中国国内では香港の壊滅は面子が潰されたと解釈されていたのだ。また香港壊滅の影響で経済の低迷が始まっており、合わせて抑圧していた国民の不満も噴出し始めていた。このままでは国家運営に支障をきたしかねず、何かしらの大きな戦果を挙げて面子を保つ必要があった。そんな時に出現したのが敵の拠点だ。これを占領出来れば香港壊滅の分の負債がチャラに出来るどころか、以前より国威は上がると判断された。
だからこそ占領作戦に参加したのだが、実態はアメリカ主導の作戦。このままアメリカの思惑通りにことが進めば、国民の不満が増大しかねないため、何とか艦隊の指揮だけでも欲していた。
「本気で言っているのか?貴国が派遣する艦隊だけでは戦力に不安がある」
「敵拠点の有する戦力は未知数です。単独行動したところで、各個撃破されかねないのでは?」
思わぬところで躓き内心苦々しく思っているアメリカ代表と、アメリカに援護する形で自論を出す日本の代表。しかし中国代表の態度は変わることは無い。
「そのために空母を派遣するのだ。更に我が国では対深海棲艦用の新型ミサイルを配備している。問題はない」
「貴国がその新型ミサイルを公表したのは一週間前だ。本当に効果はあるのか」
「実地試験は行っている」
「いくらそのミサイルが有効でも、戦力分散は問題なのでは?」
「我が国の分析では今回作戦に参加する艦艇全てを一つの艦隊で運用するのは、効率が悪いと判断している」
中国代表も一歩も引く気はない。だからと言ってアメリカが引くことはあり得ないだろう。そしてこのまま行けば議論は平行線となることは、会議の前から予測していた。だからこそ、中国は事前にある国と協議をしていた。
「いい加減落ち着きたまえ」
白熱する議論に静かながらも議場に通る声で冷や水を差す者がいた。その国はロシア。その代表は場が落ち着いたことを確認すると、改めて口を開く。
「さてアメリカと日本は中国艦隊が単独行動することによって、各個撃破されることを懸念しているのだな」
「そうです」
その言葉に頷く日本代表。それに満足したのか今度は中国の代表に目を向ける。
「そして中国は艦隊を分けた方が効率が良い、と」
「そうだ」
中国代表の返答に頷くロシアの代表に、アメリカ代表は顔には出さないが、訝しんでいた。
(何をする気だ?)
彼は何をしようとしているのかその意図を測りかねていた。そうしている間にも、ロシアの独壇場は進み、そして彼は事も無しげに言った。
「ロシア艦隊を中国艦隊と合流させよう。これなら戦力的に問題はない」
思わぬ言葉に議場がざわつく。それを気にも留めずに彼は中国代表に向き直った。
「よろしいかな」
「それなら構わない」
まるで当然と言わんばかりに頷く中国代表に、アメリカの代表は何があったのかを悟った。
(こいつら最初からグルか!)
中国・ロシア艦隊の構成。これが中国が事前にロシアと協議していた仕込みだった。この二カ国からなる艦隊なら、アメリカ主体の艦隊よりも劣るとはいえ、十分な戦力となる。アメリカが表向き用として提示した問題点が解決出来ていた。
勿論、この仕込みのために中国はロシアに様々な対価を払うことになっていたのだが、中国共産党は主目的を達成できるならと余り気にはしていなかった。
「異論はあるかね?」
顔を紅潮させているアメリカ代表を気にも留めず、参加者全員に確認を取るロシア代表。反対意見がない事に軽く頷くと、再度口を開いた。
「では、次の議論に移ろうではないか。時間も有限だ」
こうして、アメリカの当初の目的とはズレが生じつつも、人類は着々と作戦のための準備を進めていくこととなる。
オペレーション・ビギニングに参戦する海上戦力は第一艦隊、第二艦隊の二個艦隊で編成されている。アメリカ海軍の原子力空母二隻に加え、中国海軍の切り札である空母戦力も編入されており、その規模は深海棲艦出現以来、最大規模となっていた。
編成は第一艦隊がアメリカ海軍を中心にその同盟国の艦船で構成されており、規模の大きいものとなっている。そして急遽編成された第二艦隊の中心は中国海軍であり、それを補助する形でロシア海軍が脇を固めていた。
また、この二個艦隊の後方には揚陸艦や輸送艦が護衛の艦に守られながら控えている。これらの艦には各国の陸上戦力が控えており、敵の海上戦力を無効化した後、敵拠点を占領するための戦力となっていた。
第二艦隊の司令官である中国海軍の中将は、旗艦である空母「遼寧」のCICで様子を平静を装いながらも、内心は不満を抱いていた。
(共産党の馬鹿どもが……)
彼は海軍内で空母の運用に従事している軍人の一人だった。それ故に自分達の実力はよく知っている。それ故に今回の遼寧の出撃は大いに不満だった。
中国海軍は空母の運用の経験はまだまだ浅い。彼もなんとか実戦に耐えられるようには急ピッチで訓練させたが、まだまだ不安が残る。党上層部の望むような、アメリカ海軍の艦載機隊の様な活躍はまず望めないだろう。
これだけでも彼が不機嫌になるのに十分な要素であるが、他にも不満はあった。
空母の護衛となる駆逐艦やフリゲートも数を揃えてはいるが、それにも問題があった。中将は対深海棲艦戦初期から戦い続けていたベテラン達を希望したのだが、共産党は国土防衛を名目にこれを拒否。代わりに彼の元に配属されたのは、新人ばかりの護衛艦隊だった。今はなんとか連携は取れているが、実際に深海棲艦との戦闘になった際、どうなるかは未知数だった。
また、今回一緒に第二艦隊で行動をしているロシア海軍は、派遣されている艦の数はかなり少ない。ロシアは本土防衛を名目に空母戦力の派遣を拒否し、巡洋艦を旗艦とした少数の艦隊のみが出撃していた。勿論いないよりマシではあるが、ロシア艦隊を当てにするすることは出来ない。
中将としては、アメリカの当初の予定通り各国の艦隊を一つにまとめて運用してほしかったが、政治がそれを許さなかった。勿論外交的にも国内政治的にもここで何かしら武勲を立てなければならないことは理解しているのだが、実際に命を懸けることになる軍人としてはたまったものではない。
(これで戦えるのか?)
とはいえ既に過ぎてしまったことを嘆いていてもどうしようもない。彼は気持ちを切り替え、仕事にとり掛かろうとした所で、CICの戦術情報士が声を上げた。
「先行していた早期哨戒機より入電。敵艦6、方位11より接近。戦艦1、重巡1、軽巡1、駆逐3」
「やはり来たか」
「提督、この陣容なら艦載機は出さなくても問題ないでしょう」
参謀長が提言する。彼も艦載機隊の練度には不安がある様だった。
「確かに水上艦だけで十分だ。全艦に通達、攻撃準備」
敵は戦艦を中心とした六隻編成。これなら第二艦隊の規模的に空母戦力を温存しても、問題なく対応できる。緊迫した空気の中、第二艦隊と深海棲艦の距離がどんどん縮まっていき、ついにミサイルの射程範囲に入った。
「攻撃開始」
中将の号令と共に、艦隊から一斉に対艦ミサイルが発射される。
打ち出されるのは、中国が先日開発した新型の対深海棲艦用のミサイルだ。旧来の対艦ミサイルよりも破壊力を向上させているそれは、開発者が「駆逐級なら一撃で倒せる」と豪語する兵器だ。しかしテストは済ませてあるものの、実戦での使用は今回が初めてであり、やや不安が残る代物でもあった。
そんな新型ミサイルだったが、特に問題を起こすようなことは無く高速で飛翔し、センサーに目標を捉える。深海棲艦に殺到したミサイルは少なくない数の外れ弾を出しつつも次々に命中していく。
そしてミサイルの雨が止んだ頃には、深海棲艦の姿は残骸を残して消え去っていた。
(何とかなったか)
歓喜に沸くCICの中、中将は一人安堵のため息を吐くと、改めて艦隊に前進の指示を出した。
「中国艦隊も中々やるじゃないか」
第二艦隊の後方、第一艦隊の旗艦であるアメリカ海軍揚陸指揮艦「ブルー・リッジ」のCICで第一艦隊司令官は感嘆の声を上げていた。
「彼の国の新型兵器は有効だったようだな」
「しかし命中率は変わっていないようです」
参謀長の手には先程部下から上がってきた報告書がある。内容は第二艦隊が行った戦闘についてと、中国海軍の放った新型ミサイルについてだ。戦闘が終わってから時間はそこまで経っていないため精査も十分ではないものの、ある程度の性能は予測できた。
「だが破壊力はかなりある。余程、深海棲艦が嫌いなようだな」
「香港の件が余程堪えたのでしょう」
参謀の予測は当たっていた。中国では深海棲艦が出現した頃から新型ミサイルの開発を行っていたが、香港壊滅を期に開発速度が一気に上がっていた。危機感を募らせた中国共産党上層部が資金と人員をつぎ込んだからだ。最も開発を急ぐあまり不具合も多く、碌にテストもされずに艦隊に配備されたという事情を、第二艦隊の司令官にも知らされていないという事実までは流石に予測できなかったが。
「参謀長は我が国の対深海棲艦用ミサイルとどちらが有効だと思う?」
「艦対艦ミサイルと空対艦ミサイルを比較するのはナンセンスかと」
「それもそうだな」
アメリカでも対深海棲艦用のミサイルは開発されており、今回の作戦にも配備されているのだが、中国の物とは違い航空機用のミサイルだった。広大な海域を守る必要のあるアメリカでは、艦船だけでの防衛は困難であると考えられている。そのため迅速に展開できる航空機に期待が寄せられており、兵器開発でも航空兵装の開発に重点が置かれていたのだ。
中国のミサイルについて考察する彼らに、鋭い声が響く。
「方位三時方向より敵機来襲。数は300機程と思われます」
深海棲艦の使う航空機は小さく単機ではレーダーに映りにくいが、ある程度の規模の編隊を組んでいた場合はレーダーに捕らえることが出来る。とはいえ正確な数は分からないので、規模から大まかな数を予測する形で報告されていた。
「来たか。全艦対空戦闘用意」
司令官は即座に命令を下す。CICに緊張が走り、各々が仕事に取り掛かる。そんな緊迫した状況で、士官から思わぬ報告が入ってくることとなる。
「日本艦隊より通信。新型対空ミサイルの使用許可を求めています」
「新型の対空ミサイルだと?」
「またこの防空戦は日本艦隊に任せて欲しいとのことです」
戸惑いながらも報告する士官の言葉に、司令官は肩をすくめた。
「随分な自信じゃないか」
「いかがしますか?」
「日本艦隊に使用許可を出す。日本艦隊以外は、各艦対空警戒を継続」
許可を得たと同時に、日本艦隊の動きがにわかに慌ただしくなるのがCICからでも分かる。また、他の艦も防空のために動き始めていた。
そして、艦隊の防空戦の準備が整った頃、遥か遠くの空に鳥の群れの様なモノが見え始める。深海棲艦の航空機だ。それが確認されたと同時に日本艦隊から幾筋もの噴煙が伸びていく。
「日本艦隊より対空ミサイルが発射されました」
「数が少ないな」
深海棲艦の航空機は、そのサイズから撃墜するのは容易ではない。対空ミサイルは有効ではあるのだが、深海棲艦が航空機を使う場合、大概が何十機もの機数で襲撃してくるため、対空ミサイルの数が足らないということは日常茶飯事だった。今回、日本艦隊が放ったミサイルの数は10。明らかに敵の規模に対して不足していた。
第一艦隊の誰もが十発のミサイルの行方を見守る中、それらは悠々と航空機の編隊の中に飛び込み――
通常の対空ミサイルではありえない程の大爆発を起こし、敵の編隊を薙ぎ払った。
「は?」
参謀長の間の抜けた声が響いている間にも、事態は進んでいく。爆炎の晴れた後には、その数を大きく減らした敵の編隊があった。バラバラだった敵機は編隊を組みなおすと反転、遠ざかっていった。
「敵編隊、撤退していきます」
「……全艦に通達。警戒を解除する」
脅威は去ったと確信した司令官は命令を下す。CICから緊張した雰囲気が霧散していく。そのような空気を感じつつも、司令官は参謀長に声をかける。
「どう思う?」
「サーモバリック爆薬と思われます。日本も随分と思い切ったことをしますな」
そこには呆れ顔の参謀長の姿があった。サーモバリック爆薬による爆発は、従来の爆弾と違い爆風衝撃波によるものだ。これは人間の様な生物には有効だが、建物などの無機物を破壊するには不向きであった。ましてや相手は未だにどういう原理で飛行しているのかも解らない深海棲艦の航空機。一機も撃墜できないということすらあり得たのだ。だが日本は賭けに勝ち、大戦果を挙げることが出来た。これは政治的にも大きな影響を与えるだろう。
「売り込んでくるか」
「恐らくは」
日本は新型対空ミサイルという手札を手にしている。この手札が外交の場で活用されることは、容易に想像がついた。何せ今までと比べて格段に敵を効率よく撃墜できるのだ。多くの国家が新型ミサイルを望むだろう。
とはいえこれらは、政治の分野になる。一司令官が口を出せる問題ではない。彼はかぶりを振り、現場の集中する。
「先に進むぞ」
こうしてそれぞれの思惑が絡み合う中、二つの艦隊は進んでいく。
日本のミサイル完成度:75
アメリカのミサイル完成度:86
中国のミサイル完成度:45
初期型特有の不具合だから(震え声)
中国がロシアに払った対価:78
ロシアは大分吹っ掛けたようです。中国のミサイルのライセンス生産は確実に持っていったな……
中国、アメリカが開発したミサイルは、従来の物の火力強化型と考えてください。
そして日本艦隊が使った対空ミサイルのモチーフは、「紺碧の艦隊」に登場する三八弾。小さい上に大量に飛来する深海棲艦の航空機を見た日本政府が太平洋戦争のトラウマを刺激された結果、突貫工事で作らせたものです。