それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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イベントはとりあえず何とか堀まで完了しました。後は警戒陣さんが帰る前にEOをこなさなければ……

今回のダイス:84、93。
……あっ


海を征く者たち33話 ある島国の検討 世界の中心の華の……

 11月の始め、首相官邸に各省庁のトップが集結していた。会議室に集まった彼らは配布された資料に目を通し、誰もが渋い顔をしつつもどこか困惑していた。

 

「まさかロシアからこのような提案が来るとは……」

 

 真鍋首相は手にしていた資料を置きつつ、ため息を吐いた。事の起こりはロシアからの提案だった。

 

「我々には貴国との平和条約締結の準備がある」

 

 突然の表明に現地の日本大使館を始め外務省は大混乱に陥る事となるのだが、そんな事はお構いなしに、ロシアは平和条約締結のための条件を提示した。これに対し日本はその場での返答は保留。真鍋は緊急の閣僚級会議の開催を決定した。

 

「各種戦略資源の底が見えてきた所ですからこの提案は願ったり叶ったりですが、この提案は……」

 

 江口経済産業大臣は顔を顰めつつ、資料に目を通していく。そこにはロシア側からの平和条約締結のための条件が記載されている。

 

○北太平洋地域の深海棲艦に対する露日による共同防衛条約の締結。

○一部艦娘のロシアへの譲渡。

○日本に所属する提督の派遣。

○日本への石油資源を始めとした各種資源及び食料の格安での販売。

○北方四島は交渉次第により譲渡の用意あり。

 

 はっきり言って吹っ掛けにも程がある内容だった。外交を始め、交渉ごとにおいてこのような事は常套手段ではあるが、それでもこれは日本側に利が少なすぎた。

 

「北方四島の返還は日本の悲願ではあるが……」

「勘弁して下さい。今の日本にあの島を維持する余裕なんてない」

 

 岡本総務大臣の言葉に井上財務大臣は反論した。北方四島に何かしらの鉱物資源が産出するのであれば素直に喜べるのだが、北方四島の主要産業は漁業だ。深海棲艦が跋扈する海で魚などマトモに獲れるはずがない。返還された所で、維持費や防衛のための戦力の捻出で出費が嵩むだけ。実利の面から言えば今の日本に北方四島など不要であった。

 

「そもそもロシアは何を考えているんだ?」

「? ここに書いてある通り、日本の艦娘戦力狙いだろ?」

「それは分かっている。俺が言いたいのはなぜこのタイミングなんだ? ということだ」

 

 会議室の多くの者はロシアの欲している物は直ぐに分かったのだが、相手が何を考えてこの時期にこのような提案を出してきたのかを図りかねていた。そんな彼らの下に、ある男の声が響く。

 

「そこは私が答えよう。最も推測も多分に混じるがね」

 

 多くの視線が声の主に集中した。視線の先には若干白髪交じりのオールバックの壮年の男性の姿がある。日本国の外務大臣を務める天野だ。彼は視線など全く気にする事無く、説明を始める。

 

「まずロシアの状況を説明しよう。彼の国は現在ヨーロッパ向けの資源輸出によって財を成しているのは知っての通りだ。そして輸出拡大のために新規の採掘施設の建造や、既存施設の拡張が行われていた」

 

 一息つくと、天野は肩を竦めた。

 

「問題は新規の採掘施設は極東ロシアに集中している事だ。防衛大臣。北太平洋のロシア領海内に深海棲艦の拠点はあるか?」

「3級が幾つかと多数の4級が点在しています」

「つまりロシアはその拠点からの圧力を警戒している、と?」

 

 真鍋の問いかけに、天野は小さく頷く。

 

「既に敵の攻撃を幾度か受けているようだ。現地メディアで度々報道されている。今回の条約のための要件を考えると、ロシアは日本を利用して極東地域の防衛を企んでいる、と言うのが外務省の見解だ」

「そしてあわよくば、資源を使って日本を配下に加えたいと言った所か」

「切っ掛けはやはり硫黄島の攻略か?」

「だろうな」

 

 会議室のあちらこちらからため息が漏れる。硫黄島の奪還によって日本の持つ艦娘戦力の実力を世界中に知られる事となった。その様な有効な戦力を他国が利用しようとするのは、ある種当然の事である。そして資源と言うカードを切られれば、良いように使われる事は分かっていても無資源国の日本にとって無視する事は出来なかった。

 

「取りあえず落としどころを考えよう。坂田防衛大臣、向こうからの条件には艦娘戦力についての項目があるが、それについてはどう思う?」

「そうですね……」

 

 坂田防衛大臣は改めて資料に目を通す。そしてある項目に目を付け、ため息を吐いた。

 

「まず艦娘の譲渡ですが、これはほぼ不可能です」

「日本の戦力的にか?」

「それもありますが、仮にロシアに艦娘を譲渡した所で戦力として使い物にはならないでしょう」

 

 艦娘は建造元の提督から離れる事を嫌う傾向がある。ここで言う「離れる」とは距離を取ったりや長期間提督の下から離れる事を意味するのではなく、「提督の配下にある」という立場から離脱する事を意味する。今回のロシアの提案の様に譲渡となると、この案件に引っかかってしまうのだ。艦娘の士気の低下は確実であり、譲渡先の提督の指揮に従うかも不明であった。

 

「研究用としての譲渡要求の可能性は?」

「その可能性は否定できません」

「なら余計にこの要求は呑めないぞ。我が国は艦娘を国民として扱っているんだ」

 

 神山法務大臣が口を挟む。日本では既に艦娘を日本国民として受け入れている。勿論戦時であり、彼女たちの持つ能力故に若干の制約もあるが、それでも権利関係は日本に住む人間と変わらない。これは日本は内閣関係者に提督がいたことから、政府内での艦娘への理解度が他国と比べて高い事が要因だった。そのため、人体実験目的でロシアに送るなど論外であった。

 

「提督の派遣は?」

「そちらの場合、人数にもよりますが国防的に問題が生じる可能性があります。人数によっては国防に穴が開きかねません」

「外務省としても提督の派遣は賛成出来ん。派遣先でハニートラップにでも引っかかって艦娘共々亡命しましたでは笑い話にならん」

 

 艦娘の建造が行える提督は各国にとって、垂涎の的なのだ。そんな人物がやってきたのなら、全力を持って取り込みに掛かるのは目に見えていた。

 

「そうなると北太平洋のロシアとの共同防衛か」

「内容にもよりますが可能ではあります。ただ場合によっては日本単独で北太平洋の防衛をしなければならない事も考慮しなければなりません」

「北太平洋のロシア領海内にある深海棲艦の拠点の攻略をしなければならない可能性は?」

「その可能性は十分にあります。とは言え、その拠点から出撃したと思われる深海棲艦が北海道で確認されています。拠点の攻略には日本にも一応ですが利はあるかと」

「ふむ。資源と引き換えに、北太平洋の共同防衛。これを目指してみるか」

 

 真鍋の言葉に多くの者が頷く。しかしそれに待ったを掛ける者もいた。

 

「待て、場合によってはこちらからもカードを切る必要がある。念の為に何か用意をしておきたい」

 

 天野としても首相の言った目標を目指すのに異存はないが、そう簡単に話が進む事は無いだろう。見せ札でも良いので何か交渉に使える物が欲しかった。しかし、

 

「それは解りますが、下手なモノでは相手が食いついてきません」

 

 江口は渋い顔で唸る。経済的に順調なロシアを相手に出せる交渉カードが今の日本には殆どなかった。正確には出せるカードはあるのだが、確実にロシアが興味を示すものが少なすぎるのだ。確実に交渉カードとなるのは艦娘関連ではあるが、これまでの議論で却下されている。

 参加者たちは随所で何か案が無いか小声で話し合うが、妙案が直ぐに浮かぶわけではない。それを感じ取った真鍋は方針の決定自体は完了しているため、一度落ち着かせるべく口を開いた。

 

「ともかく――」

「――艦娘自体は無理ですが、艦娘に関連するモノならば出す事は可能かと思われます」

 

 真鍋の言葉を遮り、ある人物が言葉を紡いだ。これに真鍋を含み、全員がその声の主に視線を集中させる。

 

「それは?」

 真鍋の問い掛けに、坂田は自信を持って答えた。

 

「艦娘用の装備です。コレならばロシアに送っても国防的な問題を最小限に留める事が出来るはずです。特に艦娘用艦載機は確実に食いつくでしょう」

 

 日本とロシアの艦娘の戦力は日本が優位にあるが、それは艦娘が使う装備の面でもそうであった。酸素魚雷に艦載用電探、そして超弩級戦艦の戦艦砲。そのどれもがロシア艦娘の力を向上させるものである。

 特に大きいのはロシアにはない艦娘用艦載機だ。艦載機自体は基地航空隊としても使用できるため、空母艦娘がおらず艦娘による制空権争いが出来ないロシアにとっても、有効なモノであった。

 

「しかし、ロシアの艦娘に日本艦娘の装備を搭載する事は出来るのか?」

「先日ドイツでの実験が行われ、問題は無いとの結果が出たそうです」

 

 ドイツでは艦娘の戦略の幅を持たせるための一環として、ドイツの戦艦艦娘にフランスの戦艦艦娘の主砲の搭載実験が行われていた。結果は仕様の差があるのか、習熟期間は必要にはなるが、他国の装備でも扱うことは可能であると結論付けられていたのだ。

 真鍋はそれに頷くと天野に向き直った。

 

「外務大臣、どうなんだ?」

「十分だ。有効に使わせていただく」

 

 天野がニヤリと笑う。こうして日本はロシアとの対話の準備を進めていったのだが、その裏である国が動き始めていた。

 

 

 

 11月のある日、中華人民共和国による台湾への侵攻が開始された。名目は台湾住民の救助であるが、目的が台湾に出現した提督である事は誰の目にも明らかであった。最もだからと言って無政府状態の台湾に味方する国家は無かったため、諸外国からの中国への干渉は全くと言って良い程なかった。

 中国は乾いた雑巾を絞るかの如く、何とかして戦力を捻出すると、台湾海峡を超えあっという間に台湾を占領していく。

 抵抗も少なく、次々と占領地を拡大していく中国軍であったが、それと同時に兵站は悲鳴を上げていた。輸送路に海が存在するためだ。平時なら問題なかったが、海では深海棲艦の跋扈する現在、亡命してきた台湾の提督を使ってはいるものの、マトモに艦娘戦力を持たない中国にとって、兵站の確保はかなりの労力を必要としていた。そして兵站の維持を含めた台湾侵攻という大作戦は着実に中国にダメージを与えていた。それでも中国政府の上層部はリスクに見合うリターンはあるはずであると、作戦を継続していた。

 

 台湾侵攻の目的だが、まず一つに各国が見抜いたように、台湾の提督の確保がある。台湾の提督が建造できる艦娘は、精々駆逐艦、軽巡程度ではあるが、それでも十分であった。何せ現代の軍事というものは恐ろしく金が掛かる。軍艦や航空機を動かすだけでも金は掛かるし、人件費も相応に掛かる。また攻撃手段である対艦ミサイルも値段は高い。それにも関わらず、相手は毎日のように何隻もやって来る。これでは資金がいくらあっても足りないのだ。そのため既存の軍事力よりも深海棲艦に有効であり、更に維持費が恐ろしく安い艦娘を欲しがるのは当然の事だった。

 また、艦娘戦力の保有による国際的地位の向上も目論んでいた。深海棲艦との戦いが各地で起きている現在、艦娘を運用する事が、そのまま国際的な地位に直結しているのだ。軍部だけでなく、外交に携わる者にとっても艦娘は必要であった。

 そして二つ目は国内事情に関連していた。深海棲艦出現以降、国内の統制を続けていたが、長く続いた戦時体制故に段々と綻びが出始めていた。また政府内でも非主流派が虎視眈々と政権を狙っており、朱主席にとって悩みの種であった。彼は手遅れになる前に、台湾侵攻と言う大規模作戦を成功させ、政府の強さを見せる事により国内を纏め、更にこの功績で権力基盤を確固とした物にしようと画策していのだ。

 

 こうした中国の事情もあり並々ならぬ覚悟を持って決行された台湾侵攻は、順調に進んでいった。現地は無政府状態なので、警戒すべきは深海棲艦だ。まとまった数の深海棲艦が攻撃を仕掛けて来た場合、艦娘が殆ど居ない中国軍は大きな損害を受ける事となる。そのため南沙諸島拠点を始め、深海棲艦の動きに一層の注意を払っていた。

 

 そのせいだろう。彼らは警戒すべきモノへの注意が逸れてしまった。

 

「今がチャンスだ」

 

 チベットやウイグル等、中国からの独立を目指す組織を始め、現政権に不満を持つ一部の民衆、テロリスト、果てには民主化運動家もが中国各地で一斉に蜂起した。この武装蜂起により中華人民共和国は大混乱に陥ることとなる。

 




台湾侵攻作戦1d100:01~40が失敗、41~70が順調に侵攻、71~は予想以上の攻略速度。
結果:84
中国軍「着々、戦果ヲ拡大中ナリ!」

中国国内不安1d100:1~30が平穏無事。31~70は若干不満が噴出するも大きな影響はない。71~90は不満噴出、一部反乱分子も動き始める。90~が一斉蜂起
結果:93
これ何時もの中華ムーブだ……

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