それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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谷風レベル97。レベリングしておいて良かったです。


海を征く者たち37話 蹂躙の海

「これより所属不明機を敵の新型と認識する! 新型の数はどうだ!?」

「数18です!」

「一個飛行隊程度か。各艦に対空ミサイルの用意を通達。新型に対して一斉攻撃を仕掛ける!」

 

 欧州艦隊司令官であるフィリップスは半ば悲鳴を上げるように艦隊に命令を出す。通常艦隊の対空ミサイルも航空隊と同じく全て特殊弾頭型であるため、現代戦闘機と同等のスペックを持つ敵の新型を撃つには向いていないが、攻撃手段がこれ以外になかった。

 

「敵新型が編隊から突出、こちらに向かっています!」

「艦娘への攻撃はあったか?」

「攻撃は確認されておりません」

「司令、どうやら敵の狙いは我々の様です」

「だろうな。対ミサイル防御準備!」

 

 この命令に各艦のクルーは緊張が走った。ここ4年以上はサイズが小さいとは言え時速700㎞を超えない程度の相手しかいなかったため、クルーがそれに慣れ切っていたのだ。また深海棲艦出現前は色々とキナ臭かった時期もあったとはいえ、ヨーロッパでは現代兵器同士がぶつかり合う戦争は起きていない。言ってしまえば彼らは初めてミサイルと言う現代兵器の危険にさらされているのだ。

 艦隊に張り詰めた空気が漂う。そして数分後、その時は来た。

 

「敵新型が射程に入りました!」

「攻撃開始!」

 

 フィリップスの号令と共に、通常艦隊から一斉にミサイルが放たれる。だがそれは敵も同じだった。

 

「敵新型よりミサイルの発射を確認!」

 

 通信士官の悲鳴のような声が響いた。同時に各艦からミサイルを撃ち落とさんと主砲や対空機銃が轟音と共に火を噴く。更に通常艦隊と共に後方にいた空母艦娘やその護衛の艦娘たちも、少しでも弾幕を厚くしようと各々が持つ砲火を上げていた。

 その努力もあって欧州艦隊は何発ものミサイルを防いでいた。ミサイル防御が各艦の主砲と機銃しかない状況を考えれば、予想以上とも言っても良い。だが18機から来るミサイルの一斉攻撃を防ぐことは出来なかった。通常艦隊にミサイルの雨が降り注いだ。

 

「ダメージレポート!」

 

 被弾した艦の艦長たちは慌てて対応していた。予想よりもミサイルの威力が低かったものの、装甲が殆どない現代の戦闘艦にとってこの被弾は艦の持つ戦闘能力を大きく減らす事となる。

 特に悲惨なのは艦隊旗艦である原子力空母「シャルル・ド・ゴール」だ。護衛の奮闘と必死の操艦にも関わらず3発が命中。その内1発が飛行甲板を破壊しており、艦載機の発着艦は不可能となっていた。

 また少なくない数の轟沈艦も発生していた。特に防空の要の一つとして艦隊に参加していたイタリア海軍の「アンドレア・ドーリア」が、集中打を浴び乗員の退艦も出来ずに轟沈するという悲劇が起こっていた。それ以外にも軽武装なフリゲートやコルベットを中心に総員退艦が出た艦があった。沈みゆく艦の周囲では退艦した乗員を助ける艦娘の姿が見られている。

 その様な光景を歯噛みしつつ、フィリップスは叫ぶ。

 

「敵機はどうだ!?」

「3機の撃墜を確認しましたが、残り15機が健在です!」

「やはり無理があったか!」

 

 特殊弾頭搭載型ミサイルでジェット戦闘機を3機撃墜出来たこと自体が奇跡に近いのだが、通常艦隊が壊滅している状況では慰めにもならない。生き残ったどの艦も立て直しに精一杯だった。

 そしてそんな彼らを置いて、事態は進行していく。

 

「敵新型後退! 同時に敵の空母型から発艦した航空機編隊が進出しています!」

 

 通信士官の声が響く。モニターに目を向ければ、仕事は終えたと言わんばかりに悠々と引き返していく新型と入れ替わる形で、彼方からこちらに向かって飛ぶ敵の大編隊が確認できた。フィリップスは顔を歪ませつつ、脇に控えているスターク参謀長に訊ねた。

 

「通常艦隊の状況はどうなっている」

「轟沈多数、生き残った艦も損傷が見られており、壊滅状態です」

「防空戦闘は?」

「自艦防衛ならば轟沈のリスクは大いにありますが可能かと。但し前衛の艦娘艦隊への制空援護は不可能です。また先程スエズに航空機を要請しましたが、時間が掛かる上にスエズに通常の空対空ミサイルはありません。間に合ったとしても敵にスコアを献上する事になります」

 

 トーネードやタイフーンを始めとした戦闘機は先の空戦で撤退。そして欧州艦隊の後衛として控えていた通常艦隊は壊滅している。これにより制空権争いの主力である人類の操る兵器群が使用不能となっていた。

残る手札は欧州艦隊所属の空母艦娘による航空機隊だが、

 

「艦娘だけで航空優勢を維持出来ると思うか?」

「……不可能です」

 

 第三波の規模は約1200と言う欧州艦隊の艦娘を上回る規模であり、当然敵の繰り出す航空機の数も上回っている。更に航空機の性能についても深海棲艦側が上であるため、敵が空の支配権を奪取するのは目に見えていた。

 そして肝心の艦隊戦において、航空優勢があちら側にあり更に数も上回っているとなれば、勝敗など容易に予測できる。

 ならば欧州艦隊の司令として下す命令は一つしかなかった。

 

「撤退するぞ」

 

 敗戦すると分かっていて戦闘を継続する程、彼は血迷ってはいなかった。不幸中の幸いではあるが、本拠地であるスエズはかなり後方にある。再戦する機会はあった。

 

「しかし敵は簡単には逃がしてはくれないでしょう」

 

 撤退する相手に追い打ちを掛けるのは戦争のセオリーだ。そのために戦争において撤退時に多くの被害が発生する事は良く知られている。撤退の指揮を執り行う指揮官は、如何に被害を抑えて後退する事が出来るかがカギとなる。

 敵は第一、第二波の残存艦と無傷の第三波。対する欧州艦隊は戦闘が続き疲弊し始めている艦娘艦隊と損傷艦ばかりの通常艦隊。撤退にはかなりの困難が伴うのは確実だった。

 

「なんとかするしかないな」

 

 フィリップスは一つため息を吐くと、前に向き直った。

 

 

 

 アラビア海での欧州艦隊の敗戦を受け、ヨーロッパ各国の軍部は大混乱に陥っていた。事前に情報を精査し、それを元に戦力を掻き集め万全を期して戦いを挑んだのだ。だが蓋を開けてみれば、予想以上の数と深海棲艦の繰り出した新兵器の前に敗北した。何とか撤退は出来たものの、通常艦隊も艦娘艦隊も壊滅状態に陥っていた。

 この事態にこれからの対応を協議すべく緊急の会議が執り行われる事となり、各国首脳陣がブリュッセルに集結していた。その誰もが顔を青くしている。

 

「まさか深海棲艦が現代戦闘機を繰り出すとはな……」

 

 ドイツ首相フューゲルはため息を吐きつつ、軍から上げられていた資料に目を通していた。

 

「この4年の戦いで我々は戦法を対深海棲艦用に最適化させてきていたのだ。そこへ現代戦闘機など繰り出されれば、大打撃を受けるのは当然でしょうな」

「一部で司令官の更迭の声が出ていますが、どうしますか?」

「不要でしょう。こんな自体を予測する事など不可能だ。それに下手に人事に手を出せば現場が余計に混乱するだけですな」

 

 イギリス首相であるマクドネルの案に、その場にいる全員が頷いた。アラビア海での海戦は全滅してもおかしくなかったのだが、あの欧州艦隊司令官はある程度の戦力を保持したままスエズに撤退出来たのだ。その事を欧州各国の首脳陣は評価していた。

 

「敵は?」

「ソコトラ島を占領して急ピッチで飛行場を建造中との事だ。それに合わせて一時的に侵攻が止まっている」

「スエズへの前哨基地と言った所か。あそこに基地を作れていればな」

「我々の方針はスエズが最優先だったのです。仕方のない事でしょう」

 

 イタリアのマルローネ首相は肩を竦めた。紅海の入り口に位置しており、地政学的にも重要な島であるソコトラ島は、ヨーロッパとしても確保しておきたい拠点であった。しかし何事にも優先順位がある。ヨーロッパから見た場合、地理的にも近く地中海と紅海を結ぶ重要拠点であるスエズ運河を確保、拠点化する事の方が、優先順位としては上であったのだ。

 そんな欧州が優先して確保したスエズ運河だが――現在、危機的な状況にあった。

 

「そのスエズを守る戦力はどうなっている?」

「先の海戦で大打撃を受けたせいで戦力が激減している。艦娘の方は修理が終わっているためある程度は戦えるが、問題は通常兵器の方だ」

 

 各国から集められた海軍艦艇と戦闘機は大打撃を受けたため、余程の軽微な損傷でもない限り修理のために本国へと回されていた。そのため通常兵器については、空軍戦力は半減、海軍戦力に至ってはほぼゼロに近い。

 ソコトラ島の拠点化が終わり次第発生するであろう深海棲艦の大攻勢に対して、艦娘だけでスエズ運河を守り切る事は困難であると見なされていた。

 

「となると援軍が必要か」

「通常兵器だけでなく、艦娘の増援も必要になるだろうな」

 

 スエズ運河を防衛するために、ヨーロッパ各国は援軍を出さざるを得ない。各国首脳の視線が自然とマクドネルに集中していく。先の欧州艦隊編成の際にイギリスは艦娘戦力はそれなりに出したのだが、代わりとして大西洋沿岸の防衛を名目に通常兵器の拠出を殆ど行っていなかったのだ。

 その視線にマクドネルは顔を歪めて答えた。

 

「我が国に期待しているようだが、期待には応えられそうにない」

「どういうことです?」

「資料を」

 

 彼の指示により、書類が各国首脳陣に配布される。そして誰もが目を見開いた。

 

「これは……」

「大西洋のアゾレス諸島拠点で深海棲艦の活発化が見られている。これでは迂闊に援軍を出せん」

 

 苦々し気に呟くマクドネル。イギリスでは既に厳戒態勢に入っており、まとまった数の援軍を出す余裕はなかった。

 

「スエズ突入のための囮では?」

「軍部でも同様の見方がされているが、仮にこれを無視してスエズに援軍を送った場合、大西洋側戦力の減少をチャンスと見てアゾレス諸島拠点が攻勢に出るとの結論も出ている」

 

 この説明に各国の首脳は顔を青ざめる事となる。つまるところヨーロッパで大西洋に面している国が動けなくなる事と同じなのだ。

 

「そうなると地中海に面した国々から援軍を出すしかないが……」

「我が国だけでは難しいでしょう。内陸国からも航空機を出していただきたい」

「当然だ。しかし……」

「ええ。通常戦力は何とかなるとしても、今度は艦娘戦力に不安が残ります」

 

 マルローネはため息を吐いた。イタリアを始めとして地中海の国々から艦娘戦力は派遣されるだろうが、戦力には不安があった。戦艦戦力はともかく、空母戦力はイタリアしかないのだ。これまでであれば制空については通常兵器を当てに出来たのでそこまで問題は無かったのだが、敵が現代戦闘機を繰り出してきた現状では、この空母戦力の低さは問題であった。だが打てる手が限られている以上、どうしようもない。

 

「……スエズが陥落するケースも考える必要があるな」

 

 フューゲルの言葉に、会議室は重苦しい沈黙に包まれた。スエズ運河が敵の手に墜ちる可能性は十分にあるのだ。もしもの時を考えるのは国を預かる者の義務であった。

 あちらこちらからため息が漏れる会議室。そんな状況を破ったのはマクドネルだった。

 

「……スエズ陥落のケースについてだが、それに関連して実は軍部からある計画が提案されている」

「なんだ?」

 

 フューゲルの問い掛けに対して、マクドネルは懐から出した書類をもって返した。そして参加者全員が内容を確認した時、誰もが渋い顔をしていた。

 

「一つ聞きたい。軍は本気なのか?」

「このままではスエズが陥落する可能性が高い。それならば、との事だそうだ」

「そもそもこんな過去の遺物が残っていたのですか?」

「深海棲艦の攻撃が激化し始めた頃に、本土決戦用に極少数だが新規に生産されていた。今や無用の長物だと考えていたが、まさかここで使うことになるとはな」

 

 自嘲気味に笑うマクドネル。

 

「これは飽くまでも保険だ。私としては許可したい所だな」

 

 暫しの沈黙。そして口を開いたのはフューゲルだった。

 

「……スエズを守り切れる可能性は十分ある。しかしもしもの時の備えが必要だ」

「そうですね……」

 

 ドイツ、イタリアの首相の賛成を切っ掛けに流れはイギリスの案への賛同に傾き、最終的に実行される事となる。

 こうしてスエズ運河防衛のための準備が進められていった。

 




撤退戦とか難しすぎて書けん……。
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