それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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今回のダイスロール

人類:53+15+35=103
深海棲艦:19+71+22=112

……何のダイスかは語るまい。


海を征く者たち38話 紅海海戦

 2018年1月8日。最低限ではあるもののソコトラ島の拠点化を終えた深海棲艦艦隊は、紅海の北上を開始した。この動きに対し、昨年にスエズ運河に建設されてた軍事基地では、侵攻を食い止めるべく迎撃を決定。艦娘艦隊及び通常兵器群が出撃した。

 

 迎撃の主力である艦娘艦隊の数は約950人。これは先の海戦の生き残りに加えて、海戦後に地中海に面した国々からの増援もあったため、前回よりも数が増していた。しかしトルコやギリシャを中心に増援に来た艦娘たちは性能に劣る艦が多く、実質的な戦闘能力については欧州艦隊の時よりも減少しているのが現状であった。

 そんな彼女らを補助する通常兵器群であるが、海上ではフリゲート3隻が出撃していた。ここまで少数である原因だが、アラビア海での海戦で生き残った艦が修理のために本国へ帰還しており、更に各国が増援の艦を出せるほど余裕が無かった、と言う事情があった。

 空についてはアラビア海海戦の生き残りと各国から派遣されたジェット戦闘機の合計60機出撃していた。これは前回の海戦で深海棲艦が繰り出した現代戦闘機、NATOコードネーム『フリント』を警戒しての物であり、作戦に参加している戦闘機は全て通常の空対空ミサイルを装備した制空任務仕様となっている。とは言えアラビア海海戦で『タイフーン』や『ミラージュ』に多数の損害が出ていたため、陣容は『F-4』や『ミラージュ2000』を始めとした第三世代ジェット戦闘機が数的主力である。そのため第四世代ジェット戦闘機と同等の能力を持つと予測される『フリント』を相手にどこまで戦えるのかは未知数であった。

 また本拠地であるスエズ基地では、艦娘用航空機による基地航空隊が編成されている。機体はイギリス、ドイツ、イタリアと様々な国の物が入り混じっており、空母艦娘の航空隊と協力することで航空優勢の獲得を目論んでいた。

 司令官は、先の海戦で欧州艦隊の指揮を執っていたフィリップス。本人は辞退したかったのだが、各国の政府上層部が撤退戦での指揮を評価していた事、更に敗北する確率の高い今回の迎撃戦の指揮を執りたがらなかったという事情のため、引き続き彼が司令官として任務に当たっていた。

 

 対してスエズを目指して紅海を進む深海棲艦艦隊だが、アラビア海海戦の生き残りを再編成した約2000隻、そして新型航空機である『フリント』が31機と言う陣容であった。

 人類が知る由は無いが、アラビア海海戦で深海棲艦が繰り出した戦力は、紅海、アラビア海、インド洋、そしてチャゴス諸島拠点の大半の戦力をつぎ込んだ物なのだ。ある程度の戦力の補給はともかく、100隻単位の大規模な増援を出す余裕は無かった。

 特に『フリント』は先の海戦で5機が撃墜されたが、機体の製造にコストも時間も掛かる事から補充機が出す事が出来ず、欠員が出たまま戦う事となっていた。

 

 現地時間、午後2時。

 

《Sky-Eyeより各機、レーダーが敵航空機編隊を捉えた。数31、『フリント』だ》

《Knight-1、了解》

 

 両艦隊より先行していた、スエズ航空機隊とフリント編隊が接触。ここにスエズをめぐる戦いである紅海海戦が開始された。

 

《Knight-1、FOX-3》

《Blue-3、FOX-3!》

 

 スエズ航空機隊から多数の空対空ミサイルが目視外のフリント編隊目掛けて放たれる。そしてそれはフリントも同様であった。敵から放たれたミサイルがスエズ航空機隊襲い掛かる。

 

《Break!》

《Bre――Shit!》

 

 ある機は使用したミサイルの関係上祈りつつも前進を続け、またある機はミサイルを躱すべくフレアやチャフを撒きつつ回避機動を取る。当然敵の攻撃に食いつかれ、翼をもがれる機体も多い。だがスエズ航空隊に墜ちていく僚機を気に掛ける時間は無い。

 ミサイルに狙われなかった幸運な機、そして何とかミサイルを躱し切った機が、更に接近しドッグファイトを狙う。

 航空隊がフリント編隊の姿をその目で捉えた。そして同時にある事に気付いた。

 

《Knight-1よりSky-Eye。『フリント』が予想より減っていない》

《こちらでも確認した。各機注意せよ》

 

 第三世代機が中心とはいえ、50機からなるミサイルの飽和攻撃だ。海戦前のブリーティングではそれなりの数を撃墜出来ると考えられていたのだが、現実は異なり20機以上が生き残っていたのだ。

 しかし想定外の事態が発生したからと言って、作戦を中断する訳にはいかない。

 

《Blue-1、Engage!》

《Go、Go、Go、Go!》

 

 フリント編隊にスエズ航空隊が突入していく。それを切っ掛けに両軍入り乱れたドッグファイトが始まった。

 

《Enemy down!》

《Knight-2、FOX-2!》

《I’m going down! going――》

《FOX-2!FOX-2!》

《Break、Break!》

 

 21世紀に入り見る事など無いとされていた大量の現代戦闘機同士による近接戦闘が紅海の空で繰り広げられていた。墜とし、墜とされ、着実にその数を両軍は減らしていく。そしてこのダメージレースで不利なのは――スエズ航空隊だった。

 

《Knight-1、FOX-2!》

 

 Knight-1の操るタイフーンが『フリント』の後ろを取り、短距離空対空ミサイルのサイドワインダーを放つ。特有の独特の軌道で迫るソレを、『フリント』はフレアを射出しつつ回避機動を取る。これはセオリー通りである。だが回避機動に問題があった。

 

《クソ、ふざけた機動を取りやがって!》

 

 目標が急速な旋回を取る。その動きはパイロットが急激なGにより失神しかねないレベルの物だ。だが『フリント』はそれを難なくこなし、最終的にミサイルを回避してのけた。この様な光景がこの戦場では幾度となく繰り広げられていた。このパイロットが搭乗していては取る事の出来ない機動性こそが『フリント』の強みなのだ。

 だがその様な状況にあってもスエズ航空隊は諦めるつもりはなかった。『フリント』を抑えられるかどうかで戦況が左右するのだ。そしてそれを出来るのは自分達しかいないのだ。各機が必死に『フリント』に食らいついていく。

 そして――

 

《駄目か。Knight-1、Eject!》

 

 最後まで空に残っていたタイフーンが被弾し、パイロットが脱出する。パラシュートで降下している最中、彼を撃墜した『フリント』が遠ざかっていくのが見えた。

 数十分の激闘の末、紅海の空に残っていたのは『フリント』だった。スエズ航空隊は壊滅。辛うじて生き残った機体もボロボロになりながらも離脱していった。

 しかし彼らの努力は無駄ではなかった。

 

「離脱したか……」

 

 僅かに残っていたフリント編隊は反転し、スエズから遠ざかっていく。その機体はどれも傷ついており、飛ぶのがやっとの状態であった。

 スエズ航空隊は確かに壊滅した。しかしそれと引き換えにフリント編隊の撃退には成功したのだ。この事は戦局に大きな影響をもたらす事となる。

 

「攻撃隊発艦開始!」

 

 空母艦娘たちが空白となった空を支配するために、艦載機を発艦させる。各々の母艦から発艦した航空機たちは素早く編隊を組み、敵の襲来に備えた。

 そして間もなく、航空管制機からの通信が艦隊全体に響く。

 

《敵航空機隊を確認した》

 

 無線と同時に彼方より幾つもの航空機編隊が姿を見せる。その数は艦娘たちが放った航空機を上回っている。しかし、

 

《Sky-Eyeより通常艦隊。敵編隊に『フリント』は確認されていない》

《了解した。対空戦闘用意》

 

 通常兵器への脅威となる『フリント』が居ないのなら、数の優位を抑える事が出来る。通常艦隊は素早く特殊弾頭搭載型ミサイルの照準を敵の編隊に向ける。

 

「攻撃開始」

 

 3隻のフリゲートから一斉に艦対空ミサイルは一直線に深海棲艦の航空隊に突入、巨大な爆炎を持って敵機を薙ぎ払った。

 深海棲艦航空隊の数が一気に削り取られる。だがそれでも十分な数を有していた。幾らまとめて撃墜できるとは言え、3隻のフリゲートだけでは敵の航空機を壊滅させる程の手数を有していないのだ。

そしてその事は司令部でも予測されていた。だからこそスエズ艦隊は次の手を打っていた。

 

《スエズ基地航空隊、参戦します!》

 

 通信と共に、スエズ艦隊の後方から艦娘の使う航空機の編隊が飛来した。空母艦載機と基地航空隊による航空優勢の獲得。これが通常兵器が限られる現状で取れる次善策だった。

 二つの勢力による航空戦が始まった。味方が撃墜したと思ったら、次の瞬間には墜とされる。時折通常艦隊からの援護により、空に火炎の球が膨れ上がる。

 そんな激しい航空戦の下で、海上でも戦いが始まろうとしていた。スエズ艦隊の先頭を征くのはアラビア海海戦を生き延びたネルソン級戦艦を始めとした戦艦部隊だ。対する深海棲艦側はル級エリートを含む戦艦部隊。共に16インチ砲搭載艦だ。

 瞬く間にお互いの距離が詰まり、砲撃射程圏内に入る。

 

「Shoot!」

――!

 

 同時に砲火が上がった。こうして艦娘と深海棲艦の激闘が始まった。

 

 

 

「戦況はどうなっている?」

 

 スエズ基地の司令部で、作戦司令官であるフィリップスは参謀のスタークに訊ねた。紅海での海戦が始まり既に数時間が経過しており、基地の人員は誰もが慌ただしく動いていた。

 

「現在、海、空共に拮抗状態が続いています」

「海はともかく、航空優勢が取れていないのか?」

 

 艦娘用航空機については空母艦娘と基地航空隊の合計で、深海棲艦側とほぼ同数となっている。それだけでは性能差により押されるだろうが、今回は3隻しかいないもののフリゲートによる対空援護が行われているのだ。戦力的に辛うじて航空優勢を獲得できるはずであった。

 

「使用している航空機の航続距離が短すぎるのです。短期間で補給のために帰還する事になっており、結果的に押し切れない状況が続いています」

 

 欧州機の特性として航続距離が短い事が挙げられており、増槽なしでは1000㎞も飛べない機体も多い。短期間での戦闘であればこの問題が見えにくいのだが、今回の様な長期戦となると、戦場に居られる時間の短さが問題となってきていた。

 

「空がその様な状況で、海上の方は大丈夫なのか?」

「敵が我々の2倍近くですが、良く守り切っています」

「増援の艦娘はどうなんだ? 主要国の艦娘よりも若干性能が低いと聞いたが」

「現在の所問題はありません」

 

 艦娘と深海棲艦の戦闘能力を比較した場合、能力の高い鬼、姫級と言う例外があるものの、基本的に艦娘の方が勝っている。これはフィリップスたちの不安要素であったトルコやギリシャからの艦娘も例外ではない。装備面こそ深海棲艦に対して劣っているが、十分な戦闘能力を有している。そのため数の差が2倍程度であるならば、各艦が連携する事により拮抗状態に持ち込めていた。

 

「しかし報告が入っています」

「と言うと?」

「現在行われている海戦ですが、深海棲艦側の姫級が海戦に参加していません」

「それは行方不明ということか?」

「いえ、敵艦隊の後方で待機しています」

「……」

 

 この報告にフィリップスは不安を感じざるを得なかった。敵が何か企んでいるのは確実だろう。

 

「後方の姫級に攻撃出来ないか?」

「難しいかと。既に有効な戦力が残っていません」

 

 海上での攻撃は姫級が後方にいるため不可能、航空攻撃なら届くかもしれないが当然護衛の戦闘機が残っているため、碌な打撃は与えられないだろう。フリゲートによる対艦攻撃ならば届くだろうが、姫級に対して通常兵器は殆ど効果はない。今の彼らに姫級への干渉をする力は残っていなかった。

 

「……前線部隊には警戒するように通達しろ」

 

 不安を孕むスエズ基地の上層部ではあったが、注意を促すしか打てる手は無かった。

 

 

 

 長期に渡る海戦は、太陽が沈んでも続いていた。紅海上空では夜間戦闘が困難な艦娘、深海棲艦の航空隊は母艦に帰還。海上は時折放たれる照明弾の中でのレーダー及び目視による戦闘が継続されている。

 だが若干だが戦局に動きが出始めていた。スエズ艦隊が押し始めたのだ。これは敵の航空機による攻撃がなくなったことにより、練度に勝る艦娘たちが十全に戦闘能力を発揮できるようになったためであった。

 

「このまま行けば押し返せるか?」

 

 前線部隊の誰もがそう考えるようになった時、深海棲艦も動き出した。

 

「敵航空機襲来!」

 

 切っ掛けは、一度は引いた敵の航空機による夜間攻撃だった。深海棲艦の一部の空母は夜間攻撃の可能な艦載機を使用している事は以前から知られていた。最も攻撃できると言っても命中率はかなり低く、そこまで脅威ではないとされていた。

 問題はそんな航空攻撃が、スエズ艦隊のある一点に集中している事であった。そこはスペックが低い艦娘が若干集中している所であり、同時に深海棲艦による攻撃を受けてしまったため、損害が加速する事となる。

 

「申し訳ありません。戦闘不能です……」

 

 そして程なくして敵の攻撃に耐えきれず艦娘たちは戦線を離脱。スエズ艦隊の取る陣形に小さな穴が開いた。これだけであれば紅海での海戦が始まってからよく見られた光景である。

 だがその小さな穴を深海棲艦たちが確認した瞬間、待っていたとばかりに、これまで戦闘に参加していなかった姫級たちが、陣形の隙間目掛けて突撃を始めた。

 

「不味い! 穴を塞げ、早く!」

 

 その光景に深海棲艦の狙いを察した一部の提督が叫んだ。慌ててフォローに入ろうとする艦娘たち。しかし既に遅かった。

 

――蹂躙しろ!

 

 姫級のみで構成された艦隊が陣形の穴に突入した。艦娘を圧倒する戦闘能力を有する姫級たちは、周囲の艦娘たちを次々と打ち倒しつつ、陣形の奥へと突入していく。それを止めようと慌てて戦艦部隊が立ちはだかるも、多数の姫級を止めるには至らない。

 姫級たちにより陣形が乱された事により、艦娘たちに動揺が走る。そして深海棲艦はその隙を見逃さなかった。

 

「敵の攻勢が強まったぞ!」

「後方は姫級にやられている! 不味いぞ!?」

 

 立て直そうと必死に指揮を執る提督たちと、それに応えようとする艦娘たち。だが敵の攻勢の前に、次々と撃破されていく。そして、

 

「司令部より前線艦隊へ。総員撤退せよ」

 

 これ以上の交戦は被害が無駄に拡大するだけと判断した司令部により撤退命令が出された。後にスエズ艦隊は撤退時に多数の損害を出しつつも、スエズ基地へ後退する事となる。

 こうして紅海海戦はスエズ艦隊の敗北と言う形で幕を閉じた。

 




惜しい。本当に惜しい……
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