それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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フランスに影響されて、今度はベルギーまで荒れ始めたぞ!?

今回のダイス・イギリス・日本の対米交渉の結果:89
……おっと?


海を征く者たち43話 紳士と侍の交渉

 イギリスと日本による共同声明はアメリカ政府上層部を困惑させた。

 確かにアメリカは日米安保やNATO条約を一方的な理由をもって履行せず、現地での深海棲艦との戦闘を放棄した。勿論それが外交的に大問題である事は十分に自覚していたし、相手国からある程度の対抗措置を取られる事は覚悟していた。しかしそれでも取って来る行動は、精々が経済制裁、最悪の場合で国交断絶と考えられていたのだ。

 しかし結果はそれを上回っていた。イギリスと日本は、検討中と言う但し書きを付けたとは言え「深海棲艦支援国家」と言う言葉を用いて、アメリカが敵国であると表明してきたのだ。この事は流石にアメリカにとって予想外であった。

 この英日の声明にアメリカ政府は当然の事であるが、批判を表明した。

 

「イギリス及び日本の声明は荒唐無稽であり、即座に撤回を求める」

 

 この時のアメリカ政府は先の声明を、イギリスと日本が過剰反応しただけだと見ていた。時間が経ては両国もある程度落ち着くであろうし、仮に敵対する姿勢を続けたとしても、このような話に他国は乗ってこないだろうと考えていた。

 だが事態は予想より早く進んでいた。

 アメリカが反論を表明した翌日。ドイツの外務省よりコメントが発表された。

 

「我が国はイギリス・日本の共同声明を支持する」

 

 このドイツの発表を皮切りに、世界各国は次々にイギリス・日本の支持を表明。最終的に必死にノーコメントを貫いたカナダ、中南米諸国を除いた全ての国が、賛同の意思を示す結果となった。

 この事はアメリカが半ば公然と世界の敵、いや「人類の敵」として認識されている事を意味していた。

 またこれに伴い、欧州ではある議論が持ち上がっていた。

 

「アメリカを深海棲艦支援国家と分類した場合、在欧米軍と大西洋艦隊への攻撃を行うべきではないだろうか」

 

 この発言者不明の意見に、欧州各国の世論は紛糾する事となる。日々激化する議論に在欧米軍は危機感を持ち、密かにだが最悪の場合に備えての準備をしなければならなくなっていた。勿論この議題は日本にも波及しており、昨年の駆逐艦「デューイ」の活躍により微かにだが良いイメージが保たれていた在日米軍への視線も、日に日に鋭い物となっていった。

 このような国際世論に、アメリカの世論は荒れる事となる。

 アメリカは「正義」を信奉している国だ。国民も政治家も「正義」を好んでいる。なおここで言う「正義」は「自身、もしくはアメリカの信じる正義」を意味するし、実際の国家間外交においては国益に沿って行動している。だがそれでも何かに付けて「正義」と言う概念を用いる事が多い国である。

 そんなある種独善的な彼らであるが、流石に世界各国から半ば人類の敵として見られていると言う事実は、アメリカ国民の持つ「自身の正義」を揺らがせるのには十分だった。勿論、世界各国からの批判に反発する者も多い。しかし同時に、このような事態を招いた政府を批判する者も少なくは無かった。

 

「現政権は碌に外交も出来ないのか!」

 

 少なくない規模の国民、そして野党である民主党からの突き上げにより、アメリカ議会では怒号が飛び交う光景が日常と化していた。当然与党である共和党、そしてクーリッジ政権の支持率も下落しており、一部では弾劾裁判の動きすら見られ始めている。

 またこのような批判は、外部だけでなく政府内部でも起きていた。

 

「せめてポーズだけでも取っていれば、こんな事にはならなかったんだ!」

 

 最後まで在外米軍の撤退に反対していた国務省、そして軍部からは不満が噴出していた。祖国がしでかしたツケを払わされるのは彼らなのだ。この不満は当然の事であった。

 このような内外からの批判により、クーリッジ大統領の影響力は低下、彼は対応に追われる事となる。

 そんな折、イギリスと日本がTV会議による首脳会談を持ち掛けてきた。これにクーリッジは事態打開のチャンスと考え、即座に承諾した。

 

「貴様ら、どういうことだ!?」

 

 会談の開始と同時に、憎々し気に怒声を浴びせるクーリッジ。それに対してイギリスのマクドネル首相、日本の真鍋首相は気にも留めていない

 

「おや、何の事ですかな?」

「我が国に対し『深海棲艦支援国家』等と、ふざけた事を言っておいて!」

「あれですか。あの件は検討中ですので、未だアメリカは深海棲艦支援国家ではありませんが?」

「あのような表明をしている時点で、人類の敵呼ばわりしているのと変わらないだろう! そもそも何を根拠にアメリカを深海棲艦支援国家などと名指ししたのだ!」

「ふむ、そこからか」

 

 マクドネルは肩を竦めた。

 

「簡単な事だ。これまでの在外米軍の行動から、我々はアメリカが裏で深海棲艦と繋がっていると考えたにすぎん」

「何?」

 

 意味が分からず訝しむクーリッジを余所に、真鍋が口を開いた。

 

「我が国の硫黄島攻略とほぼ同時刻に発生した、戦艦棲姫艦隊による東京湾侵攻未遂。その際、貴国は我が国の要請を拒否し首都圏から戦力を退避させました。余りにも露骨ではありませんか?」

「……確かに要請を拒否したが、例え参戦した所で艦娘を持たない在日米軍では戦局に影響を及ぼさないはずだ」

「なるほど、貴国の言い分はそれですか。まあ、いいでしょう。我が国は幸いな事に被害を最小限に抑えられました。しかし欧州は違います」

「その通り。アラビア海海戦、紅海海戦で欧州各国の連合艦隊は敗北し、スエズ運河は深海棲艦の手に墜ちた」

「それについては、我が国は事前に参戦を拒否している。それともアメリカ軍が参戦しなかったからスエズを守れなかったというのか?」

 

 鼻を鳴らすクーリッジに、マクドネルはため息を吐いた。

 

「確かに最初はこの敗戦はアメリカとは関係ないと考えていたとも。だが海戦について研究している際に、ある疑惑が浮かんできたのだよ」

「疑惑だと?」

「まずアラビア海海戦での敗北は、深海棲艦の現代戦闘機『フリント』が原因だ。あれにより航空優勢を喪失し、更に通常艦隊も壊滅した。例えあの時アメリカ軍が参戦していたとしても、敗戦は免れないだろう」

「その通りだ」

「だがね、クーリッジ大統領。こう考えられないかね」

 

 マクドネルはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「アメリカはフリントを知っていたからこそ、参戦を拒否したのではないか? と」

「……は?」

 

 呆気にとられるクーリッジを余所に、マクドネルは続ける。

 

「あの状況でフリントを初見で対応する事はどの国であっても不可能だ。だからこそ貴国は自軍の被害を避けるために参戦を拒否した」

「何を……」

「もう一つ根拠を出そう。紅海海戦初戦で起きた現代戦闘機とフリントによる航空戦だ。この空戦は我が方の航空隊は壊滅したがフリントは撃退できており、実質引き分けに近い。軍の見立てでは、仮に米軍が参戦していれば、航空優勢を奪取出来ていたと結論付けている。またあの戦況で航空優勢を維持できていれば、深海棲艦を撃退出来た可能性すらあった、とね。さあ、貴国の言い分を聴こうか」

「……」

 

 クーリッジは根拠の余りの荒唐無稽さに唖然としてしまう。暫しの沈黙の後、彼は絞り出すように呻いた。

 

「……このような陰謀論を根拠にするだと? 貴様ら正気か?」

 

 マクドネルの説明はどれも状況証拠を繋げたに過ぎない。これだけでアメリカが深海棲艦と繋がっているとの根拠とするならば、ただの言いがかりレベルだ。だがマクドネルは笑いながらはっきりと告げた。

 

「正気だとも。我々は貴国の様に自作自演で相手を攻撃する気はないのでね」

 

 彼は全く悪びれる様子はない。その様子にクーリッジは再度顔を紅潮させるが、マクドネルはそれに気にも留めず続ける。

 

「少なくともこの説明で、我が国と日本以外でも賛同している国は数多くある。それだけ我々が信用されているという証拠ではないかね?」

 

 彼の言葉は暗に条約破りについて批判していた。クーリッジは顔を歪めつつ、静観している真鍋を睨みつけた。

 

「真鍋、貴様もか」

「まあ、クーリッジ大統領の言いたいことも分かりますが……」

 

 真鍋は肩を竦めた。

 

「私は政治家としての義務を果たすだけです。少なくとも条約破りをした貴国への報復は必要でしょう?」

 

 それこそが英日、そして共同声明に賛同した国の総意だった。国に利益をもたらす事。それこそが国の運営を預る者の義務なのだ。アメリカの条約破りを批判するためでもあるが、日本を始め各国が英国の考えたプランに乗ったのも、その方が国家に益があるからに過ぎない。名目など最低限取り繕っていれば良いのだ。現在のアメリカに対する世界情勢は、各国のある種健全な国家運営の結果であった。

 

「……」

 

 怒りに震えながらも沈黙するクーリッジ。既に味方はおらずアメリカを取り巻く世界情勢は最悪だった。だがアメリカには最大のカードが残っていた。

 

「その様な態度を取り続けるならば、我が国はF-35のライセンスの許可を取り消す選択肢もあるぞ」

 

 深海棲艦の繰り出した現代戦闘機「フリント」への対抗策として、現在各国で取り沙汰されているのが、アメリカの第5世代戦闘機であるF-35だ。旧西側諸国においてこれしかフリントに対して対抗できる戦闘機が無い以上、これは逆転すら可能な強力なカードなのだ。

 だが、切り札を切った彼へのマクドネルの回答は簡素なモノであった。

 

「構わんよ」

 

 極平然と問題ですらないように、マクドネルは告げた。対照的なのはクーリッジだ。信じられない物を見るかの様に目を見開いている。

 

「本気か? フリントに対抗出来なくなるぞ」

「いえ、防衛戦に限れば現状でもある程度の対抗は可能です」

 

 真鍋は資料を手にしつつ、反論を始めた。

 

「フリントの性能は第4世代戦闘機とほぼ同等なのです。紅海海戦で起きた航空戦では連合軍航空隊が壊滅しましたが、数的主力が第3世代戦闘機であった事も原因の一つです。現状の報告ではタイフーンとフリントのキルレシオは1:1.2。圧倒的ではありませんが、優位ではあります」

「だが数で押されれば、その程度直ぐに巻き返されるぞ」

「その通りです。しかし地対空ミサイルやレーダーによる防空網を始め、各方面と連携すればフリントの撃退は可能です」

 

 事実、既に各国はこのような方針の元、防空体制を整えていた。しかしそれだけでは、ジリ貧になりかねない。だからこそイギリスと日本はフリントへの対策を考えていた。

 

「更に我が国と日本で第5世代戦闘機の共同開発をする予定だ。比較的近い内にロールアウトは出来るだろう」

「馬鹿な、簡単に出来るはずがない」

 

 現代戦闘機の開発には長い時間が掛かるのは常識だ。クーリッジがそう断言するのも無理は無かった。しかしマクドネルは表情を崩さない。

 

「幸いな事に日本にベースとなる機体がある。それを使えば開発時間の短縮も可能だ」

「日本のベース機? ……まさかX-2か? あれは戦闘機ではなく先進技術実証機だぞ」

「その件ですが、以前より我が国ではX-2の戦闘機化を目論んでいます。現在は武装化のテスト中ですが、順調に計画は進行しています」

「何だと?」

「そう言うことだ。このX-2をベースに既存技術を用いて開発を進めれば、一から作るよりもよっぽど早く機体が完成する。――分かるかね? 我々にとってF-35は必須ではないのだよ」

 

 マクドネルは堂々と宣言し、真鍋も笑いながら頷いた。その様をクーリッジは苦々し気に睨む事しか出来なかった。

 しかし英日の首相が語った計画は、実は大いに誇張が含まれていた。確かに防衛省でX-2の戦闘機化計画自体は持ち上がっているが、これを戦場に出す事は非効率なのは分かっているため、主に将来開発する戦闘機のためのテストとしてのものであった。また、そのペースもかなり低調であり、現在機体にテストとして機銃を取り付けただけであった。また戦闘機共同開発の話も両国間で議題に上がっただけの物であり、短いとされる開発期間も飽くまで予測であった。二人の話は相手に弱みを見せないためのハッタリに過ぎない。

 しかしその様な事情など知る由もないクーリッジは、英日の計画を容易には否定する事が出来なかった。動揺する彼をしり目に、真鍋は畳み掛ける様に利益を示し揺さ振りを掛ける。

 

「クーリッジ大統領。貴国はパナマの奪還を目論んでいるようですが、条約を維持してもらえるのなら、ハワイ諸島やアゾレス諸島拠点の注意を我々に向けさせる事を検討しましょう。また後々に行われるハワイを始めとした各地の奪還でも我々と連携が出来ます。これは貴国にも利があります」

 

 強固な拠点と化しているパナマの奪還において、ネックとなって来るのは他の海域にある深海棲艦拠点からの圧力だ。パナマ奪還作戦中にハワイやアゾレス、イースター島沖から援軍が出される可能性があるのだ。日本やイギリスによりそれらの圧力を気にしないで済む事は、アメリカ軍にとってかなり大きい。だが、アメリカを取り巻く状況がそれを邪魔していた。

 

「我が国にも利益があるのは確かだが、海外に軍を駐留させるのは現状では困難だ。最悪の場合、アメリカが滅ぶ」

 

 これもまた事実だった。多方面からの圧力にさらされているアメリカにとって、本国を維持するために少しでも戦力が欲しい。特に海外に派兵されていた練度の高い戦闘機パイロットはフリントが出現した現状において、宝石よりも貴重な存在なのだ。今後の事を考えれば、何としてでも確保しなければならなかった。

 英日両首相ともその事は理解している。だからこそ彼らは、アメリカにある提案を持ち掛けた。

 

「貴国の事情も分かっています。ですので特例を設ける事を提案します」

「特例だと?」

「『本国防衛のための駐留米軍の撤退』。これを深海棲艦大戦時に限り特例として盛り込みたいのです」

「……なんだと?」

「この特例を認めるのなら、我々は貴国への対抗措置と深海棲艦支援国家の検討の中止を約束しよう」

 

 この特例はアメリカにとって破格の条件だった。これまでの条約破りが実質許されるだけでなく、在外米軍の撤退が合法となるのだ。しかも条約自体は維持されているため、後々に共同作戦もしやすくなる。だが、クーリッジは易々とは頷けなかった。

 

「……対価は?」

 

 これだけアメリカにとって好条件なのだ。それ相応の代償支払わなければならないのは当然であり、それをクーリッジは警戒していた。その様子にマクドネルはニヤリと笑った。

 

「良く解っているじゃないか。我が国――いやNATOだが、F-35のライセンス料の大幅な減額だな」

「ライセンス料か……」

 

 苦々しく口を歪めるクーリッジ。フリントの出現によりF-35のライセンス料により、莫大な利益が上げられると見られていたのだ。大幅な減額はアメリカにとってかなり痛い。彼は痛む頭を押さえつつ真鍋に目を向けた。

 

「日本はどうなんだ」

「我が国はF-35のライセンス料については少しの減額で構いません。代わりにあるスクラップを頂きます」

「スクラップだと?」

 

 笑顔のままそう告げる真鍋を見たクーリッジは不安を感じた。あのエコノミックアニマルが要求する物だ。唯のスクラップではない事は確実だ。

 

「ええ、スクラップです。2016年から横須賀の第六ドックに鎮座するアレです」

 

 「2016年」「横須賀の第六ドック」。これによりクーリッジは日本が欲している物に気付いた。そして思わず立ち上がる。

 

「ロナルド・レーガンだと!?」

 

 原子力空母『ロナルド・レーガン』。2016年のオペレーション・ビギニングの際に戦艦棲姫の砲撃により大破した彼女は、日本に帰還し横須賀の修理ドックで入渠していた。当初は最優先で修理される予定であったのだが、後の情勢悪化により資材不足が発生。今に至るまで全く修理がされず放置されていた。これに日本が目を付けたのだ。

 

「あれは我が国が本国まで曳航する予定だ!」

「なるほど、では私からも。……正気ですか?」

「何?」

「太平洋を北周りで航行している貴国の艦隊ですが、連戦により被害が出ている事は容易に想像できます。片道だけでこれなのです。碌に動けない空母を曳航した所で沈む可能性は高い。最悪の場合、迎えによこした空母が撃沈される事すらあり得ます」

「……」

「また仮にアメリカ本国まで曳航出来たとしても、行きよりも損害が多くなる事は確実でしょう。パナマ攻略前にそれだけの被害を許容できますか?」

 

 これにクーリッジは即座に反論できなかった。真鍋の予想は当たっている。深海棲艦の支配する海域を航行するアメリカ太平洋艦隊は、連戦を強いられていた。それにより艦娘を中心に損害が出ており、軍からはパナマ攻略作戦への影響を心配する声が上がっているのだ。

 沈黙するクーリッジ。そんな彼に、まるで喜劇でも見ているかのように笑うマクドネルは訊ねた。

 

「さて、どうするかね?」

「……この場では返答しかねる」

 

 アメリカ大統領クーリッジは、絞り出すようにそう答えるしか出来なかった。

 

 

 

 会談から一週間後、アメリカは世界に対してある表明を行った。

 

「我が国はイギリス及び日本の提案を受け入れ、各国と共に手を取り深海棲艦と戦い、人類の勝利を目指していく」

 

 そう宣言するクーリッジは、どこか疲れた様子であったと言う。ともかくこうして世界各国は、緩やかながらも連携して深海棲艦と戦える体制を整えていく事となる。

 

 




アメリカ「紳士と侍? 外道と守銭奴の間違いだろ……」
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