それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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今回はちょっとした幕間的なお話。


海を征く者たち49話 艦娘による調査

 2017年4月に艦娘が出現するよりも前、日本国内の情勢はひどく不安定であった。

 日に日に深海棲艦の攻勢は増しているにも関わらず、対する日本を守る自衛隊は多数の戦闘艦を喪失しており、苦しい立場にあった。対艦ミサイル群や戦闘機による水際防御がよも可笑しくなかった。

 また戦力以上に問題だったのが食料及び資源の問題だ。島国であり、無資源国であり、そして食料輸入国である日本は、深海棲艦出現直後から食料や資源を出来る限り備蓄していた。これは太平洋戦争時のトラウマによるものであり、実際これのお蔭で早期の国家崩壊は免れていたのだが、それでもいつまでも持つわけではない。そのため海外から輸入をしなければならないのだが、2016年12月の時点では輸送船団の編成がかなり困難な状況だった。そのため政府は「日本は持って数年」との見解をしていた。

 そんな破滅が目の前まで迫っている絶望的な状況において、日本ではあるものが流行していた。新興宗教である。

 

 

 

「深海棲艦教、ですか?」

 

 防衛省庁舎の執務室。大淀は余り聞きなれない言葉に首を傾げていた。それを眺めつつ、坂田防衛大臣は頷く。

 

「ええ、深海棲艦教です。大淀も聞いた事があるかと思いますが」

「確か深海棲艦が出現した頃に、自然発生的に生まれた新興宗教でしたよね」

 

 艦娘が出現する直前まで、日本では新興宗教が次々と誕生していた。「教祖を信じれば深海棲艦から守られる」、「我が教えに従えば、天国に行ける」等、都合のいい宗教ばかりだったのだが、それらに入信する者もそれなりにいた。それだけ国民が絶望感に苛まれていた事の査証でもある。

 そんな中で特徴的な教義を有する宗教も存在した。

「深海棲艦は傲慢な人類に神が遣わした使徒であり、人類は滅びを受け入れなければならない」

 その様な教義を持つ宗教が同時多発的に発生、後に統廃合を繰り返し、深海棲艦教としてそれなりの勢力になるまでに拡大する事になる。

 当時この終末論を掲げる宗教団体に、公安調査庁及び公安警察は監視を行っていた。彼らは過激な言動も見られ、自衛隊への反対運動も行っていたためだ。一部ではテロ行為の兆候すら見られていたため、近い内に強制調査が行われようとしていた程であった。

 そんな宗教団体であったが、思わぬ形で終焉を迎える事になる。

 

「最近殆ど聞きませんよね?」

「君たち艦娘が現れましたからね」

 

 深海棲艦を撃破出来る存在である艦娘。彼女たちの出現が深海棲艦教に致命的なダメージを与える事となった。艦娘という希望が現れたのだから当然の事でもある。

 日本による艦娘のアピール、そして日本の状況の改善も相まって、深海棲艦教の信者は大幅に減少する事になり、最後には幾つかの少数団体に分かれて分裂。こうして深海棲艦教は表舞台から姿を消すことになる。

 

「その深海棲艦教がどうかしたのですか?」

「公安調査庁から防衛省に連絡がありました。どうやら深海棲艦教の残党が怪しい動きをしているようで、各鎮守府に注意を促して欲しいとの連絡がありました」

 

 深海棲艦教は分裂し、各派閥の人数もかなり少ない。だが逆に言えば、残った信者はそれだけ信心深く、そして狂信している事になる。彼らが深海棲艦の敵である提督や艦娘を敵視しているのは当然の事であった。この事もあり、深海棲艦教分裂後も各団体は深海棲艦教過激派として公安の調査対象であるのだ。

 

「……相手が少数団体ならば大きな事は出来ないのでは?」

 

 疑問を呈する大淀。小規模故に資金も少ないため大掛かりなテロ行為は難しく、攻撃の対象になるであろう鎮守府は、その性質上多くの艦娘たちが詰めている。多少の攻撃など簡単に防げると考えていた。しかし坂田は首を横に振る。

 

「過去の例を見ても、少人数であってもテロは十分に可能です。それに提督は人間なのです。相手にとってそれは付け入る隙になります」

 

 艦娘は爆弾など効かないし毒ガスも効かない。毒物も同様だ。そんな艦娘がこの世界にいるための鍵となっているのが、人間である提督なのだ。この事もあり過激派が提督を最優先目標とする可能性が高かった。

坂田の説明を受け大淀は納得し、そして目を細めた。

 

「……その過激派の逮捕は行わないのですか?」

「未だ確信に至る証拠が掴めていないそうです」

「以前、一部の極左はかなり強引に逮捕したと聞きましたが?」

「あれは深海棲艦出現前から公安がマークしていた事もあり、直ぐに動きを察する事が出来ました。いわば特殊例に近いです」

「そうですか……」

 

 肩を落とす大淀。その様子に坂田は苦笑いする。

 

「捜査の件は公安に任せましょう。ともかく各鎮守府には警戒するように通達を出します」

「了解致しました。……所で、その過激派団体の名前は何でしょう?」

「名前ですか? 宗教法人『海底会』と名乗っているそうです」

「海底会ですか。ありがとうございます」

 

 こうして防衛省から全国の鎮守府に通達が出された。これにより警備が要塞並に厳重になったり、提督がどこに行くにしても艦娘が離れなかったり、艦娘のせいで提督が鎮守府から出られなくなったりと、ある種喜劇染みた光景が各地の鎮守府で繰り広げられる事となる。

 だがその裏でとある艦娘たちが動き出していた事を、彼らは知らなかった。

 

 

 

 東京の一角。夜も更け真っ暗な廃ビルを歩く一人の女性がいた。重巡、足柄。それが女性の名前だった。彼女は片手に袋を下げ、不気味な雰囲気を醸し出す廃ビルに怯えた様子もなく進んで行く。そして足柄はある部屋に辿り着くと小さくノックし、相手の返事が来る前に扉を開いた。

 その部屋には先客がいた。窓から望遠鏡で何かを見つめている先客に、彼女は声を掛ける。

 

「青葉、お疲れ様」

 

 先客はゆっくり振り向き、彼女を確認すると笑顔を見せた。詳しい者が見れば、彼女の正体は直ぐに分かるだろう。重巡艦娘の青葉である。

 

「ああ、足柄さん」

「お土産持ってきたわよ」

「わあ、ありがとうございます!」

 

 足柄は袋から中身をひとつずつ出していき、次々と青葉に手渡していく。

 

「はい、お茶とおにぎり」

「助かります」

「後、足柄特性の勝利メニューも持ってきたわ」

「……あの、お気持ちは嬉しいのですが、カツは遠慮させて下さい」

 

 青葉がこの廃ビルでの生活を始めて早3日。足柄が毎食食事を届けてくれるのだが、ゲン担ぎなのかメニューに毎回カツが含まれていた。最初こそ喜んだ青葉だったが、流石に毎食カツが含まれていた事により、彼女の胃にはダメージが蓄積していた。

 そんな彼女の懇願に、足柄は不敵に笑う。

 

「安心して。今日は違うやつを持ってきたわ」

「……何を持って来たんですか?」

「唐揚げよ」

「違う、そうじゃない。なんで毎回油ものなんですか」

「美味しいじゃない」

「そろそろあっさりしたものを下さい」

 

 廃墟でそんなやり取りをしている彼女たちの正体だが、二人とも坂田配下の艦娘である。普段は坂田の指示の下、秘書や各鎮守府の監査、警備といった様々な仕事を行っている。

 

「それはともかく、そっちは収穫はあった?」

「無いですね」

 

 ため息を吐く青葉の視線の先には、公安もマークしている宗教法人「海底会」の本部――ではなく、海底会との繋がりは確認されていないある左翼団体の事務所がある雑居ビルが見えていた。

 

「一応妖精さんも送りましたけど、怪しい動きは見られません」

「面倒ね……。いっその事、殴り込みでもしようかしら」

「やめて下さいよ。この調査って提督にも教えてないんですから」

「解ってるわよ」

 

 調査している彼女たちだが、実は公安どころか坂田にもこの事を知らせていないのだ。この事が発覚した場合、政治問題にもなりかねないのだが、それでも調査を敢行しているのは理由があった。反艦娘勢力の把握だ。

 

「でも大淀も心配性よね。左翼団体の調査位なら公安から資料を送ってもらえばいいじゃない」

「反論が『艦娘だからこそ、分かる事もある』、でしたっけ」

 

 そもそも艦娘は太平洋戦争時の軍艦が人の形で現れた姿だ。反戦反軍の主張を行っている事が多い左翼団体との相性が悪いのは誰の目にも明らかだ。大淀が反艦娘勢力の調査として、左翼団体を対象とするのも当然とも言えた。

 とはいえ成果は芳しくない。

 

「それにしても今更壊滅している左翼団体を調べた所でねぇ」

 

 現在の日本では、いわゆる左翼団体の勢力は壊滅と言っても良い程に縮小していた。理由は様々だが一番の原因は、艦娘の発表直後に行われた公安及び警察による過激派極左の一斉摘発だった。これにより多くの過激派団体は壊滅。また摘発されなかった左翼団体も煽りを受けて規模を縮小する事となり、影響力は以前よりも格段に落ちていた。被害が無かったのは余程健全な活動をしていた団体か、元から弱小だった団体位である。

 青葉たちが監視している左翼団体は煽りを受けた団体の一つだ。以前は反戦・反軍・護憲で暴れまわっていたのだが、現在では極稀にデモを行う程度しか活動が出来ない弱小団体である。

 

「まあ今回の調査で、残っている人員は中々極まっている事が分かりましたし、それが分かっただけでも良しとしましょうよ」

「そうね」

 

 妖精を使って左翼団体をいくつか調査した彼女たちだったが、団体側の言っている事は、どこも大体共通している。自分たちを重用しない所か弾圧してくる政府への怒り、自分たちを信じない世論への侮蔑、未だに軍事力の拡大を目論む自衛隊への不満、そして現世に現れた過去の遺物である艦娘への嫌悪。全てが現状への不満ばかりであった。

 この事を知った大淀は、ここまで不満が溜まっている状態であると近い内に暴発する可能性もあると判断。犯罪計画が行われていないかの調査も行われる事となった。

 

「そういえば何か犯罪計画を見つけた場合って、どうするんですか?」

「あら、聞いてないの?」

「私は大淀さんに連絡を入れるとしか」

「別に大したことはしないわよ? 基本的には匿名の通報ね。例外は鎮守府への攻撃だけど、その場合は襲撃前に相手の艦娘に連絡を入れて待ち構えてもらうらしいわ」

 

 大淀たちは独自に調査を行っているが、表立って警察や公安といった国家機関の領分を侵すつもりは欠片もない。余程の事が無い限りは、既存の専門機関に任せるつもりなのだ。飽くまで「反艦娘勢力の把握」が目的である以上、当然の事であった。

 

「まあ、早々犯罪計画なんて見つからないわよ」

「それフラグですよ」

 

 楽観的に笑う足柄と笑いながら茶化す青葉。二人とも大淀の判断は杞憂であると考えているのだ。しかしその判断は、

 

「あ、妖精さんからです。……本当ですか?」

 

 青葉の艤装に入った通信により覆される。

 

「どうしたのよ?」

「……本当にフラグだったみたいです」

「って事は、犯罪計画が見つかったの?」

「はい。しかも例の海底会と連携する様です」

「……思わぬ大物ね」

 

 足柄は渋い顔で呻いた。まさかこの場で海底会の名前が出て来るは思ってもみなかったのだ。とはいえ発見したからには、無視する事は出来ない。

 

「目標は?」

「ちょっと待ってください。妖精さん? ――えっ?」

 

 妖精からの通信を聴き、青葉が思わず目を見開く。その様子に足柄は只ならぬものを感じ取った。

 

「青葉、教えて頂戴。何処が標的になってるの?」

「……防衛省です」

「はっ?」

 

 呆気に取られる足柄。それを余所に青葉は続けた。

 

「攻撃目標は防衛省庁舎。そして最優先目標は――坂田防衛大臣です」

 

 

 




作中だとリアルで終末状態ですし、終末論をぶちまける宗教が出るのは当然かなって。そしてそんな宗教団体にとって艦娘は終末を阻止する存在なので敵です。
で、反戦系左翼団体にとっても旧海軍の軍艦の擬人化とか敵に決まってます。
……呉越同舟でいけますね!
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