それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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急いで書き上げたので、後々修正が入るかもしれません。


艦これZERO7話 追い詰められる者 迫るモノ

「……これより会議を始める」

 

 2016年12月。日本の東京。会議室の一室に内閣・官僚・有力議員と言った、国家を動かす主要人物が一堂に会していた。そしてその誰もが疲れ切っていた。日々悪化していく状況に、対応しきれないためだった。

 

「深海棲艦の出現状況は?」

「今月に入って一日に一回のペースに上昇しました。以降も出現頻度の上昇は続くと予測されています。また戦艦や空母と言った主力艦クラスの出現頻度も上昇しています」

 

 オペレーション・ビギニングの失敗以来、深海棲艦の出現頻度は日に日に上昇していた。同時に日本の領海にある無人島を中心に陸地を海に変えられる被害も多発、また住民の住んでいる離島へ攻撃される事態も発生していた。勿論、日本も黙ってみているわけではなく、護衛艦の派遣をするなど対応をしていたが、ここにきて無理が出てきていた。

 

「海上自衛隊の護衛艦ですが、海戦の連続で損失が続いています。現在も新造艦の建造は続いていますが損失のペースに全く追いつけません。また現存している艦の整備も出撃の連続のため、ロクに出来ない状況です」

 

 海上幕僚長の報告が続く。海上自衛隊の戦力は毎日のように続く戦いで、その数を徐々にすり減らされていた。現在持っている戦力では、日本の持つ広い海域を守り切るには無理があった。これにはオペレーション・ビギニングで、「こんごう」を初めとした多数の護衛艦を損失したことも響いていた。また、乗員の疲労も無視できないレベルまで疲弊していた。そしてこの問題は海上自衛隊だけのものではなかった。続いたのは航空幕僚長だった。

 

「航空自衛隊ですが、こちらは深海棲艦と直接戦うわけではないので、目立った損失はありません。しかし海自と同様に出撃頻度の上昇で航空機の稼働率が下がっています」

 

 本土から近海に出現した深海棲艦の対応は、主に航空自衛隊が行っていた。深海棲艦が対空ミサイルの様な高性能な対空兵器を持っていないため、航空機に損失は見られなかった。そのため素早く展開できる戦力として重宝されていたが、海上自衛隊と同じく稼働率の低下が目立つようになってきていた。

 そしてこれらの問題を解決するには各種物資が必要になるのだが――、こちらも芳しくない。

 

「自衛隊の言いたいこともわかりますが、現状では石油・金属類を初めとした各種資源が全く足りません」

 

 そう言ったのは経済産業大臣だった。日本は資源の種類はかなり多いが、質が悪く量も少ないことで有名だ。とはいえその様なことも言っていられない状況のため、国内の鉱物資源の再採掘が行われているのだが、必要な量には全く届いていない。そのため従来通り海外から輸入する必要があるのだが、そのためには深海棲艦が跳躍跋扈する海を越えなくてはならない。

 

「先月届いた分では足りないか」

「足りません。このままでは工業、経済の低迷で二年以内に国民の最低限の生活の保障も出来なくなると予測されています。経済産業省としては第八次大規模輸送船団の派遣を希望します」

「……海上自衛隊の意見を聞きたい」

 

 海上幕僚長の顔は苦り切っていた。

 

「第七次大規模輸送船団は確かに成功しましたが、輸送船や護衛艦の損失が無視できないレベルでした。仮に第八次大規模輸送船団を編成するとなると、護衛にかなりの戦力を割く必要があります。その場合、日本領海の防衛を確約できません」

 

 深海棲艦の出現以来、日本は大規模な護衛船団を編成し、石油を初めとした各種資源の備蓄に努めてきた。資源が殆どない日本には必要な事だった。自衛隊嫌いで有名な日本郵船ですら政府からの説得や優遇措置があったとはいえ、積極的に協力していたのだから、その重大さがよくわかる。

 そうして始まった大規模輸送船団だが、当然のことだが深海棲艦と遭遇、戦闘することが多い。そのため護衛艦や輸送船に喪失艦が出ることもあるのだが、前回の第七次大規模輸送船団では今までとは比べ物にならない程の損失を受けてしまったのだ。海上自衛隊としては人員の休養も兼ねて、戦力の温存を図りたいところだった。

 しかし状況はひっ迫していた。農林水産大臣が発言するために手を上げる。

 

「農林水産省としても第八次大規模輸送船団を希望します。食料事情ですが、以前からの増産の指示により自給率はある程度向上しましたが到底足りません。また石油が途絶えるとこの自給率も下がりかねないです」

 

 現代の日本の農業は機械化されておりエネルギー資源は必須だった。また化学肥料を作るためにも資源は必要であるため、工業力の維持は農業にとっても重要な地位を占めていた。

 

「……在日米軍から援軍を呼べませんか?」

「無理だ。動かせる艦がないらしい」

「……」

 

 海上幕僚長の苦肉の策もあっさりと否定される。第七艦隊を初めとした在日米軍の海上戦力はオペレーション・ビギニングでの損耗が激しかった。未だ入渠中の艦も多く、戦力と数えることは出来ない。

 

「海自の戦力が無い間、国防ほどうなりますか?」

「突貫だがF-15Jの改修が進んでいる。それで何とかするしかない」

 

 航空自衛隊からの提案で、F-15Jに対艦攻撃能力を付与する改修が突貫工事で進んでいた。内閣としては、海自がいない間は増強した航空戦力で深海棲艦の侵攻を防ぐつもりでいた。

 

「防衛省は第八次大規模輸送船団の計画を立ててくれ。また、本土防衛の計画書も頼む」

「分かりました」

「なら次に――」

 

 次の議題に移ろうとしたまさにその時、会議室の扉が乱暴に開かれる。報告書を手に息を荒げている外務省の官僚が悲痛な声で叫んだ。

 

「ハワイ沖に約四百からなる深海棲艦の大艦隊が出現しました。現在ハワイに向けて侵攻中です!」

 

 

 

 ハワイ諸島。アメリカの太平洋における要衝として位置付けられているその島は、深海棲艦の出現以降、人口の減少が続いていた。ハワイ州における総収入の四分の一にあたる観光業が深海棲艦の出現によって振るわなくなったこと、絶海の孤島であるが故に海運が絶たれた場合飢餓に陥るリスクがあることが原因だった。一三〇万人いた人口は2016年の時点で、一〇〇万人を切っていた。

 そんな衰退にあるハワイ諸島だが、アメリカ政府は軍事力の強化を行っていた。ここが陥落した場合、アメリカ軍が太平洋で使える大規模な拠点がアメリカ西海岸と日本しかなくなってしまうためだった。陸、海、空軍は以前とは比べ物にならない程強化され、そしてその軍事力に見合う戦果をハワイ諸島近海で挙げていた。

 だが、その戦力をもってしてもこの深海棲艦の大艦隊を撃退することは不可能だった。民間人は大混乱に陥り、ハワイから脱出するために港や空港に押し寄せていた。

 

 オアフ島のアメリカ太平洋軍の司令部は騒然としていた。彼らも深海棲艦の艦隊がハワイに直接侵攻してくることを予測し防衛計画も作ってあった。しかしここまでの大規模艦隊が攻め込んでくることまでは予測していなかった。

 

「敵艦隊はどうだ?」

「現在、ハワイ諸島の南東一五〇〇㎞の海域です。艦隊の進行速度はおよそ12ノット。敵の目標は恐らく……」

「ここか」

 

 司令官は悔し気に呟く。オペレーション・ビギニングの影響で海軍の戦力が激減している現状では敵の撃退は不可能だった。いや、仮に海軍戦力が健全であっても、四百もの深海棲艦が相手ではハワイは守り切れないだろう。

 

「軍の撤退準備はどうだ?」

「やや遅れています」

「急がせろ」

 

 アメリカ政府は当初、増援の派遣によるハワイの防衛を計画していた。しかし派遣できる海軍戦力の不足、敵のハワイ上陸までの時間が余りにも無かったことから、計画は頓挫した。最終的にアメリカ政府はハワイの放棄を決定。即座にアメリカ太平洋軍に通達した。

 司令官もこの決定には異存はない。だが大きな問題があった。

 

「……民間人の避難状況はどうだ?」

「アメリカ本土から旅客機、輸送機を回してもらえましたが、まだまだ民間人が残っています」

「大よそで良い。残り人数は?」

「約八〇万人です」

 

 全盛期よりも人口は減っているとはいえ、この人数を避難させるには時間も手段も何もかもが足りなかった。

 

「ハワイの漁船、貨物船を総動員しても、全民間人の脱出は困難です」

「だがやるしかない。撤退する軍艦にも民間人を出来る限り乗せろ」

 

 司令官は命令を出すが、このままでは民間人のほとんどは避難できずに深海棲艦の犠牲となることは彼も確信していた。しかしだからと言ってここで敵と戦う訳にはいかなかった。海軍が大打撃を受け、その戦力の回復に時間がかかる現状、無為に戦力をすり減らすわけにはいかなかった。

 

「……逃げ帰った私は臆病者と罵られるだろうがな」

 

 民間人に多くの犠牲が出たとなれば、国民からのバッシングが起こるだろう。対象は民間人を見捨てて逃げてきたハワイ軍――その司令官である彼である。彼としては不名誉極まりない今回の任務に不満があったが、これも仕事の内と割り切ろうとしていた。

 だが、誰もが司令官のように割り切れるものではなかった。司令部に連絡士官が飛び込んでくる。

 

「軍全体より、残留希望者が続出しています」

「何?」

 

 ハワイに残ることを希望したのは、国民を守るという職務に忠実な軍人たちだった。多くの民間人が取り残されている現状を見た彼らは、一人でも多くの民間人を脱出させるべく、自発的にハワイに残ることを決めた。

 

「……残留する部隊を編成する」

「司令官?」

「軍が撤退するにしろ、民間人が避難するにしろ、時間稼ぎは必要だ」

 

 これは事実だった。敵艦隊が余りにハワイに近いため、撤退中に襲撃を受ける可能性が参謀から指摘されていたのだ。

 

「では誰が指揮を執るのですか?」

 

 この問いかけに対して、司令官は不敵な笑みを浮かべ宣言した。

 

「私だ」

 

 その言葉に司令部の誰もが唖然とするが、彼は気にも留めない。

 

(死ぬ事はほぼ確定だが、軍は俺の事を英雄として宣伝するはずだ。生き残って永遠に罵倒されるよりはいいかもしれんな。少なくとも家族は守られる)

 

 部隊を使って時間稼ぎをしたところで、ハワイから脱出できる民間人が少し増えるだけだろう。だが、「最後まで民間人を守ろうとした」という事実が大きい。軍上層部は民間人の被害から世間の目を逸らすために、ハワイに残った部隊を英雄として宣伝するだろう。彼が残るのはそのためだった。最もそのような打算はおくびにも出さずに、固まっていた司令部の人員に発破をかける。

 

「時間が無い、準備を始めろ!」

 

 

 

 ハワイ残留部隊と深海棲艦との戦いは熾烈を極めた。

 先鋒は海軍だった。海軍の艦艇の多くはアメリカ本土へ退避する船団の護衛とされていたが、損傷が酷く応急修理だけされていた旧式艦が三隻残っていたのだ。

 出撃した三隻は少しでも敵艦隊がハワイから逸れるようにと、全力で攻撃を行いつつハワイから離れていく。そして深海棲艦の意識が逸れた所で、空軍による攻撃を行ったのだ。

 結果だが戦果はあった。ありったけの火器を満載した三隻は暴れまわり、多くの深海棲艦を撃破した。また空軍による攻撃で撃破数は加速した。

 しかしいくら獅子奮迅の活躍を見せた所で、多勢に無勢だった。深海棲艦は損害を気にも留めず三隻に対して攻撃を行い、最終的に三隻は水底へと沈んでいった。海軍戦力が消滅した後も空軍による攻撃は続いたが、それは深海棲艦による空襲が空軍基地に行われるまでだった。対空防御は行われていたが雲霞の如く現れる敵の艦載機に押され、空軍基地は破壊された。

 海軍、空軍戦力が消滅したハワイ残留部隊で最後に残ったのが陸軍だった。彼らは水際防御は最初から諦め、深海棲艦が上陸したところで打撃を与えるという、太平洋戦争時の硫黄島の戦いを参考にした戦術を取っていた。既に解体されていたオアフ島要塞の残存設備さえ流用し行われた戦術は、確かに効果があった。沿岸砲撃の後ノコノコと上陸してきた深海棲艦に、各所で隠れていたハワイ残留部隊は重火器で集中攻撃を行い大打撃を与えた。とはいえ深海棲艦もやられているばかりではなく反撃の砲火を上げる。第二次世界大戦期の軍艦と同等の火器を持つ敵に大損害を受けつつも、人類は抵抗を続けていた。

 そんな一進一退の戦場だったが、ある存在によって戦況は一気に深海棲艦側に傾いた。

 中枢棲姫。

 ハワイ残留部隊から放たれるに全く堪える様子もなくオアフ島に上陸した彼女は、突如、赤黒い光を放つフィールドを展開。瞬く間にオアフ島全域に及んだ光に恐怖を覚えたハワイ残留部隊司令官は、中枢棲姫に火力を集中するように命令しようとした。

 しかしそれは遅かった。司令官が命令を口にするその瞬間に、フィールドは大きな光を放たれた。そして光が収まった時には――司令官を初めとしたオアフ島の全ての人間の命は消滅していた。

 残されたのは中枢棲姫を中心とした深海棲艦のみ。こうしてハワイ諸島は深海棲艦の手に墜ちたのだった。

 

 ハワイの陥落に国際社会に衝撃を与えた。だが事件はこれで終わらなかった。

 この三日後、世界各地の海域で深海棲艦の大艦隊が出現。南シナ海南沙諸島、インド洋チャゴス諸島、大西洋アゾレス諸島が占領された。拠点化された各地より出現する深海棲艦により、タダでさえ押されていた人類の支配域はより狭まっていった。

 




ハワイからの民間人の生存者:20

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