それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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お待ちかねのアメリカ反乱判定! 70オーバーで反乱。固定値は15
結果は……:06+15=21 反乱回避!

これはアーロンさんが頑張ったな!



海を征く者たち54話 三国共同作戦

 日米英三国の軍上層部が、各々の持てる戦力、戦略環境を勘案しつつ頭を捻りつつ作戦を練っている時、現場で艦娘を率いる立場にある提督たちも頭を悩ませていた。

 

「で、どうするのよ」

「どうすると言ってもなぁ。中々決まらない」

「そんな事言ってるうちに、もう1週間は経ったじゃない。いい加減決めなさいよ」

 

 伊豆諸島鎮守府の執務室。机の上に山積みとなった資料を前に頭を抱えている秋山を、秘書艦の叢雲は呆れたような目で見つめていた。

 日本の行うハワイへの疑似攻勢作戦「布号作戦」の大まかな方針が決まった後、防衛省は各地方隊を通して全国の鎮守府にある指令を出していた。作戦で主戦力となる艦娘の招集だ。この指令に全国の提督たちは、どの艦娘を派遣するか悩む事となる。

 

「いっその事、上位陣を全員連れていったらどうなの?」

「いや、それはマズいだろ」

 

 布号作戦のために各鎮守府から派遣される艦娘だが、単純に自分の所の強い艦娘を出せば良いと言う訳ではない。作戦中でも鎮守府の主要業務である担当海域の警備任務は、行わなければならないのだ。下手に主力メンバーを作戦に派遣してしまった場合、そちらの鎮守府の業務に支障が出る事は確実だった。そのため、どの鎮守府でも誰を派遣し誰を残すのか選定に苦労しているのだ。因みに秋山の目の前にある資料は、全て伊豆諸島鎮守府に所属する艦娘の詳細なプロフィールだったりする。

 

「まったく」

 

 叢雲はため息を吐きながら資料の山の中から一冊のノートを手に取ると、パラパラとページをめくる。ノートには手書きで艦娘についての様々な情報がびっしりと埋められている。彼女はそれを見て思わず顔をしかめた。

 

「アンタの場合、大まかに方針を決めたら後は勢いで行くタイプなんだから、ウダウダ考えてもしょうがないじゃない」

「……それを言われると痛いな。仕方ない。作戦参加希望者を中心に決めていくか」

「良いんじゃないの? 因みに希望者は誰がいるのよ」

「今のところ、金剛、霧島、赤城、天龍、木曾、摩耶、夕立、島風だな」

「……金剛さんと島風はともかく、残りは殆ど武闘派じゃない」

 

 上げられた名前に頭痛を覚える叢雲。どの艦娘も実戦経験豊富な艦娘ばかりであるが、血の気が多い者ばかりであった。勿論闘争心が高いのは良い事なのだが――、流石に全員がそうだと、艦隊に問題が発生しかねない。

 

「取りあえず、抑え役は必要ね」

「抑え役となると古鷹か?」

「後は神風と霞も入れておきなさい。万が一暴走しても止められるわ」

「そうするか。ああ、叢雲もメンバーに入ってくれないか?」

「私も? てっきり司令官代理をやると思ってたけど」

 

 一部の鎮守府には布号作戦における現場での指揮のために、提督も作戦に参加する事になっている。秋山もそのケースに該当しており、彼が留守の間は鎮守府の指揮を艦娘の内の誰かが務めなければならなかった。そしてこれも提督たちの頭を悩ませる原因となっている。

 

「下手な艦娘だと制御不能になるわよ?」

 

 司令官代理として必要となる技能は、鎮守府の運営能力や指揮能力は勿論の事、一番の重要事項として艦娘からの支持も必要となって来る。選出に失敗した場合、最悪の場合鎮守府機能が停止しかねないし、布号作戦終了後の鎮守府の運用にも影響が出る事は確実なのだ。とは言えこれについては秋山には案があった。

 

「いや、司令官代理は鳳翔に頼んである」

「ああ、それなら大丈夫そうね」

 

 その名を聞いた叢雲は直ぐに納得した。鳳翔は伊豆諸島鎮守府が開設されて初めて建造された艦娘だ。彼女の戦闘能力は並程度であるが、指揮能力は秀でているし、温厚かつしっかりした性格故か多くの艦娘が彼女を慕っていた。彼女が司令官代理に指名されたのならば、誰も文句は言わないだろう。秋山は少なくとも布号作戦期間中に問題が起こる事は無いと見ていた。

 こうして鎮守府の指揮問題は解決された。だが指揮についての問題はもう一つ残っている。

 

「鳳翔さんが頑張るんだし、アンタも頑張らないとねぇ」

「……解ってるよ」

 

 どこか茶化すように笑う叢雲に、秋山はため息を吐きながら答えた。

 各鎮守府から派遣される艦娘たちだが、最低でも4人からなる部隊が送られてくるため、そのまま艦隊に組み込んでも戦うだけであれば可能である。だが布号作戦艦隊全体を動かす指揮官からすると問題しかない。1500人の部隊の中に小規模部隊が乱立する事になり、有効な指揮を執る事などまず不可能となってしまうのだ。この事態を回避するため、自衛隊は派遣された艦娘を作戦に参加する提督の下に付ける事により、予想される指揮の混乱を抑える事にしたのだ。

 当然の事ながら、作戦に参加する秋山の下にも他の鎮守府から派遣された艦娘が置かれる事となるのだが、これが難題だった。

 

「変な失敗でもしたら、碌な事にならないしなぁ」

 

 下手な指揮を晒してしまい、他の鎮守府から来た艦娘に舐められる程度であればまだマシだ。その指揮が原因で艦娘が戦死してしまった場合、派遣元の鎮守府との関係が悪くなるのは確実なのだ。最悪の場合、わざと艦娘を沈めたと疑われる可能性すらある。そのため、秋山にはいつも以上にプレッシャーがかかる事となる。

 

「ま、私たちもフォローはするから気楽に行きなさい」

「ああ、頼むよ」

 

 こうして対深海棲艦の最前線でも、布号作戦のための準備が進んで行く。

 

 

 

 時は進み8月。米英日の軍では迫り来る作戦決行に向けて最終調整を行っている中、各国の首脳による撮影機材を用いての会談が行われていた。

 

「さて、そろそろ作戦の決行日が近づいているが――、作戦実行に問題はないな?」

 

 アメリカ大統領クーリッジは、警戒するようにモニターに映る二人の首相を睨んだ。友好国の代表にその態度は問題かもしれないが、先の深海棲艦支援国家指定未遂の件でアメリカは外交面でやりこめられているのだ。裏で何か画策していないか警戒するのも当然の事だった。

 対する二人の首相は、クーリッジの警戒などどこ吹く風だ。イギリス首相マクドネルが小さく肩を竦める。

 

「当然だ。我が英国海軍を舐めないでもらおう」

「随分と自信満々じゃないか。水上艦が殆ど残っていないと聞いたが?」

「艦隊再建計画は順調だ。仮に派遣するフリゲートが沈んでも、直ぐに回復出来る」

 

 仮にフリゲートが撃沈された場合、今後の軍事行動に大きな悪影響を与える事になるが、そんな事などおくびにも出さずにマクドネルは堂々と言い切った。外交の場面で、自国の弱みなど見せられるはずもないのだ。

 

「それに守りも以前よりも強化されている。全く問題ないな」

「そうですか。では作戦中にスエズから攻勢を掛けられても大丈夫なのですね?」

 

 日本国首相の真鍋の質問は、一連の作戦において一番の懸念材料だ。守りが薄くなった所を狙われる可能性が高い事は、過去の深海棲艦の動きから容易に予想出来た。ヨーロッパの場合、大型拠点であるスエズが動く事となるだろう。だが、

 

「それは分からんな」

 

 マクドネルはあっさりと否定した。

 

「……どういうことですか?」

 

 思わぬ返答に混乱する真鍋に、マクドネルは当然の事の様に答える。

 

「スエズ拠点の位置を考えれば侵攻ルートは当然地中海だ。我が国に主導権は無い」

「……」

 

 そう言い切る英国首相に、真鍋とクーリッジは思わず顔を歪めた。スエズからの侵攻が開始された場合、戦場となるのはイギリスから離れた地中海だ。当然、迎撃に出るのはイタリアを始めとした地中海の国々であり、イギリスには直接は関わる事が出来ない。アメリカの様にイギリスが絶対的な主導権を握る事は、国力的に無理なのだ。

 勿論、戦況次第ではイギリスも援軍を送る事になるだろうが、いくらイギリスが艦娘大国とは言え、アゾレス諸島拠点に対する作戦中であるため、大規模な戦力を出す事は難しい。この立場にあるため、仮に地中海が深海棲艦の勢力圏となったとしても、イギリスに責任は無いと主張するつもりだった。

 

「攻勢と言えば、私としては日本が心配だがね。どうなのかね?」

「我が国は問題ありません。既に防備は固めています」

 

 日本の場合、予想される攻勢は南沙諸島拠点からの攻勢と北海道方面の攻勢である事から、佐世保や大湊に護衛艦を派遣するなど準備が進められていた。また緊急時には横須賀や大湊から航空機を使っての増援派遣も計画されていた。

 

「随分と自信があるようだが、本当に大丈夫なんだろうな?」

「と、言いますと?」

「南沙諸島拠点はこれまで大きな動きを見せていない。精々がアラビア海海戦の時に増援を出した位だ。全く消耗していないと言っても良い」

「……」

「更に東南アジアには拠点が各地に構築されている。南沙諸島拠点だけでなくこれらの拠点からも攻勢に出られれば、日本も危ないと思うが?」

 

 クーリッジの指摘は事実であり、防衛省でも懸念されている事であった。仮に東南アジアの全拠点の戦力を掻き集めて攻勢を受けた場合、日本の防衛戦力に大損害が出る事は確実。場合によっては本土に深海棲艦の拠点が築かれる事となるとのシミュレーションが出ていた。とは言え、これについては結論が出ている。

 

「その場合は、作戦を中止し戦力を本土防衛に使わせて頂きます」

「……貴国の都合に我々を巻き込むのか?」

「我が国は国際貢献を是としていますが、自国を滅ぼしてまで貢献するつもりはありません」

「……」

 

 はっきりと言い切る真鍋に、クーリッジは苦り切った顔で沈黙し、マクドネルは苦笑しつつ肩を竦めた。真鍋は自国と他国を天秤に乗せた結果自国を選んだという、一国の首相として当然の選択をしただけなのだ。勿論これにより後々の外交関係が悪化する事は確実であろうが、日本が滅びるよりはずっとマシだった。

 

「そういう貴国は大丈夫ですか? クーリッジ大統領」

「……何がだ?」

「艦娘周りですよ。折角国家に協力してくれる艦娘に、あんな馬鹿気た事をしているのです。心配するのは当然でしょう?」

「確かにそれは心配だ。艦娘が離反して作戦が失敗でもすれば、目も当てられん」

 

 二人の挑発めいた問い掛けに、クーリッジは何処か顔を引きつらせつつも、努めて冷静に答える。

 

「対策は進んでいる。心配には及ばない」

「ほう? 我が国の艦娘研究機関からの報告では、反乱が発生する可能性は極めて高いとなっていたが、随分と頑張ったようですな」

「その研究機関の分析が間違っていただけだろう」

 

 クーリッジは鼻を鳴らしつつ、そう返した。

 艦娘の不満が暴発寸前である事はアメリカ政府も分かっている。だからこそパナマ攻略後の人権の付与を始め、対策に乗り出していた。親艦娘派のアーロンが太平洋艦隊司令官に就任したのもその一環だった。政府としてはこの人事は艦娘に対してのアピールの一つに過ぎなかったのだが、これが思わぬ結果を招く事となる。

 アーロンが国内の艦娘についての調査報告書を受け取って最初に行ったことは、その持てる権力やコネをフルに使っての太平洋艦隊内の人事整理だった。対象となったのは艦娘への指揮に問題があったり差別的な態度が見られる将校だ。この人事整理の結果、多くの将校が予備役に編入、若しくは閑職に回され、後釜に親艦娘派閥の人物が就く事となった。

 この動きに国防省は困惑する事となる。彼らとしては問題のある将校に対しては飽くまで再教育で対応するつもりであり、更迭は最終手段だったのだ。幾ら在外米軍が帰還して国内の人員が増えているとは言え、対深海棲艦戦には人ではいくらあっても足りない。ましてや一大作戦が目の前まで迫っている状況での人事整理は、現場の混乱に繋がりかねないのだ。

 この粛清とも言える人事に、マーシャル国防長官に呼び出されたアーロンははっきりと言い切った。

 

「艦娘はいつ暴発しても可笑しくありません。それを抑えるためにも、彼女たちに目に見える形で状況を改善する姿勢を見せる必要があります」

 

 彼はそう答えると同時に、艦娘についての調査報告書も提出。この報告書に国防省は一時騒然となったが、協議の結果、最終的にアーロンの人事整理は黙認される事となった。

 この人事整理の影響だが――、アーロンの目論見は成功した。太平洋艦隊が親艦娘派で固められた事により、太平洋艦隊内での艦娘の地位が向上。これに伴い艦娘たちの士気も目に見えて改善し始めたのだ。勿論国防省が懸念したように、大幅な人事による現場の混乱は発生しているのだが、艦娘の士気向上と比べれば小さい問題だった。

 

「ともかく、全ての国が作戦を行えることは確認できた」

 

 クーリッジの言葉に、二人は頷く。

 

「では?」

「作戦は予定通りに行う。8月24日に決行だ」

 

 こうしてパナマ奪還を主目的とした3国に跨る大作戦が決行される事となった。

 




なお秋山君は札管理で滅茶苦茶悩んでいる模様。

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