それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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今回のダイスロール。
イースター島沖援軍判定。40以上で派遣。
結果:50 派遣決定。

3月21日。一部改訂しました。


海を征く者たち56話 前哨戦

 大西洋でイギリス艦隊がアゾレス諸島拠点からの大規模艦隊と激突する数日前の真夜中。太平洋艦隊司令官アーロンの姿は、ある鎮守府の応接室にあった。彼は目の前に置かれた1ポンドはあるであろうステーキを、ナイフで切り分けては口に運ぶという単純作業を黙々と続けていた。そんなアーロンの向かいの席ではコック服の男が、彼を眺めつつ瓶コーラを煽る光景がそこにはあった。

 10分程経過した頃、アーロンが最後の一切れを口に放り込むと、小さく笑った。

 

「腕は落ちてないようじゃないか」

「当たり前だ」

 

 コック服の男、この鎮守府の提督であるマックレアもニヤリと笑う。

 

「まさかこんな所で常連にステーキを出す事になるとはな」

「無理を言って済まなかったなマスター。いや今は少佐の方が良いか?」

「マスターで良い。提督なんてやってるが、俺は今でもマックレアステーキハウスのマスターだ」

 

 マックレアは提督になる前は個人経営のステーキハウスの店主をしていたのだ。アーロンはそこの常連客であり、マックレアとは10年来の付き合いだった。アーロンが親艦娘派なのも、彼を通して艦娘との関わりがあったためでもあった。

 

「酒が無いのが片手落ちだな」

「公にはお前さんは仕事の真っ最中だ。出すわけにはいかんだろ」

「それもそうだ」

 

 笑い合う二人。暫しひとしきり笑うと――マックレアは笑顔を引っ込め、目を細めた。

 

「で、アーロンさんよ。そろそろ本題に入ろうじゃないか。まさか俺のステーキを食べに来ただけじゃないだろ?」

「ああ、そうだな」

 

 アーロンも顔を引き締めた。

 

「とはいえ、そこまで重要な事じゃない。確認程度だ」

「確認だと?」

「例の部隊の仕上がりはどうなんだ?」

「おいおい」

 

 アーロンの言葉に、マックレアは思わず呆れたような表情を浮かべる。

 

「報告はそっちにも届いているはずだぞ?」

 

 彼の言う通り、アーロンの下には「例の部隊」についての報告書は届けられていた。詳細なデータも記載されており、仕上がりは上々と結論付けられている。だがアーロンは頭を振るう。

 

「その報告書は参謀本部から来た奴が書いた物だろ。俺は直接指揮を執っている人間の意見も聞いておきたい」

「……」

「どうなんだ、マスター。いや元陸軍大尉?」

「……」

 

 沈黙が辺りを包み込む。そしてマックレアは一つため息を吐いた。

 

「一応、形にはなっている。あいつらもよくやったさ」

「じゃあ?」

「だが飽くまでも最低限だ。訓練期間が短すぎたせいで、最小限しか仕込めていない」

「……」

「戦闘は可能だろうが、俺からすればまだまだだ。万全を期すならもう少し時間が欲しい。これはあいつ等の訓練を見ていた教官も同意見だった」

「やはりか……」

 

 アーロンは思わずため息を吐いた。建造された時から、ある程度軍事知識を有する艦娘ならあるいは、と期待していたのだが、そう上手くは行かなかった。

 

「なあ、今回の作戦で例の部隊は必要なのか? 戦力は十分に揃っているし、正攻法で落とせるんじゃないのか?」

「残念ながら。パナマはアメリカに対する重要拠点。そんな事位は深海棲艦も理解している。確実に要塞化されているはずだ」

 

 複数の姫級が確認され深海棲艦の製造が予想されている事から2級拠点と分類されているパナマ拠点だが、大まかに三つの区分に分かれている。飛行場姫が確認された太平洋側出口のバルボア港、港湾棲姫が確認されているカリブ海側出口のコロン港、そして旗艦である運河棲姫が待ち構えるガトゥン湖だ。

 旗艦のいるガトゥン湖まで辿り着くには、正攻法でいくならば運河を通っていく事となる。当然その事は深海棲艦も理解しているため、出入り口は砲台や機雷を始めとした多数の武装が施されているだろう。また、例えそこを突破したとしても運河と言う地理的な関係上、大部隊の運用は困難だ。ガトゥン湖までの道中に砲台が備え付けられていた場合、碌な回避行動も出来ずに撃たれる事になりかねない。更に本丸であるガトゥン湖にも武装が施されている事は容易に想像できた。

 

「確かに戦力はあるし攻略も出来るだろうが、確実に大損害になる。そうなってしまえば、例えパナマを攻略出来ても、後々問題が起きて来る」

「本土の防衛に穴が開くだろうな。いや、下手をすれば作戦指揮官の責任問題になるか」

「作戦指揮官はマイヤーズ。知っての通り親艦娘派で、私が統合作戦本部に推薦した男だ。仮にそうなれば、親艦娘派は窮地に立たされるだろう」

 

 アーロンは太平洋艦隊の人事整理でかなり無茶な事をして来たのだ。海軍内部ではやり過ぎではないかと疑問視されているし、親艦娘派の牙城となっている太平洋艦隊内部でも反発している層は一定数あった。パナマ奪還により問題を起こしてしまった場合、それらの反対派が一斉に動き出す事は確実だった。だが逆に言えば、

 

「仮に少ない損耗でパナマを奪還できれば、親艦娘派は一気に勢力を伸ばせるな」

「そうだ。上手くやれば親艦娘派で軍を掌握できる。そうなれば艦娘たちも動きやすくなるはずだ」

「そのためにもあの部隊が必要になる、か」

 

 マックレアは肩を竦めると、降参と言わんばかりに軽く手を挙げた。

 

「オーケー、ならば仕方ない。将来の俺たちのためにも、一つ頑張ろうじゃないか」

「済まないな」

「構わんさ。部隊の練度はちと不安だが、そこは俺がフォローすれば良い。やってやるさ」

 

 彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 イギリス艦隊とアゾレス諸島から出撃した深海棲艦が海戦を開始した報を受け、アメリカはパナマ奪還作戦「オペレーション・スイートホーム」を発令。太平洋艦隊、大西洋艦隊がパナマを目指して出港し、目的地であるパナマへ向かって進撃していく。

 この二方向同時攻撃の構えに対してパナマ拠点の旗艦である運河棲姫は、イースター島沖拠点へ援軍を要請すると同時に、保有している深海棲艦艦隊をバルボア港、コロン港に詰めている姫級たちと連携が可能な海域に配置。アメリカ両艦隊を迎撃すべく待ち構えていた。

 しかし運河棲姫もそれだけでは撃退は困難であるとも考えていた。数、戦闘能力を勘案して水上戦力は拮抗しているが、今回は防衛のための砲台小鬼も使える事からパナマ側が優位だ。しかし航空優勢を保持できるかは不安があった。

 昨年から長距離爆撃機を使ってアメリカへの攻撃を繰り返してきたパナマ拠点だが、それ故に、アメリカの艦娘たちの繰り出す航空機がどれだけ高性能なのかよく理解している。幾らこちらのホームでの戦いであるとはいえ、航空戦では苦戦は免れないだろう。そして仮に姫級に危害が加えられ結界が解除されるような事になれば、アメリカ軍は嬉々として特殊弾頭を搭載した対空ミサイルで深海棲艦側の航空戦力を纏めて撃滅するだろう。そうなれば水上、地上での戦力の優位は簡単にひっくり返ってしまう。それ故に、アメリカの通常兵器の撃滅は必須となる。そしてパナマ拠点にはその通常兵器を撃破出来る武器があった。

 

――全機出撃。

 

 旗艦、運河棲姫の命令と共に、F-15とSu-27が合わさった様な黒い戦闘機が次々と飛び立っていく。彼らは直ぐに上空で編隊を組むと、敵を撃滅すべくカリブ海を駆けていく。

 イースター島沖拠点から送られて来た36機ものフリントだ。過去の戦いでその有用性は実証済みであり、パナマ拠点の切り札である。

 これだけの数があれば、並の相手であれば十分な打撃を与える事が出来るだろう。しかし今回の相手は原子力空母を筆頭とし、強力な軍艦が多数所属している空母機動部隊だ。これまでの様にフリントの神通力は通用しない。艦載機の性能もフリントとほぼ互角であるため、まともにぶつかれば敗北は目に見えている。

 それ故に運河棲姫が選んだのは、フリントの長い航続距離を活かした全力出撃による先制攻撃だった。こちら攻撃し主導権を握る事で、相手との差を埋める事を狙ったのだ。勿論迎撃される可能性は高いが、このままフリントを死蔵するよりはマシと判断していた。

 

 フリントたちは敵のレーダーを避けるべく慎重に低空を飛行し、艦隊へと急接近していく。目標は大西洋艦隊だ。太平洋側の敵はイースター島沖拠点からの援軍が対処する事となっているため、彼らは目の前の敵に集中する事が出来た。

 最優先目標は当然空母だ。あれを撃沈する事が出来れば、そこに搭載されている艦載機も無効化出来る。そうなれば今後の戦いを優位に進められるのだ。

 だがその野望は――

 

《Shadow-1、FOX-3》

 

 ミサイル発射の符号と共にフリントたちに殺到するミサイルにより、脆くも崩れ去った。

 

――!?

 

 思わぬ攻撃に、フリントたちは即座にチャフやフレアをまき散らしながら散開し、何とかミサイルから逃れようとする。しかし彼らの努力も虚しく、何機ものフリントが翼をもがれ海面へと墜ちていく。

 彼らは混乱していた。今の攻撃は彼らのいる海域を考えれば、敵の航空機からの攻撃だろう。しかしフリントに搭載されているレーダーには、航空機の反応が無かったのだ。

 そんな時、レーダーが異物を映し出した。しかしそれは航空機にしては遥かに小さな物だ。だが彼らはそれで敵の正体を察した。

 

――ステルス機!

 

 正体さえわかれば後は何とかなる。彼らは急いでステルス機の攻撃によってバラバラになった編隊を再編しようとした。だが、

 

《Purple-Team、Engage》

――!?

 

 アメリカ軍はその隙を逃すつもりは無かった。未だに混乱から脱していないフリントたちの前に、対空兵装を満載したF/A-18Eの編隊が躍り出た。

 

《Purple-1、FOX-3》

 

 発射符号と共に、無数のミサイルが放たれた。

 後は蹂躙されるだけだった。敵の数はフリントを上回り、更に編隊もバラバラ。この状況で勝てるはずもない。次々と打ち据えられフリントたち。そして、

 

《Eagle-Eyeより各機。フリントの全機撃墜を確認した》

《了解。Shadow-Team、帰還する》

 

 無線と共にフリントを撃破した戦闘機群は去っていった。

 

 

 

「撃破したか」

 

 太平洋艦隊旗艦、マウント・ホイットニーのCIC。「オペレーション・スイートホーム」での作戦指揮官に任命されたマイヤーズは安堵したように小さく息を吐いた。彼の手元には先程大西洋上で起きた空戦の報告書があった。レイ参謀長も頷く。

 

「ステルス機による攻撃は有効でした。この空戦は今後の深海棲艦との戦いで大いに参考になるでしょう」

 

 パナマから出撃したフリントに先制攻撃を与えた下手人。それはアメリカが誇るステルス戦闘機であるF-22で構成された部隊だった。彼らは早期警戒機の誘導の下、そのステルス能力を遺憾なく発揮し、敵機を混乱に陥れたのだ。その後大西洋艦隊の航空隊が追撃をした事により、フリントは全機撃墜される事となる。

 

「これでフリントの心配はなくなったな。後はイースター島沖拠点か……」

「パナマを両洋から攻めるのです。確実に援軍を送るでしょう」

「だろうな」

 

 マイヤーズは小さく頷いた。彼らの中では援軍が来ることは確定事項だった。だが問題はどの位援軍を送って来るかであった。もし何千もの深海棲艦がパナマに援軍に送られる事になれば、太平洋艦隊はそちらに対処しなければならなくなる。そうなれば作戦の成功確率は一気に低下するだろう。

 頭を悩ませる二人。その時、

 

「国防総省より通信です。偵察機がイースター島沖拠点より敵艦隊の出撃が確認したとの事です」

 

 通信士官の報告がCICに響いた。CICの空気が一気に張り詰める。

 

「来たか。数は?」

「およそ1200との事です。またイースター島沖拠点で多数のフリントが確認されました」

「ふむ……」

 

 口に手を当て考え込むマイヤーズ。

 

「どう思う?」

「イースター島沖拠点の区分は特級。規模の事を考えれば1200という数は少なすぎます。恐らく即応で派遣可能な部隊だと思われます」

「後から本隊が来る、か。攻略に時間を掛けられないな」

「また1200隻もの深海棲艦と戦うとなると太平洋艦隊の持つ予備戦力では対応し切れません。攻略部隊から幾らか引き抜く必要があります」

「仕方ないか……。ともかくパナマ攻略部隊と迎撃部隊の準備を急がせろ」

 

 マイヤーズの号令と共に、太平洋艦隊が慌ただしく動き始めた。

 




追加ダイスロール。派遣艦隊規模。400×1d6
結果:400×3=1200。
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