それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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今回はダイス判定はお休みです。

後、以前からヨーロッパの現代の軍事関係について調べていて思った事ですが――

お前らいくら何でも酷過ぎない?(真顔)



艦これZERO最終話 艦娘

2017年4月23日午前9時45分 イギリス本土から北西約千㎞の海域。

 

 45型駆逐艦「ダービー」、23型フリゲート「ボーフォート」「アバコーン」の3隻からなるイギリス艦隊は、イギリス近海に出現した深海棲艦の艦隊の迎撃のため出撃した。敵は戦艦ル級を中心とした12隻の艦隊。赤いオーラを纏った深海棲艦――エリート級が数隻確認されており、3隻のイギリス艦隊では空軍による援護があるとはいえ荷が重かった。本来ならもっと艦隊の規模を大きくして出撃するべきだったが、現在のイギリスではこれが限界だった。

 ボーフォートのCICの艦長席でアルフ・パーネル艦長は、密かにため息を吐いた。

 

(たったこれだけの戦力で戦うことになるとはな)

 

 深海棲艦との戦いが始まり四年。かつてその名を世界に轟かせていたロイヤルネイビーは崩壊していた。主力とされる駆逐艦はダービーのみ。フリゲートは7隻残っているが、今回出撃している艦以外は損傷を受けており、ドックで修理中。本来なら2014年に退役する予定だったヘリ空母イラストリアスは、退役を無期限延長し各海戦に参加していたが、1月に起きた海戦で大破し、修理の目途は立っていない。また本来ならイギリス海軍最大の空母となるはずだったクイーン・エリザベス級は、追加建造されるフリゲートに予算を取られ、建造途中で作業は止まっている。

 

「アバコーンが遅れています!」

 

 その報告にモニターを確認する。そこには艦隊機動についていけていないアバコーンの姿があった。

 

(確かアバコーンは新人ばかりだったな)

 

 船乗りは技術職だ。戦闘に耐えられる一人前の将兵になるには、長い訓練期間が必要になる。そんな貴重なベテランの将兵が長い戦いの中で、その数を減らしていた。現在では即席培養で教育された将兵ばかりであり、艦の力を十全に発揮できるか怪しい状態だった。

 また数少ないベテラン将兵についても、激戦が続きでロクな休息が取れておらず、疲労は限界に達していた。

 その様な、八方ふさがりな状況のイギリスだが、他国に救援を求めることは出来なかった。正確にはどの国も援軍を出せる状況ではなかった。

 世界で最大の海軍戦力を持つアメリカは、太平洋、大西洋の両方から攻勢を受けており、自国の防衛に精一杯。原子力空母を筆頭に高い海軍力を持つフランスは、深海棲艦の出現以来、国内情勢が悪かったが、今年に入ってからは更に悪化。援軍どころの状況ではない。ドイツは陸軍国であるため元々海軍戦力が少なかったにも関わらず、深海棲艦との戦いで更にその数を減らしており、保有戦力はイギリス以下の状況。スペインはイギリスと同じく、大西洋から来る深海棲艦の対処に追われている。イタリアは地中海で激戦を繰り広げている。

 

(栄光あるロイヤルネイビー、いやイギリスも墜ちたものだ……)

 

 アルフは自嘲するが、イギリスの状況は世界的に見れば、国家が残っているだけマシな状況だった。南沙諸島、チャゴス諸島、アゾレス諸島、ハワイ諸島、そして南太平洋の敵拠点から来る深海棲艦の攻勢に、国力の低い国々は耐えることは出来なかった。

 中東は石油の輸出がほぼ不可能になったために崩壊寸前。東南アジア各国は南沙諸島の深海棲艦の攻勢によって壊滅。アフリカに至っては深海棲艦の被害に加えて、食料、物資の不足により、内戦状態にまで発展してしまっていた。

 そしてイギリスも国家が機能しているとはいえ、危険な状況には変わりない。ユーロトンネルにより、食料や石油などの資源は辛うじて輸入出来ているが、各国も深海棲艦の被害が大きいため、輸入量は先細り状態。食料を初めとした生活必需品も配給制に移行している。経済状況も、主要であった金融業が深海棲艦の影響で大きな被害を受けてしまい、悪化の一途を辿っている。国土への深海棲艦の被害は少ないことは、不幸中の幸いといった所だった。はっきり言えば、何かきっかけがあれば簡単に国家が崩壊する状況にあったのだ。

 

午前10時23分

 

「敵艦載機を補足しました」

 

 CICにレーダー手の声が響いた。アルフは気を引き締め直し、艦の指揮に集中する。

 

「対空戦闘用意」

 

 彼の指示に従い、CICの全ての人員は慌ただしく各々の仕事に取り掛かる。ボーフォートの乗員は、深海棲艦との戦いが始まる前から軍務に就いていたベテランだ。その動きに淀みはなかった。

 遥か遠くの空に深海棲艦の艦載機が見え始めた頃、イギリス艦隊は対空戦闘に取り掛かる。

 

「旗艦より対空戦闘開始の命令です」

「対空ミサイル発射」

 

 三隻から同時に対空ミサイルが発射される。使われているのはイギリスがライセンス生産した日本の一六式対空誘導弾。幾本ものミサイルは敵の編隊に飛び込むと大爆発を起こし、空間ごと艦載機を薙ぎ払う。

 以前であれば、これで敵の艦載機は撃退できていた。だが今回は、その数こそ大きく減らしたが、損害を無視してイギリス艦隊へその歩みを止めなかった。

 

「敵編隊、進行を続けています!」

「やはり敵は編隊の密度を薄くしていたか……」

 

 深海棲艦も学習しているのか、一六式対空誘導弾への対抗策として、艦載機の編隊の密度を薄くすることで、被害を軽減するようになっていた。

 敵の編隊がイギリス艦隊に接近する。この事態については事前に予測されていたため、アルフは淀みなく命令を出す。

 

「主砲、機銃起動。対空戦闘始め!」

 

 対空兵装が起動し、イギリス艦隊に攻撃を仕掛けようとする敵編隊に火砲が飛ぶ。またダービー、アバコーンから放たれる対空砲火により、敵の艦載機は次々と撃墜されていく。元々対空ミサイルでその数を大きく減らしていた敵の編隊にとって、その攻撃は致命傷であった。程なくしてに全ての艦載機は空から叩き落されることとなる。

 

「損害は?」

「被害なし。しかし、敵艦隊が接近しています」

 

 本命である深海棲艦の艦隊は、イギリス艦隊が空襲に対処している間に急接近していた。この事態にアルフは顔を歪めた。

 

「空軍はどうしたんだ……」

 

 今回の迎撃において、空軍による航空攻撃が行われる予定だった。本来なら空軍のトーネードがこの空域に到着しても良い時間なのだが、現れる様子はなかった。実はこの時イギリス近海に深海棲艦の艦隊が出現しており、その対処のために空軍戦力が割かれていたのだった。そのことをアルフが知るのは、もっと後になってからだった。

 そうこうしている間に、深海棲艦の艦隊との距離が縮まり、ついには交戦距離に入る。こうしてイギリス艦隊は幾度目かの深海棲艦との艦隊決戦に突入した。

 

午前11時05分

 

「敵艦隊がこちらの射程に入りました」

「撃ち方始め」

 

 先手を取ったのは当然だがイギリス艦隊だった。三隻から放たれる対艦ミサイルは深海棲艦に次々と命中する。イギリスも深海棲艦との戦いの中で各種兵器の改良を行っており、対艦ミサイルの命中率は、4年前と比べて格段に上昇していた。

 着実にダメージを与えていき、駆逐級を中心に敵を撃破していくイギリス艦隊。だが数の差による影響は大きい。十分に相手を削ることが出来ずに、戦艦ル級の砲撃範囲まで接近される。

 

「敵の射程範囲内です!」

「回避運動しつつ攻撃を続けろ!」

 

 アルフの命令が飛ぶと同時に、戦艦ル級の艤装に施されている16インチ砲が火を噴いた。砲弾は数十秒の飛翔の後にジグザグに航行するイギリス艦隊に降り注ぎ、一発がダービーに直撃した。そして長距離での戦艦砲の命中率を考えれば本来なら不運な事故と言って差し支えない命中弾による被害は、これだけで終わらなかった。船体内部で炸裂した砲弾によってミサイルに誘爆するという、イギリス艦隊にとって最悪の事態に発展してしまう。イギリス艦隊旗艦ダービーは大爆発を起こし、船体がくの字に折れて沈んでいく。

 

「ダービー轟沈!」

「我が艦が艦隊指揮を引き継ぐ!」

 

 即座に指揮権がボーフォートに移行され、艦隊の混乱を最小限に食い止める。ミサイルを乱射し奮戦するイギリス艦隊。だが主力である駆逐艦を喪失したイギリス艦隊にとってかなり不利な状況だった。そしてとうとう最悪の事態に発展する。

 

「対艦ミサイル残弾ゼロ!」

「アバコーンもミサイルが切れたようです!」

 

 敵の残りは戦艦1、軽巡1、駆逐2。主要攻撃である対艦ミサイルが使用不能となった今、深海棲艦に対抗可能な兵器は主砲だけであるが、軽巡、駆逐級はともかく、戦艦を撃破出来るほどの能力はない。そのため、アルフは戦闘は困難であると判断した。

 

「ここまでか。撤退する」

 

午前11時44分

 

 撤退を開始するイギリス艦隊。だが深海棲艦がそう簡単に逃がすはずもなく、追いすがってくる。イギリス艦隊は艦砲で牽制する、残っていた対空ミサイルを敵の艦隊の真上で爆発させてひるませるなど、あの手この手で逃走を図った。だがその努力も空しく、深海棲艦の攻撃によってイギリス艦隊は捉えられることとなる。

 ボーフォートの船体が轟音と共に大きく揺れる。被弾したのだ。

 

「ダメージレポート!」

「5インチ砲二発被弾!主砲、ミサイル使用不能!」

「機関出力低下!速度が上がりません!」

 

 ボーフォートにとって最悪の状況だった。機銃は残っているが牽制にすらならない。

 

「アバコーンに援護要請!」

「ダメです!滅多打ちにされています!」

 

 慌ててモニターに目をやると、そこには駆逐級の砲撃にさらされ、ボロボロになっていくアバコーンの姿があった。辛うじて浮いてはいるが、いつ沈んでもおかしくない。

 

「ここまでか……」

 

 この絶体絶命の状況で既に打つ手はない。アルフは悔し気に顔を歪ませ呟いた。

――その時、それは起こった。

 

 

 

2017年4月23日正午。

 

「か、艦長?」

 

 突然身体から白い光を放ち始めたアルフに、CICの誰もが戸惑っていた。最もこの場で一番困惑しているのはアルフ自身だった。

 

「なんだこりゃ……」

 

 彼の異常は身体は光るだけではない。身体自体が変化しているのが彼自身もわかっていた。そしてそれと同時に、彼の頭の中には現代社会での常識や軍事知識と言った様々な知識が刻み込まれていた。現代社会に生きており、そして海軍軍人である彼には馴染みの深いもの。だが、その中には、聞いたこともない知識も混ざっていた。

 

提督、艦娘、妖精。

 

 そのどれもが荒唐無稽だが、なぜかそう言うものだと納得している自分にアルフは戸惑いを隠せないでいた。

 

 十秒が経過した頃、アルフから放たれていた光は収まった。この奇妙な状況に、戦闘中であるにもかかわらず困惑するCICの一同。

だが非常識な現象はこれで終わりではない。今度はアルフの目の前に光球が現れた。

 

「今度はなんだ?」

 

 CICの誰かが呟く。その間にも光球は人のシルエットに形作られていく。輪郭から見て女性だろうか?光球の変化が終わると、それは突如強い光が放たれる。

 

 そして光が収まった時――、そこにはある人物がいた。

 コルセット付きのドレスの様な衣装を身にまとった、ロングストレートのブロンド髪の少女。彼女はアルフに微笑みかけた。

 

「我が名は、Queen Elizabeth class Battleship Warspite! Admiral……、よろしく頼むわね」

 

 アルフを含めた全員は、次々に起こる異常事態についていけなかった。そして彼女――ウォースパイトも誰も何も言ってもらえず戸惑っていた。誰もが沈黙する中、ウォースパイトは戦いの気配を感じたのか、一度、深海棲艦がいる方向をチラリと見た後、アルフに真剣な表情で向き直る。

 

「敵が来ます。Admiral、指示を」

 

 彼女の発した敵という言葉でアルフは冷静になる。現在、危機的状況だ。いつまでも呆けている訳にはいかない。だからこそ彼女の正体を知る彼は、ウォースパイトに命令する。

 

「出撃だ。敵艦隊を撃破せよ」

「Yes,sir」

 

 海軍式の敬礼と共に、CICから飛び出すウォースパイト。それを見送ると、アルフは気を引き締め直し、CICの面々に指示を飛ばす。

 

「我が艦は彼女を援護する!機銃起動、敵を牽制しろ!」

 

 彼の言葉に戸惑いながらも、各々の仕事に取り掛かる部下たち。

 

「艦長。彼女はいったい……?」

 

 部下の一人が戸惑ったように質問する。CICの誰もが知りたいことであり、理解しているのは、この場ではアルフしかいない。アルフは肩をすくめ、答えた。

 

「彼女も言っただろ。……戦艦だ」

 

 

 

 艤装を展開しフリゲートから飛び降りたウォースパイトは、深海棲艦の艦隊と対峙していた。敵は戦艦1、軽巡1、駆逐2。そしてそのどれもが、大小の損傷を負っている。数の差はあるが、これならば十分勝機はあった。照準は敵旗艦の戦艦ル級。敵艦隊で一番脅威となる存在だ。

 

「Enemy ship is in sight. Open fire!」

 

 艤装の38,1cm砲が発射され、砲弾は攻撃を回避しようとする戦艦ル級を撃ち抜いた。倒れ伏しその身を海に沈めていく戦艦ル級の姿に、ウォースパイトは安堵した。

 

(これで後は残党処理ね)

 

 戦艦砲は装填速度が遅いため、次の発射まで時間がかかるが、残った敵は軽巡級と駆逐級。対空兵装兼副砲の連装高角砲で十分だった。回避行動を取りつつ、敵艦隊に高角砲を連射するウォースパイト。彼女の思惑通り、深海棲艦はダメージを受けていく。

 だが、深海棲艦もやられっぱなしではなかった。軽巡級を戦闘に単縦陣になると、ウォースパイトに突撃を開始した。ウォースパイトも不審に思いながらも迎撃するが、その突撃は簡単には止まらない。

軽巡級が沈み、駆逐級の一隻は撃破された。だが、最後の駆逐級はウォースパイトの目の前まで接近出来た。その時にはウォースパイトも敵の狙いを悟った。

 

「No!」

 

 駆逐艦の持つ強力な対艦兵装、魚雷。これが命中すればウォースパイトもタダでは済まない。敵の突撃は必殺兵器を回避不能な距離で発射するための捨て身の特攻だった。高角砲では発射を阻止できない。戦艦砲は装填中。そして回避は困難。ウォースパイトを倒す存在はそこにあった。

 

 だが、この戦場にはもう一つ戦力が存在している。

 

 駆逐級の身体が横に弾かれる。ボーフォートから放たれる30mm機銃からの弾幕だった。深海棲艦にとっては自身を沈めるほどの威力などない対空兵装。だがそれでも隙を作るには十分だった。

 

「Fire!」

 

 ウォースパイトは駆逐級の突撃を回避、高角砲を無防備な身体に叩きこんだ。後には、穴だらけになりその身を海に浮かべる駆逐級だけが残っていた。

 一つ息を着くと、ウォースパイトはボーフォートに向き直った。ゆっくりと近づくボロボロのフリゲートに彼女は笑みを浮かべた。

 

「Thank you very much. Admiral」

 

 これが公式の記録に残る艦娘による最初の戦闘だった。そしてこの日以降、追い詰められていた人類の反撃が始まることとなる。

 




今後の展開としては、新章として提督が主人公で日本が舞台の話を予定中です。ただその前にZEROの番外編を書くかも?

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