それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
5月26日、少々改訂しました。
○艦娘に対するアメリカ世論
当時の艦娘に対するアメリカの世論は大まかに、3つに分かれていた。
一つは他国と同じように艦娘を人として受け入れている親艦娘派。支持者は主に提督とその親族、艦娘と直接関わる事の多かった者たち、そしてアメリカ合衆国での艦娘への扱いに危機感を抱いている者たちから構成されていた。
勢力としては彼らは一番小さかったものの、当時のアメリカ太平洋艦隊司令官アーロン大将を始めとした親艦娘派の活動により、徐々に勢力を伸ばしていた。特にパナマ攻略の英雄であるマックレア少佐を用いた宣伝効果はかなり大きく、当時の記録では宣伝活動が始まったと時期から賛同者が急拡大しており、彼の英雄の言動がどれほどアメリカ国民に影響を与えていたのかが見て取れる。
二つ目は艦娘を飽くまで兵器として見る艦娘兵器派。支持者には一般市民に始まり官僚、政治家など様々な層が賛同しており、当時のアメリカにおいては最大勢力を有していた。
この派閥で一番有名な人物は、当時のアメリカ大統領クーリッジだろう。大統領令で艦娘へ人権を付与をした事で有名な彼だが、後に発見された彼の手記には、当時最悪レベルにあった艦娘の士気を回復させるためにやむを得ず行ったとの記述が見つかっている。
さてこの艦娘兵器派の特性だが、根底となる「艦娘=兵器」の考え方を例外として、彼らの主張が良く言って柔軟、悪く言えば流されやすい事が挙げられる。
後述する艦娘排斥派の様に艦娘の排除を主張する事はないし、親艦娘派としてマスメディアに広く顔を出していたマックレアへの称賛も手放しで行っている。提督へのある程度の理解もあるし、必要であるならば艦娘への物資提供も容認する程だ。これだけ聞けば親艦娘派に近いのだが、排斥派に近い主張も行われている。艦娘への人権の付与は排斥派と同じように最後まで反対していたし、軍による艦娘への徹底的な管理を主張している。言い方は悪いかもしれないが、彼らの主張は親艦娘派と排斥派の中間に位置する勢力だった。
そして三つ目は、艦娘の排除を主張する艦娘排斥派だ。この派閥の支持者には一般市民以外にも、宗教団体や一部企業家、政治家と言った、いわゆるインテリ層が中心となっている。
彼らの主張は文字通り「艦娘の排除」だ。後世から見れば荒唐無稽な主張なのだが、当時の彼らは大真面目だった。
「なぜ深海棲艦の様に突然現れた艦娘を怪しまないのか。艦娘が我々に砲を向けるかもしれないのに」
この主張から分かる様に、彼らは艦娘という未知の存在に恐怖していたのだ。だからこそ彼らは艦娘に関わる物を排除しようと主張していたし、一部ではマックレアを始めとした提督への嫌悪感もあったという。当時完成したレールガンに大きな期待を寄せていたのも彼らだ。
そんな3つの主張が入り乱れる当時のアメリカだが2018年末の調査では、支持者の数は、1位兵器派・2位排斥派・3位親艦娘派の順になっている。しかし数の差がそのまま政治的影響力に繋がる訳ではない。排斥派はその支持層故に政治的影響力が兵器派よりも大きかった事は、歴史研究家の間では有名な話である。そしてこの排斥派の持つ政治力が2019年から始まるアメリカの苦難の原因の一つとなる事を、当時の人々は知る由もなかった。
――20XX年出版「アメリカ合衆国は何故滅んだ?」より抜粋
アメリカ西海岸のとある鎮守府。本来であれば昨年と同様に新年を祝うパーティーが行われ騒がしいはずのその鎮守府は、異様なまでの静寂に包まれていた。艦娘たちの声が聞こえる事はなく、あったとしても事務的な物ばかり。それに釣られてか物音も殆ど響いていなかった。
そんな異常事態に陥る鎮守府の提督執務室。そこの執務机に提督代理を務めるアイオワの姿があった。
「みんなの様子はどう?」
彼女の質問に、秘書艦のイントレピッドは頭を振った。
「最初よりは落ち着いているわ。でも油断は出来ない。何かきっかけがあれば、直ぐに崩れるわ」
「そう……」
彼女たちの提督であるマックレアがガードマンに撃たれて既に3日が経った。マックレアが銃撃された当初は阿鼻叫喚に陥っていた鎮守府だったが、少しずつではあるが落ち着きを取り戻し始めていた。しかし全てが元通りかと問われれば、当然、その様なはずもない。多くの艦娘が精神的ショックから立ち直れていなかった。
「特に古参の子たちが酷いわ。ガンビア・ベイなんて部屋に引きこもって、何日もご飯を食べてない」
今回の銃撃事件は提督と長く接して来た艦娘程、精神的な動揺が大きかった。この鎮守府に残っている艦娘たちの多くは、ある者は塞ぎ込み、ある者は後悔の念に駆られている。普段の彼女たちならば考えられない光景が鎮守府に広がっていた。
「……戦闘になったら動ける?」
苦々し気に秘書艦に問いかけるアイオワ。他人から冷徹であると取られかねない質問だが、鎮守府を預る身としては訊かなければならないのだ。イントレピッドもその事は分かっており小さく頷く。
「戦闘自体は可能ね。でも普段の実力は出せないわ」
「……」
「少なくとも古参の子は当てにしない方が良いわね。戦闘に出すなら最近建造した子の方が上手く動けるわ」
建造されたばかりの艦娘は提督と余り接する事が出来なかったからこそ、精神的ショックからの立ち直りは早かった。現在、鎮守府の業務は彼女たち新人が中心にこなしており、何とか鎮守府として最低限の機能を保持していた。
「……どうすれば良いのかしら」
「……今は待つ事しか出来ないわ。最低でも提督が目を覚まさなければ、話にならない」
「……」
イントレピッドの言葉に、アイオワは沈黙するしかなかった。
リンカーン記念堂で三発の銃弾を受けたマックレアは、銃撃から逃れようと動いていた事が功を奏したのか即死は免れた。だが幸運は続くことは無かった。
「護衛チームからは?」
「まだ何も。……悪い形で安定しているみたい」
三発の弾丸はマックレアが念のために着込んでいた防弾チョッキを易々と貫き、彼の身体を致命的に傷つけていた。救急搬送されたワシントンD.C.の病院では治療が続けられているが、未だに予断を許さない状況が続いている。その様子を再度の襲撃を警戒して送り出された艦娘たちは、見守る事しか出来ないでいた。
「……もしもこのまま提督が――」
「やめてアイオワ。……やめて」
アイオワの呟きを、必死に遮るイントレピッド。艦娘たちにとっての最悪の事態など考えたくもなかった。だがその状況が目の前まで迫っている現在、アイオワは思考を止める事は出来なかった。
(……仮に提督が死ぬようなことになれば、ここの艦娘たちがどう動くのか予想がつかない。最悪、暴走して周辺地域が壊滅する可能性すらある。それだけは何としてでも止めないと)
もしもそうなれば、艦娘の立場は一気に追い込まれるのは確実なのだ。提督代理としての経験がそうした判断を導き出す。だが次善策も用意する必要があった。
(……仮に暴走するとしても、方向性を持たせないといけないわ。そのためにも事件の情報がいる)
マックレアの元に送られた艦娘だが、護衛以外にも事件の調査という仕事も任されており、現在事件の背後関係の洗い出しを行っている最中だった。下手に動くと警察や軍に感づかれるため妖精を使っての調査しか出来ないが、それでも多くの情報が手に入っている。
(みんな、頼むわよ)
アイオワは、静かにただ待つ事しか出来なかった。
マックレアへの襲撃事件で影響を受けているのは、何も彼の艦娘だけではない。パナマの英雄をよりにもよってガードマンが襲撃したという大失態に、アメリカは大いに荒れた。アメリカ国民からの政府へのバッシングに始まり、警備関係者や警察組織のトップの首がダース単位で飛び、クーリッジ大統領の支持率は大いに下落した。そしてこの事件は、当然の事ながら親艦娘派への影響も大きかった。
太平洋艦隊司令部、司令官執務室。その部屋の主であるアーロンは、書類を手に素早く情報を読み取っていた。親友が銃で撃たれた事への動揺はあるが、彼の地位の高さ故に、ただ泣いて過ごす事など出来るはずもなかった。そしてそんな彼の姿をスーツ姿の男はじっと眺めている。
「あり得んな……」
資料を読み終え、アーロンは唸り声を挙げた。彼の手にある書類には、海軍犯罪捜査局が作成したマックレア襲撃事件の捜査状況か記載されている。
本来なら警察の管轄に立ち入るなど有ってはならないのだろうが、襲撃された人物が海軍の人間である事、警察組織でトップの辞任が相次いでおり混乱しているという事もあり、国防総省が海軍犯罪捜査局との共同捜査をゴリ押したのだ。
もっとも太平洋艦隊司令官と言えども、このような資料を目にする事は出来ないはずなのだが、ある事情により目の前の男、海軍犯罪捜査局の捜査官から手渡されたのだ。
「背後に何もないだと? あれだけの事をしでかしたのに?」
「はい。現状ではそうなっています」
警察と海軍犯罪捜査局が、家宅捜索や周囲の人間への聞き込みを行い、襲撃の背景を調査しているのだが、未だに事件に繋がる動機が分からないでいた。当の襲撃犯を尋問すればいいのだろうが、残念な事にマックレアを銃撃した直後に自ら頭を撃ち抜いている。
「はっきり言って綺麗過ぎます。……ここまで来ると逆に怪しいレベルにね」
ニヤリと笑う捜査官。アーロンは目を細め口を開く。
「艦娘排斥派の可能性は?」
「勿論第一候補です」
艦娘への過激な主張を続ける艦娘排斥派だが、親艦娘派の提督も攻撃対象に入っている。アメリカで最も有名な提督であるマックレアなど、彼らにとっては悪魔と同等の存在のはずだ。
そのため捜査官たちの視線がそちらに向くのは当然の事であり、探りを入れているのだが――、襲撃犯と繋がる証拠は未だに見つけられていない。とはいえ、
「恐らく近い内に尻尾を出すでしょう」
彼等には動機が有りすぎた。
「根拠は?」
「私の勘です」
堂々と言い切る捜査官に、アーロンは思わず口元を緩める。
「勘ではな、と言いたい所だが、その通りになるだろうな」
「……と、言いますと?」
「大事な提督が襲われたんだ。あいつの艦娘たちが黙っているはずがない」
マックレア襲撃時、彼の艦娘の反応は二つに分かれた。「悲しみに暮れる者」と「激昂する者」だ。「悲しみに暮れる者」は精神的にも不安定という事で鎮守府に残っているのだが、「激昂する者」はマックレアの護衛と襲撃犯の捜査に参加していた。現在、妖精たちを駆使して捜査している真っ最中だった。
「……大丈夫なのですか? 復讐に駆られて襲撃などしたら、あなた方の立場が悪くなるのでは?」
「彼女たちを信じる事にするさ」
この事は襲撃直後、護衛として送られる艦娘の数が多いことに気付いたアーロンが鎮守府に確認し、アイオワはあっさりとこの事を白状したために彼の知ることとなる。
本来なら彼の立場を考えれば止めるべきなのだろう。しかしアーロンは捜査情報を自分に流す事、武力行使を控える事を条件に黙認する事にしたのだ。マックレアを通して彼の艦娘と親交を続けていたアーロンだからこそ出来る荒業である。
「そうそう。近い内に君たちの所に匿名で何かしらの証拠が届くかもしれないが、私も艦娘たちも無関係だから、詮索はしないでくれよ?」
「了解です。では例の件もお願いします。このままでは我々が動けなくなります」
「分かっている」
アーロンは目を細めつつ頷いた。目の前の男がこの場にやって来たのも、理由があったのだ。
「全く、議員連中も露骨な事をするものだ」
「恐らく事件の当事者ではないのでしょうが……、やはり痛くもない腹を探られるのは嫌な様です」
その事件性から艦娘排斥派を掲げる組織への捜査が行われようとしているのだが、その事に圧力をかけているのが連邦議会の一部の議員たちだ。調査しようとしている排斥派組織は件の議員の支持母体の一つであるため、議員を利用して捜査から逃れようとしているのだ。
そこで捜査官たちはアーロン、正確には親艦娘派に、議員の圧力に対するカウンターパートとして動いてもらうように依頼したのだ。影響力では議員たちには及ばないものの、今回の捜査では海軍犯罪捜査局も動いている事から、上手く行く可能性は十分にあった。
「吉報を待っているよ」
「お任せください」
こうして艦娘とは別に、捜査の専門家たちも動き出した。
因みにダイス内容ですが……、まあ大体碌な事にはなりません。(色々ルートをかんがえていますが、ぶっちゃけどれも書いてみたいw)