それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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少し思うことがあったので、過激派さんにちょっとしたフォローが入ります。

5月23日。作中の一部の名称を変更します。反艦娘穏健派を艦娘兵器派若しくは兵器派、反艦娘過激派を艦娘排斥派若しくは排斥派と変更させていただきます。そのため、過去の分も近い内に訂正していきます。


海を征く者たち65話 事件の真相

○艦娘排斥派について

 世間一般では艦娘排斥派というと、武力を持ってしてでも艦娘を排除すべし、という主張を唱える者たちとのイメージが強い。しかしこれは後の騒動で生じたイメージであり、実のところ2019年始めまでの排斥派はそれなりの理性を持って活動していた事は、余り知られていない。

 この時期で排斥派の中で最も規模の大きかった、と言うより唯一アメリカ全土に展開していた組織「アメリカンジャスティス」の主な活動を例に挙げると、鎮守府前でのデモや議会に対するロビー活動、組織内での集会が中心で、法的にも合法的なものばかりなのだ。これには幾つかの要因がある。

 一つは当時の組織運営者が政治家や企業家と言った社会的地位の高い者たちであったこと。彼らは艦娘の排除というイデオロギーを掲げてはいるものの、かつての共産主義者の様にその地位を投げ捨ててまで、理想に殉じるつもりはなかったのだ。また自身の社会的地位の高さを利用して、政府を動かした方が目的を果たしやすかったことも、組織の合法活動に起因している。

 もう一つは、武力を用いた場合のデメリットが挙げられる。武力闘争はある程度は可能では有るだろうが、その暴力性から政府との対決は避けられないし、一般からの支持が得にくい。更に排斥派は危険思想だと認識されれば、彼らの理想は遠退いてしまうだろう。それ故に件の組織では、暴力及び破壊活動は厳禁とされていた。

 そして三つ目だが、組織がビジネスチャンスの場となっている事だ。先も記述した通り、組織の運営者が政治家や企業家なのだが、他企業の人間が、彼らとのコネクションを得るために組織の構成員となるケースが良く見られていたという。月に一回行われていたという集会では、一定の参加者がビジネススーツ姿というのだから、当時どれだけ金が動いていたかがよく分かる。当然、組織の上層部もその利益を得られていたのは間違いないだろう。そんな美味しい組織を、反社会的組織として政府に目をつけられる様な真似をするはずがなかった。

 そんな「アメリカンジャスティス」だが、その在り方故に色々な人間が所属していた。文字通り艦娘を排除したい者、何かしら騒ぎたい者、親艦娘であるがビジネスのために排斥派を纏う者、周囲に流された者と、様々な理由で組織に参加していたという。一部の学者からは「アメリカンジャスティス」に参加するために、口だけの艦娘排除を唄う者も多かったため、実際の排斥派の支持者は統計より少なかった、と唱えられる程組織の規模は大きかった。

 そんな巨大組織の中に英雄を撃った者が現れた事は、ある意味必然だったのかもしれない。

――20XX年出版「アメリカ合衆国は何故滅んだ?」より抜粋

 

 

 

 ニューヨークのとあるビルの会議室。そこには財界の重鎮や与野党の幹部政治家、官僚と言った堂々たる面々が揃っていた。何も知らない者がこの集まりを見れば、何かの談合かと勘違いしそうな顔ぶれだが、彼らにはある共通点があった。彼らはアメリカにおける艦娘排斥派最大組織「アメリカンジャスティス」の上層部の人間である。

 そんな親艦娘派からすれば天敵である彼らだが、この場に集まっている面々の顔にはどこか疲労の色が浮かんでいた。

 

「やれやれ、何とか一段落着いたな」

 

 ある政治家の吐き捨てるような呟きに誰もが頷いた。

 

「気付けたのが早くて助かったな。ギリギリで掃除が間に合った」

「全くだ」

「だが油断はするなよ? 動機を考えれば我々が一番怪しいからな」

「分かっているさ」

 

 マックレアへの銃撃事件により、親艦娘派を始め様々な人々が動揺する事になったのだが、実のところ一番驚いていたのは艦娘排斥派の面々であった。彼らとしても教義的にもマックレアに思うところはあるのは確かなのだが、構成員に襲撃しろと言う命令は出した覚えは無かったのだ。

 

「……改めて確認するが、本当に誰も襲撃命令を出していないんだな?」

「当然だろ」

「ここで嘘を吐いても仕方があるまい」

 

 しかし彼らの掲げる教義を考えると、心当たりは十分すぎるほどあった。彼ら上層部は大急ぎで組織内部の構成員を調査。その結果は案の定、襲撃犯は「アメリカンジャスティス」に属した人物であった。

 

「上層部が動かないのならば、私が先陣を切ろう。悪魔を従えた偽りの英雄に鉄槌を下す」

 

 このような手記と共に、彼の住居には襲撃計画の詳細が掛かれたメモが発見されたのだ。「アメリカンジャスティス」は艦娘排斥派の最大規模の組織であるため、当然様々な人間が所属している。その中でも襲撃犯は日ごろから艦娘への過激な発言を繰り返しており、今回の襲撃は彼の独断で行われた、と言うのが事の真相だった。

 そしてこの事を知ることになった「アメリカンジャスティス」上層部の面々は――彼に対して大いに悪態を吐いていた。

 

「全く、学の無い奴はこれだから困る」

「確かにあのパナマの英雄は我々のイデオロギーからすると敵だがな……」

「だからと言って、あんな形で襲撃するなど言語道断だ。見ろ、どのメディアでもマックレアを悲劇の英雄扱いだ」

「正確には悲劇の英雄扱いしなければならない、だがな。申し訳ないがマックレアへのバッシングはこの状況では無理があった」

「分かっているさ」

 

 彼らは常日頃から艦娘の排除を掲げており、世間からは艦娘排斥派と目される面々である。しかし武力闘争を用いて目的を達成しようとするテロリストになりたい訳ではないのだ。テロリストなどになってしまえば、彼らが培ってきた社会的地位や名誉を全てドブに捨てる事になる。その様な事など上層部の人間は欠片も望んでいなかった。

 彼ら「アメリカンジャスティス」上層部は飽くまでも「政府主導による艦娘の排除」を望んでいるのだ。

 だからこそ彼らは地位を利用して政府に対して艦娘への圧力を掛けてきたのだ。また艦娘に代わる戦力としてレールガンの開発も支援し続けてきたし、未だに成果は出ていない物の、各企業の合同で艦娘の艤装を人間でも使えるように研究も続けていた。

 しかし組織の構成員がマックレアを襲った事により、彼らの努力が水泡に帰す瀬戸際まで追い詰められていた。

 

「警察の方はどうなっている?」

「捜査は停滞しているらしいが……、やはり警察は我々に疑いの目を向けているようだ」

「……客観的に見ると一番怪しいのは我々だからな。こればかりは仕方ない」

「だが我々への捜査は抑えたはずだろう?」

 

 組織の力や各々の地位を最大限利用して、襲撃犯と組織の繋がりは消したものの、やはり警察は艦娘排斥派への疑念を容易に捨てる事は無かった。現在も艦娘排斥派への捜査は続いており、当然、派閥最大組織である「アメリカンジャスティス」にも捜査の手が伸びようとしていた。それを上層部たちの尽力により捜査から逃れてきていたのが現状だ。しかし、

 

「いや、まだ圧力が続いている」

「親艦娘派の連中か?」

「……いや、待て。それは完全に退けたはずだぞ?」

「何? じゃあどこが?」

 

 確かに政治的影響力については艦娘排斥派の方が上である。事実、アーロンの援護を受けた海軍犯罪捜査局の捜査も、手こずりながらも何とか退けたのだ。

しかし話はそれだけでは終わらなかった。親艦娘派に思わぬ援軍が到着した事により、事態が再び動き始めようとしていた。

 

「あいつ等、兵器派を取り込んだようだ。再度圧力を掛け始めている」

「待て。親艦娘派と兵器派は対立関係じゃ?」

「マックレアは兵器派からも支持を受けていたからな。その点は手を組むことは出来る」

「それに政府は戦時国債徴収キャンペーンでマックレアを利用していたんだ。金づるを殺されて一部の官僚どもが激怒している」

「ついでに大統領も圧力を掛けてきているらしい。……全く、誰のおかげで大統領になれたと思っているんだ」

「本人は大統領になる気は無かったらしいじゃないか。恩なんて感じる訳ないだろう」

「今はそんなことはどうでも良い。問題は我々に捜査が入りかねん事だぞ」

 

 かくして親艦娘派と艦娘兵器派の力により、警察の捜査の手が再び彼らに迫ろうとしていた。しかも今回は警察のバックにいる勢力が強大であり、勝てる見込みは薄かった。そして、

 

「ああ、ついでに更に悪いニュースがあるが聴くかね?」

「まだあるのか」

「我々の天敵も動き出している可能性もある」

 

 二勢力以外にも組織にとって危険な勢力も動いている事に、彼ら組織の上層部は気付き始めていた。

 

「天敵だと?」

「マックレアの艦娘たちだ。マックレアの護衛としてワシントンに派遣されているが、護衛にしては数が多い」

「おいおい」

 

 艦娘排斥という看板を掲げているからこそ、彼らは敵である艦娘の情報は逐次手に入れている。それ故に近場に艦娘がいると言うその危険性は、十分に理解出来ていた。

 

「今のところ動きは見せていないので、艦娘側は事件の真相には至っていないだろうが……」

「いや、油断はしない方が良い。人間に捜査させるか、艦娘に捜査されるかはまだ分からんが、ともかく事前準備は必要だな」

「ああ、そうだ。……後は最悪の事態に備えて逃げ支度もな」

「……なぜ逃げる必要が?」

「なに。最悪の事態を想定するならば――」

 

 だがこの会話は次の瞬間、会議室の扉が乱暴に開かれた事により中断される事になる。

 

「緊急事態です!」

 

 会議室に転がり込んできたのは、ある議員の秘書官だった。その只ならぬ様子に、誰もが彼に注目する。

 

「マックレアの死亡が確認されました!」

 

 その一言に、この場に居る誰もが顔を青くさせた。

 

 

 

 2019年1月15日。アーリントン国立墓地のとある墓石の前に、軍服に身を纏い整列した女性たちの姿があった。若い女性から、本来なら軍服など着る事の無いはずの幼い子供までと容姿は様々だ。ある程度事情を知る者が見れば、直ぐに彼女たちの正体に気付くだろう。彼女たちは艦娘であった。

 その数約100名。彼女たちは一人一人墓石の前に立つと静かに祈り、そしてまた列に戻っていく。

 彼女たちは一言も言葉を発する事はしない。だがその身からは他者を拒絶するような雰囲気を醸し出していた。

 

「……」

 

 そんな光景が幾らか続き、とうとう最後の一人が祈りを終えた。彼女は列には戻らず振り向く。

 

「……みんな、行くわよ」

 

 彼女――アイオワの言葉と共に全員から怒気が一気に噴出した。士気は旺盛。とは言え艤装は展開していない。それくらいの理性は何とか残っていた。

 彼女たちの提督であるマックレアが凶弾に倒れた時、そこには提督を守る艦娘が誰一人いなかった。彼女たちはそれが堪らなく悔しかった。艦娘は提督を守るために生まれたにも関わらず、己の使命を全うする事が出来なかったのだ。

 

「……」

 

 アイオワはチラリと手にしている封筒に視線を向ける。既に彼女たちの提督を殺害した犯人の背後関係は洗い出した。当然、事件が過激な思想の果てに、末端の人間が暴走した結果である事も把握している。

 だが彼女たちにそんな事情など関係ない。例え末端の暴走であろうと、件の組織に属していたのだ。それを無かったことにして、知らんぷりなどさせるつもりなど無い。きっちりとその血で償って貰うつもりだ。勿論そんなことをすれば、親艦娘派の立場が悪くなるだろうが、もうすぐ消滅する彼女たちにとっては知った事ではない。

 アイオワは大きく息を吸い、敵の住処を告げる。

 

「目標、ニューヨ――」

「気持ちは解らないでもないが、それは止めて貰えないか?」

 

 しかし突如飛び込んできた言葉に、アイオワの号令は遮られた。慌てて振り返ると、ゆっくりとこちらへと歩いてくる太平洋艦隊司令官、アーロンの姿があった。

 

「……どうしてここへ?」

「友人の墓参りだ。当然だろう?」

 

 アーロンは戸惑う艦娘たちを気にも留めず、マックレアの墓石まで歩みを進めると、持ってきていたコーラ瓶を墓石の前に供えた。

 

「後もう一つの目的は、君たちが危なっかしく見えたから、様子を見に来た。そしたら案の定だったよ」

「……ただ八つ当たりをしに行くだけです」

「それを聴いてしまったら、無理矢理にでも止めるしかないな。マックレアの名誉に関わりかねない」

 

 その瞬間、辺りの空気が一気に張り詰めた物に急変する。全ての艦娘がアーロンを睨みつけていた。

 

「ただの人間が私たちを止められると思っているのですか?」

 

 アイオワの言葉は純然たる事実である。この場に居る百人弱の艦娘を、たった一人の人間で押しとどめる事などまず不可能である。

 その様な状況の中アーロンは小さく肩を竦めた

 

「ああ、私一人では無理だろう」

「なら、邪魔を――」

「だから、応援を頼むことにしたよ。アイオワ。レーダーを展開してみると良い」

「何を――レーダーに反応、これは!?」

 

 アイオワは慌てて周囲を見渡す。気付けば軍服姿の女性たちが自分たちの周囲をぐるりと囲っていた。そしてその顔ぶれにアイオワは見覚えがあった。

 

「折角の墓参りだ。元第4任務艦隊の艦娘たちも誘ってみた」

「……」

 

 形勢は一気に逆転した。アイオワたちを囲むのは300弱の艦娘、それも身体能力の高い戦艦や重巡クラスばかりである。数に劣るアイオワたちに突破は不可能あった。

 アイオワは諦めたように小さく息を吐く。

 

「……参りました。私たちは逮捕ですか?」

「まさか。君たちはただ墓参りに来ただけだろう? まあ、口止め料として君の持っている封筒は貰うがね」

「それくらいなら」

 

 アーロンは封筒を受け取ると、手早く中の書類を読み解いていく。

 

「なるほど。そう言う事だったか」

「ええ。それで? アーロン司令官はこれをどうしますか?」

「ああ、存分に使わせて貰うよ。少なくともあいつ等に一泡吹かせられる」

 

 アイオワの問い掛けに、アーロンは一つニヤリと笑みを浮かべると、踵を返し歩き始めた。

 

「もう、お帰りですか?」

「ああ、私の様な者がいては邪魔なだけだしな。お暇させて頂くよ」

「……後の事、よろしくお願いします」

「……当然だ」

 

 アーロンは友人の遺した艦娘の願いに、振り返る事無く拳を挙げて応えた。

 

 




良い話風に終わっていますが、結末は既に確定している罠。
因みに今回で出した「アメリカンジャスティス」の下部メンバーですが、日本の学生運動に参加した多くの学生と同じノリで、組織に加入した者も割といたりします。(要するに流されたり、ファッション感覚で参加した)上層部は真面目にやってますけどね。
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