それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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現在E-2戦力ゲージを重量編成で攻略中。噴進砲と警戒陣の組み合わせがあそこまでヤバいとは……。(なお、ボス前の戦艦群に追い返される模様)





海を征く者たち66話 呼び水

 アメリカ海軍所属の海軍少佐、マックレア氏(57)への暗殺事件について、本日未明、アメリカ海軍犯罪捜査局より、事件には組織的な背景は無く事件当日に自殺したモーガン容疑者(21)の単独での犯行であるとの最終発表が出された。現地メディアでは組織的犯行の可能性が高いとの報道もされていたが、今回の発表によってそれらが否定された形となった。

――2019年2月12日掲載の日本のとあるニュースサイトにて

 

 

――では、マックレア氏を暗殺する事は絶対にあり得ないと。

 その通りです。我々アメリカンジャスティスは非暴力を原則としています。これは我々の活動が正義であるからこそ、暴力に頼る必要が無いからです。我が国の英雄として名高いマックレア氏を暗殺するなど言語道断です。

――しかしマックレア氏を始めとした提督は、艦娘排斥派にとっては敵ではありませんか?

 確かに彼らは艦娘を作り操る事が出来るので、艦娘排斥派としては敵としか見えないでしょう。しかし提督の背景を勘案した場合、一概に敵であるとは言い切れません。

聞くところによれば、彼らは自分の意思で提督となった訳ではなく、謎の現象によって提督となりました。そして国は彼らの操る艦娘が深海棲艦に対抗できる事に気付き、提督を強制的に深海棲艦との戦いに投入している。つまり提督は被害者でもあるのです。

そんな哀れな被害者を、殺せば艦娘を一掃できるからと言って暗殺するなど、正義ではありません。

 アメリカンジャスティスはレールガン開発の支援を代表するように「艦娘に頼らず深海棲艦を撃破出来る手段の模索」も掲げておりますが、これは提督たちを救う一面もあるのです。

――とある新聞に掲載された、アメリカンジャスティス幹部へのインタビュー。

 

 

319: 名前:名無しさん@アメリカ速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

あれだけの事をやらかしたのに、単独犯とかねーわ。絶対、アメリカンジャスティス辺りの命令だろ。

 

347: 名前:名無しさん@アメリカ速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

マックレアを撃ち殺して、背後関係がバレ無い様に自殺だしな。組織への忠誠心マックス。

 

401: 名前:名無しさん@アメリカ速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

つーか、暗殺とかできそうな組織って、あそこしか無いしなw

 

459: 名前:名無しさん@アメリカ速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

アメリカンジャスティスは全うな政治結社です。言いがかりはやめて下さい。

 

467: 名前:名無しさん@アメリカ速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

≫459

信者だ! 排斥信者が出たぞ!

 

477: 名前:名無しさん@アメリカ速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

≫459

信者さん、チーッスw 

アメリカの英雄ヤりやがって。さっさと○ね。

 

――アメリカの親艦娘系まとめサイトにて

 

 

025: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

【朗報】アメリカンジャスティス無罪【勝利】

 

056: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

やったぜ。

 

106: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

これは不正してますわーw

 

109: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

流石、上層部を政治家と企業家で固めた政治結社だ。事件のもみ消しなんて楽勝だぜ!

 

153: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

いや、アメリカンジャスティスは全うな政治結社だから。今回の件は言いがかりなだけだから。

 

160: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

≫153

(棒)忘れてるぞw

前に知り合いに誘われて集会に行ったことはあるけど、やってることはデモ位で滅茶苦茶普通だったな。所でビジネスマンみたいな恰好の人が多かったけど、あれはなんで?

 

193: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

≫160

文字通りビジネスマン。あそこっていろんな業種の人が居るけど、集会はそんな人たちが一か所に集まる機会なんだ。だからコネが欲しいビジネスマンが寄って来るわけ。つーかこないだもそこで契約取って来たw 後あそこは女も釣れるから、それ目当ての奴も結構いる。

 

227: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

アメリカ最大の艦娘排斥派組織とは一体……。上層部に粛清されるんじゃないの?

 

239: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

≫227

かなりの金が動くようになったせいで、上層部もそれに目が眩んだって噂。

 

258: 名前:名無しさん@ニュース速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

もしかして組織の現状にブチ切れたモーガンが、「俺がやってやる」ってなった可能性が微レ存?

 

――アメリカの排斥派系まとめサイトにて

 

 

 

 2月14日。アメリカのトップであるクーリッジ大統領の姿は、アメリカ国防総省の庁舎であるペンタゴンの応接室にあった。主目的としては先日一部地域で配備が始まったレールガン、それの更なる改良のための研究状況の視察である。先程まで現場で開発責任者から説明を受けており、たった今この応接室に戻って来たところだ。現状、この部屋には彼と、そしてクーリッジが呼び出した一人の軍人しかいない。

 

「レールガン、か……」

 

 対深海棲艦戦ではあまり活躍の場が無い陸軍や艦娘排斥派議員の肝いりで採用、配備が始まったレールガンだが、クーリッジとしてはどうも好きにはなれなかった。この兵器を推す者たちは如何に強力な兵器かを説くが、配備においてその背後で動いていた政治的な圧力の事を考えると、折角の新兵器がただの張りぼての様にしか見えなかったのだ。

 

「君はどう思う?」

 

 クーリッジは目の前の海軍軍人、太平洋艦隊司令官のアーロン大将に視線を向けた。彼は大統領の気持ちを察したのか苦笑している。

 

「対艦、いえ対深海棲艦兵器としてはミサイルと比べれば圧倒的に費用は抑えられます。それに理論上はいくらでも威力を上げられるので、ポテンシャルは十分にあるでしょう」

「ああ、その点は私も同感だ。だが」

 

 クーリッジの言葉に、アーロンも頷いた。

 

「はい、現時点では艦娘の方が余程使い勝手が良いでしょう。戦艦クラスに有効打を与えられるレベルにあるならば話は変わってくるのでしょうが、現状のレールガンではお守り程度としか言いようがありません」

「やはりか。それは親艦娘派としての意見か?」

「いえ、純粋な海軍軍人としての立場での意見です」

 

 一部で期待が寄せられるレールガンだが、対深海棲艦戦の主役である海軍としてはそこまで興味を持っていなかった。深海棲艦を撃破しうる兵器と言う触れ込みだが、海軍は既に艦娘という深海棲艦を撃破出来る戦力を有しているのだ。未だに発展途上の兵器に金を掛けるくらいなら、これまでの様に対空ミサイルを調達した方がよっぽど成果が出る。議会からの圧力があったので艦載型レールガンは一応採用しているものの、一部艦艇に実験的に搭載する程度で、調達はひどく低調だった。

 

「やはり大量配備はまだ早いな」

「その通――待ってください、大量配備ですか?」

 

 思わず聞き返すアーロン。その様子にクーリッジは苦笑する。

 

「少し前まで排斥派議員が陸軍と結託して、レールガンを全土に配備しろとうるさかったんだ」

「実戦データが入って来る分、研究速度は上がりそうですが……。大量配備はどうかと……」

「危うく実現する所だったよ。――君がくれた例の情報が無かったらな」

「それは良かったです」

 

 ニヤリと笑うクーリッジに、アーロンも笑って答えた。例の情報――マックレアの艦娘たちがアーロンに託したマックレア暗殺事件の真相は、彼の手によってこの国の大統領に渡されていたのだ。そしてクーリッジが手に入れた情報を下に、事件をアメリカンジャスティス上層部が望むような形で解決するように仕向けたのが事の真相だった。

 

「しかし私が言うのもあれだが、事件の始末はあれで良かったのか? マックレアは君の友人だったと聞いたが」

 

 クーリッジは事件の真相を有効活用するために、あえてアメリカンジャスティスに捜査の手が及ばない様に方針を転換した。マックレア暗殺事件の真相は議会上層部の弱みと同じだ。何かとうるさい議会を黙らすためにも、そして彼自身の今後のためにも、アメリカンジャスティスには無事に生き残ってもらう必要があったのだ。

 こうしてアメリカンジャスティスへの本格的捜査目前だったマックレア暗殺事件の捜査は、大統領の裏切りにより一気に遠のいた。親艦娘派も対抗したものの議会と大統領の力の前には及ばず、結局事件は単独での犯行とされた。それがある程度捜査背景を知っている者たちの認識である。

 しかしその裏には盛大なマッチポンプがあった事を知る者は、極わずかだった。

 

「私も当初は情報の公開による排斥派への打撃を考えていました。しかしそれでは、下手をすれば政治や経済に混乱が生じかねません」

 

 クーリッジが自身のために事件の真相を活用しているとするならば、アーロンはアメリカ全体のために真相を活用していた。組織的にマックレアを暗殺したのならば、躊躇せず全面対決していたのだろうが、今回の事件は飽くまで末端の暴走だ。襲撃犯を止められなかった事にはアーロンとしても思うところはあるが、軍の高級士官という立場が、アメリカが混乱に陥る事を良しとしなかった。

 またアーロンは艦娘排斥派の中で最大規模かつ穏健的な活動を行うアメリカンジャスティスを残す事によって、その教義故に過激な行動を取りかねない支持者を統制させる事も望んでいた。今回こそ大失敗してしまったが、基本的にアメリカンジャスティスの存在が排斥派の行動指針となっている面もある。そんな組織を排除してしまえば、排斥派の動きが読めなくなるし、更なる暴走に繋がりかねないためだ。親艦娘派にとって悪徳ではあるが、無秩序よりはずっとマシである。

 

「まあ彼の組織が生き残る代わりに、ただでは済ませるつもりがありませんが」

 

とはいえアーロンもアメリカンジャスティスに対して、艦娘や提督、鎮守府に対しての活動の自粛や内部規律の徹底を約束させる事を始めとした、幾つかの要求を勝ち取っている。少なくとも当面は排斥派の活動に悩まされる事は無いだろう。

 

「ところで、例の件はどうなっていますか?」

 

そして目の前の大統領からも、当然情報の報酬を得る事になっている。

 

「ああ。一部が強硬に抵抗しているが、切り崩しは順調だ。少なくとも夏までには中止できるだろう」

「それは良かったです」

 

 満足げに頷くアーロンに、クーリッジはため息を吐いた。

 

「まさかこんな要求をして来るとは思わなかったぞ」

「艦娘にとっては必要な事でもあります」

「しかし提督の『首輪』を外す事になるとはな……」

 

 提督の首輪。つまり艦娘たちのネックとなる提督をアメリカに留めるために行われている様々な工作の事だ。以前の艦娘、提督の亡命騒ぎの対策の一つとして打ち出された国家機密級のこの工作を、アーロンはクーリッジに中止する事を求めたのだ。

 

「君のくれたもう一つの情報が無ければ、流石に厳しかったがな」

 

アーロンの要求に、当初クーリッジは難色を見せ居ていた。マックレア暗殺事件の真相が議会に対して有効なカードとなるとはいえ、工作の中止とは流石に釣り合わない。提督への工作は、文字通りアメリカに繋ぎとめる首輪なのだ。

しかしそのような考えも、アーロンの出したカードにより、打ち砕かれる事になる。

 

「自力で無効化されかねないなら、外しても問題は無いでしょう」

「まあ、そうだな」

 

 秘密裏に行われていた工作が、艦娘に既に察知されている可能性が高い。それがアーロンのカードだ。工作の関係上、秘密裏に行う必要があるにも関わらず、相手に工作の情報があるという事は致命的だった。

 この事を知らされた最終的にクーリッジはアーロンの提案を承諾する事になる。

 

「アメリカンジャスティスは生き残り、親艦娘派たる君は提督に着けられた首輪を外し、そして私は議会に悩まされなくなる上に今後の余生も約束された、か。暗殺された英雄には悪いが誰もが得をしているな。排斥派が随分と損をしているようにも見えるが」

「犯罪組織のレッテルを張られずに綺麗なまま生き残れたのです。十分でしょう」

 

 当たり前の事だと肩を竦めるアーロン。その様子にクーリッジは思わず口元を綻ばせた。

 だが――、後に二人はあの時情報を公開しておいた方がずっとマシだったのかもしれないと後悔する事となる。

 

 

 

 2019年4月1日。アメリカの動画サイトに、とある動画が投稿された。

 動画時間はほんの数分であり、内容も一人の人物が演説しているだけと言う、シンプルな物だ。しかしその動画がアメリカに一石を投じる事になる。

 

「アメリカンジャスティスは腐敗している」

 

 冒頭でそう語ったその人物の姿は異様だった。迷彩服に身を包み、顔は黒の覆面で隠している。体格と声でその人物が男だと分かるが、それが何者かは動画からは読み取れない。

 

「上層部は金に目が眩み、構成員もただ何も考えず組織の言われるままに動くだけ。中には排斥派を騙っている者すらいる始末だ」

 

 その声色には憂いが見え隠れし、そして侮蔑の色も見られていた。

 

「そしてマックレアを撃った英雄モーガンを、事もあろうかテロリストと呼んだ。これのどこに正義がある!」

 

 男はどんどんと語気を強め、そして早口になっていく。

 

「今、政府、親艦娘派、兵器派、そしてアメリカンジャスティスにより、英雄の志した理想が消されようとしている。だがその様な事はさせない。我々は英雄の灯した火を受け継ごうと誓った!」

 

 彼は高らかに拳を振り上げ、そして堂々と宣言する。

 

「我々は今日この日、人類を艦娘の支配から守るための防衛組織、『人類解放戦線』の結成をここに宣言する!」

 




あれです。共産趣味者のサークルにいた共産ガチ勢が離脱して、勝手に武力闘争を始めた感じ。

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