それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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今回は番外編寄りの本編。パナマ奪還以降、半年も対深海棲艦で何もないのは変なので、幕間的な位置づけで書いてみました。

イベントは何とかオール甲クリア&石垣、フレッチャー堀完了。ラスダンとフレッチャー堀はかなり苦労しました。


海を征く者たち68.5話 閑話休題 彼の海にて、斯く戦えり

 アメリカが内部崩壊を始めた2019年。そんなが時であっても、世界では深海棲艦との戦いは続いている。

 アジア最大の艦娘保有国である日本。周辺国が深海棲艦や内ゲバにより滅ぶ中、様々な幸運により何とか生き残っている彼の国であるのだが、未だに危機を脱したとは言いにくい状況にあった。東は北太平洋最大の拠点を有するハワイ諸島拠点、南は侵攻をする事無くひたすらに戦力を蓄えている南沙諸島拠点及び東南アジアに点在する拠点。日本も戦力を蓄えているものの、仮にそれらの戦力から全力で攻撃を受ければ苦戦は必至だった。

 そんな国の北の守りを担う大湊。そこには今まさに出港した艦隊の姿があった。編成は汎用護衛艦1隻と中規模の艦娘母艦3隻という、いささか小規模な艦隊である。行き先は北海道の先、ロシア領海だった。

 

「出撃しましたか」

 

 遣露艦隊の出撃を坂田防衛大臣は、防衛省庁舎の大臣執務室で大淀から報告を受けていた。

 

「ロシアからも、太平洋艦隊が出撃したとの連絡がありました。ロシア艦隊と合流後、北上する予定です」

「そして日露共同での深海棲艦掃討作戦ですか。……しかし、こうも早く再び北方に艦隊を出す事になるとは思いませんでしたよ」

 

 坂田のぼやきに、大淀は思わず苦笑する。

 

「仕方ありません。ロシアもかなり無理をしていたと聞きましたし」

 

 

 日本が艦隊を北方に派遣する事になった原因。それはロシアの無理な防衛計画の結末と言っても良かった。

 2018年8月。アメリカのパナマ奪還作戦の一環として行われた、日本によるハワイ諸島拠点への牽制作戦『布号作戦』。この時、日本艦隊は北太平洋の深海棲艦拠点を攻略する事により、ハワイ諸島拠点の目を日本艦隊に向けさせていた。

 結果的にハワイ諸島拠点から日本艦隊への攻撃は無かったものの、囮自体は成功したため作戦は成功した。また作戦行動により北太平洋の深海棲艦拠点の多くを撃破した事により、日本そしてロシアは北太平洋方面からの圧力を削減したと言う副産物を得る事が出来た。

 これが物語であれば日露共に幸せな結末に至れたとして終りとなりそうなのだが、残念な事に現実は早々単純なものではない。

 

「これだけの領域を、どうやって守れと言うんだ……」

 

 布号作戦終了後、思わぬ形で深海棲艦の魔の手から解放された海域を前に、ロシア海軍の上層部は頭を抱える事となる。当時のロシア海軍は広大なロシアの重要拠点を防衛するのが精一杯であったのだ。

 原因としては極単純で艦娘戦力の不足である。艦娘について良く知らない人間が聞けば「数を増やせばいいじゃないか」と言いそうであるが、そう簡単には行かない。

 2018年8月時点で、ほぼ全てのロシアの提督は既にキャパシティーの上限に達していたのだ。勿論戦力の増強として、日本から艦娘用航空機を始めとした各種装備を輸入しているが、根本的な解決には至らず、日々限られた戦力を何とかやり繰りし戦っていた。そんな状況で、防衛範囲を広げられても対応は困難であったのだ。

 この事態を受けて、海軍内では日本と共同で北太平洋の防衛を出来ないかと言う話が出て来る事となる。これは日本と共同防衛条約を結んでいた事もあり、現実的な案であった。

 だが、それに待ったをかけたのがロシア政府、正確にはロシアの世論だった。

 

「日本が北太平洋で活躍したにも関わらず、海軍は何もせずに見ていただけだと? 海軍は何をやっているんだ!」

 

 自国の領域を奪還出来たがそれがほぼ他国任せだったという状況に、ロシア国民は激怒していたのだ。このバッシングは議会からも出ており、この事態にロシア政府としても対応せざるを得なかった。

 

「今回日本により解放された領海の維持は、ロシア単独で行う」

 

 せめて解放された海域だけでも自国で維持しなければ国民が納得しない。また国としてのメンツもあったため、ロシア政府はこのような発表を行う事となった。

 この発表により国民は何とか落ち着き、メンツも一応は保たれる事となったのだが、貧乏くじを引いたのは軍だ。現実的な対応が困難になってしまったのだ。一応、政府からは太平洋方面へのある程度の戦力の増強を確約しては貰ったのだが、広がった領海の前では雀の涙ほどであった。

 後にロシア軍は血のにじむような努力と様々な無茶を押し通し、新領域での防衛体制を敷く事に成功した。だがこの防衛体制は国民にこそ「万全である」と豪語しているが、実情は張子の虎であった。

 

「警備任務はギリギリ何とかなる――とは思う。但しある程度の勢力で侵攻されれば、あっと言う間に奪取されるぞ」

 

 防衛体制を見たとある海軍将校の言葉である。

 そんな防衛状況ではあったが、2018年の間は何とか新領域の維持は出来ていた。主に現場の努力、なにより大規模な侵攻が無かったという運の要素が大きかった。

 だが残念な事に、その幸運も年を跨いでまでは続かなかった。

 

 

「まあ、ロシアもよく持った方でしょう」

「そうですね」

 

 2019年2月後半。ハワイ諸島拠点より500隻規模の艦隊が出撃。その深海棲艦艦隊は狙いすましたかのように北太平洋地域へ進出していく。

 500隻規模となると日米英と言った艦娘大国としては、一方面軍で余裕をもって対応出来る程度ではあるが、残念な事に艦娘中小国であるロシアにとっては国家レベルの脅威である。ましてやお粗末な防衛体制を敷いている北太平洋地域のロシア軍にとっては死神も同然だった。

 現地では防衛戦が幾度となく行われるも、連戦連敗が続いていた。二か月近くの戦闘により、折角守っていた新領域の半分を深海棲艦に奪取される羽目になった。そしてこの戦況に、流石のロシア政府も単独での防衛を諦めざるを得なかった。

 

「露日共同防衛協定に基づき、援軍を要請する」

 

 この決定にロシア世論は相変わらずうるさかったが、今回ばかりは政府は無視した。これ以上、損失を出すわけにはいかなかったのだ。

 対する日本だが、北方が再度深海棲艦の手に墜ちるのは国防的に問題があるため、即座に要請を承諾。元々ロシアが押され始めた頃から派遣の準備を進めていた事も有り、要請を受けてから2日後の4月の中旬には、遣露艦隊は出撃する事となった。

 

「日本から派遣する艦娘は400人。通常艦隊は護衛艦1隻しか出しませんでしたが、ロシア側がある程度戦力を出す事になっています。問題は無いでしょう」

「確かにそれだけあれば戦力は問題ないでしょうが、ロシアとの連携となると不安が残ります。特に最高司令官はロシア人になりましたし……」

 

 若干の不安を覚える大淀。今回の作戦は日露共同防衛協定が締結されて以来初めての、日本とロシアの共同戦線なのだ。何かしら不具合が生じる可能性は十分あった。また指揮権がロシア側にあるため、日本の艦娘が使い潰される可能性を危惧していた。

 

「ある程度の独自指揮権は確保していますので、そこまで大きな問題は起こらないでしょう。連携の方はやはり不安が残りますが……こればかりは今回の共同作戦で問題を洗い出すしかないでしょう」

 

 坂田は肩を竦めた。アメリカと違い、ロシアとの連携など初めてなのだ。問題が起きない方が可笑しい。

 

「ともかく、作戦は始まりました。今は彼らの無事を祈りましょう」

「そうですね」

 

 こうして日本は再び北方での戦いに身を投じる事となった。

 

 

 

 スエズ運河が深海棲艦の手に墜ち、喉元にナイフを突きつけられる事となったヨーロッパ。そんなヨーロッパ大陸陥落の危機の中、ヨーロッパ各国は必死に防備を固めながら怯えている――訳では無かった。

 2019年4月のある日。スエズ近海、その上空では多くの航空機が飛び交っていた。

 

“そっちいったよ!”

“OK!”

 

 一方は深海棲艦の物。カブトガニの様な物、白い球体状の物と形状は様々だが、そのどれもが戦闘機であり、深海棲艦側は敵をこれ以上行かせまいと、必死に敵の編隊に挑みかかっている。そんな深海棲艦航空隊と相対するのは、当然艦娘たちの操る航空機群だ。日本から輸入した零式艦上戦闘機二一型を始めとした後続距離の長い戦闘機たちが敵機と戦っている。

 

“3番機被弾! 脱落していきます!”

“目標は、すぐ目の前だ! 頑張れ!”

 

 そんな激しい航空戦の中、必死に突き進むとある大型機の編隊があった。

 「アブロ ランカスター」。イギリス空軍が1942年に運用を始め、第二次世界大戦ではドイツを相手に活躍した機体だ。そんな爆撃機が艦娘用航空機として現在に甦り、護衛戦闘機に守られながら、スエズの空を飛んでいる。他にもハリファックスやモスキートと言った往年の名機の姿も見られる。

 

“目標発見!”

 

 先頭を進むランカスターが攻撃目標を捉えた。昨年の1月に深海棲艦の手に墜ちたスエズ運河、その地中海側の入り口であるポートサイドだ。攻撃を警戒してか、運河の殆どを覆う程の赤色結界が展開されている。これでは爆撃した所で、敵の拠点にダメージを与える事が出来ない。だが、

 

“爆撃用意!――投下!”

 

 その様な事など全く構わず、生き残っている爆撃機たちは爆弾倉の扉を開け、次々と爆弾を落としていく。雨霰と爆弾がスエズ運河に降り注ぐ。しかしそのどれもが結界に阻まれてしまい、運河にダメージを与える事は出来なかった。

 だがそんな光景の中でも、妖精たちは笑っていた。

 

“作戦は完了した! これより帰投する!”

 

 

 ヨーロッパ、特に地中海に面した国々の軍人たちは頭を抱えていた。スエズ運河の陥落はヨーロッパにとって、喉元にナイフを突きつけられたのも同然なのだ。自分たちが生き残るためにも、何としてでもスエズを奪還する必要があった。

 とは言え、相手は強大だ。数千からなる通常型深海棲艦に加え、強力な戦闘能力を有している姫級、鬼級も多数目撃されている。また人類の戦闘機と渡り合えるフリントの編隊も敵の拠点に駐留している事が確認されている。

 対するヨーロッパだが、複数国家からの連合軍だ。数では相手よりは上であり、更に多種多様の艦娘戦力を有している。だがそれらの戦力を全てスエズにぶつけられるかと言えば、不可能だった。各国とも自国の防衛のために、ある程度の戦力を本国に残さなければならないからだ。特に最大戦力たるイギリスはその立地上、大西洋のアゾレス諸島拠点からの攻勢を警戒しなければならないため、スエズには余り戦力を出せない状況だった。これは大西洋に面した国も同様であるため、スエズ攻略の中心は必然的に地中海側の国々が担う事となる。

 では地中海の国々で攻略が可能かと問われれば――ほぼ不可能と答えるしかなかった。

 地中海側最大の艦娘戦力を有するのはイタリアなのだが、彼の国は空母艦娘が殆ど居ないし、戦艦の方も16インチ搭載艦はいない。日米英といった艦娘大国と比べた場合、その戦力は明らかに見劣りする物であった。そしてそんなイタリアが最大戦力であるのだから、その他の国の艦娘戦力はお察しである。

 現状ではスエズの奪還は困難。この事実の前に誰もが頭を抱えていた。

 そんなある日、とある軍人が疑問を持った。

 

「赤色結界って、なんで常時展開されていないんだ?」

 

 ハワイ、パナマ、そしてスエズと世界中様々な所に点在する深海棲艦の拠点だが、実のところ赤色結界は常時展開されている訳では無い。日本の硫黄島攻略の時もそうであったのだが、人類側が攻撃したり拠点に近づいて来た場合にのみ、赤色結界が展開されるのだ。

 折角攻撃を通さない強力なバリアを持っているのだから、それを常時展開していれば良いのではないか。ある軍人はその事に疑問を呈し、ある仮定に至った。

 

「もしかして、結界の展開に何かしらのリスクがある?」

 

 これは状況証拠のみの、飽くまでも仮定の話ではあった。だがこの結論に、各国の軍上層部は飛びついた。それ程までに追い詰められていたとも言える。

 軍上層部はすぐさま仮定を検証するための実験を行う事にした。実験の場となるのは、大西洋のとある3級拠点だ。

 実験はある意味で苛烈だった。ある時は現代戦闘機による爆撃、ある時は深海棲艦出現以降出番が無かった原子力潜水艦によるミサイル攻撃、時にはロシアによる維持費削減を兼ねた通常弾頭搭載のICBM攻撃すら行った。

 数ヵ月に渡る実験、そして該当する拠点の攻略・占領、及び検証の末、人類はある結論に至る事になる。

 

「赤色結界の展開には、各種資源が大量に消費される。また攻撃が結界に被弾した場合、その消費量は増大する」

 

 この実験の結果は、スエズ奪還に大きな光をもたらす事になる。

 

 

“よーし、今日の作戦は完了だ! さっさと帰るぞ!”

“了解!”

 

 爆撃を終えた爆撃機たちが、進路を地中海に変更し来た道を帰っていく。

 運河を攻撃し、赤色結界がそれを防ぐ。傍から見れば意味の無い嫌がらせレベルの攻撃が、ここ半年近くほぼ毎日その様な光景が見られていた。

 NATOは赤色結界に対する実験の末、スエズ拠点を消耗させるための攻撃を続けていた。この攻撃はあらゆる手段を持って行われている。

 

“いやー、今日もいい仕事をしたな”

“撃墜された連中も基地に居るだろうし、早く帰ろう”

 

 潜水艦による奇襲対地攻撃や巡航ミサイル、果てにはICBMによる攻撃も行われているが、スエズ攻撃のメインは今回の様な妖精たちの操る航空機による空襲だ。サイズは小さいが攻撃力は実物と変わらないし、搭乗員たる妖精は撃墜されても直ぐに復活する、そしてなによりも攻撃にかかる費用が既存兵器と比べて恐ろしく安い。これを活かさない手は無かった。

 

“そう言えば別働隊は?”

“あっちも成功したらしいぞ”

 

 スエズに強制的に結界を展開させ保有する資源を削る戦法だが、余所から資源を補給されては意味がない。だからこそヨーロッパ各国はもう一つの手を打っていた。

 

“あっちは紅海まで行かないといけないからなー。大変だな”

“でも迎撃は無いんだろ? 楽じゃないか?”

“いや割と出て来るらしい”

“マジ? 機雷を落として終わりだと思ってた”

 

 人類はスエズ拠点にとっての唯一の補給路である紅海に対して、機雷を敷設していたのだ。現在の紅海は大量に投下された機雷により半ば封鎖状態にあった。

 

“所で最近、敵さんの勢いが弱くなった気がしないか?”

“やっぱりそう思う?”

“戦闘機の数も、前より少なくなってるしな”

 

 妖精たちがニヤリと笑う。この半年に渡る嫌がらせが効いている証拠だった。この事は当然軍上層部も把握していた。

 

“そろそろ反撃の時間だな”

 

 ヨーロッパ各国によるスエズ奪還の時が、目の前まで迫っていた。

 




フレッチャー堀が一番資源を消費した……。結局、ネルソン編成によるS狙いで行けました。支援なしでも、ボスに辿り着けば3割S勝利行けます。参考までに編成は、

ネルソン;主主偵缶・タービン
加賀:村田・岩本・F4U・烈風
日進:電・カミ車・大発中戦車・ロケラン
羽黒:主主偵三式
筑摩:主主瑞雲三式
熊野:電・水戦×3

霰:主主・戦車連隊
北上:甲魚魚
夕張:対潜×4
霞:主主・カミ車
プリンツ:主主電三式
利根:主主電三式


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