それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》   作:とらんらん

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UAが10万を突破しました。まさかここまで来れるとは思ってもいませんでした。
皆様、ありがとうございます。
こんなオッサンたちが会議ばかりしている艦これ二次創作ですけど、今後ともよろしくお願いします。


海を征く者たち75話 内憂外患

 オルソン提督の反乱、そしてテキサス州での住民虐殺から暫く日数が経過した、2019年9月の始め。アメリカのとある山奥の山荘。艦娘排斥過激派組織「人類解放戦線」の主要メンバーたちは、テーブルに置かれている各種新聞を前に渋い顔で顔を突き合わせていた。

 

「ようやく民衆たちも我々の主張が正しいと判断したようだな」

「ああ、だが……」

 

 掻き集められた新聞の一面には、どれも艦娘に纏わる事件が掲載されている。中身を見ればどれも艦娘を批判するような内容ばかりだ。そしてTVやネットも反艦娘の主張が大勢を占めており、一部には人類解放戦線に肯定的な内容すらあった。

 テロを起こした事により政府から追われている彼らにとって、この世論の動きは歓迎できる物だ。だが彼らはこの事に手放しに喜べないでいた。

 

「提督による反乱と艦娘による虐殺が切っ掛けではな……」

 

 リーダーの男は小さくため息を吐いた。

 彼らとしてはこの様な状況に陥る事を危惧して戦って来たのだ。だが現実は、艦娘の排除は達成できていない内に、提督が国家に対して反逆し、そして艦娘が無為な民衆にその武器を向けた。

 彼らからすれば、今の状況は不本意なものなのだ。

 

「……同志。いつまでも嘆いていても仕方ありません。今は我々がなすべきことをやりましょう」

「そうです。確かに多くの犠牲者が出てしまいましたが、世論は艦娘排斥一色になりました。これは我々に追い風になります」

 

 そう言ってリーダーを励ますメンバーたち。被害者が出てしまった事は残念だが、逆に言えば犠牲者が出たからこそ、民衆は動いたのだ。これは彼らの理想に一歩前進したとも言えた。

 

「……そうだな。犠牲者の無念を晴らすべく、我々も頑張らなければならないな」

 

 リーダーは小さく頷いた。ここにいる者たちは全員理想に燃える者たちばかりだ。こんな所で歩みを止めるつもりは無かった。

 何処とも知れぬ山奥で、狂信者たちは己の使命を果たすべく気炎を上げていた。

 

 

 

 狂信者たちが夢物語を語っている頃、アメリカ大統領の城であるホワイトハウスのある会議室では、顔色の悪くなった政府関係者が集結していた。

 

「……状況は?」

 

 会議室の中でも最もやつれている人物、この国のトップであるクーリッジ大統領は、視線をクルーズ国防長官に向けた。クルーズは冷めたような様子で小さく頷くと、書類を手に立ち上がる。

 

「国防総省、海軍省から各鎮守府に対深海棲艦防衛任務の継続を繰り返し通達していますが、応答及び任務を遂行する様子は見られません。最早鎮守府戦力は完全に軍、いえアメリカから離脱したと考えて良いでしょう」

 

 この報告に、多くの者が諦めたようにため息を吐いた。誰もがここ数日間でアメリカに起こっている騒動を知っており、この報告も予想出来たことだった。しかし諦め切れない者もいる。ある閣僚が声を上げた。

 

「何処からも返答はないのか? 鎮守府は何百とあるんだ。せめて一か所くらいは……」

「ありません。返答は完全にゼロです」

 

 そんな縋るような言葉を、クルーズは切り捨てた。それでもその閣僚は何か言おうとするが、クルーズは睨みつけて黙らせる。

 

「ともかく、アメリカの艦娘戦力は消滅しました。これによりこれまで艦娘で対応して来た深海棲艦からの攻撃に、全く対応出来ていません。陸海空及び海兵隊が全力で対処に当たっていますが、艦娘の代替にはなれていません」

 

 艦娘戦力の離脱は、当然の事だがアメリカの防衛計画の崩壊と同意義だ。深海棲艦からの攻撃を守ってくれる存在が居なくなった事により、各地で被害が多発していた。現地での死傷者の数はうなぎ登りであり、沿岸部の住民が攻撃の届かない内陸部へ避難しようとする光景が各地で見られていた。

 勿論、通常兵器を擁するアメリカ四軍も何とかしようと現場で奮闘しているのだが、海岸線の長さからくる守備範囲の広さから、十分な防衛が出来ないでいた。

 だがこの程度で終わるのならまだマシだ。真の問題は内部にあった。

 

「そして皆さんも知っての通りですが、鎮守府による反乱が多発しています。ハッキリ言いますと、艦娘からの攻撃の被害の方が、深海棲艦の物よりも深刻です」

 

 アメリカに600近くある鎮守府の多くは、鎮守府に引きこもり静観を決め込んだり、アメリカから逃げ出していた。だが極一部の鎮守府はその武力をこれまで守って来た人々に向ける事を選んだ。

 政府及び軍からの圧力、世間からのバッシングによりため込まれていた怒りが、メイン州とテキサス州の事件の影響により爆発したのだ。

 彼女らはアメリカの混乱に乗じて、各地での攻撃を開始。今までの鬱憤を晴らすかのように、無差別に暴れ回っていた。

 

「そちらへの対処は?」

「陸、空軍部隊を当てていますが、遅々として鎮圧は進んでいません」

 

 当然の事だが軍部としても暴れ回る艦娘を鎮圧すべく、部隊を送り込んでいた。とは言え相手は圧倒的な火力と高い防御力を誇る艦娘である。生半可な戦力を当てて返り討ちにあうケースも多発していた。

 唯一艦娘に勝る戦力である空軍ならば一定の戦果を挙げられる可能性を有しているが、艦娘側も対策として飛行場への攻撃や市街地で活動する事により空軍の攻撃を躱していた。

 

「やはり通常部隊では無理があるか……。アメリカに留まっている鎮守府への懐柔は出来ないのか? ある程度の譲歩は許可したが」

 

 艦娘程の戦力を持つ相手を鎮圧には、やはり同等の戦力を持つ艦娘を当てるしかない。アメリカ政府も何とか政府側に付く鎮守府を得ようと、様々な手段で鎮守府側にコンタクトを取ろうとしていた。だが、そんなアメリカ政府の目論見を、クルーズは頭を振るって否定した。

 

「先程申し上げました通り、鎮守府側からの応答はありません。現地へ人員を派遣しましたが、全て失敗しました」

「太平洋艦隊の人員は? あそこは親艦娘派ばかりだ。流石に話くらいは――」

「もう一度申し上げます。『全て』失敗しました」

「……」

 

 強い口調で否定するクルーズを前に、クーリッジは沈黙せざるを得なかった。

 

「政府、いえ合衆国は艦娘に対して締め付けをし過ぎました。最早彼女たちは交渉に耳を貸す事は無いでしょう」

 

 何処か投げやりな表情で、クルーズは言い切った。

 

 

 

 ホワイトハウスで政府のトップたちが集まっている頃、アーロン太平洋艦隊司令官は執務室のテーブルに山積みにされた各種報告書の束を前に、顔を青くしながら頭を抱えていた。

 

「どうしてこんな事に……」

 

 彼は8月下旬の各種事件を聞きつけ、未だに完治していないにも関わらず半ば無理矢理退院して事態の収拾に当たってきた。だが事態は既に高々太平洋艦隊司令官一人が頑張った所で、どうにかなる状況ではなかった。

 

「世論は艦娘を完全に敵とみなしたか……」

 

 掻き集めた各種新聞は、どれも艦娘を危険視する主張ばかりだった。中には艦娘排斥過激派組織である人類解放戦線を肯定するような主旨の記事を掲載する新聞すらある。

 世論は完全に艦娘排斥一色だった。

 

「せめてメイン州の反乱を早期に止められていれば……」

 

 オルソン提督の反乱の場合、主犯はオルソン提督であり、艦娘は司令官に従っただけに過ぎない。また攻撃の対象となっているのはメイン州州兵であり、幸いな事に一般市民へは危害を加えていない。この事実を全面的に押し出せば、確率は低いだろうが何とか世論を収められる可能性はあった。

 だがテキサスでの事件は違う。艦娘が主犯であり、しかも完全に自分の意思で行った犯行なのだ。唯でさえ艦娘への視線が厳しいアメリカ世論が、艦娘を危険な存在と認識するには十分な事件だった。そしてこの虐殺は、メイン州の反乱を早期に鎮圧出来ていれば起こらなかった可能性は高かった。それ故にこの結果はアーロンに悔やんでも悔やみきれない物だった。

 またこれらの事件に影響を受けたのは、世論だけではなかった。

 

「最早どうする事も出来ない、か」

 

 政府の横暴に耐えかねて起こされたオルソン提督の反乱、住民からの暴力に対して暴発してしまったテキサスでの虐殺、そしてこれらの事件を受け艦娘を主敵とみなしたアメリカ世論。

 これらを前に、提督と艦娘はアメリカを完全に見限った。

 通常任務を停止し、鎮守府が独自行動を取り始めた程度であればまだ良い方だ。提督と艦娘が次々とアメリカを去っていっていった。この動きは東海岸は勿論の事、親艦娘派の牙城たる太平洋艦隊配下の鎮守府でも起こっていた。そして一部ではその持てる武力を合衆国に向ける事態に陥っていた。

 この悲惨な状況にアーロンも未だに癒えていない身体を押して直接現地に赴き、何とかアメリカに留まる様に説得しようとした。多くの軍人たちが砲を向けられ追い返される中、何とか提督と会う事が出来たのも、彼のこれまでの実績によるものが大きかった。

 しかし彼の力を持ってしても、出来た事はそこまでだった。

 

「確かにあなたたちは信用出来るかもしれない。しかしこの国は信用出来ないし、する気もない」

 

 そう言われ、彼は交渉すら叶わず幾度も追い返された。

 

「……」

 

 陰鬱な気分の中、アーロンは執務机の一番下の引き出しを開け、中に入っていた小型の金庫を机の上に置いた。

 

「我々の努力も無駄になったな……」

 

小さく呟きつつ彼は手慣れたようにダイヤルを回して開錠し、金庫の蓋を開ける。中に入っていたのはクリップでまとめられた書類の束だった。アーロンはそれを取りだすと、クリスタル製の灰皿に放り込み、そしてライターで火を点けた。

 

「……いや、判断が遅すぎたのか」

 

 アーロンを中心とする親艦娘派の面々は、アメリカに対してクーデターを画策していたのだ。

 5月以降、政府による艦娘への圧力が増した状況を見て、太平洋艦隊の軍人は近い内に艦娘側が耐えられなくなると判断した。このまま手を拱いていては、大量亡命もしくは艦娘による暴発は確実。そうなればアメリカは滅亡してしまう。

 だが小手先の改革程度では修復不可能レベルであるし、大きな改革を行おうにも今の親艦娘派の力はあまりにも小さかった。

 だからこそ武力と言うワイルドカードに頼ろうとしたのだ。

 

「『歴史に悪名を残してでも、国民を守らなければならない』か。私も滑稽な事を言った物だ」

 

 病室での出来事を思い出し、アーロンは思わず自嘲する。8月の始めに、太平洋艦隊上層部の面々を前に、その様な宣言して始まったクーデター計画は、急ピッチで進められていた。危機はすぐそこまで迫っている。誰もがそれを感じ、働いていた。

 だが計画は間に合わなかった。事態は彼らの予想以上に早く悪化し、そしていとも簡単に修復不可能なレベルにまで陥ってしまった。最早クーデターを起こした所で、何も意味は無かった。

 

「終わりか……」

 

 アーロンは灰になっていく書類を前に、小さく呟くしかなかった。

 




Q,今のアメリカはどうなってるの?
A,内乱しながら戦争してる。

それはそれとして、アーロン大将クーデター判定。5以下でクーデター。
1d100判定結果:40
ダイスの女神さま「まあムリやな」
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