オーバーロード二次創作スレよりネタを拝借。
単発ネタです。

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小説の形になるように書き直し、項目も追記しました。


第1話

 ナザリック地下大墳墓、ギルド長アインズ・ウール・ゴウンの執務室。

 余計な装飾を排除した気品と安らぎに満ちた空間で、アインズはアルベドから上げられた様々な書類に判を押していた。

 ナザリックの頭脳であるアルベドが精査した書類だから特に思い悩むことなく判を押せばいいだけとはいえども、支配者であるアインズはナザリックの隅々まで把握しておかなくてはならない。故に、斜め読みだろうが一応目を通してから判を押す。

 

 (アンデッドだから睡眠や休息は不要といえ、流石に一度でこの量を消化するのは骨が折れるな……)

 

 十時間でも二十時間でも傍に立っていようとするアルベドはひとまず下げさせ、今の執務室にはアインズ一人だ。

 アインズがナザリックにおいて一人になる機会はそこまで多くなく、シモベたちの期待の視線から逃れて羽を伸ばす絶好のチャンスだ。

 そういった理由からアインズは執務用ソファに深めに腰を下ろし、くつろぎつつも書類を処理していく。

 

 そんな時、ふと手に取った紙に目が釘付けになる。

 

 「ん?これは……何だ?」

 

 上部には書類の名前が書いてある。『ルプスレギナ・ベータがナザリックにおいて二度としてはいけないことの非公式リスト』。

 

 「……掲示物としてナザリック内部への掲載許可を求めるものか。アルベドとデミウルゴスの承認印は──既に捺されているな。後は私だけ、ということになるようだが……」

 

 アインズは、浅黒い肌と赤毛が特徴の人狼(ワーウルフ)を脳裏に浮かべる。

 

 (二度としてはいけないことのリスト?……ルプスレギナは確かに抜けている所のあるNPCだけど、こんなリストまで作る意味があるのか……?というか誰が作ったんだこんなの……)

 

 気になって書類作成責任者の名前の欄を見ると、「セバス・チャン及びルプスレギナ・ベータを除くプレアデス一同」と書いてあった。

 掲載予定箇所は第八階層以外のナザリック全階層。さらに驚くべきことに、掲載に関しての階層守護者同意サインはガルガンチュアとヴィクティム以外の全員分揃っている。

 準備の良さにアルベドの手腕を垣間見るが、ルプスレギナが一体どんな問題児として皆に認識されているのか一抹の不安を抱いた。

 

 (……とりあえず内容を確認しないと。──うわっ、けっこう量あるな。一つ一つ読んでいくとするか……)

 

□□□□

 

・このリストはナザリックに属するものすべてがすぐに参照できるよう各階層に掲げておき、定期的に更新するものとします。

 

 ・ルプスレギナ・ベータは自身より上位と設定されている各階層守護者、各領域守護者、戦闘メイドプレアデス、守護者統括アルベド、執事セバス、そして絶対の支配者であらせられるアインズ様より『やってはならない』と命ぜられたことを行動に移してはなりません。

 

 ・ンフィーレアとエンリを同じ小屋に閉じ込め、外から鍵を掛けてラブコメ的展開を期待することは禁止されています。「近い将来期待できる二世が生まれるっす!」は妥当な理由とは見なされません。

 

 ・『してはならない』と命じられていないことは、やるべきという意味ではありません。

 

 ・トブの大森林で無闇に遠吠えをすることは禁止されました。誘われて出てきたバーゲストが低レベルの冒険者を次々と殺害しています。

 

 ・ルプスレギナ・ベータが「これはまずい」と感じたことは間違いなくナザリック全体の危機です。「これは大丈夫」だと思ったこともナザリック全体に悪影響を及ぼすことがあります。

 

 ・カルネ村のゴブリンを使って自分のための芋を栽培させることは禁止されています。

 

 ・一般メイドに対してルプスレギナ・ベータが提示した全ての提案は、どれほど妥当性があると見込まれることであっても実行前に必ずアインズ様にお伺いを立ててください。「シャルティア様がいいって言ってたっすよ」はアインズ様が許可を出したとは看做されませんし、シャルティア・ブラッドフォールンが許可を出したとも扱われません。

 

 ・カルネ村の人間に対し、ダゴンの容貌についてリアリティに満ちた説明を行うことは禁止されています。アザトースに関してもです。

 

・カルネ村のゴブリンはルプスレギナのために存在している訳ではありません。おもちゃでもありません。カルネ村に限っては人間もです。

 

 ・ユリ・アルファの頭部のみを許可なくナザリック外へ持ち出すことは禁止されています。

 

 ・だからと言ってユリ・アルファの胴体のみをカルネ村の中心に放置することも禁止されました。以後、ルプスレギナはユリ自身の承諾なく彼女の体のパーツを持ち運ぶことを許されません。

 

 ・ハムスケはメスだということが既に判明しています。捕らえた人間に対して「じゅーかんしてやるっす!」は物理的に不可能ですし、もし仮にオスだったとしてもアインズ様が許可なさることは無いでしょう。

 

 ・ザイトルクワエの巨大な残骸をエ・ランテルの門の前に持ってきて無意味に放置することは禁止されています。

 

 ・エクレアを怪しい手つきでまさぐることはシズ・デルタが禁止しました。エクレア自身が満更でもなさそうにしていたとしても、今後はシズの前で同じことを行うことはできません。

 

 ・「アインズ様のためを思って」ルプスレギナが秘密裏に行うことは八割がたアインズ様のためにはなりません。残り二割はむしろアインズ様のお手を煩わせます。

 

 ・「何が起きるのか見たいっす」を理由にンフィーレアとエンリに対して干渉することは禁止されました。次はないですよ。

 

 ・ナザリックに属する者に自身の何らかの行動を咎められた際、「完全なる狂騒を使っちゃったから仕方ないっす」というのは妥当な言い訳と看做されません。

 

 ・アインズ様より下賜された『猫』の顔や目が空洞だからといって、試しに指を突き入れてみることは禁止されました。試しに肛門に指を入れてみようとすることはシズが事前に阻止しましたので未遂となりましたが、これも禁止されました。

 

 ・ルプスレギナが『L.L.L.』を真面目に歌うことは先日以来禁止されました。あの瞬間に立ち会ったシモベは「あの一瞬だけは女として負けた気がしたでありんす」「アインズ様へ向けたわたくしの愛の歌なのに……まさかルプスレギナの方が上手く歌いこなすだなんて……」と意気消沈、他のプレアデスメンバーは比較して自信を喪失しました。

 

 ・『猫』はパンドラズ・アクターではありません。パンドラズ・アクターではないかと疑うことも禁止されました。

 

 ・偶然を装ってナーベラル・ガンマとパンドラズ・アクターに運命的な出会いをさせようとすることは禁止されました。また、パンドラズ・アクターはルプスレギナの行動を完璧に予知、回避しています。今後彼に対していかなる迷惑な行動を取ることも禁じられました。なお、『猫』はパンドラズ・アクターではありません。違うと言っているでしょう。

 

 ・薬師と村娘の甘酸っぱい恋模様を守護者統括アルベド及びシャルティア・ブラッドフォールンに対して楽しそうに説明することは絶対に許可されません。

 

 ・一般メイドは、ルプスレギナが見たこともない笑顔で近寄ってきたら十分な距離を取ってください。そして執事セバスに即座に連絡を取ることを試みてください。セバスが不在の場合はアインズ様に直接でも構いません。

 

 ・カルネ村の子供たちに『人間失格』を読み聞かせしている姿が目撃されたため、ルプスレギナは第十階層のアッシュールバニパルから図書を持ち出すことが禁止されました。

 

 ・ルプスレギナは妥当な理由がない限り、無断で食堂の厨房に入ることはできません。「今日のメニューはなんっすかねー」は妥当な理由と看做されません。

 

 ・バーのカウンター側に入ることも禁止されました。副料理長が親の敵でも見るような目つきを向けていることに気づかなかったのですか?

 

 ・アウラ様のために用意されたハンバーガーを見て涎を垂らすのはやめて頂戴。はしたないわよ。

 

 ・ルプスレギナが第九階層のスパリゾートナザリックに足を踏み入れることは禁止されています。万一入口が突破されたとしても、特にるし★ふぁー様謹製のゴーレムには絶対に二度と近づけないで下さい。

 

 ・ルプスレギナは「世界級アイテム」を含む一切の冗談、ジョークを言うことを禁止されました。

 

 ・「人生には知らなくていいこともあるっす」は重要な情報をつかみ損ねた際の言い訳に使われるべきではありません。

 

 ・「人は日々多くのことを忘れながら生きているっす」は重要な情報を忘却してしまった際の言い訳に使われるべきではありませんし、加えて言うならあなたは人ではありません。

 

 ・カルネ村で遊ぶ人間の少女たちを眺めながら「あれは処女のにおいがするっす。あっちは昨日ヤったっすね、青臭いにおいがぷんぷんするっす」などと呟くことは禁止されました。偶然それを聞いたンフィーレア・バレアレがエンリをルプスレギナの視界に入れまいと慌てています。

 

 ・ルプスレギナはシズ・デルタを巨大変形ロボットへ改造させる申請をすることは許可されません。なお、シズ・デルタの同意サインは彼女の筆跡ではありませんでした。

 

 ・ルプスレギナはこのリストに書かれていないことを書き出したリストを作り、『ルプスレギナ・ベータがナザリックでやってもよいことリスト』を作ってはなりません。

 

 ・ルプスレギナはカルネ村の人間に対して、『シズのお昼ごはん』を用いた一切の接触を行うことを禁止されました。なお、村人の一人が極度の肥満状態で死亡しています。記憶処理にかかったコストは過去類を見ないものとなりました。

 

 ・ナザリック外においてカルネ村の人間のことを「感情の宝箱」「最高のおもちゃ」「お芋製造機」「幸せな豚」「在庫」「鶏」などと呼称することは禁止されています。

 

 ・エントマの真似をして増えすぎた恐怖公の眷属を食べるのは禁止されていませんが、食べた後にその場で吐き戻すのは禁止されました。

 

 ・帝国の闘技場に挑戦者として足を踏み入れることは禁止されています。治癒魔法を相手に掛けながら殴り続ける貴女の戦闘スタイルは、残念ながら闘技場向きではありません。

 

 ・不可知化の魔法を使ってリ・エスティーゼの王城を闊歩し、独りでに開くドアや突然倒れる花瓶などで女中や王族を驚かして回ることは一時的に禁止されました。既に王城では謎の怪奇現象として広まってしまっています。なお、ラナー王女が驚く姿をデミウルゴスが見たがっていますので、ルプスレギナはデミウルゴスに連絡を取ってください。

 

 ・第六階層のアンフィテアトルムに置かれている観客ゴーレムの頭に、粗末な木の枝を刺して回ることは禁止されました。「これぞホントの『枯れ木も山の賑わい』っす!」ではありません。アインズ様が笑っておられたのは面白かったからではなく、苦笑いです。

 

 ・蜘蛛人であるエントマ・ヴァシリッサ・ゼータにコーヒーを提供することは禁止されました。酔っ払った彼女が第九階層をアバンギャルドなアートだらけにしたことを思い出して笑うのは厳禁です。

 

 ・ナザリック内の揉め事に対して、アインズ様の人形を樽の中に入れ、剣を樽に刺していくゲームで解決しようとすることはさらなる揉め事を呼び起こすために禁止されました。

 

 ・エントマにカフェラテを提供することも禁止されました。今後ルプスレギナがカフェインの要素を含む全ての飲食物をエントマに提供することを禁止します。

 

 ・カルネ村の村人に対して「ナザリックではみんな食用にしてるっすよ」と言ってゴキブリを食べさせようとすることは禁止されました。普段は極めて紳士的な恐怖公が「誠に遺憾でありますな」という憤りの意思を表明しています。直ちに恐怖公に詫びの品の一つでも持って走りなさい。

 

 ・ナザリックでの日常をドキュメンタリードラマ化する計画は大変興味深いものでしたが、守護者統括アルベドとシャルティア・ブラッドフォールン両名ともに『アインズ様の正妻』のテロップを付けるのは誤った判断だと思わなかったのですか?

 

 ・恐怖公とその眷属に対して山ほどの栄養ドリンクを差し入れすることは禁止されました。エントマを酔わせたいのは分かりましたが、それで何がしたいのですか?

 

 ・マーレ・ベロ・フィオーレに対してツイスターゲームを申し込むことはもはや許可されません。コキュートスに対してもですが、圧死しても構わないならこの限りではありません。

 

 ・ルプスレギナは詰問に対して「いやー犯されるっすー」と叫んではなりません。それで白い目を向けられるのは詰問している側ではなく、貴女の方です。

 

 ・激化する人間同士の口論の中に聖遺物級の武器を投げ込むことは禁止されました。伝説級、神器級もです。

 

 ・「朝のジョギング」と称し、カルネ村の周辺を地響きとともに爆走することは制限されるべきです。

 

 ・何らかの失敗を仕出かした際、アインズ様からお許しを頂けたからと言って、守護者統括アルベド及びシャルティア・ブラッドフォールンの目の前で己の下腹部をさすりながら「アインズ様にお慈悲を頂いたっす」と発言することは二度と許されません。何故そんな発想が出てきたのか理解に苦しみます。

 

 ・このリストにはナザリックに属するものであれば誰でも書き加えることができます。なおルプスレギナ本人は除きます。

 

□□□□

 

 読み終わり、アインズは酷く疲れたような気がした。アンデッドが疲労しないことは分かっているが、それでもインパクトの強い文面の数々だ。

 

 (セバスたちが作ってから階層守護者たちに回わされ、そこでさらに書き足されていったことがうかがい知れるな……。それにしてもルプスレギナのやつ、ここまで破天荒に好き勝手しているとは……)

 

 アインズとしては、NPCが一人の『個』として行動を取ろうとすることを微笑ましく見守りたい気持ちが強い。それは成長に繋がるし、ひいてはナザリックの未来にも良い刺激を与えるに違いない。

 

 (だけどこれ全部が本当だとしたら──流石にやり過ぎだよなぁ……?)

 

 アインズは以前、『愛される者の気持ちを体感してもらう』という名目でパンドラズ・アクターを猫に変身させ、プレアデスに預けたことがあった。

 パンドラズ・アクターはその後猫の姿がいたく気に入ったようで、度々猫に変身してはシズへと会いに行っているようだったが──

 

 (この部分、絶対あいつ(パンドラズ・アクター)が書いてるよな……)

 

 ある意味己の息子とも言える存在がルプスレギナに尻を狙われている所を想像して、アインズは静かに承認の判を押した。



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