BIOHAZARD Iridescent Stench 作:章介
第二十七話
Side ハワード
――――コーカサス強襲作戦から凡そ一年、少しは役員ごっこにも慣れてきたと思う。正直叩き上げの研究員だった私にとって、人様の仕事にとやかく言うのは苦痛でしかなかったが、表の立場が想定していた以上に重要な役割を果たしてきたので必要経費として割り切ることにした。
Tウィルスとその研究成果が世界中に拡散した。これから有象無象の手に渡り千差万別の視点から研究が再出発することだろう。それ自体は私にとっては大いに結構だ、人類が滅びない範囲で好きにやってほしい。ところが、『不老不死の鍵』などという面倒な名札がつけられたことでその研究とやらに高確率で政府の首輪がつけられることとなったのが鬱陶しい。
せっかく関係を続けているB.S.A.A.(対バイオハザード私設部隊が『製薬企業連盟』に取り込まれたことで正式名称が付いた)や環境保護団体『テラセイブ』もこれには形無しだ。所詮一介のNGOとボランティア団体でしかない彼らでは、『この施設は国家機関による完璧な承認を得ている。貴様等が立ち入る必要も許可も一切認めない』と突き返されたら手が出せない。まあ、連盟が政府と禍根を残すリスクを冒してまで彼らの行動を後押しするはずもないしな。
その点こちらは、製薬企業連盟に加盟しており、且つ以前のヒダルゴ邸でのイザコザの手打ちとしてFBC(というよりモルガン・ランズディール)からせしめた『FBC非常勤特別査察官権限』でアメリカ中の研究機関にいつでもフリーパスで入り込めるからな。いやー、あの時のランズディールの表情は最高だった。知らぬ存ぜぬを決め込む奴に『あの事件で捕虜にした工作員の身柄とスペクターに洗わせたそいつに関する全秘匿情報、ついでにヒダルゴ騒動の実行計画書』を世界にばらまくと言ったら速攻で首を縦に振ってくれた。対価としてそれを使って取り締まる場合は手柄をFBCにくれてやる事になったが、全部モグるから一度も貢献したこと無いんだよな。
それからもう一つ予想外の効果があった。自分という一例を知っていながら間抜けな話だが、『ショゴス』の様な不思議生物とウィルスが掛け合わさる緊急事態への対処だ。後ろめたい研究というのは常に人目を避けられる場所を求める。秘境・危険地帯・地下と様々だが、つまりは世界の隅々までウィルスが蔓延したと言っても過言じゃない。それはつまり―――今まで人が触れる筈のなかった領域にまで足を踏み入れてしまった、ということだ。
現にこの一年以内に『ソレ』と遭遇することになった。久しぶりに余暇が出来た私達は、隠れ家で待っているシェリーやメラにルポの子供、それからいつも彼女たちの世話をしてくれているビジ夫人へのリフレッシュにスキーへ出かけることにした(スキーなのは彼女たちのリクエスト)。
まあせっかくのバカンスということでどこぞの山でやっている天然のスキー場を選んだんだが、何とその山の頂上付近にどこかの馬鹿が研究所を作ったらしい。それだけなら我々に無関係だが、何と流出したウィルスが眠っていた『神話生物』を起こしてしまったから笑えない事態になった。
例年じゃ有り得ない吹雪によってコテージに取り残されるわ、赤い色のエビに羽が生えたような生物に襲われるわ、山頂の元研究所で緑色の謎の粘液を身に着けたエビ共が興じていた変な儀式を慌てて止める羽目になるわ、碌な目に遭わなかった。
まあ私は特に働いていないのだが。よりにもよってルポの子供を襲おうとしたせいで、任務中の彼女が可愛く見えるレベルでバーサーカー化した母親が、原型がなくなるレベルでボコボコにしてたし。私は私で食べ応えのある甲殻類と再び未知の技術をモグることが出来たから特に不満はないのだが。
とはいえ、その時は相手が非戦闘向きの生物だから何とかなったが、南極基地みたいな『大当たり』に出くわすと流石に部下たちでは厳しいものがある。そういう意味もあっていつでも緊急要請に応えられるよう、役員ごっこで椅子を暖める仕事を続けることにした。
差し当たっての重要項目は3つ。一つはスペイン語が使われているヨーロッパの端の田舎。ここには神話生物若しくはその眷属と思われる生物の存在が確認されているため、同志の中でも特に腕の立つ人物を送る。
二つ目はアンブレラが廃棄した海底研究所。ここを私物化していたとある人物が此方にコンタクト、というより全面的な降伏を求めてきた。何でもアンブレラに復讐を考えていたらしいが、本格的に潜伏されたことで自前の情報収集力では追跡できないこと、そしてこちらがアフリカ・ロシアと立て続けに大暴れしたことが相当恐怖を煽ったらしく、自らの財産である特殊ウィルス目当てに始末される前に傘下に加わりたいそうだ。向こうの要求は『美に絶対の価値を置く王国をつくること』とのこと、新しい研究所用の土地を連盟に申請すれば何とかなるだろうし、人様に迷惑を掛けない範囲であれば容易に飲める条件だ。但しこの人物、スペクターが調べたところ管理責任能力にかなり難があるようなので監視は必要だろう。そして最後は――――。
『それではただいまより、テラグリジア創立3周年記念パーティを開催させていただきます!まずは開発総指揮を担当した――――』
―――ここ『海洋都市テラグリジア』だ。何でもヨーロッパとアメリカで共同建造されたらしく、足掛け11年がかりの大仕事だったとか。最新のインフラと最先端の太陽光発電技術が目玉の超技術都市、とか言う点は別に興味はないのだが開発時期に少々キナ臭い所がある。
というのも、都市そのものの建設はともかく最新の太陽光技術とやらは完成2年前まで碌に進んでいなかったという。工事の延期どころか中止まで囁かれていたのだが、ある日突然開発が躍進し2001年に無事完成したのだという。ひょんなことで研究が進むのは珍しい事じゃないが、その躍進の始まりが我々が南極から帰った日の直近であり、尚且つこの都市の中核である太陽光集積人工衛星『レギア・ソリス』は現代の技術では到底作れないとなると話が変わってくる。
どこまでこの案件にグラサンが関わってるかは知らんが、丁度創立記念パーティと技術博覧会への招待状が来ていたので、今やわが社の工学部門エースであるシェリー・バーキンとボディガードの『クロード・レスプル』と一緒に御呼ばれしたという訳だ。
レスプルの苗字では分かりにくいかもしれんが、クロードはルポことカリーナ・レスプルの実の息子だ。今年で18の青年だが、母の狼の血は色濃く受け継がれており、あのルポをして『もう私が教えることは無い』と言わしめたほどだ。実際エビ擬きに襲われた件では、エビの鎌を一発たりとも掠らせず、カウンターの捩じり抜き手で甲殻を抉り砕いてみせたのだ。母に似て彫りの深い美青年だが、メラやシェリーと兄妹同然に育っておきながら何故か女性に対して免疫が無いという微笑ましい一面も持っている。ただし、訓練では女子供でも容赦なく相手するところは母そっくりだが。
「あら、オールドマン『代表監事』じゃない。貴方がこういう席に出るなんて珍しいじゃない」
「…クレア・レッドフィールドか。そういう君はテラセイブの取材陣としての参加か」
「そういうこと。環境保護団体として、ここの創立から技術まで何かと因縁があるからね。ハイ、シェリー!貴女もここに来ていたのね、久しぶり!」
「クレアッ!!」
……うん、わかってはいたがこの対応の差である。一応君の勤め先の役員なのだが、私は。まあこれでも丸くなった方ではあるが。
最初の再会時は特に気まずかった。南極基地ではフォーアイズ達に任せてた所為で私は会っていないし、基地で裸の青年を蘇生させた後問答無用で持ち帰ったせいでこちらへのヘイトが凄まじかった。あの表情は色々とブチ切れてたし、もしシェリーを連れて行っていなければテラセイブ役員就任式が血で彩られる羽目になっていた。
あ、ちなみに件のスティーブ君とやらは未だウチの研究所でリハビリ中だ。何せ暴走列車の如きTヴェロニカを直接打ち込まれてるからな。今は安定していても何かのはずみでヒダルゴ夫人のように変態しても可笑しくない。しかも当人がトラウマからかクローニングや脳移植と言った夫人の治療方式を断固拒否しているので今はGウィルスにとっての『DEVIL』のようなワクチンの開発を行っている。大分制御出来てきているが、完成まであと一年って所か。
「シェリー、偶には手紙でも電話でも良いから連絡してよ?もしいかがわしいことされそうになったらいつでも言いなさい。ランチャー片手に乗り込むから」
「もう、ハワード先生達はそんな人じゃないよ。やさし…くはないけど冷たい人達じゃないから。それよりも、この前先生と一緒に開発した『アレ』の使用感はどうだった?現場の人の感想が聞きたくて……」
…いや、冗談でも勘弁してください。女子大生時代で
「―――代表。ご歓談中申し訳ありませんが、あちらで市長をはじめお歴々の方々がお待ちです」
「ああ、ありがとうクロード。それじゃシェリー、君は今しばらくミスレッドフィールドと旧交を温めておくと良い。クロード、君は彼女の傍に」
「畏まりました。それから……硝煙の匂いが微かにします。代表であれば万一のことは無いかと思いますが、何卒ご用心を」
「……なるほど。流石に公衆の面前で仕掛けるほどモルガンの頭に血が上っていると思えんし、となると話題に上がっていた過激派海洋保護団体の仕業かな?こっちの心配はしなくて良い。シェリーには指一本触れさせるな、勿論君が安易に傷つくことも許さん」
――――さて、今回は何が出てくるかな?
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