照月誕生日記念です(遅れた)。
一応原作は艦これです。
幾度人が死ぬのを見てきたのだろう。
幾度大空に願ったのだろう。
幾度戦争が長引く事を見てきたのだろう。
どうしてこの両手は無力でか弱かったのだろう。
どうして答えを見つけられなかったのだろう。
◇
久々に、あの空を見上げて。あの時地球を包んだあの魔力はもう、存在しない。
照月は、孤島の無人の基地に一人降り立った。あのとき、彼女の大切な戦友から託されたものを持って。鮮明に覚えていたあの空と、激突した私たち2人の意思。だけれど、私は望んでなんか、いなかった。
ここで皆と別れた。今は、提督が何を考えてたのかを確かめにここに戻ってきた。だが、あの空を共に駆けた戦友の事をすべて、鮮明に思い出してしまう。
皆はあの日の事を鮮明に覚えているのだろうか。そして、皆は空を忘れたことはないのだろうか。
だが、今日は彼女の、誕生日でもある。同時に、あの戦争の始まりも、終わりもこの日なのだから。
◇
「ハルトマン!今日が何の日なのかわかってないのか!この基地まで来たくせに!」
バルクホルンが何故か怒っている。その視線の先にはハルトマンが何故かぼーっとしている。実際、今日の事を忘れたわけではない。ハルトマンの癖だ。
「怒っていると埒が明かないわよ」
遠くで見ていた瑞鶴がぼそっとつぶやく。この基地に居る約20人ほどのうち、提督と艦娘である熊野、大鳳を除けば、17人ほどが全員ウィッチだ。
瑞鶴も元艦娘であり、今はウィッチであることから艦娘のカウントには入らない。艦娘であったウィッチも、そう少なくないのだ。この基地は、そこが最大の特徴でもあった。
よく考えれば、この基地にしては戦力が偏ってるようにも思える。彼女たちはその戦力の偏りを互いにカバーし、戦っていたのだろう。
◇
「照月ちゃん、来るかな」
台所でケーキを作っていた芳佳が呟く。
戦争の終盤で庇って死ぬ一歩手前までのけがを負ってはいたが、完治していたようだ。
「来るよ。だって、私たちがやろうとしている事が、照月ちゃんにはわかるんじゃないかな」
隣でサーニャは答える。実際、芳佳やサーニャが一番照月と共に生活した戦友でもあるからなのか、それは彼女本人にしかわからないことだ。
「照月のおかげで、私たちは何かしら勇気をもらったんだな」
サンドイッチを作っているエイラもまた呟く。彼女たちが思うことはいくらでもあるだろう。そして、忘れてはいけないと彼女たちが決めているんだろう。誰だって、忘れられない記憶はある。
◇
無人滑走路を出て、照月は基地へ足を運ぶ。
この戦争が終わった日に、彼女は必ずこの基地に来ると決めていたのだ。
11月でもこの孤島の太陽は強く感じる。何故なのか、もう彼女にはわからない。
何もかもが紅葉のように赤く色づき、そして冬へ向かい始めるこの時期。
彼女は一人、何もかもが懐かしく感じる基地の門をくぐり、自分の記憶通りにあの部屋を目指す。
その部屋は、彼女の守りたいものができた原点でもあり、皆がいつも彼女の帰りを待つ部屋であるから。
「……なんだろう」
彼女は何を想い、何を守り、何を願ったのだろうか。それは、一体どういうことから生まれた物なのだろうか。それを知りえる人間は、この基地の人間だけだ。
「よっと!」
不意に角からハルトマンが飛び出し、いきなり目隠しを照月に駆ける。
「何するんですか!ハルトマンさん……」
「へへーん、目隠ししろってトゥルーデに言われたからー」
びっくりした照月に軽く答えるハルトマン。そもそも、この案はバルクホルンから生まれたものだ。
「ついてきてー」
「ちょ、ちょっとぉ!」
照月の待ったをまったく聞かないで手を引いて連れていくハルトマン。久しぶりに会う照月にハルトマンはびっくりさせたい一心だったようだ。
(リーネじゃなくてよかったと思った)
内心ハルトマンはそう思う。
謎のドタバタが続きながらも、その部屋にたどりついた二人。
ハルトマンは目隠しを取らないでさっさとドアを開けて照月をそこに入れ、ハルトマンも入った後に自分で目隠しを取るように言った。
◇
『もう世界を飛び回るのは、十分なのか?』
「私はこの世界がどう変わったのか、確かめただけなんですよ」
サンド島に密かに降り立つ。深海棲艦との相互理解をした果である――――――「DDSクアンタ」を纏った彼女は、ストライカーを量子化させた。
「ここが、私の帰るべき場所だったんです」
そういうと、彼女は忽然と消え、基地の前にワープした。
◇
「みんな……」
目隠しを取った照月は、皆が待っていた場所――――――ここが私の帰るべき場所だったかもしれない。
「ありがとうっ!」
照月は涙を少し流しながらも喜ぶ。そこに皆が何故か雪崩れ込んでいく。
尤も真っ先に突撃したのはなぜかバルクホルンだったが。
「照月がいてくれたから、皆の今がある。お礼をしたかったんだ、今まで」
雪崩れ込まなかった美緒が言う。その横でミーナがくすくすと笑っているのは雪崩れ込んでいく皆を見たからだろうか。
さて、ここから本格的なパーティーが始まると思っていた。
その時、一瞬で誰かが現れたのだ。だが、その姿は誰もが「帰還」を待っていた――――――
「――――――吹雪ちゃん!」
「ただいま……私は、約束を果たしにきたよ」
彼女が最後の戦いのときに残した「帰還する」という約束を、今果たしたのだ。
これが、照月の願っていた事だったかもしれない。
そして、誰もが願う「帰還」だったかもしれない。
じゃあ、照月だけにしか使えない魔法とは何だったのだろう。
それは、人を笑顔にするものなのかもしれない。
-A wakening of the Trailblazer-
END