転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第12話 これより本格始動します その4

「何だか大変な事になったね」

 

「本当ですわ」

 

「今日は決闘の日だね」

 

 建造早々厄介な事に巻き込まれ各々本音を零す三人を連れて、自分は官舎へと舞い戻る。

 そして、そのまま地下へと赴くと、厳重そうな雰囲気を醸し出すとある扉を潜った。

 

「お待ちしていました、提督」

 

 足を踏み入れたのは地下故に薄暗く、しかし広さを有する部屋。

 薄着や半袖では風邪を引いてしまいそうな肌寒さを感じるのは、部屋の内部に設けられた多数の機器の熱対策の為だ。

 

 巨大なモニターを中心に、壁一面に大小様々なモニターが設けられ、その手前には機材が所狭しと置かれた個々のオペレーター用の机が設けられている。

 まさにこの部屋は、司令室と呼ぶに相応しい光景を有していた。

 

「大淀、悪いけど三人の為に椅子を用意してやってくれるか」

 

「分かりました」

 

 初めて目にする司令室に視線をキョロキョロさせる三人を壁際に用意した椅子に座らせると、自分も、司令室のセンターポジションとも言うべき席へと腰を下ろす。

 

「河内と天龍は?」

 

「はい、二人とも無事に沖合いに出て、訓練用の海域に向かっています。……天龍さんの方は建造間もないと言うこともあって、ドックから出して演習弾の積み込みと、少々ばたつきましたが何とか」

 

「はは、後でドックの妖精達や補給隊の皆さんに何か差し入れしとかないとな……」

 

 秘書艦不在時には、代行として大淀がその任についてもらう事になっている。

 

「提督、河内さん達のカメラ映像、接続完了しましたので中央モニターに表示いたします」

 

「うん」

 

 中央の巨大なモニターに表示されたのは、青く晴れた南国の空の下、ウェーキを立てて航行する河内の艤装の姿であった。

 映像は艤装の上部構造物、艦橋辺りにカメラがあるのだろう。映像の眼下には、巨大な50口径46cm連装砲が二基、その圧巻の巨砲を見せ付けている。

 

「音声は繋げられるか?」

 

「はい、直ちに」

 

 オペレーターに映像だけでなく音声も繋いでくれと指示すると、程なくしてスピーカーから、艦橋の艦長席でふんぞり返っているであろう河内の声が流れてくる。

 

「ちゃんと逃げずに付いて来てるか~?」

 

「あ、あたりめぇだ!」

 

「ん~、逃げるんやったら今のうちやで?」

 

「だ、誰が逃げる、かよ!」

 

 天龍とのやり取りが聞えるが、もはや完全に河内のペースに飲まれている。

 これじゃ、天龍はもう退くに退けないな。

 

「あー、河内、聞えるか?」

 

「ん? あぁ、なんや提督はん。司令室に着いたんか?」

 

「あぁ。所で河内、何度も言うがほどほどで頼むぞ」

 

「解ってるって。ちょっと天龍の頭(艦橋)スコーンと(九一式徹甲弾で)割って、脳みそ(重油的な意味で)チューチュー(流出的な意味で)するだけやから!」

 

「……」

 

 あぁ、大淀もオペレーター達も、そして後ろの三人も、顔が固まってるよ。当然、自分も。

 

「て、天龍の方に映像切り替えてくれるか」

 

 ここは切り替えとばかりに天龍に搭載されているカメラの映像に切り替わると、こちらも艦橋からの映像であった。

 しかし河内と比べやはり海面からの高さがなく、眼下に見える艦首方向の光景も頼りなく感じる。

 

 何より、前方を航行している河内の後姿の何と大きく力強いことか。軽巡である天龍が駆逐艦に錯覚させられる程だ。

 

「う、ぐ……」

 

「あ~、天龍。聞えるか?」

 

「ふぁ? て、提督か!? ん、ぐすっ、な、何の用だよ!?」

 

「今ならまだ間に合うぞ、恥を忍んで河内に謝ったらどうだ? 自分も二人が仲直りできるように努力して……」

 

「ば、ばか! んな事できるか!」

 

「提督、天龍との接続、切れました」

 

「……はぁ」

 

 これはもう駄目だ。互いに気が済むまでやらせるしか道は残されてない。

 あぁ、さようなら、幾分かの備蓄資材さん。

 

 それにしても天龍の奴、顔は見えなかったがあの声、涙声だったな。

 

 

 

 やがて、海図を表示しているモニターが河内と天龍が訓練海域に到着したことを知らせる。

 前世の世界ではビスマルク海海戦が発生したことでも知られるビスマルク海の一角で、今まさに、戦艦対軽巡の一騎討ちが行われようとしていた。

 

「では、訓練を開始する」

 

 訓練開始の合図を告げると、早速舌戦が始まる。

 

「天龍、レディーファーストや、最初の一発はそっちに撃たせたるわ」

 

「な、馬鹿にしやがって!」

 

「なんやったら、おまけで次弾も撃たせたるで?」

 

「きっー! そこまで大口叩いて余裕ぶっこいてんのも今のうちだからな!」

 

 舌戦は河内優勢のまま、次いで本格的な戦闘訓練が開始される。

 恐れ知らずに河内に突っ込んでいく天龍。流石は艦隊の切り込み隊長として造られただけはある。

 

 最大戦速の三三ノットで一目散に河内を目指す。おそらく至近距離で搭載している53cm魚雷をお見舞いする魂胆なのだろう。

 

 だが、複数ならまだしも単艦でその戦法は自殺行為だ。特に今回は、相手が戦艦だからなおの事。

 戦艦の主砲の射程と魚雷の射程、どちらの射程距離が優れているかなんて、火を見るよりも明らかだ。

 

 しかし、河内は何故か観測機を飛ばすどころか主砲を撃つ素振りを見せない。既に射程圏内に天龍を捉えている筈だ。

 命中弾を与えずとも、河内の主砲ならば三五○○トン程度の天龍には至近弾でもかなりのダメージを与えることは可能な筈だ。

 だが主砲を動かす素振りを見せないと言うことは、もしや、本当に最初の一発を受けるつもりなのか。

 

「おい河内! いくら訓練と言っても資材がかからない訳じゃないんだぞ! それに天龍とお前とじゃかかる資材の量もだな……」

 

「あ~。あ~。調子悪いんかな、聞えへんわ」

 

「おい河内!」

 

「あ、悪い提督はん。そろそろ戦闘に集中せなあかんから対応できへんわ、じゃ」

 

 こうして一方的に通信を切ると、やがて動きのなかった河内にも動きが見られるようになる。

 と言っても、天龍に対して牽制を撃つでもなく、回避行動らしい動きを見せる程度であるが。

 

「天龍、河内の右舷より接近……、あ、魚雷発射! 距離五千で魚雷を発射しました」

 

「本数は?」

 

「六発です」

 

 天龍は53cm魚雷の三連装発射管を二基装備している。

 つまり六発発射したと言うことは、一度に発射できる最大数を発射したと言う事になる。

 

「河内、被雷!」

 

「河内の被害は?」

 

「三発被雷した模様です。右絃対空火器数基が損傷、また最大速力も低下」

 

 回避行動を取ってはいたようだが、やはりあの距離では全てを回避するのは無理か。

 しかし、魚雷三発を喰らって戦闘力を殆ど喪失していない。流石と言うべきか。

 

「天龍、急反転。河内と同航戦を行う模様です」

 

 すれ違いざまに魚雷攻撃を行ったが、一撃程度では殆ど効果がないと判断したんだろう。河内の右絃側にて同航戦を仕掛けにいく。

 が、そこで河内に動きがあった。

 

 どうやら最初の一発を撃たせ終えたので、ここからは河内も反撃を開始するようだ。

 と言っても、主砲である50口径46cm連装砲を使うのではなく、舷側に配置されている高角砲で天龍を狙い打つようだ。

 

 しかし、河内の搭載している高角砲は確かに対艦攻撃もできる。が、これはまさに程度問題だ。

 そもそも河内の搭載している高角砲は、大和型同様で対空用の照準装置は搭載してはいるが、対艦用の照準装置は搭載していない。

 つまり、砲個々に設けられている照準器で直接目標に砲撃していく事になる。

 

 当然命中精度など、対空時に比べるまでもなく。

 そもそも元の用途が対空なので対艦用の徹甲弾など搭載しておらず、その威力も推して知るべしだ。ただし、それは単一の場合だ。複数ならば、その限りではないだろう。

 

「河内、高角砲による砲撃開始」

 

「天龍も主砲で砲撃を開始しました」

 

「何? 天龍も砲撃? 魚雷は?」

 

「あの、提督。もしかすると積み込んでいた分の演習弾を最初の斉射で全て使い果たしてしまったのではないでいでしょうか?」

 

 オペレーターからの報告に困惑していると、大淀が納得の推測を添えてくる。

 成る程、確かに急だったので満タンに積み込めた訳ではないか。

 

 ん、となると、天龍に残された攻撃手段といえば、主砲である50口径三年式14cm砲が四門だけじゃないか。

 

 これはもう詰んだ以外の何者でもないだろ。


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