「天龍、被弾、速力低下します」
「天龍、損傷箇所増大、ダメージ指数、中破に近づきつつあり」
「天龍、第三砲塔沈黙、第二・第四砲塔も発射速度低下」
オペレーターの口から報告されるのは、どれも天龍の悲痛な状況を知らせるものばかり。
モニターに映し出されている映像でも、天龍の周囲に多数の水柱が立ち、その中心地たる艤装の各所からは黒煙を立ち昇らせている。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるだな。
一方の河内は、的がでかい分天龍からの砲撃を喰らってはいるが、天龍ほど戦闘力を喪失してはいない。
右舷側の高角砲や機銃の幾つかが使用不能になった程度だ。
これはもう、勝負はついたな。
「河内、聞えるか? もう勝負はついたぞ。訓練終了だ」
「……ま、こんなもんやろな。しゃあない。天龍、今回はこれ位でかんべん……、ん?」
「どうした、河内?」
「ちょっとまって、電探に感あり! なんか近づいてきてる!?」
「何? オペレーター、直ぐに確認!」
河内からの報告にオペレーター達が確認作業に入る。
「提督、訓練海域を含め、本日周辺空域を飛行する航空機のフライト・プランは確認されません」
「河内、電探が捉えた数は幾つだ?」
「えっと、二十、四。二十四機や」
「基地司令部に至急連絡! 要撃機のスクランブルを要請しろ!」
「しかし、まだ確認が完全では……」
「二十四機なら民間機じゃない、加えて基地司令部から何の報告もないと言うことは、これは間違いなく敵襲だ! くそ、防空警戒はどうなってるんだ!」
刹那、基地内をけたたましいサイレンが鳴り響き始める。
「提督、基地司令部より連絡。要撃機のP-51D マスタングがスクランブル発進し、上空待機するとの事です」
「よし、分かった。……とりあえずこれで基地の方は大丈夫だろう。……河内、聞えるか?」
「なんや、提督はん?」
「天龍を連れて訓練海域を一時的に離脱しろ、謎の航空部隊に補足されない様にな」
「あ~、提督はん。それ、ちょっと無理やわ」
「は?」
「何か電探の光点が、だんだんあたしらの方に近づいてきとる」
「何だと!?」
基地の安全が一応確保できたと安心したのも束の間、今度は河内達から風雲急を告げる連絡が入る。
「まさか、基地が警戒体勢に入ったので河内さん達に?」
「いや、多分向こうが河内達を捉えたんだろう」
大淀の言葉に応えながら、思考を巡らせ続ける。
謎の航空部隊が基地の警戒態勢に気づいたとは考えずらい、それに河内達を哨戒隊と誤認したとしても、河内達は水上艦なのだから振り切って基地に直行してもいいはずだ。
その上で河内達のほうへと進路を変更したのは、功を焦ったからか。それとも、別の理由か。
何れにせよ、航空機に捉えられたのならば河内達は逃げ切るのは不可能だ。
「河内、演習弾の他に実弾は積み込んでるか?」
「まぁ、少しやったらな」
「よし、なら河内、対空戦闘用意だ! 第一戦隊を急いで向かわせる、それまで何とか持ちこたえてくれ」
「よっしゃ分かった!」
「天龍、聞えるか?」
「あ、あぁ、聞えるぜ」
「今の君じゃ残念ながら対空戦は絶望的だ。かと言って、今の状態じゃ単独退避をさせることも出来ない。河内を盾にしながら何とか耐えてくれ」
「へ、分かったよ」
「天龍、ちゃんと護ったるからな、傍から離れなや」
「けっ、わーってるよ」
こうして河内達に指示を飛ばすと、次いで出撃している第一戦隊の現在位置の確認を指示する。
程なくして第一戦隊の現在位置を確認すると、第一戦隊の旗艦紀伊と連絡をとる。
「何だって!? 分かった、直ぐに急行する!」
「頼んだぞ」
そして紀伊に事情を伝え河内達のもとへと急行してもらう。
紀伊は吹雪達に比べ速力が遅い為、吹雪達が先行する形だ。
しかし、これで一安心と言うわけではない。吹雪達が河内達に合流するには数十分の時間を有するからだ。
吹雪達が合流するまでの数十分間、河内一人で何とか持ちこたえてもらわなければならない。
「提督はん、きたで、きおったで! 提督はんの思った通り、深海棲艦の航空部隊や!」
「河内、頼んだぞ」
「ふ、まかせとき! 三式積んでなくても、あれ位やったら高角砲と機銃だけで十分や!」
河内の視界内に捉えたそれは、カメラを通じてモニターからも確認できる。
彼方の空に現れた小さな黒点は、やがて徐々にその形状を鮮明にさせていく。
それは紛れもなく、深海棲艦の航空戦力を構築する航空機の姿であった。