司令室内の緊張が一気に高まる中、自分は、少しばかり暢気なことを考えていた。
それは、深海棲艦の姿についてだ。
深海棲艦の艦影は、どう見ても地球から遥か十四万八千光年彼方に存在する星間国家の軍艦にそっくりなんだよな。
資料で見た駆逐艦なんて、どう見てもクリピテラ級に酷似している。
ただし主砲を含め武装はレーザーではなく全て実弾、空中を飛ばなければ色も緑ではなく黒であるが、その艦影は瓜二つだ。
確かに前世で、深海棲艦を軍艦化したらガミラス系の艦影に似ている。なんて思った事もあったが、まさかこの世界では本当にそうなっているとは、資料を見るまで思いもしなかった。
因みに、今し方河内が対峙している深海棲艦の航空機は、DMB87 スヌーカに瓜二つな攻撃機型航空機だ。
武装は全て実弾であり、ジェット機並みの速さではなくレシプロ機並みなど、こちらも性能面はオリジナルとは異なっているものの、その姿は瓜二つである。
「河内、対空戦闘開始しました」
「提督、始まりましたよ」
「あ、……あぁ」
暢気な考えに引き寄せられていた意識を、大淀の呼び掛けを切欠に現実へと引き戻す。
モニターに映し出されたのは、河内を沈めんと周囲を飛び回る攻撃機型航空機。
そして、それを火達磨にせんと火を噴き続ける河内の対空火器の姿であった。
「あんまり弾積んでへんねや! さっさと墜ちんかい!」
河内の言葉に連動するように、舷側に配置されている高角砲や機銃が火を噴き、空中に黒色の煙幕を展開させる。
ただし右舷側は天龍との撃ち合いで使用不能なものがある為、左舷側と比べると、弾幕の張り具合が薄く感じる。
そんな河内が作り出す弾幕に臆する事無く、攻撃機型航空機の群はその翼下に備えた無誘導爆弾を河内目掛けて投下していく。
「っち!」
河内の操艦術の賜物か、投下される無誘導爆弾を回避してはいるものの、やはり天龍との訓練でのダメージがある分軽々とはいかないようだ。
それに、その天龍を守る意味でも、あまり回避し続ける事は好ましい事ではない。
自らが被害担当艦としての役割を果たすのならば、攻撃しても無意味だと相手に思われてしまっては駄目だからだ。
「きゃっ!」
「っ! 天龍! 大丈夫か!?」
「っへ、こ、これ位……」
「天龍、敵弾至近!」
攻撃機型航空機の群の内数機が、河内からターゲットを天龍に変更したのか、天龍目掛けて無誘導爆弾を投下し始める。
幸いギリギリの所で回避したものの、今の天龍の状態では後何度も凌ぎきれるものではない。
「あたしだけ! あたしだけ狙ってこいよこのクソ野郎ども!!」
河内の攻撃的な言葉と共に、弾幕の密度が濃くなると、幾つかの攻撃機型航空機が火達磨になってビスマルク海にその身を沈めていく。
「っ! やりおったな!」
そんな味方の損害に激昂したのか、残った攻撃機型航空機は再び河内のみをターゲットに絞り込み、四方から河内目掛けて襲い掛かる。
流石の河内も、四方から同時的に攻撃されては全てを回避できず、無誘導爆弾を一発、第三砲塔付近に被弾してしまう。
「お返しや! おらおらおら……、って、嘘やろ!?」
「どうした!? 河内」
「提督はん、ちょっとヤバイ事になったわ」
「な、何だ!? まさか!」
「実弾、尽きてもうた……」
「っ! 吹雪達は! 吹雪達はまだ合流できないのか!?」
「ま、まだ少し時間が」
「っ、くそ!」
思わず机に拳を叩きつけ、何もできない自分自身に対する怒りをぶちまける。
「提督はん、そんなに感情的になったらあかんで」
「河内、お前が言うか?」
「あ、せやったな……、はは」
自分よりも危険な状況に身を置いている筈の河内から漏れた言葉に、救われたような気がした。
「司令官たるもの常に冷静に、か」
「お、提督はん。冷静になったやん」
「あぁ、河内のお蔭だ」
「ほな、帰ったら、PXで甘いもん沢山買うてくれる?」
「あぁ、沢山買ってやる」
「よっしゃ! やったら、もうちょっと意地見せて頑張らんとな!」
刹那、モニターに映し出された二基の50口径46cm連装砲が音を立て、その砲身を天高く向け始める。
「か、河内! 何する気だ!?」
「実弾尽きたって言うても、それは高角砲や機銃用のだけや、まだ主砲の九一式徹甲弾は残っとる」
「何言ってるんだ! 九一式徹甲弾じゃ航空機は撃ち落とせないぞ!」
「せやけど、このまま応戦せんのもあかんやろ。せやから、ここは一発主砲撃って敵を騙したろうと思うんや」
「騙す……。まさか、敵に三式弾を搭載していると誤認させる気か!?」
だが、撃ってそれが三式弾ではいと分かるのは時間の問題だ。
「後少ししたら駆逐艦の子らが助けに来てくれるんやろ? それやったら、少しでも時間稼ぎせな」
「だが」
「提督はん、心配せんでも、あたしはちゃんと天龍を連れて帰ったるって」
「……、分かった。なら、帰ってこい、河内」
「了解や! ……よっしゃ、ほな派手にぶちかましたるで!!」
50口径46cm連装砲の天高く向けていた砲身が固定されると、いよいよその時は訪れた。
「主砲、一番・三番・八番……、てぇーーっ!!」
河内の合図と共に、耳を劈かんばかりの爆音が響き渡る。
海上に花開く巨大な火焔と共に、河内の艤装をビリビリと小刻みな振動が走る。
まさに海に浮かぶ
その迫力を前にしては、群がっていた攻撃機型航空機も蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出していく。
「序に演習弾ももっていきや!」
刹那、主砲だけでは欺瞞効果が薄いと判断したのか、実弾から交換を終えたのだろう、それまで沈黙していた高角砲や機銃が再び火を噴き始めた。
しかし、演習弾はあくまでも訓練用の弾だ。艦娘同士ならばその効果を発揮するが、それ以外の兵器相手では所詮はこけおどし程度でしかない。
見かけは派手に弾幕を形成してはいるものの、その全ては見掛け倒し。
最初こそ、攻撃機型航空機は沈黙から一転して再び反撃を開始した河内の弾幕から逃れてはいたが、やがて見掛け倒しと看破したのか、再び弾幕に臆する事無く河内に機首を向け始める。
「っち、もう見破ったんか! もうちょっと騙されときや!」
自身が考えていたよりも欺瞞効果が続かなかったことに舌打ちしつつも、河内は偽の弾幕を張り続ける。
が、偽の弾幕と分かれば、もはや敵は神経を研ぎ澄ます必要などない。大胆に行動し、河内を沈めにかかる。
「敵機、河内直上! 急降下します!!」
「河内! 避けろ!!」
「っつ、あかん!」
河内の直上を位置取った攻撃機型航空機は、その翼下の無誘導爆弾を河内の艦橋目掛けて今まさに切り離さんとしていた。
が、次の瞬間。
「なんや!?」
その機が突然火を噴出し、あっという間に火達磨に成り果てると、きりもみしながら重力に逆らう事無く河内の傍の水面に勢いよく飛び込む。
しかも、火を噴き始めたのはその一機だけではなかった。
河内の上空を飛び回っていた他の機も、次々に火を噴出し、ビスマルク海にその身を沈めていくのだ。
「……ふ、やっと可愛い守護天使達が到着したみたいやな」
程なくして、河内と天龍を護るように展開する五つの艦影。
急行していた吹雪・叢雲・漣・電・五月雨の五人が合流したのを機に、河内は勝利を確信したかのように呟くのであった。
「河内さん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫や、吹雪。あたしは甘いものの為なら爆弾五十発受けてもへっちゃらやからな!」
「吹雪、あれだけ軽口喋れるなら、たいした事ないんじゃない?」
「なんや叢雲、クールやな。嘘でももうちょっと心配したってええやん? ほらほら、河内お姉ちゃん大丈夫~? とか可愛げに言ってもええんやで!」
「な! 何で私がそんな事言わなくちゃいけないのよ!!」
「ちょっと二人とも! 漫才してないでちゃんと撃ってよ~!」
「はわわ、よそ見してるとあぶなのです!」
「うわぁぁん、当たらないよ~」
五人の艤装から放たれる火線が攻撃機型航空機を貫いていく中、それでもしぶとく生き残っている攻撃機型航空機は逃げる事無く、再度攻撃を行おうとしていた。
しかし、新たに現れた圧倒的弾幕に、その機会は永遠に失われるのであった。
「待たせたな。河内、大丈夫か?」
「なんや、真打は遅れてやって来るってか?」
「仕方ないだろ、俺は三十ノットも出ないんだ」
「まぁええわ、これで本当に一安心や」
新たに現れた河内以上の巨大な艦影を誇る紀伊は、その艤装に備えられている圧倒的な火力を持って、残っていた攻撃機型航空機を全て海の底へと還すのであった。