転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第20話 空母来る その2

 やがて、昼食を挟み午後からの業務を開始してから幾ばくかした頃。

 不意に河内がとある提案を持ちかけてきた。

 

「なぁ提督はん。もう一回建造してみいひん?」

 

「何だよ、突然?」

 

「いや、あんな。今まで建造試した十回は全部提督はん一人でやってたけど、今度はあたしも試してみたらどうやろって思って」

 

 確かに河内の言う通り。今までの十回は全て河内を初めとした艦娘達を連れずに建造を試してきた、その結果は言わずもがな。

 であれば、可能性を信じ、ここは河内の提案に乗ってみるか。

 

「そうだな、よし、一度試してみるか」

 

「よっしゃ、ほな早速行こか!」

 

 河内を引き連れ執務室を後に工廠へとやって来た自分達は、プレハブ事務所にて慣れた手つきでモニターに数値を入力していく。

 

「今回は河内さんが入力するんですね」

 

「自分じゃ今のところ全敗だからな、河内なら成功するかも知れないって思ってな」

 

 明石と雑談をしていると、入力が完了した河内からいよいよ運命のボタンを押すとの旨が伝えられる。

 

「ほな、いくで」

 

「お、おう」

 

「ご、くっ……」

 

「ほな、スタートや!」

 

 河内の指がモニターに接触し、表示されていた建造開始のボタンを押す。

 刹那、モニターに新たな表示が現れる。

 

「……や、やったぁぁっっ!!」

 

 それは、今まで見てきた失敗の二文字ではない、建造成功を告げる建造時間の表示であった。

 思わず両手を上げてガッツポーズをし、更には河内の手を取り上下に力強く揺らすなど、その喜びようを一頻り堪能した後。

 

 一体どんな空母がやってくるのかと、建造時間から大体の予想をしようと時間を確かめてみると、そこには、見慣れない時間が表示されていた。

 

「あれ、……ん?」

 

 あまりの喜びでピントがずれてしまったのか。

 一度目を閉じピント調節を行った後、改めて時間を確認するも、そこに表示されているのは相変わらずの見慣れない時間。

 

 何なんだ、二十四時間って。

 

 河内や紀伊よりも更に上をいく建造時間。

 当然こんな建造時間など見た事もないので予想など出来る筈もない。

 いや待てよ、見た事もないと言うことは河内や紀伊と同じパターンの可能性が高いと言うことか。と言う事は、河内や紀伊と同じ世界で生まれた空母が建造されていると言うことか。

 

 いや待つんだ自分。そもそも空母が出来ると言う確証を得たわけじゃないんだ。もしかしたら、空母以外の艦種かも知れない。

 まさか、この建造時間、河内が言ってた河内の世界の大和型がやって来るのか。あの超弩級大艦巨砲主義の申し子が。

 

「提督はん、大丈夫かいな? 興奮しすぎて顔色悪いで」

 

 ふと投げかけられた河内の言葉に、目まぐるしく動いていた思考回路の動きが緩やかに落ち着きを取り戻していく。

 そうだ落ち着け、落ち着くんだ自分。まだ慌てるような(建造)時間じゃない。

 

 今帰って、明日の同じ時間になったら建造が完了している、まだそんな建造時間だ。慌てるほどではない。

 

「ふぅ……すまん河内、ちょっと興奮しすぎた、外で風に当たってくる」

 

 とりあえず工廠を出て、外で風に当たりながら再び思考回路を巡らせていく。

 例え実在した記録のない軍艦が艦娘としてやって来たとしても、今更どう変わると言うんだ。既に河内や紀伊がいるんだ、今更一人二人増えたところで大した事じゃない。

 

 それに、考えによっては、河内と紀伊の新たな同郷の者がやって来る事は二人にとっても嬉しいことだ。

 

「……よし」

 

 建造時間に驚き無駄な心配をしてしまったが、もうそんな心配も吹き飛ばした。

 プレハブ事務所へと戻ると、明石に高速建造材の使用を指示する。

 

 例によって例の如く、高速建造チームの頭をねじ切って玩具にしちゃうような台詞を聞きながら、見る見る減っていく建造時間を眺め続ける。

 やがて、建造が完了すると、妖精達の間を通りながら新しく加入する艦娘()とのご対面へと向かう。

 

「先に言っておくが河内、この間の天龍のような事だけはしてくれるなよ」

 

「分かってるって提督はん。どんな嫌味ったらしい艦娘()が来ても、笑って流したるわ。……でも、扱いてええんやろ、訓練では?」

 

「程ほどでな」

 

「了解……っと、来たで、提督はん」

 

 河内に釘を刺していると、開閉式扉の向こう側から足音が一つ聞えてくる。

 開閉式扉から流れ出てくる煙の量が今まで以上多く、ぼんやりとしたシルエットが分かる程度ではあるが、そのシルエットは女性であった。

 その背丈は、れっきとした大人の女性そのもの。やはり、大型艦のようだ。

 

 程なくして、煙を突き破り、一人の女性がその鮮明な姿を現す。

 

 短めに纏めた黒髪のサイドテールを靡かせ、弓道着を思わせる服装。更に本人のイメージカラーであろう青い袴が目を引く。

 そんな衣服を身に纏った女性を、自分は知っていた。厳密に言えば、前世でプレイした艦これのゲームでである。

 女性の名前は『加賀』。ゲーム内ではかつて存在していた正規空母である同名の空母をモチーフとしたキャラクターだ。

 

 そんな彼女の人となりは、クール系。と思われるがそれは外見だけの事で。

 実際は感情表現が下手なだけで、その本性は激情家とも言われている。

 

 勿論、この世界でも艦娘加賀は存在しており。

 若干の個体差はあるものの、概ねゲーム通りの性格をしている加賀さん達は呉鎮でも数人見かけたことがある。

 

 だが、今自分の目の前に現れた加賀の表情は、呉鎮で見かけた氷の女の如く眉一つ動かさないそれではなかった。

 柔らかい笑みを浮かべ、まるで女神の如く慈愛に満ちたオーラを纏っているのだ。

 一体、この笑顔の素敵な美人は何処の何方なんだ。

 

「加賀型航空母艦、一番艦を務めます加賀と申します。貴方様が提督様、ですか?」

 

「は、はい……」

 

「何卒不束者ではございますが、今後ともよろしくお願い致しますね」

 

 綺麗なお辞儀と共に自己紹介を行う彼女の一方で、自分は、半ば唖然としっぱなしだった。

 それもそうだろう。容姿は同じ加賀なのに、その性格たるや、百八十度も違うのだから。

 

「あら? もしかして、河内さん、ですか?」

 

「お、あたしの事知ってるって事は、もしかしてあたしと同じ世界の方の加賀さんかいな!?」

 

「同じ、世界? ですか? よく分かりませんが、その様に表すのが適切ならばそうなのでしょうね」

 

「なんや! ……提督はん、この加賀さんはあたしと同じ世界の加賀さんや!」

 

 隣に立っていた河内の姿を見てその正体にはたと気がついた事からも、どうやら彼女が河内や紀伊と同郷である事は間違いないようだ。

 それにしても、河内の世界の加賀さんってこんなにも優しそうなお姉さんなんだな。

 鉄壁の牙城を崩していく達成感がたまらないクール系もいいが、最初から全てを包み込んでくれるような優しく愛らしいお姉さん系もこれはこれで捨て難い。

 

「提督はん。何かまた変なこと考えてるやろ?」

 

「いやなに。河内(サバサバ系)には全く見られない系統は新鮮で良いなって思っただけだ」

 

「それ、あたしへの当て付けなん?」

 

「いや、ただ男は女性に潤いを求めるものだよなって話だ!!」

 

「誰が乾燥剤やねん!!」

 

「うへべ!!」

 

「まぁ、お二人は仲がよろしいんですね」

 

 こうして加賀の前でちょっとした漫才を披露した後。先ずはお約束とばかりにワイヤレスイヤホンで認識の相違を無くすと。

 次いで、加賀さんの履歴書を拝見させていただく。


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