転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

27 / 72
第25話 航空戦隊、出る その2

 会議室へと足を運んで第三・四戦隊の面々が到着するのを待っていると、程なくして両戦隊所属の艦娘達が会議室へと姿を現す。

 

「よし、揃ったな。では早速だが、ブリーフィングを始める」

 

 定位置であるホワイトボードの前に立つと、集まった面々の顔を見渡した後、説明を始める。

 

「今回の任務は先ほど報告が上がってきた深海棲艦の小規模艦隊の撃滅。なお、発見された場所はブーゲンビル島の沖合との事だ」

 

 既に河内の手で艦娘達にも配布されている簡素な資料に目を通しながら、自分は説明を続ける。

 

「敵小規模艦隊の内訳は書いている通り。よって、今回の作戦は、第三戦隊の加賀さんと龍驤の航空戦力による航空攻撃で可能な限りダメージを与え、残敵を第四戦隊の水雷攻撃でトドメを刺す。と言うものだ」

 

 刹那、第三戦隊旗艦を務める金剛が手を上げる。

 

「HEY! 提督ぅ! 質問ネー」

 

「何だ、金剛?」

 

「Air strikeはイイケド、どうして残敵掃討は第四戦隊の担当なんですか~? 折角Battleshipの私がいるのに」

 

 どうやら金剛は、終始主砲を撃つことなく護衛役に徹せられる事が少々不満なようだ。

 

「それは万が一伏兵がいた時の為さ」

 

「??」

 

「万が一伏兵がいた場合は、自身の存在を秘匿する為にも、攻撃を仕掛ける敵小規模艦隊から連絡が送られる可能性が高い。つまり、航空攻撃を仕掛けた時点で伏兵にも空母がいる事は伝えられるだろう。しかし、その時点では戦艦を含んでいるかどうかまでは判らない。故に……」

 

「成程、故に残敵掃討として接近してきた第四戦隊を第三戦隊の空母の護衛と誤認する可能性が高いと。そういう事ですね、提督様」

 

「そう。手薄になったと勘違いし、万が一伏兵が姿を現したら、その時は金剛の火力で蹴散らしてほしい」

 

「成程そうだったのネー! Okay! もし伏兵がいたら、私が見事蹴散らしてあげるヨー!」

 

 しかし、今回の想定している戦術を理解した加賀の一言によって、金剛も自身の役割に納得したようで。

 笑顔で自身に与えられた役割を全うすると宣言するのであった。

 

「伏兵の火力を金剛達のみで抑えきれない場合も考えられる。その時は、第四戦隊の皆、如何なくその足の速さを活かしてほしいと思う」

 

 頷く第四戦隊の面々、彼女達もまた、自分達が今回の作戦の要である事を十分に理解したようだ。

 

「では、これにてブリーフィングを終了。第三・四戦隊は直ちに出撃!」

 

 了解との返事が響き、次いで両戦隊の面々が会議室を後にしていく。

 彼女たちが会議室を出ていくのを見届けると、自分も河内を引き連れて地下の司令室へと向かった。

 

 

 司令室へと到着し、指定の席へと腰を下ろす。

 その間、河内は補佐のスタッフから出撃状況の確認を行っている。

 程なくして、状況をまとめ終えた河内からの報告が上がる。

 

「提督はん。第三戦隊及び第四戦隊の両戦隊、無事に錨を上げて沖合に出たで。これから目標海域に向かうわ」

 

「了解だ。両戦隊の陣形はどうなってる?」

 

「一応航行中の奇襲を警戒して輪形陣で航行中や」

 

 空母である加賀さんと龍驤を中心に、残りの第三戦隊と第四戦隊で円形を形成、全方位を漏れなく索敵しながら目標海域へと航行中。

 河内からその報告を受けて、とりあえずここまでは順調であると胸をなでおろす。

 

 しかし、数十分後には再び自身を含め司令室内にいる全員に緊張が走るだろう。

 

「提督、映像接続完了。中央モニターに表示します」

 

 だが今は、中央モニターに映し出された、ソロモン海を悠々と航行する彼女達の艤装の姿に心を落ち着かせよう。

 

 

 河内の淹れてくれたおかわりの珈琲が、再び湯気を立ち上らせた頃。

 出撃から既に数十分。遂に緊張を強いる時間が到来する事を告げる連絡が、オペレーターの口から零れる。

 

「提督、第三及び第四戦隊、目標海域に接近」

 

「提督、第三及び第四戦隊より偵察機の出撃許可を求める連絡がきています」

 

「出撃を許可する」

 

 刹那、中央モニターの脇のモニターに映し出された加賀さんの巨大な飛行甲板に、濃緑色に塗装された九七式艦上攻撃機が姿を現す。

 九七式艦攻はその翼を広げると、エンジンを始動。やがて、カタパルトを使い大空へと羽ばたいていく。

 

 因みに、今し方偵察機として発艦した九七式艦攻は、中島社製の九七式三号艦攻。九七式艦攻一二型だ。

 

 初期装備に艦戦と艦爆を装備してはいたが、やはり艦攻も欲しいという事で、装備開発して新たに加賀さんの装備として加わったものだ。

 なお、河内の世界においても、九七式艦攻に相当する艦上攻撃機が存在している。

 が、残念ながら、今のところ装備開発で出てきてはいない。

 

 とはいえ、加賀さんは九七式艦攻を運用する事に関しては全く問題ないとの事なので、こうして運用している次第だ。

 

「加賀より偵察機発艦。龍驤及び金剛・球磨からもそれぞれ偵察機が発艦します」

 

 次いで、オペレーターの口から発せられる報告に、視線は各々から発艦する偵察機の様子を映し出しているモニターへと移る。

 龍驤からは加賀さんと同じく九七式艦攻。そして金剛と球磨からは水上偵察機が発艦し大空へと羽ばたいていく。

 

 さて、偵察機を飛ばせば、後は飛ばした偵察機からの報告を待つだけだ。

 二十一世紀のように、即座に目標を補足出来るような高性能レーダーなどは搭載していない。

 故に、目標発見の一報が送られてくるまでには、少々の時間を有する。

 

 仕方がないこととは言え、戦闘の合間合間に訪れるこのような時間は、あまり居心地のいいものではない。

 

 それからどれ位の時間が経過したか。

 壁に掛けられている時計や自身の手に付けている腕時計を確認すれば分かる事だが、まだ一時間も経過していなかった。

 その時、オペレーターの口から急を告げる声が飛ぶ。

 

「提督! 龍驤航空隊所属の偵察機が目標と思しき艦隊を発見したと!」

 

「本当か!? 数は? どの様な陣形だ!?」

 

「数は事前の報告通り、内訳も一致しています。敵艦隊は単縦陣にてブーゲンビル島沖合いを北上中」

 

「解った。加賀さんと龍驤に攻撃隊の出撃を命令! それから、第四戦隊にはいつでも最大戦速を出せるようにとも」

 

「了解」

 

「そうだ。加賀さんに音声を繋げられるか?」

 

「お待ち下さい……。繋がりました、どうぞ」

 

 モニターに映し出された加賀さんの巨大な飛行甲板では、今まさに攻撃隊の発艦準備が慌しく行われていた。

 攻撃隊の各機に搭乗すべく、飛行服に身を包んだ装備妖精達が各々の機へと駆け寄っていく。

 その傍らでは、甲板作業員である装備妖精に誘導され、魚雷を胴体下部にぶら下げた九七式艦攻がカタパルトへと導かれる。

 更に後を待つのは、胴体下部や翼下に爆弾を備えた九八艦爆。

 重たいお届け物をぶら下げた艦爆と艦攻を護衛すべく、九九艦戦二一型も甲板上で発艦の時を待っている。

 

 モニターに映し出されたそんな光景を、加賀さんは艦橋から間近で見つめているのだろうか。

 

 刹那、一分一秒でも時間が惜しい時に余計なことを考えている暇などないと雑念を振り払うと、加賀さんに声をかけ始める。

 

「加賀さん、聞えますか?」

 

「提督様? どうかしたんですか?」

 

「いや、その。戦闘が始まる前に一言声をかけておこうと思って。加賀さんにとっては、艦娘としての初の実戦になる訳だし」

 

「提督様、お心遣い、感謝します。ですが、ご安心下さい、無茶をするつもりはありません。何より、みんな優秀な子ばかりですから」

 

「そう言って貰えると、心強いよ。……無事な帰還を」

 

「はい」

 

 程なくして通信が切れる頃には、大空へと羽ばたいていった攻撃隊が美しい編隊を形成し、発見した敵小規模艦隊へ向けて向かっていく姿がモニターに映し出されていた。

 青空の彼方に小さく消えていく攻撃隊の姿を見送りながら、加賀さんも、自分と同じく無事の帰還を願っているのだろうか。

 

 なんて考えに浸っていると、不意にオペレーターから連絡が入る。

 

「提督、龍驤から入電です」

 

「ん? 内容は?」

 

「はい、『うちも初の実戦やねんけど!?』との内容です」

 

 加賀さんとのやり取りを何処かから聞いていたのか、龍驤から自分も一声かけてよとの催促の入電であった。

 

「よし、ならこう返信してくれ『ホンマや!』と」

 

「提督はん。帰ってきたら絶対どつかれんで」

 

 河内のツッコミは恐らく半ば現実と化すだろうと予見しつつも、自分の意識は、既に別のモニターに映し出された攻撃隊からの中継映像へと向けられていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。