転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第2話 提督が到着しました その2

 呆れやら悲しみやら、憤怒やら、もう色んな感情が渦巻いて、今にも涙流しながら達観してしまいそうな刹那。

 不意に聞き覚えのある。と言うよりも、先ほどまで変な歓迎をしていた男性の声が耳に入ってくる。

 

「すいません。お待たせしました!」

 

 声の方を振り返ると、そこにはオセアニア州海軍の軍服。前世で言う所のオーストラリア海軍の軍服に酷似した軍服を着込んだ、一人の白人好青年が近づいてくる。

 

「……え? 嘘やん」

 

 確かに先ほど聞いた声は、目の前の白人好青年の声は、紛れもなくあのヤバイ奴の声であった。

 と言う事は、そこから導き出されるのは、この目の前の白人好青年が先ほどのヤバイ奴の正体と言うことだ。

 

 点と点が結びついた瞬間、思わず失礼な心の声が漏れてしまった。

 

「お待たせしてすいません、飯塚中佐。自分は、本日中佐の送迎を担当します、オセアニア州海軍ラバウル統合基地所属のキース・マッケイ少佐であります!」

 

 先ほどの変な体操とは打って変わって、直立不動で綺麗な敬礼をするマッケイ少佐の姿に、一瞬そのギャップに返礼する事を忘れてしまいそうになる。

 が、何とか正気を取り戻し慌てて返礼すると、マッケイ少佐はゆっくりと直るのであった。

 

「そうだ飯塚中佐、ご紹介いたします! ご同行致します、自分の直属の部下で我がオセアニア州海軍が誇る艦娘の二人です!」

 

 そして、敬礼を終えていよいよ移動。かと思ったが、その前にもうワンクッション。

 それは、同行するマッケイ少佐の部下の艦娘の紹介であった。

 

(わたくし)、パース級軽巡洋艦ホバートと申します、よろしくお願いいたしますね」

 

「ぼ、僕、トライバル級駆逐艦アルタンです! よろしく、お願いします! ……その、運転は安全運転でお願いします!」

 

 自己紹介したのは共に、前世で言う所の第二次世界大戦中にオーストラリア海軍が運用していた軍艦をモデルとした艦娘である。

 

 

 軽巡洋艦であるパース級は、姉妹艦の三隻ともオーストラリアが属するイギリス連邦の盟主たるイギリス海軍で建造・就役したものだが、大戦前にオーストラリア海軍に供与・移籍される。

 また同艦は、建造した英国人の自己評価をして『英国製巡洋艦の中で最も美しい』との事。

 

 その為か、艦娘となったホバート、竣工時名アポロは、かなりの美貌を誇っている。

 元英国製と言うこともあり、お淑やかさを備え。マッケイ少佐の軍服に似た衣服ながらも、スカートと組み合わせたそれは、まるで仕立てのいいドレスのようにも思える。

 

 方や、トライバル級駆逐艦のアルタンも、建造はオーストラリア本土で行われたが、その基本はイギリス海軍が建造した『部族の』を意味する名を持つトライバル級駆逐艦だ。

 準同型艦、それにネームシップの影響からか。ホバートに比べ浅黒い肌にアボリジニを意識した白塗りのラインが特徴的で。ホバートと同様の衣服ながらも、また違った印象を受ける。

 

 なお、アルタンはホバートと異なり、戦後も60年代まで現役を務め。50年代初頭には同型艦の『ワラムンガ』と共に対潜駆逐艦として改修されている。

 ただ、どうやら彼女は改修前のようだ。

 因みに、彼女が安全運転と付け加えていたのは、恐らく彼女の最期がスクラップとして台湾に曳航中、転覆沈没した悲しいものだからだろう。

 

 最後に、二人とも見た感じ、艦娘の年齢設定に沿っている様だ。

 一般的に艦娘は、モデルとなった軍艦の艦種によって大まかな外見の年齢設定が行われている。

 例えば、戦艦や空母ならば二十五歳前後、巡洋艦なら二十歳前後、駆逐艦なら十五歳前後。と、この様な感じだ。

 

 ただ、人間にも実年齢と見た目年齢が釣り合っていない者がいるように。艦娘にも、年齢設定と見た目が釣り合っていない者がいる。

 呉鎮にも、駆逐艦の筈なのに妙に発達の良かった娘もいれば、空母の筈なのに絶望しかない娘もいた。

 話が少しそれたが、結論を言えば、二人はそんな例になく、見事に年齢設定と見た目が釣り合っていた。

 

 

 さてそんな二人だが、格好は当然ながら異なっているものの、二人の背丈にそれぞれの髪の色や髪型。

 それに、目元に眼鏡はなくとも、顔の全体像等。

 

 うん、どう考えても先ほどマッケイ少佐が謎のオージー・ビーフマンを演じてた後ろで踊ってた二人だね。

 てかマッケイ少佐よ。部下とは言え、便宜上システムとは言え、先ほどの事を行わせるのは如何なものだろうか。

 

 他人事ながら、少佐自身を含めて三人の今後が心配だ。

 

「所で、飯塚中佐。先ほどの歓迎は、如何でしたか? 知り合いの日本人に、最近日本で流行っている歓迎方法を教えてもらって実践したのですが?」

 

「あ、うん。ありがたかったよ。……ただ、出来れば今後は控えてもらえるとありがたいかな。あの独特の眼鏡とか、全身タイツとか、折角のマッケイ少佐の好印象が、台無しになると言うか。やっぱり人間、第一印象が大事だからね」

 

「は、はぁ……、分かりました」

 

 思ったよりも自分の反応が良くなかった事が腑に落ちなかったのか、マッケイ少佐は少々眉をひそめながらも、とりあえずは自分の言葉を聞き入れてはくれたようだ。

 それにしても、知り合いの日本人がどんな方かは存じないが、全く持って迷惑な事を吹き込んでくれたものだ。

 

 良くも悪くも強烈な印象を残した三人と解け合った後、漸く目的地のラバウル統合基地を目指して移動する運びとなった。

 

「さ、どうぞ飯塚中佐」

 

 空港ターミナルビルを後にし、外の駐車場に止めてあった一台のオリーブドラブの四輪駆動車の助手席に腰を下ろす。

 因みにこの四輪駆動車とは、言わずもがな、代名詞とも言うべき『ジープ』である。

 ジープは大戦中アメリカ国内の各企業で大量生産されていて、生産企業毎の違いは自分には分からない。

 

 ただ、多分このジープは大戦中の生産台数が最も多かったウイリスMB製だろう。

 

「それでは、出発いたします」

 

「司令! あ、安全運転でお願いします!!」

 

「解ってるよ、アルタン。心配しなくても大丈夫」

 

 運転はマッケイ少佐が、そして、カーゴスペースには、自分の手荷物を運んでくれたホバートとアルタンの二人が乗っている。

 

 何だか兄妹のようなやり取りを経て、自分達を乗せたジープはゆっくりと駐車場を後に一路ラバウル統合基地を目指しタイヤを進めた。


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