転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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幕間 ブッキー・ガイド

 皆さん、始めまして。

 ラバウル統合基地飯塚艦隊は第二戦隊所属、吹雪型駆逐艦或いは特型駆逐艦の一番艦、吹雪です。

 

 元々は第一戦隊の所属だったんですけど、新しい艦娘()達が一杯増えて編成の自由が利くようになったので、古株である私を含め元第一戦隊の艦娘()はそれぞれに配置換えになっています。

 あ、でも。第一戦隊の旗艦は結成当初の紀伊さんのままです。やっぱりかっこよくて頼もしくて、それでいて優しい紀伊さんですから当然とは思います。

 私も、何れ紀伊さんみたいに皆から頼られるような艦娘になりたいな。あ、でも紀伊さんは艦息でしたね。

 

「ちょっと吹雪。プロモーションに関係のない事言わないの」

 

 あ、ごめんね、叢雲ちゃん。

 

 叢雲ちゃんに注意されちゃいました。いけないいけない、これはれっきとした仕事なんだから、気を引き締めて余計なことは言わないようにしないと。

 

 では改めて、私は吹雪。ラバウル統合基地は飯塚艦隊に所属している艦娘の一人です。

 今回、私が案内を務めますこのプロモーションビデオは、私達艦娘の事、そして私達を指揮してくださる司令官の仕事ぶりの一部をご紹介するものです。

 特殊な仕事環境故、専門的な用語も出てくるとは思いますが、それらは可能な限り私が解説していきたいと思います。

 

 因みに、今私がいるのは私達艦娘用に用意された官舎の一つ、駆逐艦の艦娘専用の官舎、その共有スペースにいます。

 艦娘用の官舎は艦種ごとに分けられていて、戦艦・空母・巡洋艦等といった感じに分かれています。

 それから、所属する提督の在籍州ごとにも官舎は分かれていて。私達が使用している官舎は、極東州用に用意されたものです。

 

 ラバウル統合基地には私達の司令官、飯塚中佐の他に、同じく極東州からやって来ている先任の溝端准将指揮下の艦娘()達もいる筈なんですけど。

 何故か、彼女達はこの官舎を利用していないらしく、まだお会いしていません。だから、今は実質的に飯塚艦隊専用の官舎になっています。

 私達にとっても先任である人たちですから、何れはお会いして親交を深めたいです。

 

 

 そうそう、先ほど私に注意してくれたのは同じ飯塚艦隊に所属している艦娘の叢雲ちゃん。

 元第一戦隊の一人にして、吹雪型駆逐艦の五番艦、つまり人間で言えば私の妹に当たるの。

 でも私よりも確りしてるし、何でもそつなくこなせて、ちょっと言葉遣いがキツイ所もあるけれどでも優しい一面もある。

 姉としてはちょっぴり嫉妬しちゃう部分もあるけれど、でもそれ以上に、自慢の妹で、大好きな仲間の一人でもあるんだ。

 

 普段の態度からは、可愛げがないって思う人もいるかも知れないけど、実は可愛い一面もあるんですよ。

 

 私と叢雲ちゃんは同型ということもあって官舎では同じ部屋なんですけど。

 この間、飯塚艦隊の旗艦にして私達の頼れるお姉さん的存在の河内さんから、叢雲ちゃんが頑張ったご褒美だってぬいぐるみを貰ったんです。

 本人を目の前にしていた時は、ぬいぐるみが子供っぽいデザインだと言ってはいたんですけど。

 部屋に帰ると、貰ったぬいぐるみを抱きしめて可愛いって漏らしていたんです。多分、その時の目はハートになっていたと思います。

 

「ちょっとふぶきぃーっ!!」

 

 あ、叢雲ちゃんに聞えてしまいました。ここは戦術的撤退です。

 

 

 さて、官舎の外に出て何とか叢雲ちゃんの追っ手をまいたので、再び案内を続けましょう。

 艦娘用官舎は各艦隊司令部から歩いて数分圏内に建てられていますから、例え寝坊しても全速力で走れば何となる。かも知れません。

 私はまだ始業時間には遅れたことはないので分かりませんが。

 

 そして、目の前に見える三階建ての建物、こちらが私達が属する飯塚艦隊の司令部にして、私達の職場の一つでもあり司令官の私室なども備えている官舎になります。

 

 艦隊の司令部は司令長官たる提督の階級等に影響されるのか、他の提督の官舎はまさにピンからキリまで様々。

 見て下さい、溝端准将の官舎などとてもフューチャーで大変ご立派です。

 

 何れは、私達の頑張りが司令官の昇進につながり、そしてあのような立派な官舎に建て替えられる日が来ることを夢見ています。

 

 

 では、官舎の中をご案内しましょう。

 こちらが官舎の正面出入り口とホールになります。この辺りは特に紹介する事もないので次に向かいますね。

 

 まずこちらの廊下を歩いて行くと、ここが医務室になります。

 医務室には、私達艦娘の体調管理を行ってくださる明石さんがいらっしゃいます。

 

 おじゃまします。明石さん、いらっしゃいますか。

 

「おや、ふぶきん? どうしたの?」

 

 医務室に入ると、白で統一された清潔な室内に漂う薬品の匂いが鼻をつきます。

 そして、そんな医務室にいたのは、『波勝(はかち)』さんでした。

 

 波勝さんは、最近提督が工廠で建造して艦隊に加わった方です。

 

 艦娘はオリジナルである軍艦と瓜二つの艤装を、妖精さんの力を借りて一人で操る事が出来ます。

 元となる軍艦は私達のような戦闘艦もあれば、明石さんのような補助艦船も存在しています。

 

 そして、波勝さんは後者、オリジナルは『標的艦』として建造された波勝になります。

 その名の通り、訓練の際に標的として使用することを目的に建造された艦種で。実艦的とも呼ばれます。

 その為、武装は13mm機銃が搭載されている程度で、残念ながら最前線での作戦には活躍が期待されません。

 

 ですが、波勝さんは戦闘艦ではなく補助艦船。司令官もその事は十分熟知していらっしゃいます。

 なので、艦隊での波勝さんの役割は主に訓練の際の指南や各種補佐。それのみならず、工廠での業務を補佐して忙しい明石さんの補佐なども請け負っています。

 まさにオリジナル同様、艦隊のサポート役として献身的に働いています。

 

 オリジナルとしての艦影は、標的艦故に艦橋や煙突、それにマスト以外甲板上には構造物がなく。その姿は宛ら小型の航空母艦です。

 しかし艦娘は、皆人工人体として人間の女性と同じ外見を有しています。波勝さんもその例に漏れていません。

 

 ブラウンのショートヘアに黄色いメッシュが入った綺麗な髪。

 透き通るような綺麗な瞳に整った素敵な顔立ち。そして儀礼用軍服をきっちりと着こなして、指南役としての威厳を漂わせています。

 そして、ストレートパンツが波勝さんのスレンダーな体型をより一層引き立てています。

 更にその性格も、寛大で優しい。まさにできる大人の女性そのもの。憧れます。

 

 でもここだけの話、波勝さんは少しばかりマゾ気質なのではと思うんです。

 訓練が終わった際、時折興奮した視線で自分達の事を見てくる事があるんです。まるでもっと自分をいたぶってと言わんばかりに。

 

 あ、いけない。また余計な事でしたね。

 

「ん? ふぶきん、そのビデオカメラはなんだい?」

 

 あ、すいません波勝さん。

 これは、私達の事をもっと知ってもらおうと制作している、プロモーションビデオの為の撮影用のカメラなんです。

 

「そうだったのか。お、ってことはあちきのことも撮ってくれるの?」

 

 はい、ちゃんと撮ります。

 

「そりゃ嬉しいね。……で、ふぶきん、医務室には撮影で立ち寄ったの?」

 

 はい、職場の風景も撮影しようと思いまして。

 

「ま、ここは学校の保健室とそう変わりないから、撮ってもあまり問題ないけど。くれぐれも撮影する場所は選ぶんだよ」

 

 はい。

 

「よぉ~、波勝。おるか~?」

 

「何だ、りゅうちゃん」

 

 新しく医務室にやって来たのは、艦隊所属の航空母艦の一人、龍驤さんです。

 因みに、気づいた方もいらっしゃるかとは思いますが。波勝さんは私達の事を気取らず呼んでくれます。

 

「なんや吹雪もおったんか」

 

「それよりゅうちゃん、何の用なんだい?」

 

「あぁ、せやった。ちょっと訓練で疲れたから、少しベッドで休ませてや」

 

「また? まったく、しょうがないね」

 

「おおきに」

 

 龍驤さんは波勝さんの許可を得ると、二つあるベッドの内の一つに横になりました。

 先ほどのお二人の会話を聞くに、どうやら龍驤さんは医務室のベッドを使用するのは初めてではないようです。

 

「はぁ……、ふぶきんもいるっていうのに、もうちょっと航空母艦として威厳とか大事にしようと思わない訳、りゅうちゃん」

 

「なんや、ええやん。ちょっと位砕けた所見せといたほうが、何かと親しみやすすくなるかもしれへんやろ?」

 

「はぁ……。尊敬されるべき存在になる気はないんだな」

 

「そういうの、うちには性に合わんからな。うちは尊敬の眼差しで見られるより、気軽に何でも相談しやすい近所のお姉ちゃん、みたいなんが性に合ってんねん」

 

「全く、……でも、りゅうちゃんらしい」

 

 波勝さんは龍驤さんのベッドの脇に椅子を置いて腰を下ろすと、お二人でお話を始められました。

 お二人の仲が良い事は、既に艦隊内では周知の事実です。

 

 波勝さんは訓練の際、私達だけでなく、龍驤さんの装備する航空隊の訓練も補佐する為。

 というか、オリジナルは元々爆撃訓練用の標的艦である為、爆撃機も運用できる龍驤さんと仲良くなることは然程不思議なことではないのですが。

 波勝さんが訓練に本格的に参加する以前に、既にお二人の仲の良さはある程度構築されていたんです。

 

 なので前に一度、龍驤さんに波勝さんとの仲の良さ、その秘訣を尋ねてみたんです。

 すると『うちは波勝と初めて出会って感じたんや。同じや、うちと同じ同志やって』って言ってたんです。

 

 結局、仲良しの秘訣は今も分からず終いです。

 

「あ、ふぶきん。りゅうちゃんのシーン、後で編集した時必ずカットしといて。りゅうちゃんが艦隊の代表的な艦娘だと思われても困るからね」

 

「え? 編集? ……ってうわ! 吹雪カメラ持ってるやん! ちょ、止めて止めて!」

 

 私の手にしていたビデオカメラに気がついた龍驤さんは、ベッドから上半身を起こすと慌てて撮影を止めてほしいと懇願し始めました。

 

 大丈夫ですよ、龍驤さん。後で必ずカットしておきますから。

 

「さよか。それやったらええけど」

 

 私の言葉に安心したのか、龍驤さんは再び上半身をベッドに横たわらせた。

 

 それでは波勝さん、私は他の場所の撮影に行ってきますね。

 

「お、またねふぶきん」

 

 こうして医務室を後にしようと扉に手をかけ退室しようとした時。

 

 きゃっ。

 

 前方不注意で、誰かとぶつかってしまいました。

 

「ひゃっ! びっくりした。なんや、吹雪かいな」

 

 ぶつかったのは、艦隊旗艦を務める河内さんでした。

 私達のオリジナルとは別の世界の軍艦がモデルの方ですが、私ではとても真似できない大艦巨砲主義の持ち主さんです。

 

 その証拠に、ぶつかった弾みで、河内さん自慢のバルジ(・・・)に私は顔を埋めてしまいました。

 

「ん、んっ! く、くすぐったいって、吹雪」

 

 す、すいません。

 

 あまりに心地のよい感覚につい長く埋めてしまいました。

 直ぐに顔を離して河内さんに謝ると、河内さんは少しばかり頬を赤らめて許してくれました。

 

「所で吹雪。なんでここ(医務室)におるん?」

 

 はい、プロモーションビデオの撮影の一環で立ち寄りました。

 

「あぁ、そっか。そうやったんか」

 

 私が医務室にいる理由を聞いた河内さんは、何故か急に目を泳がせ始めました。

 

「なんや河内、いつもみたいに仮病や言うて書類仕事ほっぽりだしてきたんか?」

 

 と、ベッドで横になっていた龍驤さんが、河内さんの存在に気がついて、河内さんが医務室を訪れた理由を語り始めました。

 

「吹雪がおんのにアカンな~、仮病使って医務室のベッドで昼寝したら。艦隊旗艦兼秘書艦やったら、もっと吹雪の前でビシッとしてるとこ見せな」

 

「ちゃ、ちゃうて!! あたしは別にズル休みしにきた訳やのうて……」

 

 身振り手振りを交えて龍驤さんの主張は間違いだと語る河内さんですが。

 残念ながら、世間では今の河内さんのような状態を、図星と言います。

 

「って、そや! 吹雪、カメラ回してる!?」

 

 あ、はい。

 

「ちょ、止めて止めて!!」

 

 何だか、デジャヴュを感じます。

 

 

 その後、河内さんとの裏取引。PX(基地内売店)で使える割引券十枚セットと交換に、医務室での一件を編集でカットする事を確約しました。

 それを終えると、私は医務室を後に再び官舎内の案内を続けます。

 

 あ、移動の途中、廊下で司令官と出くわしました。

 

「やぁ吹雪」

 

 司令官、ご苦労様です。見回りですか。

 

「いや、ちょっと河内を探してるんだ。……どうせ医務室にいるとは思うが」

 

 流石司令官。河内さんの居場所など私が誤魔化さなくても既にお見通しです。

 

「吹雪はプロモーションビデオの撮影か?」

 

 はい。

 

「なら他の皆の事、かっこよく撮ってあげてくれ。あ、自分も忘れずに」

 

 分かってます、司令官。

 

「それじゃぁな」

 

 医務室の方へと去っていく司令官を見送った後、私も案内を再会します。

 そして暫くすると、河内さんの声が響き渡りました。

 

 やっぱり司令官は凄い方です。

 

 さて、では改めて案内を進めます。

 次は書庫の方にでも。

 

 あ、ビデオカメラのバッテリーが切れそうです。

 仕方ない。今回の撮影はここまでにしましょう。

 

 まだまだ案内したり紹介したい人や艦娘が沢山いましたが、今回はこれにて終了。

 

 さてと、撮影したデータを大淀さんに渡さないと。




いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。

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