転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第30話 嗜好品護衛任務 その3

 河内達護衛戦隊が、護衛対象である輸送船団が停泊しているブリスベン港を目指してラバウル統合基地を出港してから、早いもので三日が経過した。

 その間、河内の代理である紀伊の書類仕事であっても全く衰えを知らない、仕事に対する熱意に感心し。

 このまま紀伊が秘書艦でもいいかな、と考えていたり。

 しかし、紀伊目当てに金剛や漣達が何かと執務室に押し寄せて、やっぱり当面河内のままでいいやと考え直したり。

 

 護衛戦隊や輸送船団に万が一の事があった場合に備え、援護並びに救援の為に第三戦隊の進出計画を作成したり。

 更には河内からの定時報告に目を通して、特に問題なくブリスベン港に到着した事を確認する等。

 色々と行っているうちに、あっという間に輸送船団出港の当日を迎えた。

 

「分かった、ご苦労。あぁ、タブレットでも確認した」

 

 私室のベッドで爽やかな朝を迎えたのも束の間。

 見計らったかのように私室に入ってきた谷川の口から、護衛戦隊と輸送船団がブリスベン港を出港したとの報告を受ける。

 慌ててタブレットを確認すると、そこには河内からも同様の報告が上がってきていた。

 

 内容は勿論、護衛対象である輸送船団と共にブリスベン港を出港した旨が書かれている。

 

 確認を終えると、谷川は同じ男なので遠慮する事もなく軍服に着替え。

 着替え終えると谷川を引き連れ一路、食堂へと向かう。

 腹が減っては戦はできぬ、からだ。

 

 

 食堂で朝食をとり終え、一目散に官舎へと戻っていると、官舎の正面出入り口に一人の人影を見つける。

 

「よぉ紀伊」

 

 誰であろう、紀伊であった。

 

「提督、第三戦隊、出港準備完了だ。後は提督の号令を待つだけだ」

 

「流石だな」

 

 歩み寄ってきた紀伊の口から告げられたのは、万が一に備えて航行ルートの水上及び対空警戒の為、途中まで進出を計画していた第三戦隊の出港状況であった。

 自分が朝食を食べている間に完了したのだろう。その手際のよさに感服の言葉を漏らす。

 

「よし、では第三戦隊は直ちに出港。事前の計画通り、予定海域まで進出」

 

「了解」

 

 紀伊に出港命令を伝えると、命令を伝えに行く紀伊を他所に、自分は再び足を動かし執務室を目指す。

 護衛任務を遂行中とはいえ、他にもやるべき事は山のようにある。

 特に事態が切迫していない状況ならば、執務室に篭っていても問題ない。

 

 とはいえ、いざ何かが起こればいつでも司令室に駆け込む心構えは出来ている。

 

 

 だがしかし。

 結局この日、護送船団は深海棲艦の襲撃を受けることもなければ特に他のトラブルに見舞われることもなく。

 自分の心構えも空振りに終わってしまった。

 

 そして翌日も、特に不測の事態が発生した、という報告もなく。

 順調な航海のままその日も終わりを迎えるのであった。

 

 

 こうして、案外杞憂だったのかと、頭の片隅にそんな考えが浮かび始めた三日目。

 執務室でいつものように書類仕事を行っていると、不意に執務机の上に置かれた電話が鳴り出した。

 

「ん? ……あぁ、分かった。直ぐ向かう」

 

 受話器を手に取り耳を傾け、伝えられたその内容を確かめると、受話器を置く。

 そして、何かを感じ取ったのか、事の次第を見守っていた紀伊に声をかけ、彼を引き連れ司令室へと向かうのであった。

 

「大淀、状況は?」

 

「はい。ご連絡の通り、金剛さん搭載の水偵二番機から重巡を基幹とする敵艦隊を発見したとの報が先ほどありました」

 

 司令室へと赴いたのは、進出していた第三戦隊が敵艦隊を発見した、との連絡を入れてきたからだ。

 

「敵艦隊の規模と位置は?」

 

「全部で六隻、内訳は重巡二、軽巡二、駆逐艦二です。位置は、護送船団の航行ルート上で待ち構えるように展開しています」

 

「分かった。加賀さんと龍驤に攻撃隊を出撃させ、可能な限り敵艦隊を無力化するように伝えてくれ」

 

「了解」

 

「それから、河内に敵艦隊の情報を伝えて迂回するように指示を」

 

 指示を出すと指定の席へと腰を落ち着け、事態の推移を見守る。

 モニターに映し出されたのは、珊瑚海で獲物を待ち受ける敵艦隊の姿。捕捉した水偵二番機からの映像故、遠巻きにその姿が確認できる。

 

 一方別のモニターには、龍驤の見事な飛行甲板から今まさに発艦せんとする攻撃隊の様子が映し出されている。

 発艦の為に風上に向かい全速力で航行し合成風力を産み出すと、チョークの外された攻撃隊の機が次々に飛び立っていく。

 

 更に別のモニターには、先頭を務める河内の艤装が緩やかに旋回を行う様子が映し出されている。

 河内以外の護衛戦隊のカメラからの映像だ。

 

「何とか護送船団を敵に補足されずに済みそうだな」

 

「だといいんだけどな」

 

「何か気がかりでもあるのか、提督?」

 

「いや、ただ心配性なだけさ。……万が一に備えて、河内に水偵を出しておくよう伝えろ」

 

 迂回先で更に別の敵が待ち構えている、そんな可能性を考慮し新たな指示を飛ばすと、再び事態の推移を見守る。

 程なくして、加賀さんと龍驤の攻撃隊が発見した敵艦隊に対し攻撃を開始した旨の報告が飛び込んでくる。

 

 モニターに映し出されたのは、深海棲艦にとって阿鼻叫喚な光景だった。

 迫り来る攻撃隊、投下される爆弾、海中より迫る魚雷。そして、黒煙を上げ海中に没していく味方の船体。

 まさに熾烈な戦争の一場面が、そこには映し出されていた。

 

「敵艦隊、敗走を始めました」

 

 オペレーターの報告の通り、攻撃隊の攻撃を受け辛うじて生き残っていた敵残存艦は、満身創痍な船体を反転させ敗走を始めていた。

 

「提督。金剛より、敵艦隊追撃の要請がきていますが?」

 

「追撃はしなくていい。今回の目的はあくまでも輸送船団のラバウル到着だ」

 

 こうして発見した敵艦隊の脅威が去ったかに思えた刹那、別のオペレーターからの急を告げる声が響き渡る。

 

「提督! 河内搭載の水偵一号機が新たな敵艦隊を発見したと!」

 

「何!?」

 

「単縦陣にて護送船団を目指し接近中。しかも先頭を航行しているのは巡洋戦艦と思しきクラスだとの事です!」

 

 オペレーターからの報告の内容を耳にし、顔が強張っていく。

 連合側命名、『巡洋戦艦ネ級』。前世ゲームでは同名は重巡に名付けられていたが、この世界では前世ゲームには登場しない巡洋戦艦の名前として名付けられている。

 その姿は、メルトリア級航宙巡洋戦艦に瓜二つである。

 

 現在までに確認されている深海棲艦の多くは、無砲身式の主砲を採用している。

 そんな中においても、ネ級は数少ない砲身式の主砲を有する深海棲艦であり、その砲戦能力は高いものを有している。

 

 事前の情報にない巡洋戦艦クラスが出てくるとは思わず、焦りの色を隠せない。

 

「数は!? 巡洋戦艦の数は何隻だ!?」

 

「お待ち下さい。……続報、きました。巡洋戦艦の数は一隻、その他は軽巡と駆逐艦で構成されているようです」

 

「一隻だけなんだな!?」

 

「はい」

 

「では輸送船は直ちに退避、第三戦隊との合流は可能か?」

 

「高速船でしたら」

 

「では第三戦隊を二手に分ける。加賀さんと龍驤、それに護衛の漣は引き続き攻撃隊の収容及び索敵。金剛・子日・若葉は直ちに退避した輸送船の護衛に向かわせる」

 

「護衛戦隊はいかがいたしますか?」

 

「護衛戦隊は綾波を退避する輸送船につける。そして残りは新手の敵艦隊の対処だ」

 

「了解」

 

 慌しさを増す司令室。

 モニターに映し出されるのは、そんな司令室の慌しさが伝染したかのように行動を開始していく艦娘達の姿であった。

 

 子日と若葉を引きつれ輸送船との合流へと向かう金剛。

 四隻の輸送船と共に河内達と別れ行動を開始する綾波。

 

 そして、新手の敵艦隊へ向け前進を開始する河内達。

 

 状況の推移を見守りながら、自分は、河内達の勝利を願っていた。

 

「提督、河内なら大丈夫だ。必ず、敵を仕留めてみせるさ」

 

「ん?」

 

「伊達に幾多の海戦で武勲を立ててはいないさ」

 

 すると、紀伊が何かを感じとったのか。不意に、同郷だからこそ分かる確信じみた言葉を口にする。

 紀伊の言葉を聞き、自分の心の隅に生まれた不安が、少しばかり消えたような気がした。

 

「そうだな、あいつなら大丈夫か。……よし、帰ってきたら、PX(基地内売店)で何か買ってやるか」

 

「それはいい考えだ」

 

 こうして紀伊と言葉を交わしていると、やがてオペレーターから事態が進展した旨が告げられる。

 

「新たな敵艦隊、二手に分かれました。旗艦と思しき先頭の巡洋戦艦が単独で前進、残りの四隻は単縦陣にて護衛戦隊の側面をつくものと思われます」

 

「随分思い切った行動だな。……よし、では敵巡洋戦艦の相手は河内に任せる。天龍以下三人は分離した四隻の相手を」

 

「いいのか提督?」

 

「なに、元々引き離す事も考えていたからな。相手が勝手に別れてくれるなら好都合だ」

 

 指示が伝わったのか、モニターに映し出された河内の八万トン越えの艤装(船体)が僅かに揺れる。

 続いて、天龍以下吹雪・叢雲・夕立の艤装が見事な跡白浪を描いて河内より離れていく。

 

 決戦の時は、刻一刻と近づいていた。


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