転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第33話 新戦力来る

 護衛任務を無事に成功させ、PX(基地内売店)の嗜好品滅亡の危機を回避した翌日。

 朝食を取り終え、午前の業務を開始して二時間ほどが経過した頃。執務机に肘をつきながら、自分は手にした書類を眺めていた。

 

「どないしたん、提督はん?」

 

「んー、これだよ、これ」

 

 先ほどからずっと書類を眺め続けている事を不審に思ったのか、河内が声をかけてくる。

 すると、書類を眺めていた原因。その原因たる悩みを共有すべく、近づいてきた河内に手にしていた書類を手渡す。

 

「えっと……。護衛任務に関する命令書、ってなんやこれ、護衛任務やったら昨日無事に終わったやん!?」

 

「確かに、な。だがそれは、昨日とは違う任務だ。書いてあるだろ、定期的って」

 

「あ、ホンマや」

 

 そう、言うなれば昨日の任務は単発任務。

 そして、今回通達されたのは、ウィークリー任務とも言うべき任務だ。

 ウィークリーと言っても隔週単位の為、毎週実行しなければならない訳ではない。

 

 その為、初回の任務の開始は来週からと記載されている。

 

「今回通達されたのは昨日の任務とは違う航路だ。オーストラリア管区じゃなくパプアニューギニア管区はニューギニア島を往来の航路の為、所要時間も安全面でも昨日とは違って簡単といえば簡単だが」

 

 近海とはいえ、完全に安全、楽な任務というわけではない。

 昨日のように、予期せぬ戦力と遭遇する事だってあり得るのだから。

 

「提督はん、何がそんなに心配なん?」

 

「昨日のように巡洋戦艦が出てくることは可能性的に低いとはいえ、重巡クラスは通商破壊において度々出現している。だから、今回通達された任務を行うに当たっては巡洋艦を加えた戦隊をあてるのが望ましいんだけどな……」

 

 そこまで言うと、河内は何かを察したのか、続いて自分が言おうとしていた内容を代弁し始める。

 

「あぁ、そういえばあたしらん所の艦隊って、巡洋艦少なかったな」

 

 駆逐艦だけだと火力面で不安が残り、逆に戦艦では速力の観点から使えるものが限られ、尚且つ費用対効果が良いとは言えない。

 そこで、火力もそこそこ、速力も申し分なく費用対効果も良い、そんな使い勝手のいい艦種たるのが巡洋艦。

 

 なのだが、悲しいかな。

 現在、我が飯塚艦隊に所属している重・軽合わせた巡洋艦艦娘の総数は、僅かに三人。

 重巡の熊野、そして軽巡の天龍と多摩、この三人だけなのだ。

 

 そんな三人の内一人を定期任務に組み込むとなると、他の任務の際に支障が出ないとは言い切れない。

 

 とはいえ、今回通達された任務を行えませんと上申しようものなら、間違いなく査定やら評価やらに響く。

 だから頭を悩ませていたという訳だ。

 

「はぁ、どう編成し直せばいいものか……」

 

「なんや、提督はん。そんな事で悩んでたん?」

 

「ん?」

 

「ローテーション組むのに足りへんかったら、新しく増やしたらええやん」

 

 書類を返しても自身の机に戻る事無くその場に佇んでいた河内は、ふと、単純明快な答えを呟く。

 深く考えすぎていてその様な単純な答えに辿りつけなかった自分は、まさに衝撃を受けた。

 

「別に増やされへん程、資材がない訳ちゃうんやろ? それやったら増やしたらええやん」

 

 加賀さん達を建造する為に無駄になった資材については、既に七割方補填できた。

 そして、その補填分が仮になくとも、初期の支給による蓄えはまだまだ残っている。故に、新たに建造出来ない事などないのだ。

 

「はは、河内。お前の言う通りだな。……なんで勝手に現有戦力だけで行おうと考えてたんだろう」

 

 深く考えすぎていた自身の思考に対して自嘲気味に笑うと、一度深呼吸して、頭の中の考えをリセットしていく。

 やがて、頭の中の考えがリセットされスッキリすると、椅子から立ち上がり、答えを導いてくれた河内に感謝の言葉を述べる。

 

「それじゃ、早速工廠に行くか」

 

「ほいな!」

 

 そして、思い立ったら直ぐ行動とばかりに、河内を引き連れ工廠へと向かうのであった。

 

 

 

 工廠に足を運び、妖精達にテキパキと指示を出している明石に一声かけて、プレハブ事務所へと向かおうとしたのだが。

 明石が声をかけ待ったをかける。

 

「どうしたんだ、明石?」

 

「提督、建造ですよね!?」

 

「そうだけど……」

 

「なら、つい昨日から始めたお得な建造パックを試してみませんか!?」

 

 少々興奮気味な明石の口から告げられたのは、謎の建造パックなるサービスの勧誘であった。

 名称だけ聞くと、何ともお得感を謳い文句にしているデータ通信のサービスのようだな。

 

「因みに、それはどういったサービスなんだ?」

 

「はい! 一律五百の資材で、何と三人分の建造を行えちゃうお得なサービスなんです!!」

 

「それは、凄いな……。所で、それって狙ってる艦種を絞り込めたりは」

 

「出来ません。何が建造されるかは完了してからのお楽しみです!」

 

 先ほどはデータ通信のサービスのようだと例えたが、明石の説明を聞いてその例えは間違いだと気づいた。

 このサービス、言うなれば福袋のようなものだ。買って開封するまで中身が分からない、まさに福袋の特徴そのもの。

 

 しかし、一律資材五百か。

 戦艦や空母等の大型艦が建造されれば、それだけで元は取れお得感は得られるだろう。

 だが建造されたのが全員駆逐艦となると、少々お得感は得ずらい。

 

 いや、そもそも、今回は巡洋艦を狙って建造に来たんだ。わざわざ確立が低くなるような方法を選ぶべきではない。

 

「悪いが明石、今回は……」

 

「面白そうやん! なぁ提督はん、一回やってみいひん?」

 

「……河内、お前なぁ」

 

 だが、そんな自分の考えとは裏腹に、河内は興味津々だ。

 何も今試さなくてもいいだろうと、今回自分達が工廠へとやって来た経緯を河内に改めて言い聞かせる。

 が、河内は頑固にも譲らない。

 

「ええやん、一回だけ、な。お願いや提督はん」

 

 手を合わせ、首をかしげてお願いを行う河内。

 全く、面白そうだからといって軽はずみに消費していい数値でもないんだぞ。

 

「……はぁ、分かったよ。それじゃ、一回だけだからな」

 

 だが結局、自分が折れてしまい、一回だけ試す事となった。

 

「それでは用意しますんで、プレハブ事務所の方へどうぞ」

 

 明石に案内されプレハブ事務所へと足を運ぶと、明石が準備を進めている間、河内に試すのはこの一回限りだと念を押す。

 程なくして、準備が整った明石に呼ばれると、いつもとは異なる表示のモニターに、手にしたタブレットから各種資材を五百を入力する。

 

「では、開始ボタンをどうぞ」

 

 建造開始ボタンを押すと、普段であればモニター一つに対して建造時間が一つ、表示される筈なのだが。

 建造パックは、まさに建造が完了するまでお楽しみ、とばかりに建造時間の表示が現れない。

 

「明石、これちゃんと建造されてるのか?」

 

「ご安心下さい! お得な建造パックに失敗の文字はありません!」

 

 失敗がないって、それはそれで何気に凄い事ではないのか。それを通常の建造時にも導入できれば、一気に建造時のリスクが軽減される。

 ただ、明石に聞いてみると、そこは妖精達が許してくれないらしい。残念だ。

 

「失敗がないのは分かったが、建造時間が表示されないといつ完了するか分からないな。……明石、高速建造材は使えるのか?」

 

「はい、使えます」

 

「なら高速建造材を使う」

 

 高速建造材も一個で三つ分なら良かったのだが、残念ながら一個につき一つと、通常時と変わらなかった。

 高速建造チームの、威勢のいいデッドなファイヤーががががしそうな台詞を耳にしながら、見えない建造時間が零になるのを待つ。

 

 やがて、作業が終わりを告げ妖精達が撤収する中、明石に連れられ新しく加入する艦娘()達との初対面へと向かう。

 

 開閉式扉の向こう側から聞えるのは複数の足音。

 程なくして姿を現したのは、駆逐艦でもなければ戦艦でもない、その中間の艦娘達。そう、巡洋艦をモデルとする艦娘()達だ。

 

「はーい、お待たせ。データ採集はバッチリお任せ! 兵装実験軽巡、夕張。只今到着!」

 

「古鷹型重巡二番艦、あたし加古ってんだ……、ふぁぁあ。よろしく」

 

「きっらり~ん。最新鋭軽巡の阿賀野でーす! ふふ、よろしくね」

 

 軽巡洋艦の夕張と阿賀野、そして重巡洋艦の加古。

 天が味方したのか、それとも妖精達が自分の気持ちを汲み取ってくれたのか。

 何れにせよ、新たに建造された艦娘()達は、今の自分にとって喜ばしいメンバーであった。


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