転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第34話 新戦力来る その2

「ようこそ三人とも。はじめまして、自分は今後君達の上官になる飯塚艦隊司令長官の飯塚だ。よろしく頼む」

 

 嬉しさから自然と笑顔も零れる中、自己紹介を終えた三人に対して、自分達の自己紹介を始めていく。

 

「で、隣にいるのが……」

 

「あ、阿賀野……」

 

 自分の自己紹介が終わり、隣の河内の紹介を始めようとした矢先。

 不意に河内の口から阿賀野の名前が零れたかと思うと、次の瞬間。何を思ったのか、河内が阿賀野を抱きしめ始めた。

 

「え!? ふぇ!?」

 

「お、おい河内!」

 

 突然の河内の行動に、自分のみならず抱きしめられた阿賀野も、そして夕張・加古・明石の三人も、何が起こっているのやら困惑するしかない。

 しかし、程なくして我に返り河内を阿賀野から引き離しにかかると。河内も、まるで我に返ったかのように阿賀野から離れるのであった。

 

「あ、あはは。ご、ごめんな。びっくりしたやんな。あはは……」

 

「す、すまない。ちょっと失礼!」

 

 自嘲の笑みを浮かべる河内を引き連れ、一度プレハブ事務所へと舞い戻る。

 そして、先ほどの行動に対して河内に問う。

 

「河内、いきなり抱きしめるなんてどういうつもりだ?」

 

「ごめん、提督はん。……同じやったから、つい」

 

「同じ?」

 

「うん。あたしが軍艦やった時に、あたしを庇って沈んでもうた軍艦()と同じ名前やったから、つい」

 

 何処か悲しげに理由を語る河内。

 履歴書には河内に関する戦歴等は記載されていたが、僚艦については一切記載されていない。

 だが、海戦等は軍艦一隻で行えるものではない。そこには必ず僚艦が存在している。

 

 そして、戦争である以上、敵味方どちらも無傷である筈がない。

 

 どの様な状況で、河内の世界の阿賀野が河内を庇い沈んだのか、それは分からない。

 問い質せば分かるかもしれないが、それはあまりに河内にとって酷というものだ。

 所詮はシステムなのだから遠慮などする必要はない、と思う者もいるかもしれないが、自分はそうは思わない。

 

 例えシステムだとしても、彼女達には感情がある。共に笑い、共に泣き、共に語り合える感情がある。

 人間と同じ外見を持ち、人間と同じ習慣を共有している。

 だから、例えシステムだとしても、自分は河内の、個人の尊厳を犯すことは絶対にしない。

 

 だから、恐らく状況は分からないままだ。

 

「そうか、そうとは知らず、引き離して悪かったな」

 

「いや、別に提督はんは悪るないで。名前が同じでも別の軍艦()やって分かってた筈やのに、我慢できへんと抱きしめてしもたあたしの方が悪いんやから」

 

「でも知ってたら、少しは配慮してやれた」

 

「もう、ホンマに提督はんは優しいな。そういうとこ、嫌いやないで」

 

 理由を語り終え、少しは気持ちがスッキリしたのか、河内の表情はいつものはつらつとしたものへと戻りつつあった。

 

「でも、そういう事なら、今度はちゃんと見守ってやらないとな」

 

「せやな、うん。あたし、頑張るわ!」

 

「お、いつもの河内に戻ったな。それじゃ、皆の所に戻るか」

 

 程なくしていつもの河内に戻ったのを確認すると、再び四人のもとへと戻り、阿賀野に先ほどの事を改めて謝罪すると、改めて河内の紹介を行い始める。

 

「へぇ~、河内さんは別の世界の軍艦がモデルなんですね。これは色々と気になります! あの、後でデータを採取してもいいですか!?」

 

「データ? 別にええけど?」

 

「わぁ! ありがとうございます!」

 

「あたしは何でもいいけど、ふぁ」

 

「あ、阿賀野、さっきはかんにんな」

 

「いえ、ちょっと驚いたけど、何だろう……。河内さんに抱きしめられた時、何だかお姉ちゃんに抱きしめられているみたいで、少し心地よかったんです」

 

「阿賀野……」

 

「あの、もしご迷惑でなければ、河内さんの事、お姉ちゃんって呼んで、いいですか?」

 

「う、うぅ、あがのぉ~!」

 

「うわ!」

 

「ええで! お姉ちゃんって呼んでもええで! あたしも阿賀野の事、妹以上に妹みたいに可愛がったるさかいにな!!」

 

 河内と阿賀野は思いのほか早く打ち解け、更には一層仲を深める。

 勿論、残りの二人についても、仲を深めるのにそれほど時間はかからなかった。

 

「それじゃ、河内。仲良くなった所で、三人の案内を頼めるか」

 

「任せとき!」

 

「じゃ、よろしく頼むぞ。自分はもう少し建造していくから」

 

 河内に三人の案内を任せると、自分は明石と再びプレハブ事務所へと舞い戻り、今度は普通の建造を行う。

 そして新たに軽巡の能代と多摩、それに駆逐艦の睦月・文月・秋月の五人を迎え入れ建造を終了すると、五人を引き連れ工廠を後に案内を行うのであった。

 

 

 その後、案内を終え、既に先任として着任している艦娘()達を官舎の会議室に招集すると、今回新たに加わる事になった八人を紹介する。

 先任していた艦娘()の中には、姉妹艦がやってきたという事で大いに喜んでいる者もいた。

 

「しかし、手狭になってきたな。この会議室も」

 

「では先輩、増築しますか?」

 

「え? 出来るのか?」

 

「はい、可能です」

 

 そんな光景を眺めていて、ふと会議室が手狭になってきた事を呟いたのだが。

 それを聞いた谷川から、渡りに船な言葉がもたらされた。

 

 こうして、官舎に増築を施す形で、現在の会議室よりも大人数を収容可能な第二会議室の増築が決定したのであった。

 なお、増築工事は妖精さんが一晩でやってくれました。

 

 

 

 巡洋艦不足の問題も解決し、会議室の手狭問題も解決した翌日。

 執務室の定位置たる椅子に腰を下ろした自分は、執務机の上に置かれた艦隊の現有戦力が記載された書類を眺めながら、新たな編成に頭を悩ませていた。

 

「戦艦が三、空母が三、重巡が二、軽巡が六、駆逐艦が二十。……で波勝か」

 

 補佐のスタッフとして働いている大淀と明石を除き、戦闘に動員可能な艦娘()達だ。

 ただ、波勝はモデルが標的艦なだけに戦闘には出せないし、出す気もない。それに鳳翔さんも、以前話した通り少々戦闘は厳しいので、後方にいてくれるのが望ましい。

 

 故に、それらを除いた数が、実質的に動員可能な数となる。

 

「錬殿のバランスを考えると、幾つかの戦隊を再編するか……。あ、でも第三戦隊は現状維持のままにしておこう」

 

 因みに、一昨日の護衛任務を成功させたお陰か。

 この度、新たに編成可能な戦隊を増加出来る許可を得たので、合計六個戦隊を隷下に有する事となった。

 

「とりあえず新加入の加古を……」

 

 書類に目を通しながら新たな戦隊の編成案をメモ帳にメモしていると、不意に執務室の扉がノックされる。

 

「失礼します、提督」

 

 入室してきたのは、能代であった。

 

「どうしたんだ、能代?」

 

「はい、阿賀野姉ぇを見かけませんでしたか?」

 

「阿賀野? いや、ここ(執務室)には来てないが?」

 

「そうですか……。全く、何処行ったのかしら、阿賀野姉ぇ。自主練習するって言ってたのに」

 

 どうやら、自主練習を行うと約束していたにも関わらず、その約束をすっぽかして何処かへ行ってしまったようだ。

 

「すいません、提督、河内姉ぇ。もし阿賀野姉ぇを見かけたら、連絡いただけますか」

 

「あぁ、分かった」

 

「了解や」

 

 こうして用件を終えた能代は、再び阿賀野を探すべく執務室を後にする。

 なお、能代が河内の事を河内姉ぇと呼んでいるのは、阿賀野が河内の事をお姉ちゃんと呼んでいる事に影響されてだ。

 

 能代が退室してから程なくして、それまで静かに秘書艦机で書類仕事を行っていた河内が声を挙げた。

 

「なぁ提督はん、ちょっと阿賀野探してきてもええか?」

 

「ん? あ、あぁ。それなら別に構わないが」

 

 仕事のやる気が低下したので休憩、といつもの河内なら言う所が。今回はちゃんとした目的である為、特に却下する事もなく許可する。

 何だ、阿賀野や能代にお姉ちゃんと呼ばれるようになって急に責任感が漲ってきたのか。いい傾向だな。

 

「ほな行ってくるわ」

 

 阿賀野を探しに執務室を後にする河内を見送ると、再びメモ帳にメモを取る手を動かし始める。

 

 

 そして、それからどれ位の時間が経過していただろうか。

 

「ふぅ、とりあえずこんなものか」

 

 編成案をメモ帳に書き終え、同じ姿勢で凝り固まった上半身をストレッチでほぐすと、腕時計に視線を向ける。

 

「もうこんな時間か」

 

 腕時計の針は、既に正午を僅かに過ぎたあたりを指し示していた。

 

「河内の奴、いつまで探してるんだ」

 

 そしてふと、阿賀野を探しに行ったきり執務室に戻ってきていない河内の事を思い出す。

 幾らなんでも時間をかけすぎている、書類仕事もまだ残っているというのに。

 まさか、探すといいながら何処かで油を売っているのか。

 

「探すか……」

 

 空腹を訴え始めた自身の腹には少しの間我慢してもらい、執務室を後にすると、河内を探すべく官舎内の捜索を開始する。

 

「とりあえず、最初は医務室からだな」

 

 先ず最初は、河内がよく油を売っている医務室へと向かう。

 だがその途中、医務室の方から、能代の怒鳴るような声が聞こえてくる。

 

「こらぁ! 阿賀野姉ぇ、河内姉ぇ!! まちなさーい!」

 

「ゆ、許して能代ーっ!」

 

「か、かんにんやー!」

 

 程なくして、廊下を走る河内と阿賀野の姿が視界内に現れる。

 二人の後ろからは、鬼のような形相をした能代の姿も見える。

 

「あ、提督さん!?」

 

「げ、提督はん!?」

 

 河内と阿賀野の二人は、自分の存在に気がつくと急ブレーキをかけ、別の方向へと逃げようと進行方向を変更しようとする。

 だが、残念ながら廊下は一本道で、逃げるには自分か能代の脇を抜けなければ逃げることは出来ない。

 

「阿賀野姉ぇ、河内姉ぇ!」

 

「ひ、の、能代。お願い、見逃して」

 

「頼むわ、この通りや! あ、提督はん、お願いや、能代に今回は見逃してくれるように頼んでや」

 

 逃げ切れないと悟ったのか、二人は許しを請い始める。

 だが残念ながら、今回二人に救済の手を差し伸べてあげようとの気持ちは、湧き上がらない。

 

「悪いが助けてやれない。二人とも、能代に確りお灸をすえてもらえ」

 

「そ、そんなぁ~」

 

「薄情なぁ~」

 

「さぁ、阿賀野姉ぇ、河内姉ぇ。たっぷりお説教させてもらいます!!」

 

 涙を流す河内と阿賀野を引き摺りながら何処かへと連れて行く能代。

 そんな三人を見送ると、自分は河内達が見つかったので、遅れていた昼食をとるべく食堂に向けて足を進め始める。

 

「ごめんなさーい!」

 

「ごめんやー!」

 

 官舎を出ようとした刹那、河内と阿賀野の声が官舎内に響き渡るのであった。




いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。

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