転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第35話 アッレナメント

 新たに五人の艦娘が艦隊に加わり、隷下の戦隊の再編も行われた翌日。

 来週から始まる新たな護衛任務を含め、各種任務に臨むべく、各戦隊、予備組も含め。皆一層訓練に力が入っている。

 新加入の艦娘()達は少しでも早く先任達に追いつく為、先任達は新加入の艦娘()達に負けじと、まさに切磋琢磨している。

 

 そして今もまさに、訓練海域にて互いの単装砲が火を噴き、訓練海域の大海原に幾つもの水柱を作り出している。

 

「撃ち方はじめ! てーっ!」

 

「雷撃、てー……」

 

 程なくして砲撃戦から雷撃戦へと移行したようで。

 仮想敵役の天龍目掛けて、朝風と朝凪(あさなぎ)の艤装に搭載している三基の魚雷発射管から各々一発ずつ、二人合わせて計六発の演習用魚雷が発射される。

 

「は、おせぇよ!」

 

 しかし、天龍は魚雷の進路をまるで手に取るように分かっていたのか。

 見事な操艦で楽々魚雷の航跡を回避すると、お返しとばかりに、二基の三連装発射管から六発の魚雷を発射する。

 

「きゃ!? いやー! こんなのって、……嘘!」

 

「あう、やられちゃった」

 

 天龍より放たれた六発の魚雷は、まるで吸い込まれるように。

 否、まるで朝風と朝凪が魚雷の進路に自ら進むかの如く、舵を切った矢先、二人の艤装の横っ腹に見事な水柱が生まれるのであった。

 

「はは、まだまだ読みが甘いな」

 

「もう、なんでよ~! くやしぃ~!」

 

「朝風姉ぇ、叫んでも結果は同じだよ……」

 

「朝凪! 貴女ももう少し悔しがりなさいよ!!」

 

 勝敗が決し、勝ってご満悦の天龍に対し、朝風は悔しさを隠す事無くさらけ出している。

 一方、同じく負けた朝凪は、何処か達観した様子で姉である朝風を諭している。

 

「ま、オレに追い付きたかったら、もっと訓練して実力をつけてくるこった」

 

 そんな二人の会話を聞いてか、天龍は勝者の余裕とばかりに二人にアドバイスを送るのであった。

 

「にゃしぃ……、先輩達の訓練は、やっぱり凄いね。私達なんて一撃も出せなかったにゃ……」

 

「でも睦月お姉ちゃん、天龍さんにはあたし達筋がいいかんじって褒められてたよ」

 

「にゃ! そうだったにゃしぃ! ならもっと自主練して、先にきてた弥生ちゃんや水無月ちゃんに追いつけ追い越せにゃしぃ!」

 

「うん、だね。もっと練習してまだまだ強くなろう!」

 

 一連の訓練を見ていた者の中には、先に訓練を終えた艦娘()達の姿もあった。

 その中の二人、昨日加入したばかりの睦月と文月は、早速自分達にとっては軍艦としても、そして艦娘としても先輩の訓練の様子に感想を漏らす。

 

 最初は加入したての自分達の錬殿低さを嘆いてはいたものの、天龍から送られた言葉を思い出し、自分達には才能があり磨けば輝くと連想すると。

 先に着任していた姉妹艦の弥生と水無月に追いつけ追い越せと、自分達を奮い立たせるのであった。

 

 

 さて、訓練を行っている艦娘()達の一挙手一投足を把握できる自分が何処にいるのかと言えば。

 訓練の各種データの計測役として同海域に停船している夕張の艦橋だ。

 因みに、訓練に同行しているのは気分転換も兼ねた視察の為だ。

 

「どうだ、夕張。データの方は?」

 

 座席に腰を下ろす事無く、窓際に佇み首から下げた双眼鏡を手にした自分は、隣に佇み同じく双眼鏡を手にした夕張に尋ねる。

 

「はい、バッチリですよ!」

 

 すると、計測漏れなしとばかりに力強い夕張の返事が返って来る。

 

「よろしい。……で、次の訓練は?」

 

「はい、次は航空攻撃の訓練です」

 

 自分達の訓練が終わり指定の場所へと退避していく艦娘達の艤装を眺めながら、夕張と他愛のない会話を行い時間を潰す。

 やがて、夕張の艦橋内に航空攻撃訓練の準備が完了した旨の連絡が響く。

 

 双眼鏡を覗き込み左右を捜索すると、やがて航空攻撃の標的役たる波勝の艤装を発見する。

 暫く眺め続けていると、やがて波勝の艤装を目掛け、大空を突き進む加賀さんが装備する航空隊の姿が見えてくる。

 

 最初はゴマ粒のように見えていた航空隊の姿も、一瞬と思える内に、そのシルエットを鮮明に判別できるほど接近する。

 視界内にハッキリとした姿を現したのは、九八式艦上爆撃機の編隊だ。

 

 そんな航空隊の姿を捉えたのは波勝も同様のようで、射程内まで接近してきた機に対し、装備している13mm機銃が火を噴出す。

 だが、放たれる機銃弾は機体を捉える事は叶わず。航空隊はあざ笑うかのように軽々と波勝の対空射撃を避けると、お返しとばかりにぶら下げていた演習用の爆弾を波勝の甲板目掛けて投下する。

 

「あぁ、っぁぁ! き、キタ!! キタッァァッ!! あちきの(艤装)に突き刺さる、ぶっとくて逞しい航空爆弾……、あぁ、カ・イ・カ・ン」

 

 そして、程なくして夕張の艦橋内に聞えてきたのは、純粋無垢な艦娘()達には教育上どう考えてもよろしくない、波勝語録の数々であった。

 

「夕張、ちゃんと駆逐艦の艦娘()達に聞えないように回線切ってあるか」

 

「はい、バッチリ……」

 

 夕張同様に、死んだ魚のような目をしながら、引き続き航空攻撃訓練の様子を眺める。

 結局、訓練中に波勝語録が途切れることはなく。終始、夕張の艦橋内にはマゾヒズムな快楽に溺れる通信が流れ続けた。

 

 一応波勝の名誉の為に言っておくと、波勝は決して悪い艦娘()ではない。

 むしろ艦隊の為に献身的に働いてくれる素晴らしい艦娘()だ。

 ただ、他の艦娘()達よりもちょっとだけ性癖が個性的なだけなのだ。そこは分かってほしい。

 

 波勝の気苦労に悩まされながらも、何とか無事に航空攻撃訓練が終わると、夕張に全行程の終了を確かめる。

 

「夕張、これで今回の訓練の行程は全て終了だな?」

 

「はい、これで全て終了です」

 

「……では余韻に浸っている波勝は、加古に曳航してもらうか。夕張、加古との回線を繋いでくれ」

 

「了解」

 

 訓練も終了し、後はラバウル統合基地に帰港するだけだ。

 自力で帰港できる者はいいが、残念ながら波勝は、艤装の至る所から黒煙や火花を挙げ、自力での帰港は困難と思われた。

 

 よって、訓練に参加している者の中で余力のある加古に、栄光たる曳航の役割を与える事にした訳だ。

 

「提督、繋がりましたよ」

 

「ありがとう。……加古、聞えるか?」

 

 夕張から加古への回線が繋がったので、夕張から手渡されたマイクを手に加古へ呼び掛けを行う。

 だが、応答がない。

 

「ん? おーい、加古。聞えてるか?」

 

 再び呼び掛けを行うも、返事が返って来る気配は全くない。

 

「夕張、確かに繋がったんだよな?」

 

「失礼ですね、ちゃんと繋げましたよ!」

 

 まさか回線が不調なのかと夕張に尋ねてみたが、どうやら回線の不調はないようだ。

 では一体、どうして加古からの応答がないのか。まさか、何らかのトラブルが起きているのか。

 

 言い知れぬ不安が頭の中を過ぎった刹那、それまで全く反応を示さなかった加古から、返事が返ってくる。

 

「長、艦長、起きて下さい。呼ばれています」

 

「艦長、早く応答しないと心配していますよ」

 

 しかしそれは、返事というよりも、装備妖精達の漏れ聞えてきたものであった。

 しかもその内容は、どう聞いても艦長たる加古を起こそうとしているとしか思えないものだ。

 

「……ん、Zzzz。グゴッ! あ、え? 何?」

 

 加えて、今し方起きたと言わんばかりの加古の声が聞こえてきて、確信した。

 加古のやつ、居眠りしていやがったと。

 

「あー加古、聞えるか?」

 

「ふあぁぁっ……、あ、提督、おはよ、じゃなかった。どうしたんだ?」

 

 途中から回線が繋がっている事に気付き慌てて誤魔化そうとしたようだが、残念ながら、完全に露見している。

 

「加古、居眠りしてただろ」

 

「し、してねぇよ。ちゃんと起きてたよ!」

 

「ほー、ふーん」

 

「ほ、本当、だぞ」

 

「よし、そう言うなら今回は不問としよう」

 

「ほ、本当か!? やっ……」

 

「ただし!」

 

「っ! ……ただし?」

 

「もし今度、訓練や任務中に居眠りしてる事が発覚した場合は、罰を受けてもらう」

 

「ば、罰?」

 

「そう、今後『艦隊のねぼすけアイドル、加古ちゃんダヨー』と自己紹介してもらう罰だ」

 

「ちょ!! 何だよその恥ずかしい自己紹介は!」

 

「嫌なら今後、勤務中に居眠りしなければいいだけの話だ」

 

 自分の提案に反発していた加古ではあったが、結局渋々提案を受け入れ、これにてこの件は一件落着となった。

 そして一件落着し終えると、本題である波勝栄光の役目を伝える。

 

「じゃ、頼んだぞ」

 

 先の件とは異なり、波勝の件に関しては、加古は特に反発する事もなくすんなりと受け入れるのだった。

 

「さて、それじゃラバウルに戻るか」

 

 こうして自分を乗せた夕張を含め、訓練に参加していた面々は、真上に上った太陽の光に照らされながら、一路ラバウル統合基地に戻るべく舵を切るのであった。


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