転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第3話 提督が到着しました その3

 トクア空港からラバウル統合基地へは海岸沿いの幹線道路、ココポ・ラバウル・ロードを進むだけなので間違いようなどない。

 トクア空港から暫く続くのどかな森林地帯を走り抜けると、海風と潮の香りと共に、ココポの中心部がその姿を現し始めた。

 

「ここがココポです。ショッピングモールやスーパー、或いは市場など。大抵の物はここに来れば揃いますよ」

 

「成る程」

 

 ラバウル統合基地のお陰か、海岸沿いに立地するこのココポは、特に深海棲艦の脅威に脅える事無く何処かのどかな時間が流れている。

 都市部の様に高層ビル高層マンション等の近代的な高層建造物が乱立していない、クラシカルな味のある低層建造物が多いお陰か。数少ない巨大箱物も、いい感じに馴染んでいる。

 田舎臭いとも言えるが、自分は嫌いではないな、この雰囲気。

 

本土(オーストラリア管区)の同僚などは、ここ(ココポ)をド田舎なんて呼んで毛嫌いしてますが、自分は好きです。ここ(ココポ)が」

 

「僕も好きーっ! ココポにお出かけすると、おじいちゃんやおばあちゃんがいつもありがとうって美味しいフルーツをお裾分けしてくれるもん!」

 

(わたくし)も、こののどかな時間が流れるココポは大好きです」

 

「飯塚中佐も、きっと好きになると思いますよ!」

 

「うん、そんな気がする」

 

 人々の営みが輝くココポを抜け、また暫くのどかな海岸沿いをひた走ること数十分。

 

「見えてきました、ラバウル統合基地です」

 

 幹線道路のその先に、ココポの町並みとは一線を画す建造物の数々が立ち並んでいる姿が見えてくる。

 先ず目に付いたのは、航空攻撃対策の為に基地の周囲に設けられている高射砲塔だ。円筒形のそれは、前世で大戦中のドイツ空軍が建築したものに酷似している。

 塔の各所からは、高射砲や機関砲の砲身が姿を覗かせている。

 

 さらに基地の周囲には、不法侵入者の侵入を遮るべく二重のフェンスが設けられ。更には徹底すべく見張り塔まで設けられている。

 しかも海の方へと目を向ければ、フォート・ドラムよろしく、埋め立てたのか遺産脅威のメカニズムにより湾内を守るかのように要塞島の姿が見られる。

 

 そんな平時と戦闘時の対策設備に守られた基地は、軍港機能のみならず、軍用飛行場も併設している為かなりの広さを誇る。

 滑走路は勿論、司令部施設に各種必要施設、基地内で日用生活を完結できる様に郵便局や銀行まである。更には人員の為の兵舎等、まさにそこは、一つの都市そのものであった。

 ラバウルが丸々基地と化した、まさに前世でラバウル要塞と呼ばれたその名に相応しいその姿は、圧巻の一言であった。

 

「ご苦労様です!」

 

 そんなラバウル統合基地の正面ゲートに到着したジープ。

 さんさんと照りつける太陽にも負けず、今日も職務を遂行している警備員の兵士に許可を得ると、いよいよジープは基地の敷地内へと進入する。

 

「あちらが艦娘用の官舎で、それぞれ在籍する各州ごとに別れています。それから、あちらが工廠エリアになります! 工廠も各州ごとに設けられております」

 

 司令部施設へと赴く道中、マッケイ少佐が基地内の各種施設の簡単な紹介を行ってくれる。

 その案内に合わせて視線を左右へと振るっている内に、ジープは司令部施設の前へと止まる。

 

 赤レンガではないが白を基調とした四階建ての建物。その入り口には、ラバウル統合基地司令部の文字が掲げられている。

 

「それでは司令官様、先に戻っておきますね」

 

「うん、後はよろしく」

 

「ありがとうございます」

 

「またねー!」

 

 マッケイ少佐共々ジープを降り、ホバートとアルタンの二人と別れると、マッケイ少佐の後に続いて司令部施設内へと足を踏み入れる。

 時折司令部人員とすれ違いながら足を進め辿り着いたのは、応接室と書かれた部屋の前であった。

 

「どうぞ」

 

「失礼いたします!」

 

 ドアをノックし了承を得て部屋の中へと足を踏み入れると、そこにはマッケイ少佐と同様のオセアニア州海軍の軍服に身を包んだ、恰幅の良い中老の白人男性が待っていた。

 

「極東州海軍の飯塚 源中佐をお連れいたしました!」

 

「うん、ご苦労だった、マッケイ少佐」

 

「は!」

 

「さて、ようこそ飯塚中佐、ラバウル統合基地へ。私はこの基地の司令を任せられている、オセアニア州海軍のヒュー・ベイカーだ」

 

「は! 飯塚 源、ラバウル統合基地へ只今着任いたしました!」

 

 中老の白人男性は中将の階級章を着用している事から、かなりの要職と思われたが、どうやらその通りだった様だ。

 直立不動で敬礼し、返礼されるや、早速着任の挨拶を行う。

 

「極東州海軍からは先任の溝端准将も来ている。彼のように職務に粉骨砕身してくれる事を期待するよ」

 

「は!」

 

 その後簡単な着任式を経て、応接室を退室した自分は、再びマッケイ少佐に案内されいよいよ自分の執務室へと赴く事になった。

 なお、先任の提督達への挨拶はおいおいしてくれとの事だ。

 

 司令部施設を後に、自分の執務室がある官舎へと向かう。

 何故司令部施設内に設けていないのかとマッケイ少佐に尋ねると、襲撃され指揮系統が一挙に壊滅するのを恐れて分散配置しているのだとか。

 ただ、どうやらそれは建前らしく。噂では基地内の用地が余りまくっているからだとか。

 

 何れにせよ、ラバウル統合基地内に自分専用のプライベート空間が設けられているのはいいことだ。

 因みにその官舎、どうやら艦娘を開発する過程の副産物で生まれた『妖精さん』が一晩で造ってくれたそうだ。

 

「あ、お恥ずかしながら、ここが自分の官舎になります」

 

「……え」

 

 オーソドックスに何の変哲もないコンクリート造りの官舎だろうと、自分に宛がわれた官舎を想像しながら、マッケイ少佐のも似たようなものと確かめてみると。

 視線の先に映っていたのは、コンクリートのコの字も感じられない、木のぬくもりが感じられる高床式の住居であった。

 

 成る程、高温多湿対策に高床式を採用しているんだな。

 

 て、ちょっと待て。

 これはもはや官舎ではなく、完全に住宅じゃないか。

 

「他の提督方に比べると小さくてお恥ずかしいですが……」

 

 照れ笑いを浮かべているマッケイ少佐だが、問題は大小の大きさじゃないよね。

 どう考えてもここだけ軍事色の軍の字もない、ただの住宅地の一角になってるよね。どう頑張っても、浮きまくっている。

 

「特に溝端准将のご立派な官舎と比べると、その差はただただ歴然で……」

 

 そう言って視線で指し示してもらった先に映ったのは、もはや赤レンガだとかコンクリートだとかのレベルの話じゃない、ご立派な建造物の姿だった。

 ラバウル統合基地は全体として二十世紀、それも前世で言う第二次世界大戦時の技術で多くが構成されている。

 そんな中にあって溝端准将の官舎は、二十世紀はおろか、二十一世紀の技術も優に超えた、まさにSF映画の中から飛び出したかのような多角形方の巨大建造物であった。

 

 もうあんなの見ちゃったら、マッケイ少佐の官舎なんてなんて馴染んでいる事かと思わずにはいられない。

 と言うか、基地の司令部施設よりもご立派過ぎる官舎なんて、そんなのありかよ。

 

「あ、すいません。今は飯塚中佐の官舎への案内が先でしたね」

 

「あ、あぁ」

 

 遺産の活用は千差万別。

 その為民間では、二十世紀と二十一世紀の技術が混在しているなんて事はざらにある。

 

 ただ、軍事では少々事情が異なり。

 軍事では比較的技術年代の近しいもので纏めて運用する傾向にある。これは、所謂費用対効果が大いに関係しており。

 現在の主な敵が深海棲艦となっている軍では、費用対効果が一番良いのが二十世紀中期頃。つまり前世で言う第二次世界大戦時の遺産で、それを大いに活用している。

 

 その為、艦娘を始め、通常兵器の大部分は大戦時の兵器だ。

 それは個人用の装備も同じで、先ほどからすれ違うラバウル統合基地の警備員達の装備は、どれも大戦時のオーストラリア陸軍兵士のものだ。

 熱帯用の野戦服にP1937戦闘装備、それにジャングルハットに、弾倉が上部にセットされている特長的なオーウェン・マシンカービンなど。

 どれも大戦時のオーストラリア陸軍で見られたものばかりだ。

 

 とこの様に、混乱を最小限にする為まとめられている傾向にあるのだが。

 中には、溝端准将のように隔絶した差があってもまとめて運用しているところもあり。

 

 溝端准将の個人的な私兵さん達でしょうか。

 溝端准将の官舎の周囲を警備している警備員さん達は、何処のタスクフォースの方々でしょうかと言わんばかりに、二十一世紀の個人用装備で身を固めている。

 

 前世の感覚で言えば違和感しか覚えないが、現世、この世界には過去も未来もない。現在(いま)があるだけだ。

 だからどんな装備であれ、全ては同列なのだ。

 

 

 と、凄いものを見てしまった後で、案内された自分の官舎を見て見ると、何と平凡で面白みのないものか。

 予想通りコンクリート造りの三階建て官舎は、いたって平凡そのもの、基地の風景ともベストマッチしている。

 

「それでは飯塚中佐、自分はこれで失礼いたします!」

 

「あ、あぁ。色々とありがとう」

 

「いえ、それでは失礼します!」

 

 そんな官舎の前で、ここまでお世話になったマッケイ少佐と別れると、深呼吸を一つ。

 そしてそれを終えると、本当の意味で提督として着任すべく、官舎の入り口を潜った。




いつもご愛読いただき、本当にありがとうございます。

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