転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第36話 アッレナメント その2

 特に深海棲艦の奇襲を受けることもなく、無事にラバウル統合基地へと戻った自分は、訓練参加者の面々と別れると、一目散に官舎へと歩を進める。

 そして、執務室の扉を潜り目にしたのは、秘書艦用の机で真っ白に燃え尽きている河内の姿だった。

 

「河内? おーい、河内?」

 

 呼びかけてみるも反応がなく。

 体を椅子の背もたれに寄りかかり、その安らかで綺麗な顔をしている河内の姿を見て、思ってしまった。

 

「へんじがない。ただのしか……」

 

「生きとるわ!!」

 

 だが安心した事に、少しばかり疲れてフリーズしていただけのようだ。

 

「起きてたなら直ぐに返事しろよ」

 

「疲れてたんや、しゃぁないやろ」

 

「ま、いいが。……で、ちゃんと仕事はやったのか?」

 

「やったで、見てみぃ!」

 

 どうだと言わんばかりに、河内の手が秘書艦机の上に置かれていた書類を指し示す。

 書類を手に取り中身を確認すると、河内の言う通り、ちゃんと記入漏れもなく書類は完成されていた。

 

「やっぱり、ちゃんとすれば出来るんだな」

 

「当たり前やん、元連合艦隊旗艦やで」

 

「じゃ、そんな元連合艦隊旗艦だった河内には敬意を払う意味でも、ご褒美をあげないとな」

 

「なんや、また追加の書類とか言うんちゃうやろな?」

 

 前回もご褒美と称して追加の書類を渡した事がある為か、警戒感をあらわにする河内。

 だがそんな河内の警戒感を、自分はポケット取り出し、河内の目の前に差し出した物で裏切る。

 

「ふぉわぁぁぁっ! やっぱり提督はんは神様や! あたし提督はんに一生ついていくで!!」

 

「そりゃどうも」

 

 差し出したのは、クロノ・クェイクを経験してもなお受け継がれている、京都の老舗飴屋の飴だ。

 一般には高級キャンディーともいえるそれを一粒あげただけなのだが、河内は想像以上の反応を示した。

 

 ここまで喜んでくれると、あげた甲斐があるというものだ。

 

 さて、河内も燃え尽きた状態から不死鳥のように蘇った所で、自分も今後の為に片付けられる仕事を片付けてしまおう。

 椅子に腰を下ろし、執務机の上に置かれた未処理の書類の中から幾つかを引っ張り出すと、手にしたペンを書類に当てようとした。

 

 だがその時、不意に扉を叩く音が聞こえてくる。

 

「ん? 誰だ?」

 

「先輩、僕です」

 

 入室を求めてきたのは、副官の谷川であった。

 

「どうしたんだ?」

 

「はい、実は。『チェザリス中佐』から、合同訓練に関しての相談がきているのですが……」

 

「チェザリス中佐から?」

 

 入室した谷川から告げられたのは、自分の艦隊と先方の艦隊との合同訓練を打診するものであった。

 

 ロベルト・チェザリス、それが今回の合同訓練を打診してきた提督の名前だ。

 ラバウル統合基地に所属する先任提督の一人で、ヨーロッパ州海軍に籍を置く、イタリア管区出身の男性。

 

 着任式の際に手渡された資料によれば、歳は自分と然程離れていない。

 添付していた写真を見るに、染めたのか綺麗な黒の長髪をポニーテールにし、その顔立ちは褐色気味の肌に彫りが深く高い鼻筋と、まさに見紛う事なきハンサム提督だ。

 

 そんなチェザリス中佐から打診を受けたのが、合同訓練。

 それは読んで字の如く互いの艦隊に所属する艦娘同士が共に訓練を行うものだ。

 各提督指揮下の艦娘達は各々日頃から訓練に勤しんでいる。なのに、指揮下の垣根を越えて合同で訓練を行う意味があるのか。そう思う者もいるだろう。

 だが、合同訓練は、日頃の訓練では得られない貴重なスキルを身に着ける事が出来る。

 

 それが、連合艦隊での出撃の際の連携や意思疎通だ。

 

 連合艦隊とは、二人以上の提督の艦隊をもって編成された合同艦隊の事を指し。

 主に同一の基地や鎮守府に所属する提督をもって編成される。

 なお、連合艦隊の司令長官には、基地や鎮守府の司令官が兼任し。まさに連合艦隊は、各々の基地や鎮守府の戦力を結集した、顔そのものなのだ。

 

 そんな連合艦隊の運用目的は、大規模な深海棲艦戦力の攻勢に対するもの。

 或いは逆に、大規模な深海棲艦戦力が確認された支配海域への攻勢において用いられる事が多い。

 要は大規模作戦を行うに際して用いられるのだ。

 

 編成される基準は、指揮下の戦力や提督自身の階級等、極力差があまりない者同士が好ましいとされている。

 ただし、所属の全提督総動員で編成される事もあれば。

 時間的に精査している余裕のない緊急時等は、司令官の一任で新米がベテランと組む、なんて事も間々あったりする。

 

 

 さて、連合艦隊の概要がお分かりいただけた所で、合同訓練の説明へと移ろう。

 合同訓練は、そんな連合艦隊編成の際に、スムーズな運用を行えるよう基地や鎮守府に所属する提督間で行う訓練の事だ。

 

 幾ら戦力や階級等に差がない、としても。日頃から一度も挨拶を交わしたことがない者同士、いきなり本番で華麗な連携を見せろと言われても、無茶な話だ。

 編成する司令官側にしても、連合艦隊を編成した際には可能な限りツーカーな仲である事が望ましく。

 そこで合同訓練と呼ばれる、互いの連携を高める訓練があるのだ。

 

 合同訓練は基地司令部等から訓練の日程が送られてくる事もあるが、今回のように、各提督が自発的に提案してくる場合もある。

 連合艦隊は提督であれば誰でも組み込まれる。なので、合同訓練は行っていて損はない。

 

 そもそも今回の場合、着任以来色々と立て込んでいたり、先方方の都合が合わなかったりして、実は先任提督方へ顔を合わせての挨拶を行えていない状況なのだ。

 一応、着任した旨の連絡は先任提督方に送っているので、自分が仲間に加わったことは認知されている。

 だがやはり、共に肩を並べて深海棲艦の脅威と戦う者同士、顔を合わせて言葉を交したいものだ。

 

 故に、今回やってきた提案を断る理由はない。

 

「断る理由は特にないし。谷川、提案を受け入れる旨の連絡、チェザリス中佐に送っておいてくれるか」

 

「分かりました」

 

 こうして退室した谷川を見送ると、自分は再び止まっていた手を動かし、書類にペンをつけると、顔を執務机の上の書類へと傾けた。

 

 

 

 書類と向き合い続けて二時間ほどが経過した頃。再び扉を叩く音が耳に入る。

 

「どうぞ」

 

 入室を許可して執務室へと入室してきたのは、朝凪であった。

 

「司令、訓練の報告書、持ってきた……」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 手にしていた報告書を受け取ると、ふと改めて朝凪の容姿に目がいく。

 朝凪の容姿は、綺麗なピンク色のロングヘアーをオレンジ色のリボン付き三つ編みにしており。

 他の神風型同様整った綺麗な顔立ちをしているものの、その目元はタレ目で、醸し出す雰囲気と相まって不思議系な印象を与える。

 

 朝凪の服装は、他の神風型同様に大正時代の女学生風の着物を着込んでいる。

 上着は名前を反映してか、上着は緑、そして袴は青色。腰の帯は金色だ。

 

 なおその性格は、少々天然で、不思議ちゃんと呼べるものだ。

 

「どうかしたの、司令?」

 

「あ、いや。……そうだ、お菓子食べるか?」

 

「うん、食べる」

 

 あまりじろじろと観察していると怪しまれかねないので、話題を変える。

 執務机の引き出しから小分けに包装されたお菓子の包装袋を取り出すと、目を輝かせている朝凪へと手渡す。

 

「朝風達と分けて食べるんだぞ」

 

「うん、ありがとう司令」

 

 お菓子を受け取った朝凪は、嬉しそうに執務室を後にする。

 

 こうして朝凪とのやり取りを終えたのだが。

 先ほどから、河内の突き刺さるような視線が気になって仕方がない。

 

「何だ、河内? お前の分のご褒美はもうあげただろ?」

 

「いや、ちゃうねん」

 

「ならなんだ?」

 

「ちょっと気になっただけやねんけど。……提督はんって、もしかしてロリコン?」

 

「んな! ンな訳ねぇだろ!! どうしてそうなる!!?」

 

「いやだって、さっき朝凪の事舐め回すように見とったし」

 

「断じて見てない! そんな風には見てないぞ!! 大体、自分は紛うことなき大艦巨砲主義(どたぷ~ん大好き)だ!!」

 

 あらぬ誤解をされていた事に対して必死に釈明すると、その熱意が伝わったのか、河内は誤解を解いてくれたようだ。

 しかし、何故だろう、少しばかり白い目で見られているような気がする。

 

 さて、誤解も解けたので、そろそろ時間もいい頃合だし昼食を食べに食堂に行くとするか。

 

 

 昼食をとり終え、補佐の為のスタッフ部屋にて、谷川達をはじめとするスタッフ達と共に珈琲を飲んでまったりとした時間を過ごすと。

 執務室へと戻り、定位置に腰を下ろすと、午後からの業務を始める。

 

「失礼します」

 

 業務を開始してから程なくした頃、執務室に大淀がやって来る。

 

「提督、チェザリス中佐から合同訓練に関しての打ち合わせを行いたいとの連絡が入りました」

 

「そうか」

 

ヒトゴマルマル(午後三時)にチェザリス中佐の官舎にて行うそうです。それと、秘書艦を同席させて欲しいとの言伝もございました」

 

「了解だ。では時間通りに伺うと連絡しておいてくれ」

 

「分かりました」

 

 用件を伝え終えた大淀が退室すると、ふと腕時計で現在の時刻を確認し、打ち合わせまでの残り時間を確認する。

 

「よし河内、後一時間で七割終えるぞ」

 

「うそやん!!」

 

 残り時間を加味し捌く書類の量を設定すると、案の定河内から反発の声が響く。

 

「さぁ、最大戦速でいくぞ!」

 

「うへぇぇぇ……。あ、そや提督はん。実はあたし、肘に雷撃を受けてもう……」

 

「で・き・る、よな?」

 

「あ、ほい」

 

 何かにつけて無理だとごねようとする河内だったが、少しばかり言うことを聞くような視線を送ると、素直で聞き分けのよい秘書艦に様変わりするのであった。

 

 

 一時間後。

 何とか設定した寮の書類を捌き終え、河内の進行状況を確かめるべく、ふと河内の方に目をやると。

 そこには、まるで生気を吸い取られたかのような河内の姿があった。

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

「あ、……あかん。もう、あかん」

 

「確りしろ河内!」

 

 まさかここまで困憊するとは思わず、慌てて河内の生気を取り戻させる魔法の食べ物。

 お菓子を差し出す。

 

「ほら河内! 抹茶のカレヌだぞ!」

 

「ま……、まっちゃ、かれ、ぬ。……抹茶、のカレ、ヌ。……抹茶のカレヌーっ!!」

 

 すると、あっという間に生気を取り戻す河内であった。

 

「……お前本当に、お菓子好きだな」

 

「うん! 大好きや!!」

 

「ははは、そうかい」

 

 河内のお菓子好きの度合いに少々呆れつつも、河内の進行状況を確かめる。

 すると、ちゃんと設定した量を捌いていた。

 

 やっぱり、真面目にやればちゃんとできる奴なのだ。

 

 さて、お互いに設定した量を捌けたところで、そろそろチェザリス中佐の官舎にお邪魔するか。

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