さて、挨拶からチェザリス中佐の人となりを拝見し、ローマの機嫌も落ち着いた所で。
いよいよ本題である合同訓練に関しての打ち合わせを、応接用の家具に腰を下ろしながら始める。
「さて、先ずは俺の所の現有戦力だが、今はこんな所だ」
対面に座るチェザリス中佐は、自身が保有している艦隊の戦力を書き示した書類を手渡してくる。
手渡された書類に目を通すと、そこには戦艦二、空母一、重巡四、軽巡四、駆逐艦十、潜水艦四の文字が書かれている。
「チェザリス中佐の所には潜水艦がいるんだな」
「ん? 飯塚中佐の所には潜水艦はいないのか?」
「あ、ええまぁ。一応、今手持ちの戦力はこんな所で」
お返しに、自分も用意してきた保有戦力の書かれた書類をチェザリス中佐に手渡すと、受け取ったチェザリス中佐は書類に目を通し感想を漏らす。
「おいおい、こりゃ、かなりの潤沢な戦力だな。俺ん所の1.5倍はあるじゃねぇか」
平均的にはやはり、チェザリス中佐程度の保有数が多いのだろうか。
自分は初期ボーナスを大量に頂いたからな、ここまで戦力拡張出来たのもその恩恵とする所が大きい。
「でも、俺の経験から言わせて貰えば、もう少し重巡は欲しい所だな。あと潜水艦も」
「やっぱり潜水艦は整備しといた方が?」
「護衛任務には使いづらいが、哨戒や通商破壊等にはかなり使えるな。それになりより、一番燃費がいいってのも魅力だ」
「なるほど」
「だが、それよりももっと潜水艦を持つべき理由がある! それは、何を隠そう潜水艦の
熱弁をふるうチェザリス中佐、その熱意に同意し、自分も言葉を返そうとしたが。
刹那、チェザリス中佐の後ろに歩み寄る、あの人の存在に気がついてしまい、喉まで出ていた言葉を引っ込めた。
「だから飯塚中佐、中佐も早く潜水艦を整備して、その眩いばかりの姿を拝むといい。特にこのラバウルじゃ、彼女達の水着姿は何とも絵にな……、いだだだだだ!!!!」
「ア・ン・ミ・ラーリオ」
あの人とは誰であろう、ローマだ。
「品位を落とさぬようにと申した筈ですが……?」
「い、いだだだ! ろ、ローマちゃん、俺は別に品位を落とす話なんてしてない! ただ純粋に、男として、水着姿の女性の魅力について語っただけで……いだだだだっ!!」
「それが品位を落としているんです!」
「で、でもでも、彼女達の魅力はすばら、いだだ! ……そ、それに、ローマちゃ! んだって、この間水着着てくれた時は、凄く素敵だだだだ、いだ! し!」
「んな!」
先ほどと同じくチェザリス中佐が降伏の意思を示すのかと思っていたのだが、どうやら今回は違うようだ。
チェザリス中佐の言葉を聞いたローマは、途端に顔を真っ赤にしてチェザリス中佐のポニーテールから手を離した。
「な、何を言い出すんですか!
「何って、本当の事を言っただけさ。ローマちゃん、君は本当に
「っぅ、な、なによ。そ、そんな素敵な瞳で、見つめながらだなんて、卑怯よ、
頬を赤らめながらまんざらでもない様子のローマ。
一方、チェザリス中佐は、安堵の表情を浮かべていた。本気なのか、それとも遊びなのか、今一わかりにくい所だ。
しかし、何にしてもローマの機嫌も直ったところで、再び打ち合わせを再開する。
「しかし、潜水艦がいないとなると、対潜訓練の仮想敵は俺の所が一手に引き受ける事になるな」
「迷惑かけます」
「いや、別に問題ない。……だが、その代わりと言ってはなんだが、飯塚中佐の所の空母達で俺の所のアクィラを訓練してやって欲しいんだ」
「アクィラを?」
「中佐も知っての通り、オリジナルは、記録ではアクィラは完成する事無くその生涯を閉じている。故に艦娘としてのアクィラの運用については、まさに手探り状態だ。しかも、本来運用を想定していた地中海ではなくこの太平洋でだ。……俺にとっても初の空母だし、まだ着任して日が浅い。だから、先に運用慣れしている飯塚中佐の空母達から、色々と手ほどきを受けられれば一番いいかと思ってな」
「そういうことなら、全然構わない」
「恩に着る」
「同じ提督、助け合うのは当然だろ」
その後は特にチェザリス中佐がローマを困らせる事もなく、打ち合わせは順調に進んでいく。
そして、やがて打ち合わせも一区切りついた所で、ローマが一休みの為の珈琲とお菓子を用意してくれる。
「どうぞ、
「ありがとうございます、ローマさん」
「このビスコッティはローマちゃんの手作りなんだ、美味いぞ!」
「手作り!? そら凄いな。ほな、いただきまーす」
「いただきます」
用意されたビスコッティ、二度焼きしてしっかりと乾燥させた固焼きビスケットであるイタリアの郷土菓子を手に取ると、河内と同じタイミングで口にする。
「んんっー! なんやこれ、むっちゃ美味しい!」
「本当だ、中に入っているドライフルーツもいい感じに味を引き立ててる」
「だろだろ、美味いだろ!」
自分達の感想を聞いて、自身の事のように喜ぶチェザリス中佐。
「俺も今まで色んなビスコッティを食べてきたが、ここまで美味いビスコッティは食べたことがないからな」
「ア、
絶賛の嵐に、ローマは少々俯き頬を赤らめる。しかしその表情は、満更でもなさそうだ。
「この
「お! おぉぉっ! ホンマや! また食感が変わって飽きへんな!」
「だろだろ」
こうして美味しい珈琲とビスコッティを堪能し一休みを満喫すると、リフレッシュしたので再び打ち合わせを再開する。
特に問題もなく順調に進み、やがて、同郷訓練を三日後に行うことを再確認して、打ち合わせは終了となった。
「それじゃ、三日後を楽しみにしているぞ」
「こちらこそ」
チェザリス中佐とローマに見送られ、チェザリス中佐の官舎を後にすると、一路自分達の官舎を目指して暁に染まる基地内を歩く。
「なぁ提督はん、約束覚えてる?」
「ん、あぁ、アイスだろ。……全く、ビスコッティをご馳走になったのにまだ食べたいのか」
「甘いもんは別腹や」
ビスコッティも甘いものに分類されるがと思いつつ、その視線は、自然と河内のお腹周りへと向けられる。
「……だ、大丈夫や!! 合同訓練するからそれまでの分はちゃんとチャラになるって!」
「ふーん、ほー」
「う、うぅぅ。お願いや~、この通り! 買うてくれたら、何でも言うこと聞くから!」
「……ん? 今何でも言うこと聞くと言ったな」
「え、あ、いや、それはその。それ位の気持ちって意味で、ほんまに何でも言うこと聞くってことや……」
「じゃ、やっぱアイスは買うのやめよっかな」
「嘘やん、嘘! 出来る範囲の事やったら何でも言う事聞くから~、お願いや、提督はん!」
河内の言質を取る事に成功すると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「よし、なら約束通りアイスを買ってやろう」
「ホンマ、ありがとう! おおきに!」
「ただし、自分の言うことをちゃんと聞いてもらうぞ」
「な……なんや、は! まさか、あたしにバンジージャンプとかお手製アクティビティさせる気やろ!? バラドルみたいに! バラドルみたいに!!」
「どうしてそっちになるかね……」
河内の想像に呆れつつ、交換条件となるお願い事を述べる。
「そんな事させるか。聞いてもらうのは、ぶうたれずちゃんと真面目に仕事をする、それだけだ」
「なんや、そんな事かいな。それやったらええで、ちゃんとしたるわ!」
「約束だぞ」
「了解や」
こうして約束を交し、ちゃんと
そして翌日の業務時、確かに、河内は約束通りぶうたれる事はしなくなった。
ただし、代わりに顔がうるさくなってしまっていた。
あぁ、真面目に、普通に、河内が仕事をしてくれる日は来るのであろうか。
否、くるのではない、こさせなければならないのだ。その為にも頑張れ、自分。