転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第40話 アッレナメント その6

 うるさい顔を矯正させるのは苦労したが、何とかうるさいと呼べるか呼べないか程までの状態には、もってくることが出来た。

 苦労はしたが、その分達成感は一入だ。

 

 等と浸っている場合ではない、河内の矯正をしたり他の業務等々、忙しい日々を過ごしている内にあの日がやってきた。

 そう、今日はチェザリス中佐との合同訓練を行う日だ。

 

「全員揃っているな、ではこれよりチェザリス中佐達と合流を行う」

 

 事前に通知しておいた通り、今日は任務も訓練もなく、艦娘並びに紀伊は第二会議室へと集まったいた。

 欠員なく全員揃っていることを確認すると、皆を引き連れ、集合場所へと足を運ぶ。

 

 集合場所となっている埠頭へと足を運ぶと、既にチェザリス中佐は部下である艦娘達と共に自分達の到着を待っていた。

 

「遅れてすいません」

 

「お、来たな」

 

 無事に合流を果たすと、先ずは簡単な自己紹介から始まる。

 

「戦艦紀伊だ、今日はよろしくお願いする」

 

 当然その中には紀伊も含まれているのだが、紀伊が自己紹介を行うと、チェザリス中佐の部下である艦娘達からざわめきが起こる。

 艦息である事に加えてその美形、ざわめきが起こらない方が不思議か。

 

「へぇ~、聞いてはいたが、本当に男だな」

 

 チェザリス中佐も、やはり艦息である紀伊には興味が沸いているようだ。

 にしても、イケメンが並ぶと絵になるな。二人分だから相乗効果で威力絶大だ。

 

「提督はん、泣いてもええんやで」

 

「……お黙れ」

 

 そんなイケメンツーショットを眺めていた自分の気持ちを、察しなくてもいいのに河内が察してくるものだから、つい言葉に本音が含まれてしまった。

 いかんいかん、気持ちを落ち着かせなければ。

 

 気持ちを落ち着かせ、沸きあがる感情を収めた頃には、既に双方の艦娘達の自己紹介は終わりを告げていた。

 

「それじゃ飯塚中佐、早速合同訓練を始めようか」

 

「えぇ、そうですね。……ではこれより、我が飯塚艦隊とチェザリス艦隊との合同訓練を開始する。先ずは各々艤装に乗船し、訓練海域へ向け出港。海域に到着したら、各種訓練を開始する」

 

「お互い今回が初の合同訓練だが、日頃の訓練で鍛えた錬度を存分に示し、お互いの事をよく知るといい。特にアクィラ、お前は飯塚中佐ん所の空母にみっちりイロハを教えてもらえよ」

 

 開会宣言の後、艦娘達はそれぞれのバースへと駆け足で向かうと、各々の艤装に乗船していく。

 やがて曳船の力を借りて出港していくそれらを見送ると、彼女達が移動している間に、自分達も訓練の様子を見学できる場所へと移動を開始する。

 

「ようこそ、お待ちしていました」

 

「ヒョー、こんな凄い所でいつも指揮をとってるのか、凄いな」

 

 やって来たのは、自分がいつも艦隊の指揮をとっている司令室であった。

 その設備の規模に羨ましさを含んだ感想を漏らすチェザリス中佐であったが、程なくして出迎えの大淀にナンパまがいの声をかけるのであった。

 

「チェザリス中佐、ローマさんに後で怒られますよ」

 

「はは、何言ってるんだよ、ここにはローマちゃんはいないからだいじょ……、っ!!」

 

 刹那、何かを感じ取ったのか、チェザリス中佐は急に肩をビクつかせると大淀から距離を置いた。

 

「そうだな、飯塚中佐の言う通りだ。今はこんな事している場合じゃないよな、うん」

 

 その様子はまるで、ローマの陰に脅えるかのようだ。

 

「提督、河内より全員訓練海域に到着したとの報告です」

 

 そんな一幕を経ている内に、オペレーターの口から全員が訓練海域に到着したとの旨が伝えられる。

 

「分かった。ではモニターに映像を映し出してくれ」

 

「了解」

 

 自分は定位置に、そしてチェザリス中佐は用意された椅子へと腰を下ろすと、モニターに映し出された映像に視線を釘付けにしていく。

 モニターに映し出されたのは、指示通り各種訓練を開始していく艦娘達の様子であった。

 

 

 

 先ず最初に目に留まったのは、自身隷下の駆逐艦とチェザリス中佐隷下の潜水艦による対潜訓練の様子だ。

 

「ぽい? 確かこの辺りにいた気がするっぽい」

 

「あたしがいっちばーんに発見してみせるんだから!」

 

「白露や、夕立には負けません! 私だって一生懸命頑張って……、あ、きゃっ!? うわぁぁん、いたいよぉ」

 

「はわわ! 五月雨ちゃんが被雷したのです!!」

 

「だらしないわね。針路を空けなさい、私が追い詰めてあげるわ!」

 

「ブフーッ! 自信満々に言っておいて被雷してる、テラワロス!」

 

「漣、後で覚えてなさい……」

 

 海中に潜む潜水艦を探して海上を右往左往する駆逐艦達。だが無情にも、五月雨が被雷しおたのを皮切りに、叢雲や白露と、次々に被雷していく。

 夕立や電がソナーを駆使して位置を割り出し、艤装の艦尾に備えている演習用の爆雷を投下していくものの、成果の程は全く感じられない。

 

「アネキ、なぁアレやっていいだろ?」

 

「アレを? ……全く、しょうがないですわね。よろしくてよ」

 

「よっしゃ!」

 

 一方、混乱する駆逐艦達に対して、仮想敵役のアミラリオ・カーニ級の二人。

 狭い艦内では邪魔にならないのかと思わずにはいられない巻き髪が特徴的な、ネームシップであるアミラリオ・カーニと。

 ツインテールな元気っ子である姉妹艦であるアミラリオ・ミロの二人は余裕の会話を繰り広げている。

 

 しかし、アミラリオ・ミロの言うアレとは何のことであろうか。

 潜水艦は水上艦と異なり、外部の様子を映すカメラがない故に状況を把握しづらい。

 だが、アレの正体は程なくして理解することとなる。

 

 不意に海面の一部が盛り上がったかと思うと、刹那、波を掻き分け巨大な鋼鉄の鯨が海面にその姿を現す。

 

「ヒャッホーッ!!」

 

「はわわ! 浮上してきたのです!!」

 

「ぽいぃぃ! びっくりしたっぽい!」

 

「み、見て下さい、砲がこちらを向いているのです!!」

 

 船体の甲板上、司令塔の前後に設けられている二門の47口径10cm単装砲が、艦内から姿を現した装備妖精達の手によって、それぞれが電にその照準を合わせる。

 刹那、目標を捕らえた二門の単装砲が火を噴いた。

 

「はにゃ! 撃たれたのです!」

 

 どうやらアミラリオ・ミロの言っていたアレとは、潜水艦であるにも拘らず浮上し、砲撃戦を仕掛けるという戦法の事であった。

 潜水艦の絶対的な優位性である隠密性を生かした水面下からの攻撃ではなく、その優位性を自ら捨てる戦法に、電達のみならず自分も唖然とする他なかった。

 

「ははは、ミロ(アミラリオ・ミロ)の奴は浮上して砲撃戦を行うのが好きなんだ。勿論、普段の任務は潜水艦らしく戦ってるが、訓練時は衝動が抑えられないのか、時折浮上して砲撃戦を行いたくなるのさ」

 

 チェザリス中佐の補足を聞きながら、引き続きモニターに映し出された訓練の様子を見つめ続ける。

 潜水艦が砲撃戦を行うなど範疇になったか駆逐艦達は、回避行動もとらず、結果電が被弾する。

 だが、やはり二門の砲では致命的なダメージを与えるには至っていない。

 

 だが、電が被弾した事で我に返ったのか、白露がアミラリオ・ミロに対して砲撃を行ったのを皮切りに、夕立や漣も、そして被弾した電も砲撃を開始。

 

 砲撃戦を想定していない潜水艦では、当然砲撃戦になれば分が悪く。

 駆逐艦達が反撃を開始して早々に、白旗を上げるに至った。

 

「やったぁ! やっぱり美味しいところは一番なあたしにいっちばーんよくにあ……、きゃぁっ!? 痛い!」

 

「ぽいぃぃっ!? 被雷しちゃったっぽい!」

 

「よーし、漣の本気見せちゃうんだから。……はにゃ!? い、いつの間に。はう! なんもいえねぇ~」

 

「ま、まだまだやれます! この! このぉっ! あれ? あれぇっ!? な、なんでぇっ!?」

 

 アミラリオ・ミロに白旗を上げさせ勝利の余韻に浸る駆逐艦達に、程なくしてそんな余韻など吹き飛ばさせる厳しい洗礼が浴びせられる。

 洗礼を浴びせたのはそう、今だ海中に無傷で潜むアミラリオ・カーニだ。

 仮想敵役はまだ残っている、その事実を、駆逐艦達は被雷と共に思い知らされる。

 

 爆雷による反撃を試みる間もなく、無情にも、対潜訓練終了の合図が響き渡った。

 結局、一時の勝利を収めたものの、訓練としては色々と課題の残る結果となった。


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