転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第41話 アッレナメント その7

 対潜訓練の様子を見学し終えると、次は軽巡洋艦達による雷撃訓練の様子を映し出したモニターに視線を向ける。

 

「にゃ? 三五ノット出せないにゃ?」

 

「あの、その。すいません、ジュノは繊細なものですから」

 

「私達あまり安定性がよくないから、地中海と太平洋の違いもあるけど、大体三十ノット位が最高なのよ」

 

「にゃ、でも不思議だにゃ、船体は多摩達よりも大きいのににゃ」

 

「多摩、そこは察してやるクマー」

 

 訓練海域の一角、設置された洋上ターゲットに対して雷撃を行っている軽巡洋艦達。

 現在は天龍や阿賀野、それに能代達が訓練を行っている。

 

 その脇で、一足先に訓練を終え、洋上接舷してお喋りを楽しんでいるのは球磨と多摩の球磨型姉妹。

 そして、アルベルト・ディ・ジュッサーノ級軽巡洋艦のネームシップ、アルベルト・ディ・ジュッサーノと姉妹艦アルベリコ・ダ・バルビアーノの二人だ。

 

 なお名前が長いからか、アルベルト・ディ・ジュッサーノはジュノとの略称で呼んでいる。

 

「所で、二人とも長い名前にゃね。略称じゃにゃきゃ舌を噛みそうにゃ。……あ、あ、アスファルト・で? ジューサーの」

 

「盛大に間違えてますよぉ~」

 

「全く駄目だクマ、ちゃんと呼んであげなきゃ駄目だクマ。球磨の華麗なるイントネーションをよく聞くクマ。……衝撃のアルベルト・ゲェ・ジュッケツシュウーノ」

 

「にゃ、それはそれで色々と酷いにゃ……」

 

「我らがドゥーチェ(ロベルト・チェザリス)のためにッ!!」

 

「ちょ、ジュノ姉さん!?」

 

 そんな四人の会話は、何とも恥ずかしいものであった。

 球磨と多摩の二人の非礼を二人に代わりチェザリス中佐に詫びると、当のチェザリス中佐は軽く笑って許すのだった。

 

 そういえば、自己紹介の際のジュノの容姿を思い出すと。

 長袖である以外はザラ級に似た服装を着込み、おっとりした雰囲気を持ちながらも、赤毛のロングヘアをなびかせていた彼女の目元には、確かに片眼鏡をかけていた。

 

「イタリア軽巡をなめるなぁぁっァァ!!」

 

 なお、再び訓練を再開したジュノはスイッチが切り替わったかの如く、上記のような台詞を叫んでいた。

 訓練が終わったら球磨と多摩の二人に、ちゃんとジュノに謝っておくようにきつく言っておこう。

 

 

 

 軽巡洋艦の訓練を見学し終えると、次は重巡洋艦達の紅白戦による訓練の様子を映し出したモニターに視線を映す。

 チェザリス中佐の有する重巡洋艦は全てザラ級の為、魚雷発射管を有していない。故に、紅白戦は主に砲撃戦の様相を呈していた。

 

 因みに、自身が有する重巡洋艦は二隻の為。ザラ級の一人、ゴリツィアが熊野と加古と共に白組の一員として戦っている。

 

「フィウメ、ポーラ。ちゃんと先頭艦に指向してる?」

 

「大丈夫ですわよ、ザラ姉様。照準はバッチリです」

 

「大丈夫ですぅ、ザ~ラ姉さま」

 

「では、砲撃開始! フォーコ(撃て)!!」

 

フォーコ(撃て)!」

 

「ふぉ~こ!!」

 

 ザラを先頭に単縦陣で航行する赤組は、同じく単縦陣で並走している白組に主砲の砲弾を浴びせ始める。

 対する白組も、反撃とばかりに主砲が火を噴く。所謂同航戦だ。

 

「やはり砲撃戦では分が悪いですわね」

 

「うわ、やば! なぁ、熊野。魚雷使えねぇのか?」

 

「紅白戦を行うにあたって、公平を期す為に雷撃は行わないと取り決めをしたではありませんか」

 

「でもよー、火力投射能力は向こうの方が上だぜ」

 

 数は共に三、加えて主砲の門数も共に合計二四門。

 しかし、赤組はザラ級で統一されているのに対し、白組は熊野・加古・ゴリツィアとそれぞれ艦型が異なっている。

 故に、主砲の発射速度が同一な赤組に対し、白組は主砲の発射速度がバラバラな為、火力投射能力は赤組に劣ってしまう。

 

「大丈夫ですよ、お二人とも。頑張れば何とかなります」

 

「何とかなるっていってもなぁ」

 

「愚痴を零していても仕方がありませんわ。今は、撃ち負けないように踏ん張りますわよ!」

 

 だがそれでも、ゴリツィアの言葉に奮い立たされたのか、白組も必死に砲撃を行う。

 互いに航行する周囲の海上に、幾多もの水柱が生まれては消え、生まれては消えていく。

 

 やがてどれ位同航戦での砲撃戦が繰り広げられたのか。

 互いに頭を抑えようと先頭を航行するザラと熊野に被害が集中する中、不意に、赤組最後尾を航行するポーラの艤装が大きく蛇行し始めた。

 その幅は、もはや回避行動の範疇を超え始めている。

 

「ちょっとポーラ!? どうしたの?」

 

「ヒック! ふぁ~、らいひょうぶで~す、ザ~ラ姉ーさま~」

 

 被弾している自身の心配よりもポーラの心配を優先するザラだったが、そんなザラの気持ちとは裏腹に、ポーラの声は、明らかにろれつが回っていない。

 

「ポーラ!? まさか貴女、またヴィーノ・ロッソ(赤ワイン)を飲んでいるんじゃないでしょうね!?」

 

「ちがいま~すよ、ザラね~たま。ヴぃ~ののろーっそなんて、のんでましぇーん。飲んでるのワ、サケ(日本酒)で~す!」

 

「それも結局アルコオル()でしょぉぉぉっ!!」

 

「れ?」

 

「いつもいつも任務や訓練中にお酒を飲んじゃ駄目って言ってるでしょ!!」

 

 どうやら日頃から口酸っぱく注意していたようだが、ザラの気持ちはポーラいんは届いていなかったようだ。

 

 そんなポーラに注意を行っていたザラだが、ふとフィウメの発射速度が低下している事に気がついたのか。

 何かを感じ取ると、急いでフィウメへと回線を繋ぐ。

 

「フィウメ、まさか貴女もあれほど注意していたのに、また間食してた訳じゃないでしょうね!?」

 

「んぐんぐ、ん! ごほごほ! ざ、ザラ姉様! わたくしそんな事していませんわ。ただ、ちょっとその、新発売のケーキの味見をしていただけですわ」

 

「それを間食って言うのよフィウメ!!」

 

「まぁまぁ~、フィウメ姉さまも反省してますし、ここは可愛いポーラに免じてゆーるして……」

 

「ぽぉぉぉらぁぁぁっ!」

 

 どうやらザラは、日頃から手のかかる妹二人の世話に苦労しているようだ。

 

 だが、今は紅白戦の最中、そんなザラの苦労など、白組の熊野達は関知すべき事ではない。

 故にこのチャンスを生かすべく、熊野は加古とゴリツィア

 

「何だか分かりませんが、相手の攻撃が乱れていますわ! この隙に一気に畳み掛けますわよ!」

 

「Zzzzz、んあ、お、おう。りょーかい」

 

「ちょっと加古さん!? もしかして居眠りしていましたの!!」

 

「な、居眠りなんてしてねーよ。ちょっと瞼を閉じて夢の世界に意識を馳せてただけだ」

 

「それを居眠りとおっしゃいますのよ! ……ゴリツィアさん、貴女は大丈夫ですわよね?」

 

「ズーピー、Zzzz、ピ~」

 

「ゴリツィアさん!?」

 

 と思っていたのだが、どうやら白組もまた苦労しているようだ。

 とりあえず、加古には今後暫く、艦隊のねぼすけアイドルと自己紹介する罰を執行する事にしよう。

 

 結局、紅白戦はザラと熊野以外の面々に振り回され、勝敗はうやむやとなって終了する事となった。

 

 それにしても、ザラはあの個性的な三姉妹の世話をいつもしているのか。

 そう思うと、ザラが日頃から感じている苦労は、自分の想像を遥かに絶するものだろう。

 しかし、そんなザラに少々申し訳ないことなのだが、ザラが三姉妹に苦労している様子を想像し、大物女優と三兄弟とのシュールな掛け合いが印象的なテレビコマーシャルの事を連想してしまった。

 

 心の中で、ザラにお詫びを申しておこう。




ボンジョルノ! ザラ級重巡一番艦、ザラです。提督、今日もよろしくね!
え? ザラの妹達が先に着てる?

「食べすぎですわ」

「の~みすぎで~す~」

「寝すぎ……Zzzzz、ガッ、です」

出たわね!(私の胃に日頃の苦労から必要以上のストレスを与えるという意味で)余分三姉妹!!


飯塚提督の連想ビジョン

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