転生提督の下には不思議な艦娘が集まる   作:ダルマ

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第42話 アッレナメント その8

 重巡洋艦の訓練の様子を見学し終えると、次は空母達による訓練の様子を見学する。

 モニターに映し出されたのは、満載排水量約二七八○○トンを誇る艤装の飛行甲板上で、今まさに発艦及び着艦の訓練を行っているアクィラの姿であった。

 

 映像は、航空機の訓練に際して随伴している駆逐艦のカメラからの映像だろう。

 随伴する艦は機体が母艦へ着艦する際の進入角度の目印となる他、着艦失敗時の乗員の救助の役割も担っている。

 そんな随伴艦のカメラが捉えているのは、前方を悠々と進むアクィラの艤装の艦尾と、飛行甲板目掛けてアプローチを図るアクィラ航空隊の艦上戦闘機の姿だ。

 

 一方、別のモニターに映し出されていたのは、アクィラから距離を置き訓練の様子を見守っている龍驤の姿であった。龍驤に随伴している駆逐艦のカメラが捉えたものだろう。

 

「龍驤、聞えるか?」

 

「ん? あー、司令官、どないしたん?」

 

「いや、龍驤は何をしているのかと気になったから呼び掛けてみただけだ」

 

 予期せぬ呼びかけに最初こそ驚いたようだが、理由を話すと納得し、龍驤も自身が今何をしているのかを語り始める。

 

「うちは今、待機中や。今は鳳翔と加賀がアクィラに乗り込んで、手とり足とりアクィラに教えてるわ」

 

 龍驤の話によると、どうやら元練習空母の二人が艤装を装備妖精に任せてアクィラに乗り込み、アクィラにマンツーマンの指導を行っているとの事。

 そして龍驤は、現在の訓練行程が終わった後に控えている航空隊の模擬戦の相手役なのだとか。

 

「なんや話聞いたら、あの子、艦爆も艦攻も積んでないって言うやん。積んでる艦戦に魚雷とか爆弾搭載して使うみたいやけど、うちはちょっと不安やな」

 

「あー龍驤。司令室にはチェザリス中佐もいるんだけど」

 

「いや別に気にしてないから構わないぞ。寧ろ、彼女の言う通りだ。本来の用途外で使えば、当然専用に作られた機体よりも性能が劣るのは必然だし、そんな事情、敵さんは汲み取ってなんかくれはしない。……だが今はまだ、今装備している機体以上のものを揃えられないんだ。だから、今ある装備で最大限の活躍が出来るように、アクィラと航空隊達を君達の力で鍛えてやって欲しい!」

 

「色男にそこまで言われたら、がんばらなしゃあないな。よっしゃ、うちの航空隊であの子の航空隊を一航戦にも負けへんように鍛えたるわ!」

 

 チェザリス中佐の気持ちが龍驤いんも伝わったのか、龍驤は帝国海軍航空隊の育ての親とも呼ばれた名にかけて、アクィラを鍛え上げる事を約束するのであった。

 こうして龍驤のやる気に火がつき、通信を終えた刹那。オペレーターからある者の要望に関する通信がきている旨が伝えられる。

 

「波勝から?」

 

「はい。訓練の行程に関して、航空攻撃による訓練の行程を早急に追加して欲しいとの要望が先ほどからひっきりなしに……」

 

 それは誰であろう、波勝からだ。

 彼女からの通信内容を聞かなくても、彼女の言っている言葉の意味は大体察しがつく。イタリア産の爆弾で快楽に溺れたいのだ。

 

 だが、チェザリス中佐がいる手前、彼女との回線を繋げる訳にはいかない。

 繋げたら最後、司令室に、聞いているこちら側が顔を真っ赤にする事請け合いの波勝語録が流れてしまう。

 それだけは、何としてでも阻止せねばならない。

 

「よし、では波勝にはこう伝えておいてくれ。『埋め合わせは後でちゃんとする』とな」

 

 しかしチェザリス中佐がいる手前、あからさまな対応をとるのも印象によろしくないので、遠まわしに自分の意向を波勝へと伝える。

 すると、自分の意向を汲み取ってくれたのか、波勝からの要望ははたりと途絶えるのであった。

 

 こうして波勝を黙らせる事に成功すると、引き続き空母達の訓練の様子を拝見する。

 

 一通りの訓練を終え翼を休めているのか、アクィラの周囲を旋回していたアクィラ航空隊の姿はモニター上に捉える事は出来ていない。

 やがて、アクィラに二艇の艦載艇が接舷すると、程なくして二艇の艦載艇はアクィラから離れ、それぞれアクィラに接近していた艤装へと戻っていく。

 艤装の艦長を務めるは、鳳翔さんと加賀さんだ。

 

 どうやら、航空隊の模擬戦を行うにあたって公平を期すべく、二人はアクィラから下船したようだ。

 

 やがて、再び大空へと向け、アクィラ航空隊がそのスカイブルーに塗装された翼を羽ばたかせた。

 片や、龍驤航空隊もまた、銀塗装が施された零式艦戦二一型が大空へと羽ばたいていく。

 

 互いの航空隊が上空にて編隊を整え終えた所で、模擬戦は静かに始まる。

 初動は互いに出方を伺い旋回を続けていたものの、やがて意を決したのか、アクィラ航空隊が龍驤航空隊へと機首を向け襲い掛かった。

 

 アクィラ航空隊が装備している艦戦は、『Re.2001 OR改』と呼ばれる機体だ。

 大戦中にイタリア空軍が運用した単座の戦闘機であるRe.2001の派生型の一つである艦上運用装備型をモデルとし。

 原型機であるRe.2001はBf109でもお馴染みのダイムラー・ベンツ社製液冷エンジン、DB 601のライセンス生産品を搭載し、最高速度は五四○キロメートル毎時。

 武装は12.7mm口径のブレダSAFAT機関銃が二挺と7.7mm口径の同機関銃が二挺。そして六四○キロまでの爆弾を搭載可能。

 イタリア語で雄羊を意味する『アリエーテ』の愛称を持つ。

 ただ、搭載エンジンの使用優先権の関係から、原型機の生産数は僅かに二五○機程に限られている。

 

 しかし少数の生産であっても複数の派生型が産み出され、Re.2001 OR改のモデルも、そんな派生型の一つだ。

 記録によればオリジナルは審査用としてごく少数が生産されたに過ぎないが、Re.2001 OR改を取り巻く生産環境は劣悪すぎる事もないので、資材と運さえあれば妖精の手により幾らでも生産できる。

 

 なお、オリジナルの命名には改の文字は付けられていないが、これはオリジナルとの命名混同を避ける為に付けられたものだ。

 因みに、改と付けられたからと言って格別性能には影響していない。概ね、オリジナルと同様の性能を有している。

 

 

 模擬戦を行う両機種の機体のスペックを並べれば、Re.2001 OR改は航続距離等を除けば零式艦戦二一型と拮抗或いはやや上、と言える。

 しかし、例え機体のスペックが相手を上回っていたとしても、最後に鍵を握るのは操縦者の腕前だ。

 性能の劣る機体であっても、格上の機体を相手に互角以上の戦いを行えるのは先人達が身を以って証明している。

 

 そしてそれは、機体を操縦しているのが装備妖精であっても変わらない。

 

 襲い掛かってきたRe.2001 OR改と対峙する零式艦戦二一型。

 初弾の一撃である12.7mm弾と7.7mm弾の雨を軽くいなすと、そこからは敵味方散開し入り乱れての乱戦、所謂ドッグファイトが始まる。

 だがこの状況こそ、龍驤航空隊が待ち望んでいたものであった。

 

 無類の格闘戦性能を有する零戦。

 その特性を知り尽くし機体の得意な戦闘状況へと持ち込める者こそ、ベテランと呼べる錬度を有した装備妖精達だ。

 そして、龍驤航空隊の多くは、そんなベテランと呼べる部類に含まれていた。

 

 ドッグファイトが始まるや、あっさりと後ろを取られ、20mm機銃から放たれる演習用の20mm弾によりスカイブルーの機体を色とりどりに染め上げていく機が続出する。

 撃墜判定を受けてドッグファイトの輪から抜け出すRe.2001 OR改の姿は多く見られど、零式艦戦二一型の姿は全くない。

 だが、アクィラ航空隊も一方的にやられ続ける訳にもいかず、一機が意地を見せて零式艦戦二一型の背後につける。

 後ろに食いつき続け一撃を叩き込めるタイミングが訪れるのを待っていたその機に訪れたのは、あろう事か自らの機に叩きつけられる演習用の20mm弾だった。

 

 一体何が起こったのか、機体の操縦者である装備妖精には訳が分からないだろう。

 しかし、映像越しに見ていた自分には、その時何が起こったのか、その真相をハッキリと目に出来た。

 その真相とは零戦の必殺技、左捻り込みが使われたのだ。

 この必殺技のお陰で、後ろに食いつき続けていたRe.2001 OR改は、宙返りが終わるやいつの間にか食いつき続けていた零式艦戦二一型を追い越す事になり、見事演習用の20mm弾の餌食となったのだ。

 

 ただし、この左捻り込みに関しては、前世におていは実戦で使ったことは一度もないと言い伝えられている。

 これは、実戦では一対の操縦者がお互いに秘技を尽くして戦う場面が訪れる事がなかったからに他ならない。

 

 模擬戦だからこそ出せた技とも言えるし、全力で立ち向かってくる相手に敬意を表した、とも言えるかも知れない。

 

 何れにせよ、龍驤航空隊もアクィラ航空隊も、死力を尽くし。

 その結果、模擬戦は龍驤航空隊の圧倒的な勝利で幕を閉じるのであった。

 

「ははは、流石は一日の長がある飯塚中佐の空母だな、完敗だ」

 

「いや、アクィラ航空隊も中々、今後が期待できるさ」

 

「お、そう言ってくれると嬉しいね」

 

 模擬戦を追え各々の母艦へと戻っていく両航空隊の様子を横目に、自分とチェザリス中佐は互いの航空隊を称え合うのであった。


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